公開日:2026年08月04日

  • 宿泊業,飲食サービス業
  • 事業承継・M&A補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(Burger FIRST)

先代の店をハンバーガー専門店へ 事業承継・引継ぎ補助金で実現した業態転換とは

本事例は『事業承継・引継ぎ補助金』(令和6年度より『事業承継・M&A補助金』に名称変更)を活用した取り組み事例です。制度名は変更されていますが、事業承継の進め方や支援のポイントを理解する上で参考になる事例として紹介しています。
左:厨房を担当されている荒井 勝太氏
中央:Burger FIRST代表 荒井 和美氏
右:南房総市朝夷商工会 経営指導員 押元 麻衣氏

この記事のポイント

  • 先代から受け継いだ小売店を、ハンバーガー専門店へ業態転換
  • 商工会の伴走支援と補助金活用で、改装・設備導入を実現
  • 事業計画づくりを通じて、店の強みや経営の方向性と将来像を明確化
千葉県南房総市千倉町で、先代が営んでいた小売店を引き継いだ代表の荒井和美氏(以下、荒井氏)は、地域に親しまれてきた店舗をハンバーガー専門店「Burger FIRST」へと改装した。道の駅ちくら潮風王国の正面という立地を生かし、2024年11月末に新たな一歩を踏み出した。この挑戦は、事業承継・引継ぎ補助金と商工会の伴走支援を受けながら実現したものだ。先代が築いてきた信用や地域とのつながりを土台に、観光客にも地域住民にも親しまれる店づくりに挑戦する歩みを追った。

先代から受け継いだ店を、どう未来へつなぐか

南房総市千倉町。観光客が多く訪れる「道の駅ちくら 潮風王国」の正面に、ハンバーガー専門店「Burger FIRST」は店を構えている。この場所は、もともと荒井氏の祖父が創業した荒井商店の店舗だった。父、母へと受け継がれ、観光シーズンには土産品を扱い、普段は地域住民向けの日用品販売や、近隣農家の花卉・農産物の配送受付を担うなど、地域に根差した小売店として親しまれてきた。
 
しかし2022年、先代である母が病気で倒れたことを機に、小売部門は休業を余儀なくされた。配送受付業務のみ継続していたものの、地元農家や道の駅関係者からは店舗再開を望む声が寄せられていたという。荒井氏は当時、別の会社に勤めながら合間を縫って母の業務を手伝い、配送受付のノウハウや地域農家との関係を受け継いできた。一方で、ECサイトの発展や道の駅の前という立地を考えると、従来のような小売店をそのまま再開するだけでは十分な差別化は難しいとも感じていた。
 
「先代から受け継いだこの場所を、どのような形で未来へつないでいくか」——その問いが、荒井氏の出発点だった。先代が築いてきた信用や地域とのつながりを生かしながら、観光客にも地域住民にも気軽に立ち寄ってもらえる新たな店にしたい。そう考えた荒井氏は、飲食店への転換を構想する。
 
「先代が守ってきた店を、そのまま残すだけではなく、今の時代に合った形で生かしたいと考えました。地域の方にも、観光で訪れる方にも立ち寄ってもらえる場所にすることで、この店の新しい役割をつくれるのではないかと思いました」
ただ、思いはあっても、それをどのように収益につなげ、将来を見据えた事業として育てていくかまでは十分に整理できていなかった。そこで荒井氏は、先代の頃からつながりのあった南房総市朝夷商工会に相談した。
 
商工会の押元経営指導員は、思いを実現するには、まず事業としての方向性を計画に落とし込む必要があると助言した。
 
荒井氏は自らの構想を見つめ直した。道の駅前という立地、観光客の流れ、地域農家とのつながり、先代が築いてきた信用——それらは単なる背景ではなく、新たな事業を形づくる強みなのだと気づいたのである。
 
「商工会の方と話す中で、この場所で誰に何を届け、どうすれば地域に必要とされ続ける店になるのかを考えるようになりました。そして、人と直接かかわり、地域の方の笑顔や満足を通じて地域を盛り上げたいという思いから、地域の方にも観光客の方にも気軽に立ち寄ってもらえるハンバーガー店の開業を考えるようになりました」
方向性が定まる一方で、荒井氏の前には新たな課題が立ちはだかった。小売店だった店舗をハンバーガー専門店として開業するには、厨房設備の導入や内装改修、飲食店営業に対応した環境整備が必要であり、相応の改装費は避けられなかった。事業承継によって店を引き継ぐだけでなく、新たな業態で再出発するには、設備投資に加え、メニュー開発や仕入先の検討、営業体制の整備など、同時に進めるべきことも多かった。
 
こうした状況を踏まえ、朝夷商工会の押元経営指導員は、千葉県商工会連合会が実施する専門家派遣制度の活用を勧めるとともに、館山商工会議所の事業承継の相談窓口を紹介した。その館山商工会議所の相談窓口で、「事業承継・引継ぎ補助金」の活用の提案を受ける。新たな取組に挑戦する同店にとって、店舗改装や設備導入を後押しする補助金は、構想を現実に近づける大きな支えとなった。
 
