公開日:2026年07月07日

  • 製造業
  • 事業承継・M&A補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(奈良食品株式会社)

事業承継を機に売上3割増 国産無添加はるさめの新たな価値創造

本事例は『事業承継・引継ぎ補助金』(令和6年度より『事業承継・M&A補助金』に名称変更)を活用した取り組み事例です。制度名は変更されていますが、事業承継の進め方や支援のポイントを理解する上で参考になる事例として紹介しています。
左:奈良食品株式会社 坪嶋 慶(めぐみ) 氏
右:桜井市商工会 経営指導員 澤﨑 那智 氏

この記事のポイント

  • 国産無添加はるさめの伝統製法を守りながら、直売所やカフェを通じた新たな価値発信に挑戦した。
  • 商工会の伴走支援を受け、漠然としていた構想を具体的な事業計画へと磨き上げた。
  • 補助事業を契機に「作る」から「届ける」へと経営の視点を広げ、日本一、さらに世界大会への挑戦につなげた。
奈良県桜井市で国産無添加はるさめを製造する奈良食品株式会社は、伝統製法を守りながら、消費者ニーズの変化に対応するため、直売所やカフェを通じた新たな価値発信に取り組んでいる。四代目の坪嶋社長は、商工会の伴走支援を受けながら事業構想を具体化し、事業承継・引継ぎ補助金を活用して新たな挑戦へと踏み出した。本稿では、伝統を次世代へつなぐために変化を選び、「作る」から「届ける」へと歩みを進める同社の取組を紹介する。

知らなかった家業が、守りたい伝統へ変わるまで

奈良県中部に位置する桜井市は、国産はるさめと三輪素麺の産地として知られる。古くから麺文化が息づくこのまちで、奈良食品株式会社は昭和38年から国産はるさめを作り続けてきた。
 
国産はるさめの製造事業者が減少する中、同社は昔ながらの製法を守り抜いてきた。効率化が進む食品製造の世界にあっても、手間をかける工程を大切にし、地域に受け継がれてきた味と品質を支えている。
 
坪嶋社長が家業に入ったのは、必ずしも幼い頃から会社を継ぐ意識があったからではない。先代経営者である父は仕事を家に持ち帰らない主義で、家庭で会社の話題が出ることはほとんどなかった。
 
出産を終え、人生の節目を迎えた頃、父から「家業を手伝ってくれないか」と声をかけられたことをきっかけに家業と向き合い、入社を決意した。
 
入社した当初は、はるさめについて知識も経験もなかったが、ベテラン従業員から作り方やこだわりを聞いていく中で、自分が伝統を守っていく思いが強まっていったという。
 
「国産無添加はるさめは、わずかな環境の違いで品質が変わるほど繊細な食品です。だからこそ、職人がその日の状態を見極め、材料の配分を調整しながら仕上げています。その難しさと奥深さを知る中で、この伝統を自分が守っていきたいと強く思うようになりました」
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奈良食品株式会社 代表取締役 坪嶋慶氏

支援機関との対話が導いた事業の具体化

2021年11月に事業承継を行い、先代から経営を任されたものの、家業の内情は「来年潰れるかもしれない」ほど深刻なものであり、売上の大半を占めていた商品も売れば売るほど赤字が膨らむような状況だった。
 
社内には長年の製造技術を支える職人がいる一方、経営の立て直しや販路の見直し、価格戦略の再構築など、取り組むべき課題は山積していた。坪嶋社長は、まさに崖っぷちからの再スタートを迫られたのである。
 
こうした厳しい状況の中で、坪嶋社長は、かねてからつながりのあった桜井市商工会に相談した。
 
相談した当初、経営指導員から言われた「まず、坪嶋社長自身が何をされたいのか考えてください」という言葉が、坪嶋社長の心に深く刺さった。それまで目の前の仕事に追われていたが、「自社がどうあるべきか、どう変えたいか」という将来像を真剣に考えるようになったのである。
 
当時、坪嶋社長が抱いていたのは、国産無添加はるさめを単に販売するだけでなく、その価値や楽しみ方を消費者に届けたいという思いだった。
 
この思いを具体化するため、商工会と意見を出し合う中で、直売所を整備し、商品の魅力やこだわりを伝えるとともに、調理設備を導入し、新商品を開発する環境を整えて、はるさめを使った料理を提供するカフェを整備することで、消費者に新しい食べ方を提案する構想が浮かんできた。
 
しかし、直売所やカフェの整備は資金面でも不安が大きく、事業をどのように組み立てるかも明確になってはいなかった。
 
そこで商工会から提案されたのが、事業承継・引継ぎ補助金の活用だった。
 
補助金の申請にあたっては、これまで感覚的に捉えていた自社の強みや市場の可能性を、第三者にも伝わる形で言語化する必要があり、事業の整理にもつながる。誰に、どのような価値を届けるのか。なぜその取組が必要なのか。設備投資によってどのような効果を生み出すのか。商工会との対話を重ねる中で、漠然としていた構想は少しずつ具体的な事業計画へと磨き上げられていった。
 
