2025.03.14
- 卸売業,小売業
- ものづくり補助金
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例
地域発!プロテインパンの新製法を確立し、特許取得と事業化につなげる

ポイント
- 「健康美食パン」の開発・販売を志向
- 知的財産と産業技術の専門機関を活用して基礎を作る
- ブランド強化を図り、地域産業への貢献も展望
有限会社パレットは、宮城県栗原市と大崎市に店舗を構え、地域に根差した洋菓子・パンの製造販売を行っている。創業者である高橋社長は、もともと農業に携わっていたが、28歳で独立し、菓子・パン業界へ進出。以来、地元の素材を生かした商品開発に力を入れ、地産地消を重視している。
また、地域活性化にも尽力し、地元の洋菓子協会や観光物産協会、中小企業振興会議の要職を務めるなど、多方面で活動している。


さまざまな苦難を乗り越えて、プロテインを配合したパンを開発
有限会社パレットが、国が推進する「農商工等連携事業」として宮城県内で第1号の認定を受け地域の土産品として開発した「ずんだジャム」は、全国的に注目される人気商品となった。しかし、販売拠点としていた観光施設や駅・空港が、岩手・宮城内陸地震や東日本大震災で大きな被害を受け、販売ルートが激減。さらに、新型コロナウイルスの影響で観光客が減少し、売上は大きく落ち込んだ。
「このままでは会社の存続すら危うい」と危機感を抱いた高橋社長は、新たな事業の柱を探す。そんな折、地元の経営者団体のセミナーに参加した。そこで「美容と健康」をテーマにした事業を考えてはどうかとの示唆を得て、自社の事業への展開を志向し、新たな商品を開発することを決断する。
高橋社長は「美容と健康」に関わる新商品の材料として、プロテインに着目した。食材の調達先で大手食品会社に相談すると、プロテインにはアンチエイジングにも効果があると聞き、プロテインを配合したおいしいパンの開発に着手する。
しかし、当初は開発が難航した。従来の製法ではプロテインをパン生地に添加すると、添加量増加に伴い、パサつきやすく食味・食感が悪くなるという課題に直面した。高橋社長によれば「プロテインを材料供給する大手食品会社でもプロテインパンの開発を行っていたが、成果が出ていなかった」ようだ。
試行錯誤を繰り返す中、自社の人気商品である「豆パン」の作り方にヒントを得て、ペースト状のプロテインを含む生地と通常の生地を別々に調製し、積層させて焼成するという製法にたどり着いた。


