2024.11.28
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例
ポイント
株式会社カリブコーヒーは、阿久津光社長の父 阿久津眞孝会長が、1996年に仙台市青葉区にてコーヒー豆の自家焙煎専門店を個人事業としてスタートしている。その後、2017年に法人化し、株式会社カリブコーヒーを設立した。
2022年から現代表の阿久津光社長は、父が営む珈琲豆専門店、自らがビジネスとしてスタートさせる高級レストラン事業、さらに妻が始める パン工房の3つを一体化した新事業を構想。仙台商工会議所の支援を受けながら、事業の企画構想から資金調達を中心とした計画づくり、補助金の申請から採択までの過程を踏み、2022年11月に株式会社カリブコーヒーの事業を承継した。
阿久津光社長は、20歳の頃、居酒屋のアルバイトにて接客サービスを経験。
「お客様に居心地の良い時間と空間をご提供することで、お客様から感謝や喜びのお言葉を直接いただけたことが、自分の夢と目標の出発点になりました」と阿久津社長は語る。
事業承継から遡る9年前の2013年から、将来、出身地の仙台で飲食店を経営する夢を抱き、調理修行の世界に足を踏み入れた。最初に軽井沢にある「薪で調理をする」店舗での修業をスタート。その後、フランスに渡り、現地のレストランでの調理修行を経て、2015年11月から2022年1月までの6年2ヶ月に及び、東京でスタイルの異なる3つのレストランでの修業を経験している。
「フランスから帰国した時に、父と事業を将来引き継ぐことについて話をしていました。その頃には現在のようなスタイルでのお店をやるイメージは持っていませんでしたが、事業を引き継ぐということは受け入れていました」
また、レストランでの修業をしている頃から、パンづくりの探求を続ける妻と将来はお店を一緒にやることも話していたという。
阿久津社長の支援にあたった仙台商工会議所の舘崎氏との出会いは、舘崎氏が別に支援担当していた事業者から「飲食店を始めたい知り合いがいるので、創業を支援してほしい」と紹介を受けたことがきっかけであったという。
「支援の最初の段階では、通常の創業支援の形で阿久津社長を支援しました。その後、社長の父である会長の事業も踏まえて、どのようなデザインで阿久津家の未来を構想していくかを阿久津社長、会長と一緒に検討しました。会長の事業承継と社長夫妻の新規事業の開始を組み合わせた時、異なるビジネス間での相乗効果が生まれる可能性を見いだしました」と舘崎氏は語る。
本件の支援においては、阿久津社長、社長の配偶者、阿久津会長の3人が一緒に事業を営むことで家族が幸せになるイメージを持ってもらうために、3つの事業の連携スタイルを「図」に描いてもらうように阿久津社長に依頼。その上で、社長、会長 の各々が腹落ちできない部分については、各々と面談しながら気持ちを丁寧に聴いていったという。
舘崎氏からのアドバイスを踏まえ、阿久津社長は事業承継を考えるにあたり、会長がこれまで築いてきたコーヒー豆の自家焙煎専門店について、将来のシナリオを考えたという。
父が培ってきた珈琲豆の焙煎販売事業は、良質な豆を使ったオリジナルブレンドのコーヒー豆の種類が豊富で、かつ百貨店の半値近いリーズナブルな価格でご提供することを強みとしており、仙台で27年間事業を続けてきている。父の丁寧な接客により、昔からのリピート顧客も多い。店舗も交通量の少ない広い道路に面しており、車でのアクセスがしやすく、遠方からも顧客が訪れている。
他方、昔からのリピート顧客は高齢化してきており、これから自分が事業を承継することを想定すると、新たな顧客層の開拓が必要となる。
自分自身が培ってきたスペイン・バスク料理の調理技術とワインの知識、そして妻が培ってきたパンを作る技術、これまでの父のコーヒー事業の強みの3つを組み合わせ、新しいコンセプトで市場の開拓をやってみたいと考えるようになった。
「父には父の事業へのこだわりがあり、それまでは親しみやすい価格での商売を続けていました。息子の私と一緒に事業をやっていくこと自体は前向きでしたが、事業のコンセプトや客単価を大きく変えた新事業 には納得してもらえなかった経緯もあります」
会長の同意を完全に取り付ける状態には至らないながら、阿久津社長は将来に向けて前に歩み出す覚悟を固めていった。父のコーヒー豆の自家焙煎専門店の強みの一つである立地環境を生かすために、父の店の近隣に出店候補地を見つけ、そこに3つのサービスを提供する新しい店舗のデザイン、厨房機器も含めた見積りの取得に乗り出した。
新しい店舗の構想、見積りが明確になる中で、阿久津社長は支援者の協力を得ながら、事業計画の策定と資金調達手段の確保の検討を始めた。必要な資金と自己資金を整理したところ、借入が必要になる金額が大きくなることがわかった。
舘崎氏からの助言は、「事業計画を策定した上で、まずは自己資金と借入金で必要な資金を調達する目途を立てるのが大切である。次のステップで、自社の事業計画に照らし、必要な資金の一部について活用できる補助金を探してみる順番で検討を進めるのが良い 」とのことであった。
仙台商工会議所の舘崎氏は、補助金の活用について次のように話す。
「補助金の交付だけの目的で支援を求められても、十分なご支援ができないことが多いことは事実です。他方、経営者が本当にやりたいことを見据えて事業計画を作る際には、計画策定の途中で活用できる補助金を探し、活用のご提案をするようにしています」
計画に照らして、活用できそうな補助金を探したところ、事業承継・引継ぎ補助金の公募要件に該当することがわかった。阿久津社長が補助金の申請に必要な書類を作り進める中で、舘崎支援員との対話によって一つ一つの考えを深めていき、申請に必要な計画書類を作り進めた。
二人三脚で令和3年度補正予算 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)の第1次公募に申請を行い、無事採択を得ることになった。
補助金の採択を受けた後、新事業に取り組む中での課題は、3つの事業を束ねた後の顧客向けブランドの一貫性であると阿久津社長は言う。父のコーヒー豆販売、妻のパン工房、社長のレストランの各々は、想定される顧客の利用場面が異なる。顧客が迷わないよう、いかに事業のブランドを育てていくかが今後の課題である。
他方、3つのサービスを一緒に提供できることで、顧客の来店機会に幅広いサービスを展開できている。レストラン事業の格式の高さが、他の2つの事業のイメージを高める効果も生み出しているという。
事業承継・引継ぎ補助金にて作成した補助事業計画の6年目に、阿久津社長の野望である「仙台バスク化計画(美食の街化計画)」が記載されている。仙台の街中で、地域の飲食業界の発展を意図したイベントを実行してみたいと話す。
その先駆けとして、事業計画の3年目に計画されていた「バスクのワイン生産者をお店に呼んだイベント」を実現できた。
東北の気候や食文化は、バスク地方(スペイン北部とフランス南部を跨ぐ地帯、温暖で雨が多い四季のある気候で新鮮な魚貝類を調理して食べる文化がある)に共通する点があるという。
「バスク地方のお酒と、東北の地酒で似ていますね。お酒が 料理を引き立てる役割を担っている所が魅力です」と舘崎支援員も語る。
ローカルだからできること、大事にしたいことがある。地元をこよなく愛する経営者 と支援者がこれからも取り組みを共にし、杜の都仙台の街で美食のイベントが開催される日を楽しみにしたい。
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