2025.03.07

支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(tarte&cafeいとお菓子)

「人と人のつながり」の詰まったタルトとカフェのお店

tarte&cafeいとお菓子 代表 今井倫子氏(左) 千葉商工会議所 経営指導員 芝入好美氏(右)

ポイント

  • 周りの人に助けられてお菓子作りの楽しさを思い出す
  • 商工会議所の創業スクールで創業計画書の作成に挑戦
  • 創業への強い思いを補助金活用によって形にしていく

千葉市郊外の工場と住宅街が立ち並ぶ地域の一角にたたずむ瀟洒な建物「tarte&Cafeいとお菓子」。バス通りから少し入った場所にあるものの、季節のフルーツタルトや野菜たっぷりランチ、タルトと相性抜群のカフェドリンクを、時間を気にせず満喫できる場所として、連日多くの方でにぎわっている。店主の今井倫子代表がこの店をオープンしたきっかけは、子供の頃からのお菓子好きと18年にわたるパティシエ歴、そして周りの人に助けられることで気付かされた「人と人のつながり」だった。

始まりは母が作ってくれた本格焼き菓子
18年間のパティシエ経験で研究を重ねる

今井代表は愛知県に生まれ、幼少期からお菓子に囲まれた生活を送っていた。
「子供の頃は母がよくお菓子を作ってくれました。勤務先のお菓子工場から業務用の大きな機械を借りてきて、ワッフルやクレープを焼いてくれたのが忘れられない思い出。業務用の機械で焼いたクッキーはカリカリして、お店の味のようで凄くおいしかった。いつの間にか自分でもお菓子作りを始め、いずれはお菓子作りを仕事にしたいと考えるようになりました」

こうした夢を実現するため、家政科のある高校、調理師専門学校へと進学する。
「高校生の頃は手作りのオペラケーキを学校に持っていき、友達に食べてもらうのが楽しみでした。その後の専門学生時代のアルバイトが、カフェと焼き菓子づくりの原体験。マスターに教わってチーズケーキを焼き、初めてお客さまに召し上がっていただいた。仕事を任せてもらったとの思いとお客さまの反応が嬉しくて、俄然やる気が出ました」

卒業後はホテルのペストリー部門で婚礼菓子や生菓子の製造を担当。名の知れたシェフの下でお菓子作りの基礎を学んだ。
その後結婚・出産を機に退職した今井代表は、夫の仕事の関係で千葉県へ転居。数年後には育児が落ち着いたこともあって、大好きなお菓子作りの道へ戻ることとなった。個人店を中心にいくつかの洋菓子店で勤務したが、その一つは焼き菓子に力を入れているお店で、フィナンシェやマドレーヌの他にガレット・ブルトンヌなどのフランス菓子も提供していた。
「焼き菓子についていろいろ研究する機会になりました」と今井代表は当時を振り返る。

お菓子作りの楽しさを思い出させてくれたのが
周りの人の助けと「人と人のつながり『糸』」

大好きなお菓子作りに充実した日々を送る今井代表を襲ったのが、2020(令和2)年、夫の逝去であった。憔悴した今井代表は何もやる気が起きず、仕事をする気力も戻らないまま2人の子供を抱えて毎日の生活を淡々とこなす日々が続く。お菓子作りのこともいつしか忘れていってしまった。

そうした中、親しい友人から「久しぶりにケーキを作ってくれない?」と頼まれることに。重い腰を上げて作り始めてみると楽しくて、時間が経つのを忘れて夢中になった。友人の「美味しかったよ。またお願いね」の温かい言葉に、遠い昔に初めて作ったケーキを喜んで食べてくれた家族の顔が浮かんだ。「人を喜ばせることができるのがパティシエの仕事だ」「私が生きていくにはケーキ作りが必要だ」

自分の心の声に従って再びケーキ作りの世界に戻ることを決意した今井代表は、自ら洋菓子を提供するカフェをオープンすることを決意。友人の「あなたなら大丈夫」「きっと旦那さんも応援しているよ」との言葉に後押しされ、
「自分の得意分野を活かせたら、今後の人生も悔いなく過ごせるかなと思って、開業準備を始めることにしました」

創業スクールで経営指導員の支援を受け
創業計画書の作成に挑戦

自分の決心が揺るがないかを確認するため、2022(令和4)年に都内のカフェの専門学校へ社会人コースで入学。そこの授業で小規模事業者持続化補助金や特定創業支援等事業のことを知り、調べるうちに千葉商工会議所の創業スクールにたどり着いた。すぐに受講を決意。そこで出会ったのが、その年の創業スクールを担当した芝入好美経営指導員だった。

