公開日:2026年10月13日

  • 宿泊業,飲食サービス業
  • 持続化補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(有限会社湖上館)

持続化補助金でインバウンド集客 有限会社湖上館

左から、有限会社湖上館 代表取締役 田辺一彦氏 わかさ東商工会 経営指導員 坂口隆氏

この記事のポイント

  • 平日の客不足を、インバウンドと体験商品で新たな売上に
  • 補助金申請が、強み・課題・ターゲットを考えるきっかけになった
  • 看板やHPを工夫した結果、客単価と平日の稼働率が向上
福井県若狭町、水月湖のほとりで宿泊施設「湖上館パムコ」を営む有限会社湖上館。3代目として事業を継いだ田辺社長は、観光ニーズの変化や宿泊客の減少、繁閑差といった課題に直面していた。
転機となったのは、わかさ東商工会との出会いだった。経営指導員との対話を重ねる中で、自社の強みや課題、目指すべき未来を改めて見つめ直し、小規模事業者持続化補助金を活用して看板の設置や英語版ホームページの制作に取り組んだ。
 
「書類仕事に時間を取られるくらいなら、湖に出てお客様の笑顔を見たい」
 
そう考えていた田辺社長は、なぜ補助金への向き合い方を変え、従業員と共に未来を描く経営へと踏み出したのか。
補助金を一つのきっかけに、経営者自身、そして会社や地域へと変化が広がっていった、その歩みを追う。

父から受け継いだ宿、新たな観光への挑戦

田辺社長は、若狭町海山の民宿を営む家に長男として生まれた。祖父が1959年に創業した湖上館は、若狭湾の海や三方五湖といった豊かな自然に囲まれた地で宿を営み、ロビーにクラフトビール醸造所がある宿泊施設、自然体験、観光船運営という三つの事業を展開している。
 
田辺社長は地元の小学校、中学校、高校へと進学した後、大学進学を機に上京。大学ではボート部に所属し、キャプテンとして、全国優勝を果たした。
当時を振り返り、田辺社長は「ボートは、全員の力が一つにならないと進まない。あの時の経験が、今の経営の根底にあります」と語る。
大学卒業後は、大阪の料理学校やホテルの調理場で修行を積み、1995年に実家へ戻った。1999年には「有限会社湖上館」を設立。30歳を目前に銀行からの借り入れで新館を建設し、父の跡を継ぎ3代目代表取締役に就任した。
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有限会社湖上館 代表取締役 田辺一彦氏
しかし、代替わりを果たした田辺社長を待ち受けていたのは、観光を取り巻く環境の変化であった。かつて若狭では、「寝る場所があればいい」というほど多くの観光客が訪れる時代があった。しかし、観光客が減少し、旅行者のニーズも変化する中で、宿泊施設には、ここでしか味わえないサービスや積極的な情報発信が求められるようになっていた。先代である父とは、スリッパの並べ方一つでも意見がぶつかったという。
 
「親の代は、24時間365日休まず働いて金を稼ぐのが当たり前だった。でも、私はここでしか成しえないサービスを追求し、地域と共に生きることに価値を見出したかった」と田辺社長は振り返る。
 
その思いを形にする一つの取り組みが、地域の自然を生かした体験事業であった。
2002年には自然体験部門「自然に大の字あそぼーや」を立ち上げ、カヤックツアーなど、若狭の自然を全身で満喫できるプログラムを展開した。年間参加者は1,000人を超え、単価が比較的高いにもかかわらず、人気を集めている。
 
一方で、経営を取り巻く環境は厳しさを増していた。若狭町の宿泊者数はピーク時から大きく減少し、観光業の担い手不足や高齢化が深刻な課題となっていた。地方観光事業者に共通する悩みではあるが、観光需要には繁閑の差があり、需要の波が大きいほど安定した雇用の維持が難しくなる。サービス品質の維持や人材確保のためにも、年間を通じた安定的な集客が必要であった。