知財や技術を支援する公的機関の活用が事業計画の基礎を作る
製造方法の確立のめどが立ってきた段階で、商品化に向けた課題を解決するため、高橋社長は知的財産の相談窓口である片平氏(INPIT宮城県知財総合支援窓口)と食品の技術支援の専門家である羽生氏(宮城県産業技術総合センター)に相談を持ちかけた。両氏には、過去に「ずんだジャム」の商品化の際も知的財産権や製造技術について相談しており、プロテインパンに関する新たな課題に対応していただくことになった。
●知的財産・ブランディングの支援(INPIT宮城県知財総合支援窓口 片平氏)
プロテインパンの製造方法が特許取得に値するかどうかを検討。食品製造の業界では、製造方法については特許を取得せず秘匿するケースが多い。しかし、片平氏は「高橋社長が開発した製法に起因する外観の特徴」があることから、特許出願を助言した。
また、片平氏は高橋社長からの相談について、ブランディングやマーケティングの強化が必要と判断し、INPIT※1の「重点支援制度」の利用を勧め、約1年間にわたり、ブランディング専門家兼料理研究家、弁理士ら専門家で組成されるチームで、事業戦略やビジネスモデルの確立を支援した。
※1 INPIT(インピット)とは、独立行政法人工業所有権情報・研修館(National Center for Industrial Property Information and Training)の略称。中小企業や個人事業主向けに、特許・商標・意匠・実用新案などの知的財産に関する相談・支援を行う公的機関。各都道府県に「知財総合支援窓口」を設置し、知的財産の取得・活用・保護を支援している。
●技術面での課題の整理と分析(宮城県産業技術総合センター 羽生氏)
羽生氏は、都道府県が設置する公設試験研究機関である宮城県産業技術総合センターの研究員として、プロテインを使用した食品の食感等について、分析し改良を支援した。過去には「ずんだジャム」の色調保持技術に関する相談や技術改善に対応した経緯があり、その知見を活かして、プロテインパンの品質改良にも協力した。さらに、地元の大学への商品価値向上に向けた相談の橋渡し役も担った。
●知的財産・ブランディングの支援(INPIT宮城県知財総合支援窓口 片平氏)
プロテインパンの製造方法が特許取得に値するかどうかを検討。食品製造の業界では、製造方法については特許を取得せず秘匿するケースが多い。しかし、片平氏は「高橋社長が開発した製法に起因する外観の特徴」があることから、特許出願を助言した。
また、片平氏は高橋社長からの相談について、ブランディングやマーケティングの強化が必要と判断し、INPIT※1の「重点支援制度」の利用を勧め、約1年間にわたり、ブランディング専門家兼料理研究家、弁理士ら専門家で組成されるチームで、事業戦略やビジネスモデルの確立を支援した。
※1 INPIT(インピット)とは、独立行政法人工業所有権情報・研修館(National Center for Industrial Property Information and Training)の略称。中小企業や個人事業主向けに、特許・商標・意匠・実用新案などの知的財産に関する相談・支援を行う公的機関。各都道府県に「知財総合支援窓口」を設置し、知的財産の取得・活用・保護を支援している。
●技術面での課題の整理と分析(宮城県産業技術総合センター 羽生氏)
羽生氏は、都道府県が設置する公設試験研究機関である宮城県産業技術総合センターの研究員として、プロテインを使用した食品の食感等について、分析し改良を支援した。過去には「ずんだジャム」の色調保持技術に関する相談や技術改善に対応した経緯があり、その知見を活かして、プロテインパンの品質改良にも協力した。さらに、地元の大学への商品価値向上に向けた相談の橋渡し役も担った。


プロテインパンの製造方法は確立し、商品化のめどが立ってきた。しかし、新たに量産ができないという新たな問題が浮上した。さらに、かつて農商工連携事業で立ち上げた大崎市古川のサブ工場が、遊休資産化となっており、その活用も課題となっていた。
中小企業経営者として有効な支援策の活用を視野に入れていた高橋社長は、課題解決に向けて「ものづくり補助金」の申請を決意。補助金の申請にあたり、INPITや宮城県産業技術総合センターの支援から得られた当社の強みや技術的な特徴、マーケティング戦略などを申請計画に展開した。適宜、よろず支援拠点のコーディネーターに相談し、計画をブラッシュアップしていった。結果、1回目の申請で採択となり、新商品のための専用の製造設備を導入することができた。これにより、大量生産が可能となり、本格的な事業化を見据えた製造体制が整った。

また、INPITの重点支援の成果として、新製品ブランド(ブランド名:もちふわタイガー)の商標登録と「パン製造法における特許取得」となった。地方の食品製造業がパンの製造における特許取得に挑戦したことは特筆に値する。この支援成果を活用し、現在は店舗とウェブサイトで新商品の販売を行っている。
INPIT片平氏は、現在も、パレットに対して商標の更新などのサポートを行いつつ、「当社はこれまでの支援を通じて営業秘密管理の重要性を再認識するなど、知財に対する見識が向上しているが、いまだ中小企業の多くは、知的財産に関する知識が不足している。知財について悩ましいときは、まずは相談に来ていただきたい。」と語る。
また、宮城県産業技術総合センター 羽生氏も「今後も適宜相談に応じる」とした上で、「地元の事業者が相談に来てくれることや声を聞かせてくれることが本当にありがたい。」と述べた。
高橋社長は「私は現状に満足できない性分。当社が新しいことに試行錯誤する中で、お二人には相談しやすい関係を築いていただき感謝している」と感謝を語った。

