公開日:2026年06月30日

  • 生活関連サービス業,娯楽業
  • 持続化補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(ヘアステーション株式会社)

持続化補助金で実現した美容室の新たな挑戦【持続化補助金活用事例】

ヘアステーション株式会社 代表取締役 井上翔介氏(左) 五日市商工会 経営指導員 藤村悠太氏

この記事のポイント

  • 事業承継を機に新たな顧客価値の創出に挑戦
  • 商工会との対話を通じて経営の方向性を言語化
  • 顧客ニーズに応える新たな付加価値の創出と経営者の成長
「髪が伸びたから仕方なく行く美容室ではなく、この場所に行きたいと思ってもらえる美容室にしたい」
その想いから始まったのが、持続化補助金を活用したプライベートサロンの新設であった。
2022年に事業を承継した美容室「Kotona」の井上翔介氏は、先代から受け継いだ顧客との信頼関係を大切にしながら、新たな顧客層の開拓とサービスの充実に挑戦してきた。
補助金申請を通じて経営の方向性を見つめ直し、自社の理念を言葉にしながら形にしていく。その取り組みは、売上向上だけでなく、経営者としての成長にもつながったという。
本記事では、事業承継を契機とした経営改革と、持続化補助金を活用した挑戦について話を聞いた。

30年以上地域に愛される美容室「Kotona」の挑戦

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取材中の井上翔介代表取締役
1991年に創業した「ヘアステーション株式会社」は、広島市の西部に位置する佐伯区で美容室「Kotona」を運営し、30年以上にわたり地域の暮らしに寄り添ってきた。創業当初は近隣の住宅団地の開発が進み、多くの若い世代や子育て世帯が暮らしている状況であった。

創業者である先代の両親は地域の子育て世帯から支持される美容室となれるよう、「家族で通いやすい美容室」を目指して店舗を運営してきた。以来、地域住民との信頼関係を積み重ねながら営業を続け、現在では親子三世代にわたり利用する顧客も少なくない。

長年にわたり地域に根差してきた一方で、人口や顧客ニーズは時代とともに変化している。創業当初の主な顧客であった若いファミリー層は年齢を重ね、新たな世代への対応やサービスの高度化が求められるようになった。

こうした環境変化の中、2022年に現代表である井上翔介氏が事業を承継した。先代から受け継いだ顧客との信頼関係を大切にしながら、新たな顧客層の開拓とサービスの充実を目指し、経営改革に取り組んでいる。

その取り組みの一つが、今回の持続化補助金を活用した「プライベートサロン」の新設である。まつげパーマをはじめとした新たなサービスの提供や、より快適で落ち着いた施術環境の整備を進めることで、顧客満足度の向上と新規顧客の獲得を実現している。
 

美容室『Kotona』代表が事業承継を決意するまでの歩み

井上氏は美容師の両親のもとに生まれ、幼い頃から美容室が身近にある環境で育った。しかし、当初から強い憧れを抱いて美容師を目指したわけではなかったという。
「美容師になりたいというよりも、自然とその道に進むものだと思っていました」と当時を振り返りながら井上氏はそう語った。
 
中学二年生の頃には将来の進路として「美容師」という職業を意識し始め、父からの勧めもあり、高校在学中から通信課程で美容を学んだ。そして高校卒業と同時に美容師としての第一歩を踏み出し、大型美容室へ就職した。そこで約6年間にわたり技術を磨き、シャンプーやカラーといった基礎からスタイリストとしての技術まで、一つひとつ段階を踏みながら経験を積んでいった。
その後、家業である美容室に戻り約8年間勤務した。当時は将来的に事業を引き継ぐことも視野に入れていたが、経営者としての自分を具体的にイメージすることはできなかったという。
転機となったのは、かつて勤務していた大型美容室の先輩から声を掛けられたことだった。独立した先輩の店舗で再び働くことを決意し、家業を離れることになる。
新たな環境では、それまでとは異なる顧客層や店舗運営に触れ、美容師としてだけでなく経営の視点についても多くを学んだ。
 
特に大きかったことが、「自分自身の力で顧客をつくる」という経験である。技術だけではなく、顧客との信頼関係の築き方や店舗経営の在り方を学ぶ中で、自身の考え方にも変化が生まれていった。そして、約8年間の経験を経た後、再び家業へ戻る決断をした。
 
当時を振り返り、「ここまで経験してきたからこそ、自分なりの美容室をつくれるのではないかと思いました」と語る。
 
2022年、正式に事業を承継。技術者としてだけでなく経営者として新たなスタートを切った。現在、井上氏が最も大切にしていることは、「お客様が選んでくれる美容室」であることだ。小学生の頃から来店していたお客様が大人になり、今も変わらず通い続けてくれる。結婚や就職など人生の節目を見守りながら、長い時間を共有してきた顧客も多い。
そうした経験から生まれたのが、「子どもの頃から大人になっても」という経営理念(コンセプト)である。
単に髪を整える場所ではなく、人生の様々な場面で頼りにされる存在でありたい。その想いが、現在の経営理念の根幹となっている。

