公開日:2026年08月05日

  • 製造業
  • 事業承継・M&A補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(有限会社銘菓処笑福堂)

伝統を守り、地域素材から新たな菓子を生み出す老舗和菓子店の事業承継

本事例は『事業承継・引継ぎ補助金』(令和6年度より『事業承継・M&A補助金』に名称変更)を活用した取り組み事例です。制度名は変更されていますが、事業承継の進め方や支援のポイントを理解する上で参考になる事例として紹介しています。
左 :有限会社銘菓処笑福堂 代表取締役社長 小西 清誉 氏
中央:同 専務取締役 小西 美紀 氏
右 :敦賀商工会議所 中小企業相談所 指導課長(主任経営指導員) 川端 宏昌 氏

この記事のポイント

  • 事業承継を経営改革のチャンスに変える考え方
  • 伴走支援を受けながら事業計画を磨き上げる進め方
  • 設備導入を新商品開発や販路拡大につなげる発想
福井県敦賀市で、羽二重餅や豆らくがんなどの銘菓を製造・販売する「有限会社銘菓処笑福堂」。昭和25年の創業以来、70年以上にわたり地域に親しまれてきた老舗菓子店である。同社は、三代目代表取締役である小西清誉氏への事業承継を機に、先代から受け継いだ味と信用を守りながら、時代に合った経営基盤づくりを進めている。

その一環として活用したのが、事業承継・引継ぎ補助金である。老朽化した包装設備を更新し、自動密閉機を導入したことで、生産量は約1.2倍に向上。包装工程にかかる時間や人員配置の見直しが進み、残業時間の抑制や新商品開発に取り組む余力も生まれた。
本記事では、事業承継をきっかけに、経営課題を整理し、敦賀商工会議所の伴走支援を受けながら事業計画を磨き上げ、設備導入と新たな挑戦につなげた取組を紹介する。

老舗菓子店が迎えた転機—コロナ禍での三代目承継

福井県敦賀市。日本海に面した港町として知られるこの地で、羽二重餅や豆らくがんなどの銘菓を手がけ、70年以上にわたり地域に親しまれてきた老舗菓子店がある。有限会社銘菓処笑福堂である。
同社の創業は昭和25年。小西家は江戸時代から商売を続けてきた家系であり、菓子製造は小西清誉氏の曽祖母の代から始まったと伝えられている。長い歴史の中で、同社は地域に根差した菓子づくりを続けてきた。

その歩みを象徴するのが、全国菓子大博覧会での数々の受賞である。「越前せいこかにパイ」や「つるがふぐパイ」が最高賞である名誉総裁賞を受賞。このほかにも歴代の商品が高い評価を受けてきた。
同社が大切にしているのは、地域の素材を生かした菓子づくりである。特に羽二重餅に使用するもち米は、可能な限り敦賀産100%を追求している。生産量が不足する場合でも福井県産を使用し、卵などの原材料にも県産品を取り入れる。こうした地元素材へのこだわりが、地域ブランドとしての信頼を支えてきた。

先代である父から経営を引き継ぎ、三代目の代表取締役社長に就任した小西社長は、27歳で入社して以来、製造、営業、配達など、現場のあらゆる業務を経験してきた。承継前から銀行交渉や取引先との商談にも携わっていたため、代表就任そのものに大きな混乱はなかったという。

一方、承継に向けた話し合いが本格化したのは、コロナ禍の最中だった。観光需要や土産需要が大きく落ち込み、一時は売上が大幅に減少するなど、厳しい経営環境の中での承継となった。先代から受け継いだ味、地域とのつながり、長年築いてきた信用。それらを守りながら、変化する時代にどう対応していくのか。小西社長にとって事業承継は、老舗の看板を引き継ぐだけでなく、次の成長に向けた経営のあり方を考える出発点でもあった。

製造現場の課題となっていた包装工程の負担

代表就任後、小西社長が向き合った課題が、製造現場の生産性である。特に大きな課題となっていたのが、長年使用してきた自動包装機の老朽化だった。故障が相次ぎ、手作業を余儀なくされる場面も増えていた。

包装や密閉の工程は、商品を安全に、品質を保った状態で消費者に届けるために欠かせない。一方で、機械の不具合によって作業効率が低下すれば、生産量の確保が困難になり、従業員の負担増加に直結する。
繁忙期には包装作業に多くの時間と人員が割かれ、新商品開発や販路開拓に十分な時間を充てることも難しかった。既存商品の生産を安定させるだけでなく、次の成長に向けた取組を進めるためにも、製造工程の見直しは避けて通れない課題となっていた。

また、同社では本店のほか、敦賀市内に複数店舗展開し、ECサイトでの販売数も増加傾向にあった。販売拠点や事業領域が広がる中で、製造現場の生産性を高めることは、今後の成長を支えるうえでも重要なテーマとなっていた。
 
「機械を新しくすることが目的ではなく、現場の負担を減らし、新しい商品づくりに取り組める時間を生み出すことが大事だと考えていました。承継したからこそ、先代からの商品を守りながら、次につながる挑戦ができる体制を整えたいと思いました」
 
単に既存商品を作り続けるだけではなく、地域素材を生かした新商品を開発し、新たな販路を開拓していく。そのためには、限られた人員と時間をどのように使うかを見直す必要があった。小西社長は、老朽化した包装設備の更新を、単なる機械の入れ替えではなく、承継後の成長に向けた生産体制づくりとして捉えるようになった。
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有限会社銘菓処 笑福堂 代表取締役社長 小西 清誉氏