今後の事業化の展望
現在、商標登録済みの新商品ブランド「もちふわタイガー」として販売されているプロテインパンは、冷凍販売を基本としている。これは、タンパク質の特性上、常温では硬化しやすくパサつくため、焼きたてのおいしさを保つ工夫である。
高橋社長は「革新的な商品開発の取り組みほど、事業化・収益化に時間がかかる。つまり、作れるようになっても売れるようにするのは難しい。新規性が高い商品ならなおさらだ。」と語る。「現在の事業規模では、決して満足できるものではない」ことから、今後のPR強化を課題とし、以下の展望を挙げている。
1.販路拡大
ネットでのサブスクリプション販売を強化し、継続的に購入してくれる顧客を増やす。 地元高校の運動部や高齢者向け施設など、健康志向の高いターゲット層へ販路を広げる。 他地域での施設やイベントでの販路も拡大する。
2.ブランド強化と新商品開発
高齢者向けの「カルシウム強化パン」や、子供向けの「栄養バランスパン」など、ターゲットごとにストーリー性を持たせてブランド強化を図る。 プロテインと相性の良い「植物繊維入りパン」など、新たな健康志向の商品開発を進める。
3.地域産業としての寄与
栗原市の新たな特産品として「もちふわタイガー」をPRする。 プロテインパンの製造技術を生かし、他の事業者とも連携を模索し、コンビニやスーパー向けの地域特化型商品として提供するなど、大規模な展開を目指す。
ネットでのサブスクリプション販売を強化し、継続的に購入してくれる顧客を増やす。 地元高校の運動部や高齢者向け施設など、健康志向の高いターゲット層へ販路を広げる。 他地域での施設やイベントでの販路も拡大する。
2.ブランド強化と新商品開発
高齢者向けの「カルシウム強化パン」や、子供向けの「栄養バランスパン」など、ターゲットごとにストーリー性を持たせてブランド強化を図る。 プロテインと相性の良い「植物繊維入りパン」など、新たな健康志向の商品開発を進める。
3.地域産業としての寄与
栗原市の新たな特産品として「もちふわタイガー」をPRする。 プロテインパンの製造技術を生かし、他の事業者とも連携を模索し、コンビニやスーパー向けの地域特化型商品として提供するなど、大規模な展開を目指す。
栗原市の人口は、10町村が合併した平成13年当時の8.3万人から、令和5年には6万人弱となっている。近年は、毎年約1000人の人口が減少している。このことに加えて、パンや菓子類を製造・販売する大手企業が進出し、地方の中小のパン・菓子事業者の経営は厳しい状況に直面している。
「地方のパン屋が特許を取るなんて珍しいこと。でも、やるからには本気で栗原市の産業として確立したい。美味しくて健康にいいものを作り続けていけば、必ず認められると信じています。」さまざまな用途向けにプロテインパンの可能性が広がることを確信し、これからも新しい挑戦が続く。

INPIT宮城県知財総合支援窓口 片平忠夫氏(右)
宮城県産業技術総合センター 羽生幸弘主任研究員(左)
企業データ
- 企業名
- 有限会社パレット
- 創業
- 昭和61年10月
- 従業員数
- 45名
- 代表者
- 高橋 寛 氏
- 所在地
- 宮城県栗原市築館伊豆4丁目7-15
支援機関データ
- 支援機関名
- 宮城県産業技術総合センター
- 所在地
- 宮城県仙台市泉区明通2丁目2番地 (泉サイエンスパーク内)
- 支援機関名
- INPIT宮城県知財総合支援窓口
- 所在地
- 仙台市泉区明通2丁目2番地 宮城県産業技術総合センター2階(宮城県発明協会 内)