芝入指導員は「創業スクールで作成する創業計画書は、補助金の申請書や融資の申し込みの際に流用できるよう、必要な項目を網羅したオリジナルのもの。今井さんがやりたいことを実現するにはぴったりでした」と語る。
一方で今井代表は「創業計画書の作成やプレゼンが予定されており、パソコン操作は必須。パソコンを使ったことがない私には不安しかありませんでした。しかし芝入さんには、どんなパソコンを買ったらよいかから始まり、自分の思いをどのように言葉に乗せたらよいか丁寧に教えていただいたことで自信が付き、本当にありがたかったです」と感謝の意を述べる。

桜並木の思い出の場所で開業
補助金を活用して強い思いを形にしていく

創業に当たり今井代表がこだわったのは立地。千葉工業大学のグラウンドに沿って作られた散歩道は、春には桜が一面に咲き誇り、今井代表が亡き夫とよく歩いた思い出の場所だった。
「友人と『ここで開業したいね』なんて話をしながら散歩していた。するとある時、その友人から『あの場所空いたみたいよ』と連絡が入り、すぐに契約しました」

次にこだわったのはタルトとカフェのお店。自身の子育ての経験から、ママたちが気軽に集まっておしゃべりできるお店をつくりたいと考えた。そこでカフェの技術を高めるため、キッチンカーを営業するバリスタのところへ通いラテアートを学ぶ。
「店名の『いとお菓子』は、友人や周りの人に助けられた、人と人のつながりを表す『糸』。『いとおかし』は古文で『とても可愛らしい』の意味。自分が作ったお菓子を見てそう感じてほしい、との気持ちを込めました」

こうした思いが込められた創業計画書を、芝入指導員のサポートを受けて作成。さらに芝入指導員のアドバイスに沿って計画書に写真を入れ、競合店の調査にも出向いたという。
「商圏を決めて、近隣にどのようなお店があって何を売りにしているか。実際にお店を訪問して調査しました。また商圏内のお客さまを集めるためにインスタグラムの投稿も始めました」

こうして創業計画書が完成。この創業計画書をベースに、芝入指導員の支援を受けながら小規模事業者持続化補助金の事業計画書を作成。無事採択の運びとなり、エスプレッソミルとエスプレッソマシンを導入した。
「温度や湿度をデジタルで調整できるミルと、デジタルで圧力を管理できるマシンを導入することで、アルバイトの方でも安定して味が提供できるようになりました」

エスプレッソマシン(左) エスプレッソミル(右)

計画書に基づく運営が浸透
収益を計画的に確保していく

2024(令和6)年3月のオープン以降、毎日多くの方が来店し、こだわりのフルーツタルトやほっと落ち着くドリンク、野菜たっぷりのランチを楽しんでいる。年齢層は幅広く、中でも40代女性の2人連れが多いという。
「開業前は、できるだけ高級な材料を使って美味しいタルトを作ろうと意気込んでいましたが、事業計画書を作ったことで収益にも目が向くようになった。どの材料を使ったらお客さまに喜んでいただきながら収益も出せるか——。計画書を作っていなかったら”どんぶり勘定”になっていたかもしれません」

初年度の7月には、季節限定メニューとしてかき氷を提供したという。
「以前働いていたお店のシェフから『7月、8月はケーキ類の売り上げが落ちる』と聞いていたので、創業スクールで作成した月次の収支計画へ減少予想額を反映し、そこにかき氷の売上計画を上乗せした。数字を見たことでイメージが湧いて、具体的な対策が必要と気付かされた。実際には想定ほど売り上げは落ちませんでしたが、勉強になりました」

桜が咲き誇るこの場所で
いつか娘と一緒にお店に立ちたい

芝入指導員は自身が担当した創業スクールの受講者を定期的に訪問し、近況の確認と共に経営に関する悩みの相談に乗っている。今井代表もその一人で、芝入指導員のサポートを受けて順調なかじ取りが続いている。
「桜並木がきれいな場所なので、散歩のついでに立ち寄ってもらえるようインスタグラムの投稿を頑張りたい。また近い将来には、私が生まれた愛知県の喫茶文化を千葉で伝えられるよう、モーニングサービスをこの店で提供したい」

なお今井代表の娘さんは現在高校3年生で、幼い頃から今井代表と同じようにパティシエを目指しているという。4月から製菓の専門学校へ通うことが決まっている。
「いつか一緒にこの店に立てたらいいなと思っています」とすでに今井代表の視線は未来へ向けられている。

活用した補助金
- 小規模事業者持続化補助金(商工会地区)
- 小規模事業者持続化補助金(商工会議所地区)

企業データ

企業名
tarte&cafeいとお菓子
Webサイト
https://www.tarte-cafe-itookashi.com/
設立
2024年
従業員数
3名
代表者
代表 今井倫子 氏
所在地
千葉県千葉市花見川区千種町236-46

商工会議所データ

商工会議所名
千葉商工会議所
Webサイト
https://chiba-cci.or.jp/
所在地
千葉県千葉市中央区中央2-5-1 千葉中央ツインビル2号館13階

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