商工会議所との相談で見えた設備投資の意義

こうした課題を前に、小西氏が相談したのが、長年つながりのあった敦賀商工会議所である。同社と商工会議所との関わりは平成21年頃から始まり、15年以上にわたって続いている。
担当する川端指導員は、補助金申請の支援にとどまらず、物産展への出展、商談会出展等による販路開拓、市や県の補助金、国の補助金活用まで、同社の状況やビジョンに応じた支援策を提案してきた。小西社長にとって商工会議所は、経営課題が生じたときに「何でも相談できる場所」である。
 
地域の資源をどう生かすか。自社の強みをどのように商品化し、発信していくか。そうした視点を日頃から共有してきたことが、今回の設備投資を考える土台にもなった。
 
自動密閉機の導入には相応の費用がかかる。老朽化設備の更新として必要性は明らかであっても、承継後の経営において大きな投資判断となることに変わりはない。そこで、商工会議所への相談を重ねる中で、設備導入によって何が改善され、将来の事業展開にどうつながるのかを整理していった。
 
「小西社長には、設備を入れることで何が変わるのか、さらにその先で何に取り組むのかを一緒に整理してもらいました。生産性向上で生まれた時間を、新商品開発や販路開拓につなげることができれば、今回の投資は承継後の成長を支える大きな一歩になると考えました」
 
設備を導入すること自体が目的ではない。包装工程を効率化し、そこで生まれた時間や人員の余力を、新商品開発や販路開拓にどう生かすのか。その視点を持つことで、今回の投資は単なる省力化ではなく、承継後の成長を支えるための具体的な事業計画へと磨かれていった。
敦賀商工会議所 中小企業相談所 指導課長(主任経営指導員) 川端 宏昌氏

補助金申請で描いた承継後の事業計画

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補助金で導入した自動密封機
整理した課題をもとに、事業承継・引継ぎ補助金の申請に取り組んだ。補助金の申請にあたっては、商工会議所の伴走支援を受けながら、事業計画を作成していった。日々の製造・販売業務と並行して、自社の課題や将来像を言葉にしていく作業は容易ではなかった。しかし、その過程は、小西社長自身が経営者として自社の方向性を見つめ直す機会にもなった。

その後、同社の計画は採択され、補助金を活用して最新の自動密閉機を導入。導入後は、包装工程の効率化が進み、生産量は約1.2倍に向上した。包装作業に割いていた時間や人員配置を見直すことができ、残業時間の抑制にもつながった。
 
設備投資の効果は、単に製造量が増えたことにとどまらない。老朽化した設備の故障対応や手作業による負担が軽減されたことで、現場の安定性も高まった。これにより、既存商品の安定供給を図りながら、新たな商品開発に取り組む余力も生まれたのである。
 

新商品開発と経営意識の変化、そして今後の展望

自動密閉機の導入によって生まれた余力は、新商品開発にも生かされた。その成果の一つが、敦賀産のもち米を使用した羽二重餅入りサブレである。
サブレの中に餅を入れるという試みは、同社にとっても初めての挑戦だった。焼き加減や餅の硬さ、食感のバランスを整えるには、約1年にわたる試行錯誤が必要だったという。羽二重餅のやわらかな食感を残しながら、サブレとしてのおいしさも成立させる。伝統的な菓子づくりの技術と、洋菓子の発想を組み合わせることで、他にはない食感の商品が生まれた。
 
今回の取組で得られた成果は、設備導入や生産性向上だけではない。商工会議所とのやり取りや補助金申請の過程を通じて、小西社長自身の経営に対する考え方にも変化が生まれた。
 
商工会議所の担当者は、小西社長について「確実に計画の立て方がうまくなっている」と評価する。以前は、補助金を活用することを前提に設備導入を考えるという発想になりがちな面もあった。しかし現在では、まず自社の課題や将来像を明確にし、その実現手段として補助金を活用するという考え方へと変わってきた。
 
事業計画や申請書を作成する過程では、地元食材へのこだわり、和菓子と洋菓子のノウハウ、受賞歴に裏付けられた商品力、地域とのつながりといった自社の強みを改めて整理することになった。また、専務である夫人とともに商工会議所との打ち合わせを重ねることで、夫婦間、そして社内での課題共有も進んだ。
サブレの中に羽二重餅を入れた「もちもちサブレ」。サブレのサクサク感と羽二重餅の滑らかな口触りの組み合わせが特徴
同社は現在、菓子製造・販売という本業を軸にしながら、新たな事業展開にも取り組んでいる。
 
小西社長は、今後の経営について「生産を上げるだけではなく、売る場所も並行して作らなければならない」と考えている。コロナ禍で売上が大きく落ち込んだ経験は、一つの販路や需要に依存することのリスクを強く意識させた。だからこそ、本業の菓子づくりを強化しながら、店舗展開、ネット販売、飲食、物販など、複数の柱を育てる必要がある。
 
事業承継は、先代の事業をそのまま引き継ぐだけではない。守るべきものを見極めながら、次の時代に合わせて変えていくことでもある。同社は、自動密閉機の導入によって生産性を高め、既存商品の安定供給と新商品開発に取り組む体制を整えた。
 
70年以上にわたり敦賀で菓子づくりを続けてきた笑福堂。伝統を守りながら、地域素材を生かした新たな商品を生み出し、地域に賑わいを届けていく。同社の歩みは、老舗企業が事業承継を契機に未来を切り拓く、一つの実践例を示している。
活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金
年度:令和3年度
 枠・型:経営革新枠

※事業承継・引継ぎ補助金は令和6年度から「事業承継・M&A補助金」に名称が変わりました。
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
昭和25年
従業員数
10名
代表者
小西 清誉 氏
所在地
福井県敦賀市昭和町2-21-31

支援機関データ

支援機関名
敦賀商工会議所
所在地
福井県敦賀市神楽町2丁目1-4

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