わかさ東商工会への相談で見えてきた経営課題

北陸新幹線の敦賀開業を受け、田辺社長はインバウンドのお客様を積極的に受け入れたいと考えていた。
しかし、どのような方法で取り組めばよいのか、漠然とした悩みを抱えつつも、周りに相談する相手がいなかった。
 
そこで田辺社長は、わかさ東商工会を訪れて相談することにした。相談を重ねるうちに、自社が抱える経営課題を徐々に認識するようになった。課題を解決する一つの手段として、商工会から提案されたのが、補助金の活用である。ただ、田辺社長はそれまでにも自ら観光庁の補助金に申請した経験があり、補助金申請については相談する必要はないと考えていた。
 
「書類仕事に時間を取られるくらいなら、湖に出てお客様の笑顔を見たい」
それが田辺社長の率直な思いだった。しかし、商工会は単なる補助金の窓口ではなく、経営者と一緒に課題を整理し、経営分析や事業計画の策定を支援する役割も担っている。
田辺社長も、経営指導員との相談を重ねながら、経営について一つひとつ整理していった。その中で、自社の強みや課題、目指すべき方向を改めて見つめ直していった。
 
経営指導員に何回も相談する中で見えてきたものは、週末や大型連休に客が集中する一方で、平日の稼働率が低いという「繁閑の差」をどのように平準化したらよいか、ということだった。さらに田辺社長には、地域には得意な英語を活かして働きたい若者が多くおり、彼らの夢を叶える場を作りたいという思いもあった。そこで着目したのが、平日を含めて長期滞在が見込める「インバウンド」の取り込みであった。
わかさ東商工会 主事 坂口隆氏(現在の担当経営指導員)
現在は坂口隆経営指導員が担当しているが、当時担当していた本郷孝則経営指導員(現:おおい町商工会・事務局次長)は、田辺社長の「思い」を引き出していった。
「社長、補助金は単なる『お金』じゃありません。これは、社長の心の中にある『有限会社湖上館の未来』を具体的な形にするための設計図です」
 
「設計図か……。私は今まで、目の前の客を喜ばせることばかり考えていた。でも、それがどのような形で当社や地域の未来につながるのか、これまでは言葉にできていなかったかもしれない」
 
「ぜひ、この機会に社長が考えていることを見える化しましょう。今の強みや課題、そして数十年後のパムコがどうあるべきか。定量的に現状を分析し、目標を客観的に定め、それを経営計画書という形にしたうえで計画に沿って実現させましょう。体験型のアクティビティ事業を実施している宿泊業者は他にはありませんので、この強みを最大限に活かす方法を一緒に考えましょう」
こうした対話を重ねる中で、田辺社長が目指す湖上館の将来像と、取り組むべき方向性が次第に明確になっていった。
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おおい町商工会 事務局次長 本郷孝則氏(当時の担当経営指導員)

持続化補助金を活用した「看板設置」と「英語版ホームページ制作」

経営指導員と何度も話し合いを重ねた田辺社長は、課題解決に向けた取り組みの一つとして、「小規模事業者持続化補助金」を活用することを決めた。取り組んだのは、「看板の設置」と「外国人向け英語版ホームページの制作」である。
 
特に看板については、それまで田辺社長自身、その必要性を十分に認識していなかった。
「Googleマップがあれば場所はわかる。でも、宿のサービスを分かりやすく伝え、観光船レイククルーズとも統一感を持たせた看板が必要だと気づかされた」
 
新たに設置された看板は、宿泊客だけでなく、通りがかりの観光客にも「ここでアクティビティが楽しめる」ことをアピールする武器となった。
さらに、ホームページの英語化は決定的だった。これまでは日本語サイトのみで、インバウンド客には情報が届きにくかったが、英語表記とスマートフォン対応を同時に進めることで、海外から予約ができる動線を整えた。
「インバウンド客がまだ少ない福井県だからこそ、あえて『日本らしさ』を前面に出した。この地へのアクセスが不便であることは事実だが、一旦ここに来たらとことん楽しんでもらえる、そんな若狭の魅力を発信したかった」
持続化補助金を活用して作成した英語版ホームページ

