公開日:2026年09月15日

  • 製造業
  • 持続化補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(有限会社ヤマカ斎木製陶所)

美濃焼の伝統を次代へつなぐヤマカ斎木製陶所の革新と挑戦

左から、有限会社ヤマカ斎木製陶所 代表取締役 山内浩子氏、
土岐商工会議所  中小企業相談所 所長/経営支援員 横家雅道氏

この記事のポイント

  • BtoB中心の販売で商品を消費者に訴求する手段が不足
  • 持続化補助金の活用で通販用カタログ等を整備し販路拡大へ
  • 商工会議所の伴走支援により、原価・利益管理を見える化
新型コロナウイルス感染症の影響により、売上が一時前年比98%減という危機に直面した有限会社ヤマカ斎木製陶所。
その逆境の中で、4代目代表の山内浩子氏は、小規模事業者持続化補助金を活用し、土岐商工会議所の伴走支援を受けながら、新たな販路の開拓に動き出した。
その挑戦は、やがて商品づくりや生産体制、さらには「数字」に基づく経営へと広がっていく。
100年を超える伝統を受け継ぎながら、何を守り、何を変えてきたのか。

100年を超える伝統を襲った、売上98%減の危機

良質な陶磁器用粘土に恵まれ、1,400年以上にわたり焼き物の産地として発展してきた岐阜県土岐市。日本最大の陶磁器生産拠点として知られるこの地に、大正4年(1915年)の創業から100年以上にわたり美濃焼の伝統を受け継いできた、有限会社ヤマカ斎木製陶所がある。
 
同社の歴史は、初代による輸出用の白いマグカップの製造から始まった。2代目は業務用食器やそば猪口、3代目はフリーカップと、その時代の需要に合わせて形を変えながら美濃焼の伝統を支えてきた。
 
「伝統」と聞くと、変わらないことに価値を見いだすイメージがあるかもしれない。しかし、ヤマカ斎木製陶所は、代々受け継がれてきた技を守る一方、時代の変化に合わせて新たな挑戦を重ねてきた。その舵を取るのが、4代目代表の山内浩子氏である。
 
山内氏は、デジタルを活用した販路開拓や製品形状の絞り込みによる生産効率の向上など、従来の枠組みにとらわれない経営改革を進めてきた。また、地域の女性陶磁器関係者による活動にも携わり、産地全体の活性化にも取り組んでいる。
 
そんな同社に大きな危機が訪れたのが、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大だった。飲食店向けの業務用食器を主力としていた同社の受注は瞬く間に激減。一時は売上が前年比98%減という厳しい状況に陥った。
 
「窯を焼くこともなく、仕事がまったくない状態でした」と山内氏は当時を振り返る。しかし、厳しい状況の中でも立ち止まることなく、この時間を今後の事業について考え、新たな商品を試作する機会と捉えた。次の一手を模索する中で、新たな販路の開拓へと動き出した。

家業を支える立場から、4代目経営者へ

山内氏は、最初から美濃焼職人を志していたわけではない。大学卒業後は会計事務所に勤務し、結婚・子育てを経て家業を手伝うようになったが、当初は事務や梱包といった裏方の仕事を担っていた。
 
転機となったのは、母親の他界である。伝統を絶やしてはならないという責任感と、「やるなら自分の好奇心のままに進んでみよう」という思いが、4代目就任への後押しとなった。
 
山内氏の経営スタイルは、従来の「職人気質」とは一線を画すものであった。自身の好奇心を原動力に、異業種で培った視点やデジタルの力を柔軟に取り入れながら、新たな取り組みに挑戦してきた。本人が「ファーストペンギン」と表現するその行動力が、同社に新たな風を吹き込んでいる。
有限会社ヤマカ斎木製陶所 代表取締役 山内浩子氏

BtoCへの販路開拓、小規模事業者持続化補助金を活用

コロナ禍で受注が大幅に減少する中、山内氏が着手したのは「消費者と直接つながる」ための仕組みづくりだった。それまでの産地問屋(※)を通じたBtoB(企業間取引)中心の販売から、コロナの影響に伴う新しい生活様式に合わせたBtoC(個人向け販売)へ販路開拓が必要であると考えた。
そこで、先代の頃から付き合いのあった土岐商工会議所の横家雅道経営支援員に相談した。横家氏から持続化補助金の説明を受け、同氏の伴走支援を受けながら、通販用のカタログとショップカードの作成を行うために「小規模事業者持続化補助金」を活用することを決断した。
(※)産地問屋:特定の生産地に拠点を置き、地域の生産者から製品などを仕入れ、全国の市場や小売業者などに卸す専門の卸売業者(生産地問屋)のこと
””
通販用のカタログ
「以前は、どんな商品があるのかをお客様に伝える手段がありませんでした」と山内氏は語る。プロの視点を取り入れたカタログやショップカードは、同社の強みである「青色」の美しさを際立たせ、全国の消費者にその魅力を直接届ける武器となった。
 
さらに、補助金を活用して首都圏での展示会にも積極的に出展した。展示会では、消費者の声を直接聞くことができた。「どのようなデザインが求められているのか」「感動を与えるには何が必要か」という、モノづくりの本質を再認識する絶好の機会となった。
持続化補助金を活用して、東京都渋谷区の展示会に出展