経営計画づくりで見えた経営の方向性

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取材中の藤村悠太経営指導員
井上氏と五日市商工会の藤村指導員との関わりが深まったのは、事業承継後であった。
代表就任当初、店舗にはさまざまな課題があった。ホームページの整備、新サービスの導入、店舗環境の改善など、実現したい構想は数多くあったものの、それらを進めるための資金や具体的な計画づくりが必要だった。そんな中で相談先となったのが五日市商工会である。その際、藤村指導員から補助金制度の紹介を受けたことがきっかけになり、五日市商工会をたびたび訪れるようになった。
 
最初に取り組んだのは、ホームページ制作に関する広島市の補助金の活用だった。これまで店舗の魅力や想いを発信する機会は限られていたが、申請書を作成する過程で、自身の考えや店舗の方向性を改めて整理することになった。
特に印象的だったのは、経営計画書の作成である。
「なぜその目標を設定するのか」
「なぜその事業が必要なのか」
「その数字の根拠は何か」
 
藤村指導員との対話では、こうした問いが何度も投げかけられた。
美容師として現場で考えていることは数多くあった。しかし、それらを第三者に伝わる言葉として整理することは容易ではない。それでも対話を重ねる中で、自身の考えが少しずつ整理されていった。
 
当時を振り返り、「感覚で考えていたことを言葉にするよい機会になりました」と井上氏は語る。
補助金申請は単なる資金調達の手段ではなく、自社の強みや課題、将来の方向性を見つめ直す機会にもなったのである。
 

持続化補助金で実現したプライベートサロン

事業承継後、井上氏の中には一つの構想があった。それは、従来の美容室とは異なる価値を提供できる空間をつくることだった。
「髪が伸びたから仕方なく行く美容室ではなく、この場所に行きたいと思ってもらえる美容室にしたい」
 
近年、顧客ニーズは多様化している。特に女性客や子育て世代からは、周囲を気にせずゆったりと施術を受けたいという要望が増えていた。
そこで着目したのが店舗隣の空き店舗用物件の活用である。
 
この物件を借りるとともに、持続化補助金を活用し、まつげパーマ専用設備や施術チェア、家具、鏡などを導入。落ち着いた雰囲気のプライベートサロンを整備した。
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持続化補助金を活用し導入した設備の一部
この空間には時計や電話を置いていない。日常から少し離れ、自分自身と向き合う時間を過ごしてほしいという想いが込められている。
 
申請にあたって、藤村指導員と6~7回の打ち合わせを重ねながら計画を練り上げた。
事業の必要性、市場環境、ターゲット顧客、期待される効果などを一つひとつ整理し、経営理念と結び付けながら計画書へ落とし込んでいった。
 
当時を振り返り「思いだけでは伝わらない。なぜ必要なのかを言葉にすることが重要でした」と語った。
採択後、「otonari」と名付けたこのプライベートサロンを利用した多くの方から好評を得た。
「落ち着いて施術を受けられる」
「子ども連れでも利用しやすい」
「ここで過ごす時間そのものが楽しみ」
といった声が寄せられた。
 
また、売上面でも効果が現れ、補助事業実施後は売上が約14%向上した。単なる設備導入ではなく、自社の理念を形にする投資として大きな成果を上げたのである。

マゴコロをきみに

井上氏が目指しているのは、単なる目先の利益の追求ではない。その根底にあるのは、「長く愛される美容室をつくる」という考えである。
そのためには顧客満足だけでなく、従業員が働きやすい環境づくりも欠かせない。現在は完全週休二日制の実現に向けた取り組みを進めており、スタッフ一人ひとりが学び、成長しながら長く働ける職場づくりを目指している。
「お客様に良いサービスを提供するためには、まず働く人が安心して働ける環境が必要です」と井上氏は語る。
 
また、将来的には顧客と従業員の店舗内環境のさらなる改善とともに店舗の拡張も視野に入れている。創業から30年以上にわたり築き上げてきた信頼を受け継ぎながら、新たな価値を加えていく。その挑戦はこれからも続いていく。
 
「Kotona」の由来である「子どもの頃から大人になっても」。
その言葉のとおり、人生の様々な場面に寄り添い続ける美容室を目指して——。
持続化補助金を活用した今回の取り組みは、地域に根差した美容室が次の時代へ歩みを進めるための、大きな一歩となった。これからの挑戦にも目が離せない。
活用した補助金:小規模事業者持続化補助金
年度:2023年度 第13回
 枠・型:一般型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
1991年 10 月
従業員数
7名
代表者
井上 翔介 氏
所在地
広島県広島市佐伯区八幡4-13-15

支援機関データ

支援機関名
五日市商工会
所在地
広島県広島市佐伯区五日市中央4-15-3

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