補助金活用がもたらした「効果」と「経営の変化」

持続化補助金を活用し対策を講じた効果は着実に現れた。看板や英語版ホームページを導入後、売上は約3%増加した。数字以上に大きかったのは、客層の変化と客単価の向上である。
看板を見て「カヤックができるならやっていこう」と追加注文をする宿泊客が増え、英語サイトを通じて訪れるインバウンド客が、平日の客室を埋めるようになった。
 
宿泊客やカヤックを楽しむ客が増加したことで、波及効果も生じた。
「せっかくパムコに来たなら、ここでしか飲めないビールを」と言って、田辺社長が自ら醸造するクラフトビールを注文する方が増加した。また、三方五湖の伝統である「うなぎ筒漁見学ツアー」などの高付加価値な体験プランも、外国人観光客から「日本文化に深く触れられる」と好評を得ている。
 
何より大きかったのは、経営の「見える化」である。商工会のアドバイスを受けながら、自ら入念に検討した数値に裏打ちされた経営計画を通じ、コスト意識が高まり、ターゲットが明確になった。「おいしいが量が多くて食べきれない」という客の声に応え、品数を抑えて質を高めた「おてごろプラン」の導入などは、その成果の一つといえる。

「一人で考える経営」から、従業員と共に考える経営へ

補助金申請のプロセスは、田辺社長の内面に決定的な変化をもたらした。かつては一人で悩み、全てを背負い込もうとしていた田辺社長だったが、補助金申請を通じて「従業員と一緒に当社の未来を見据えながら、共に計画を作る」というスタイルに移行した。
 
「以前は私の頭の中にだけ経営計画があった。しかし、補助金の書類を従業員と一緒に書くことで、彼らにもパムコのビジョンや私の思いを深く理解してもらうことができた。その結果、従業員が定量的な事業効果や目標を明確にし、取り組む姿勢を示してくれるようになった。私が全て決定して行動するのではなく、彼ら1人1人が自覚を持って判断し、事業を進めていくようになった。このことは、当社が持続的な成長を遂げるために貴重な経験だった」と田辺社長は語る。
 
また田辺社長は、「もし補助金が採択されなかったら、その事業をやらないのか?」と自問自答を繰り返す中で、補助金ありきの経営ではなく、「たとえ採択されなくても、やるべき事業は実行する。補助金は、その事業を加速させるために活用する」という経営者としての真髄を掴んだことも大きな変化だと言う。

若狭の未来を醸造する

現在、田辺社長は「若狭ソーシャルビジネスカレッジ」の運営に、実行委員会の代表として参画し、地域の人々と共に若狭のこれからを考える活動にも取り組んでいる。
「私と一緒に、この地域を盛り上げる活動をしたい人材を強く求めている。このカレッジが必要ではなくなるくらい、地域が自律的につながることが最終目標」と田辺社長は語る。
 
商工会という伴走者を得て、補助金をきっかけに、自社の強みや課題を見つめ直し、従業員と会社の将来を考えるようになった田辺社長。その取り組みは、自社の経営だけでなく、地域の将来を考える活動へと広がっている。
「さあ、今日も最高の一杯を届けよう」
田辺社長の挑戦は、これからも続く。
活用した補助金:小規模事業者持続化補助金
年度:2024年度 第15回
 枠・型:一般型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
1999年7月(創業1959年)
従業員数
8名
代表者
田辺 一彦 氏
所在地
福井県三方上中郡若狭町海山64-4-1

支援機関データ

支援機関名
わかさ東商工会
所在地
福井県三方上中郡若狭町中央1-5

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