主力製品を絞り、生産効率と付加価値を高める

販路開拓を進める中で、山内氏は土岐商工会議所の横家経営支援員からの助言を受けつつ、収益性向上の必要性に気付き、もう一つの大きな決断を下した。それは、多品種少量生産から、主力製品への「形状の絞り込み」である。
 
「以前はさまざまな形のものを作っていましたが、それでは効率が悪くて仕事が回りませんでした」と山内氏は語る。現在は、人気の高い「豆皿」と「マグカップ」を主力に据え、形状を4種類程度に絞っている。
 
美濃焼の製造に欠かせない「石膏型」(※)は初期投資の負担が大きく、形状の種類が増えるほどリスクも高まる。そこで、形状を絞ることで、生産コストを抑えるとともに、焼物の表面にかけるガラス質の薬液である釉薬(ゆうやく)を用い、同社独自の技術を活かした「藍星(らんせい)シリーズ」や「コスモブルー」といった、色の深みを強みとする高付加価値な商品づくりへと転換した。
(※)石膏型:陶磁器を同じ形・サイズで大量に安定して成形するため、吸水性を持つ石膏で作られた型のこと。
人気の藍青シリーズ
この高付加価値戦略により、収益は回復。2024年には東京インターナショナル・ギフト・ショーにも出展するなど、新たな販路の開拓にも取り組んでいる。

「美濃焼おかみ塾」で取り組む産地の活性化

山内氏の活動は、自社の経営だけにとどまらない。2016年に結成された、地域の女性陶磁器関係者による団体「美濃焼おかみ塾」の中心メンバーとして、産地全体の活性化にも取り組んでいる。
 
「行政や商工会議所とつながり、地域の役に立ちながら助けてもらうスタイルが大切」と語る山内氏。こうした地域や支援機関とのつながりを大切にする姿勢は、閉鎖的になりがちな産地のコミュニティに、新たな風穴を開けたと言える。
「美濃焼おかみ塾」での活動。左端が山内社長

「感覚」から「数字」に基づく経営へ

山内氏のさまざまな変革を支え続けたのは、土岐商工会議所の横家経営支援員である。
かつての経営は「作れば売れる」という感覚的なもので、原価計算や固定費の概念も曖昧だった。しかし、数年にわたる商工会議所の伴走支援と、積極的に参加した多数の事業計画策定セミナーを通じて、山内氏の意識は次第に変化していった。
 
「固定費をカバーするために、いくらのものを何個売らなければならないのか。損益分岐点などの理屈を教えてもらい、ようやく腹落ちしました」と山内氏は語る。その後、利益率を意識した価格設定や、資金繰り表の作成に取り組むなど、数字に基づいて経営を考えるようになった。こうした取り組みを重ねた結果、コロナ禍前と比較して、直近決算の売上高営業利益率は約4ポイントも上昇した。また、それまでアルバイトだった従業員を正社員として雇用するなど、経営体制にも変化が生まれている。
 
「補助金申請がきっかけで、事業計画を作成するようになり、頭の中が整理され、自分の進む道が明確になりました。業績が改善したのは、横家経営支援員のさまざまな助言と、補助金申請をきっかけとして、自主的に事業計画を作成する習慣が身に着いた結果です」と山内氏は振り返る。
 
横家経営支援員も「山内さんは、とにかく行動が早い。情報を伝えるとすぐに自分事として捉え、具体的な形にしていく」と、その実行力を高く評価している。
土岐商工会議所  中小企業相談所 所長/経営支援員 横家雅道氏

次世代が誇りを持って働ける工房へ

山内氏が思い描く「ヤマカ斎木製陶所」は、単なる製造工房ではない。目指すのは、若者やクリエイターが集まり、自由にモノづくりを楽しめる工房である。
 
「モノそのものを欲しがる時代ではなく、その先にある『感動』を求めている時代。自分で楽しみを追求することが、世の中のためになり、自分の幸せにもつながる」と山内氏は語る。
また、陶磁器の職場といえば「汚い、きつい、暑い」というイメージがあるという。しかし、山内氏は「スーツでも働けるような、綺麗で快適な環境にしたい」という伝統にとらわれないビジョンを持っている。そのビジョンの根底には意識を変え、環境を整えることで、次世代が「誇り」を持って働ける場を作りたいという強い願いがある。
 
「自分が楽しいことが、人に伝わればいい」 その想いから生まれる豆皿やマグカップは、今日も誰かの食卓を彩り、小さな感動を届けている。伝統を次代へ繋ぎ、そして感動を生み出す。それを「楽しさ」に変えて突き進む山内氏は、これからも美濃焼の歴史に新たなページを刻み続けることだろう。伝統は感動へと変わる。ヤマカ斉木製陶所は、これからも感動を届けてくれるだろう。
活用した補助金:小規模事業者持続化補助金
年度:令和2年度 第2回
 枠・型:コロナ特別対応型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
1991年3月15日
従業員数
2名
代表者
山内 浩子 氏
所在地
岐阜県土岐市土岐津町高山298-1

支援機関データ

支援機関名
土岐商工会議所
所在地
岐阜県土岐市土岐津町高山4 セラトピア土岐4階

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