2022.07.15
生産性向上に取り組む企業事例
「お客様がお客様の大切な人を笑顔にできる仕組みをつくりたい」と、広島県尾道市に店を構えるのがコーヒー豆の店「ましろ」だ。お客様が好みに合わせて選べるブレンドの種類や、コーヒーパックの詰め合わせを準備し、ギフトセットも販売する。オンラインショップも併用し、ぜひ多くの人に手に取ってほしいと販路拡大に知恵を絞り、挑戦を続けている。
「ましろ」のオーナーである須山さんは、勤めていた会社を辞めて2017年にコーヒー豆屋をオープンした。以前はまったく違う業種で働いていたが、「いつかお店を持ちたい」という思いを持ち続け、新たな仕事人生としてチャレンジしようと決心したのが転機となった。
コーヒーがもともと好きだったことが、今の店舗コンセプトを決めた。ただし、カフェではなくコーヒー豆販売をあえて選択した。カフェはそこに来てくれた人に幸せを提供する。一方、コーヒー豆は、買ってくれた人が他の人に入れてあげたり、ギフトとして他の人に贈ってもらったりすることができる。自分が直接届けなくても、人の手を介してコーヒーが届けられるので、コーヒー豆販売の先に広がりがある。人を雇わずとも店舗経営がしやすい業態であることも、後押しした。
広島市出身の須山さんであるが、住みたい町に店舗を開きたいと、尾道市の向島を選んだ。ある程度の商圏規模があり、観光客も訪れる土地であることも考慮に入れた。地元の人と観光客とが両方店舗に訪れてくれるようになれば、日常遣いの購入からお土産需要まで期待が持てるのではないかと考えたのだ。まずは焙煎スキルを身に着けるところからのスタートであった。セミナーなども活用しつつ、独学で焙煎機を借りてきて練習。とにかく数を重ねて開店にこぎつけた。店舗を知ってもらうところからのスタートであったが、チラシ広告などには初期から取り組み、認知拡大と品質向上に懸命に取り組んだ。
成果は徐々に表れ、売り上げもあがってきた矢先にコロナ禍が起きた。しかし、コーヒーは巣ごもり需要との相性がよい商品だ。さまざまな施策を通じ、新規顧客は継続的に増えている。
1つには、コロナ禍前から立ち上げていた独自のECサイトの効果だ。コーヒー豆、ギフトセット、カフェオレベースなどフルラインナップをオンライン販売している。特にギフトセットは単価もあがるので、売れ行きがよくなれば業績にも寄与しやすい。ただしオンライン販売は、Webに掲載しただけで伸びるものではない。大手のECサイトに掲載しているわけでもないため、新規ビューを増やすのは一苦労である。来店客の方ではコロナ禍で観光需要が減っており、販売総量をどう増やしていくかが喫緊の課題として高まっていた。
そこで力を入れたのが、広告による来店・購買導線づくりである。小規模事業者持続化補助金の条件にあてはまったことで、広告投資がしやすくなった。来店につなげるための新聞折り込みチラシと、インターネット広告によるECサイトへの導線と、二種類を組み合わせて実行しようと考えた。
まずチラシ広告は、以前の経験を踏まえて戦略をたてた。尾道市には以前広告配布していたので、新たな認知拡大をねらって近隣の三原市や福山市を配布先対象とした。また、チラシ持参者にパックコーヒーをプレゼントするという特典をつけ、来店促進への導線を意識。さらに今後のチラシ広告実施時にも活用できるよう、どちらの市からの来店反応が多く起きるか、検証できるような仕掛けも入れた。
一方、インターネット広告は、今回はじめての試みであった。効果の高い方法をねらうため、広告会社に相談して始めることにした。反応を見ながら日々広告運用ができるため、最初はディスプレイ広告を出し、途中でより多くにリーチできそうなSNS広告に変更。ギフトシーズンをねらって、ギフト用の写真を前面に出すなど、ねらいを定めて実施した。
チラシ広告については、配布後にチラシを持って来店する新規客が見込み通り増えたという。インターネット広告も、掲載期間は通常の倍ほどの申込となった。ただしオンライン販売については、全国の店舗が同じように発信しているなかで、見つけてもらう難しさも感じるという。店舗販売とオンライン販売を併用するなかで、広告のバランスや活用については今後も試行検証しながら続けていく予定だ。
今回、一定の広告効果を得られたのは、過去の試行錯誤があってこそだ。たとえば、写真は、別の広告宣伝時にプロに頼んでたくさん撮影しておいたという。単発の効果で終わらせるのではなく、将来につながる施策となることを、常に念頭においている。
また、魅力的な商品づくりも、顧客との接点強化に役立っている。ギフトセットにも使っている「ましろ」のパックコーヒーは「ダンク式コーヒーバッグ」という、紅茶のティーバックのような形態でつくられている。コーヒーのドリップ器具がなくても、お湯を注ぐだけでおいしいコーヒーが飲めるというのが特徴だ。1個単位で購入できる形式なので、観光客の人が店舗で気軽に買うこともできるし、ギフトセットで届いたものをいろいろな人に配ってもらうこともできる。
2019年には、子ども向けのカフェインレス仕様のカフェオレベースを発売した。広島電鉄の路面電車を描いたパッケージというのが大きな特徴だ。通常タイプのカフェインレス仕様のカフェオレベースが、子ども向けに結構飲まれているという声を聞いたことがきっかけとなった。子ども向け商品として広島電鉄とコラボレーションできないかと思い立ち、広告代理店を介してプレゼンテーションをしにいって実現したのだ。また、広島の新たな土産をつくりたいと、「ゆるねこむかいしまコーヒー」を発案、クラウドファンディングで多くの共感を集め、手に取りたくなるようなパッケージの商品も誕生した。
「製造は毎日のように悩むんです。どのレベルでよしとするか。もっと安定的に美味しいコーヒーを作って、より多くの人の手に届けられるようがんばります」と須山さんは話す。いずれは海外にも届けられるような商品をつくっていきたいという展望も持っている。品質はもちろんであるが、パッケージの工夫を始め、楽しめるコーヒーがさらに広がっていくことを目指して取り組んでいる。
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