ただし、補助金の申請書では、事業の必要性や実現可能性、地域への波及効果を計画書の中で明確に示さなければならない。荒井氏は、事業計画を策定していく過程で、千葉県商工会連合会の専門家と朝夷商工会の押元経営指導員との対話を重ねながら、なぜ小売店から飲食店へ転換するのか、道の駅前という立地をどう集客につなげるのかを一つひとつ整理していった。申請準備は決して容易ではなかったが、対話を重ねる中で、自分の思いが数字や計画として形になっていく手応えがあったという。
地元の飲食店マップへの掲載について相談を受ける押元経営指導員
「最初は、補助金の申請というと難しい書類を作るものだと思っていました。でも商工会の方に相談しながら進める中で、自分がなぜこの店をやるのか、どんなお客様に来てもらいたいのかを改めて考える機会になりました。大変ではありましたが、店の方向性を固めるうえで必要な時間だったと思います」
 
その後、申請は採択され、補助金を活用した店舗改装と設備導入が進められた。計画段階で整理した方向性は、店舗づくりやメニュー開発、観光客への訴求にも生かされ、先代から受け継いだ荒井商店の店舗は、ハンバーガー専門店「Burger FIRST」として新たな一歩を踏み出した。
補助金で導入した厨房機器

経営者として、自分の言葉で店を語るように

補助金申請から開業までの過程は、荒井氏にとって単なる設備投資の準備ではなかった。先代から受け継いだ店の意味を改めて見つめ直し、自分がどのような経営者として店を育てていくのかを考える時間でもあった。
 
朝夷商工会の押元経営指導員は、「ターゲットや商品構成、収支計画、販売促進の方法などを一つひとつ整理していく中で、荒井さんは自分の言葉で店の強みや思いを説明できるようになり、経営者としての視点が大きく広がった」と振り返る。
 
荒井氏自身も、「良い商品を出せばお客様に来てもらえる、というだけではなく、誰に、どのような価値を届けるのかを考えることが大切だと気づきました」と語る。小売店からハンバーガー専門店への転換は、先代の店を否定するものではない。地域に人が集まり、会話が生まれ、暮らしや観光の一部になる場所であり続けるために、店の形を変えたのである。

南房総の食を、もっと身近に、もっと楽しく

今後、荒井氏が目指すのは、Burger FIRSTを単なる飲食店にとどめず、観光客にも地域住民にも親しまれる店として育てていくことだ。
同店が大切にしているのは、素材を活かした手作りの味である。パティには厳選した牛肩ロースを塊肉から使用し、手作業で粗く刻んだ肉と粗挽き肉を組み合わせることで、肉の食感を残しながら、ジューシーで風味豊かな味わいに仕上げている。味付けは塩と胡椒のみ。肉本来のうま味を引き立てるシンプルな仕立てだ。そこに、程よい甘さのはちみつ入りバンズと新鮮な野菜を合わせ、一つひとつ丁寧に提供している。
 
「来店してくださった皆さんに、笑顔で帰っていただきたい。そんな思いを込めてを込めて、一つひとつ手作りしています」
売れ筋の「ABCバーガー」。
厨房では、厨房担当の荒井勝太氏が素材を活かし、一つひとつ丁寧にバーガーを仕上げている。
こうした定番商品の質を追求する一方、南房総ならではの食材を生かした商品づくりにも取り組んでいる。同店では、地元で採れたひじきをバンズに練り込み、地域で水揚げされたアジをフライにして挟んだ「アジフライバーガー」など、地元食材を取り入れた商品も提供している。地域ならではの味わいを織り交ぜながら、多くの人が気軽に楽しめる店にしていきたい考えだ。
 
また、先代の時代から築いてきた地元農家や地域事業者とのつながりも、今後の店づくりに生かしていく方針だ。店に人が集まることで、道の駅周辺の回遊性を高め、地域全体のにぎわいづくりにもつなげていきたいという。
 
「南房総には、海の幸も農産物も、まだまだ魅力的なものがたくさんあります。そうした地域の良さも取り入れながら、ハンバーガーという親しみやすい形で、多くの人に楽しんでもらえる店にしていきたいです」
先代から受け継いだ店舗は、補助金の活用と商工会などとの対話を重ねながら、新たな食の拠点へと生まれ変わった。先代が守ってきた店の記憶を受け継ぎながら、Burger FIRSTの歩みは、これからも地域とともに続いていく。
房州で水揚げされたアジのフライを、地元で採れたひじきを練りこんだバンズで挟んだ「アジフライバーガー」
活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金
年度:令和6年度
 枠・型:経営革新枠

※事業承継・引継ぎ補助金は令和6年度から「事業承継・M&A補助金」に名称が変わりました。
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

企業名
Burger FIRST
設立
昭和28年
従業員数
2名
代表者
荒井 和美 氏
所在地
千葉県南房総市千倉町千田1033

支援機関データ

所在地
千葉県南房総市千倉町瀬戸2294

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