「最初は、自分が考えていることが本当に事業として成り立つのか不安もありました。商工会の方に相談する中で、課題を一つひとつ整理していき、何を準備すればよいのかが明確になっていきました。構想が少しずつ形になっていくのを感じ、前に進める手応えを感じることができました」

補助金活用で実現した事業転換と成果

採択を受けた同社は、事業承継・引継ぎ補助金を活用し、キッチンを新設するとともに、カフェスペースや直売所の整備を進めた。
 
それまで同社には本格的な調理設備がなく、メニュー開発はカセットコンロ1台で行われていた。流し台も簡易的なものに限られており、はるさめの新しい可能性を追求するには限界があったが、補助金の活用によって、飲食店や惣菜製造に必要な許可を取得できる環境が整い、はるさめを使ったメニューの開発や試作、販売に取り組める体制を整備できた。
 
その結果、補助金を活用して整備した直売所は、遠方からもファンが訪れるようになり、安定した売上を生むようになった。新商品の開発と販路開拓も進み、売上は就任時より3割程度増加、利益率も15%改善するなど、経営面でも確かな成果が表れている。
 
奈良食品株式会社にとって、従来の「はるさめを作って売る」事業から、「はるさめの価値を伝え、食べ方を提案する」事業へと踏み出す、大きな転換点となった。
 
補助金は設備を整えるための手段であると同時に、坪嶋社長が自社の価値を見つめ直し、「作る」から「届ける」へと経営の視点を広げる契機にもなった。
事業承継・引継ぎ補助金で整備した直売所及びキッチン

日本一を追い風に、世界へ踏み出す国産はるさめ

こうした挑戦は、やがて大きな評価へとつながる。
奈良食品の「戎(えびす)はるさめ」は、地域の優れた商品や取組を発掘し、全国・世界へ発信する「にっぽんの宝物 JAPANグランプリ2025-2026」において、グランドグランプリを受賞。国産原料、無添加、天日干し製法にこだわり抜いた品質に加え、はるさめの新たな食べ方や楽しみ方を提案する姿勢が評価され、日本一に輝いた。
 
坪嶋社長にとってこの受賞は、自社が守り続けてきた伝統の価値が広く認められたことを実感する大きな出来事となった。
 
日本一の評価を追い風に、さらなる販路開拓と世界への発信に向かう奈良食品。その歩みを現在も支えているのが、桜井市商工会・経営指導員の澤﨑那智氏である。
 
澤﨑氏は、月に1〜2回程度会社を訪問し、新商品のアイデアや販路開拓、情報発信の方向性について坪嶋社長と対話を重ねてきた。いわば、経営相談の「壁打ち」相手である。
 
補助事業で整備したキッチンや直売所をどのように活用し、商品の価値をどのように消費者に伝えていくか。坪嶋社長の思いや行動力を事業の成果につなげるため、伴走支援が続けられた。
 
澤﨑氏は、坪嶋社長について「初めてお会いした時から、そのバイタリティに圧倒されました。展示会や商談会など、販路開拓に関するあらゆる現場に社長自ら飛び込んでいかれる。その行動力は本当に凄まじい」と語る。
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桜井市商工会 経営指導員 澤﨑那智氏
今後は、直売所やカフェでの販売に加え、マルシェなど地域イベントへの出店、はるさめを使った新メニューの開発、SNS等を活用した情報発信にも力を入れていく考えだ。
 
さらに、「にっぽんの宝物 JAPANグランプリ2025-2026」でのグランドグランプリ受賞を機に、同社の挑戦は国内にとどまらず、世界へと広がろうとしている。今後はシンガポールで開催される世界大会にも参加し、国産無添加はるさめの魅力を海外に向けて発信していく予定だ。
 
崖っぷちからの事業承継、補助金を活用した革新、そして日本一の称号獲得。奈良食品の歩みは、地域の支援機関と共に挑戦を重ねることで、伝統産業の新たな可能性を切り開けることを示している。
 
国産無添加はるさめの価値を守り、伝え、世界へ広げようとする奈良食品の挑戦は、まだ始まったばかりだ。奈良県桜井市に受け継がれてきた伝統を未来へつなぐ同社の歩みから、今後も目が離せない。
活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金
年度:令和3年度
 枠・型:経営革新枠

※事業承継・引継ぎ補助金は令和6年度から「事業承継・M&A補助金」に名称が変わりました。
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
昭和38年
従業員数
11名
代表者
坪嶋 慶 氏
所在地
奈良県桜井市脇本448

支援機関データ

支援機関名
桜井市商工会
所在地
奈良県桜井市川合260−2

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