2024.10.22

さんぼんパン

食物アレルギーの方を救いたい。設備資金の悩みを経営指導員と共に克服!【店舗開業事例】

代表 山口千賀氏(左) 甲府商工会議所中小企業相談所副所長 志村修氏(右)

ポイント

  • 補助金申請をきっかけに商工会議所の経営指導員と出会う
  • 二人三脚で申請書類を作りながら新たな気付きが生まれる
  • 目標設定が習慣化されたことで次の事業展開の夢が広がる

世界中で愛されるキャラクターがかぶる日よけ帽子「サンボンネット」のように「日陰をつくるような仕事をしたい」との思いから名づけられたさんぼんパン。2023(令和5)年の開業以来、食物アレルギーを持つ方でも食べられるように卵、乳製品、小麦グルテン不使用の米粉パンを提供している。朝10時の開店時は20種類以上の米粉パンが店頭に並び、県内はもちろん県外からも噂を聞き付けたお客さまが遠路来店する。店主の山口千賀代表が米粉パンをつくり始めたきっかけは、現在小学校3年生となる長男の食物アレルギーだったという。

食物アレルギーの長男のために始めた米粉パンづくり
「同じ境遇の方を救いたい」との思いが生まれる

 国内の食物アレルギーは最近15年で急増しており、1歳未満の乳児で最も多く発症するが、厚生労働省の調査によると小児から成人まで幅広く認められるという。
 山口代表の長男である煌斗君は、生後間もなくミルクをあげる度にじんましんが出てしまうことから検査を受けたところ、小麦・卵・牛乳などさまざまな食物アレルギーが見つかる。
「食物アレルギーのため離乳食も自分で作る必要がありました。当時は材料として店頭に並ぶ食品の表示が分かりにくく、知識と注意力が必要。うっかり見落として反応が出てしまい、慌てて薬で抑えるか病院へ直行する——その繰り返しでした」

 当時デザイン会社で勤めていた山口代表は、食物アレルギーの勉強を進めるうちに米粉パンのことを深く知ることになり「子供にお菓子やパンを思う存分食べさせてあげたい」と考えるようになる。そこで、神奈川県で米粉パンの本を何冊も上梓する先生の教室へ通学するようになり、しばらくして米粉食パンのレシピを習得。さらにレシピを増やすべく別のオンライン研修を受講し、米粉の総菜パンや菓子パンの作り方を学ぶ。
「研修で受講者と話すうちに、同じ境遇で悩む方が多いことに気付きました。皆さん外出しづらい、旅行に行っても食べるものがないというストレスを抱えており、私だけじゃなかった。当時食物アレルギー対応の米粉パンを提供するお店は見当たらず、私がこうした方たちを救いたい——それが起業を考えるようになったきっかけです」

レンタルキッチンでの営業はまたたく間に人気店に
一方で制約も多く次の展開を考えるきっかけに

 しかし起業を決めたとはいえ、パン屋で働いた経験もない自分がパンづくりを続けられるのか——。そこでまずは、他の仕事も続けながら、甲府市の中心市街地にあるレンタルキッチンを借りて月1回米粉パンの製造・販売をスタートすることに。食物アレルギー対応ながらおいしい米粉パンはまたたく間に評判を呼び、営業日にはオープン時間前から行列ができるなど人気のお店となった。お客さまは家族に食物アレルギーを抱える方がほとんどを占めていたという。
「食物アレルギーの方を救いたいという思いで始めた事業ですが、自分がつくりたいものをつくり、買った人に喜んでもらえることに、やりがいを感じると共に自信もつきました。一方で、お客さまからはもっと購入したい、営業日を増やしてほしいとの声を頂きましたが、それには応えることができなかった」
 レンタルキッチンの備品を使ってパンづくりをした場合、小麦粉や卵の成分が残留してしまい、食べた人に反応が出ることがあるという。そこで山口代表は備品を使わず、販売日は製造前に30分かけて念入りにキッチンやオーブンを掃除し、使用する器具は全て持ち込んでいたため、搬送を含む準備は思いのほか重労働で、夫が会社を休んで手伝っていたという。このため営業日を増やすことが難しい。
「当時はマルシェへの出店や自然食品のお店での販売なども開始し、パンづくりを続けることの不安はなくなっていた。そこでもっと自由にパンをつくれるようお店を持つことにしました」

店舗開業は重い設備資金が課題に
補助金を勧められ商工会議所の経営指導員と出会う

 物件探しを進める一方で、山口代表にとって頭痛の種は設備資金の調達であった。今使っている家庭用のオーブンや発酵機等では十分な量のパンをつくるのは難しく、開店に合わせて業務用の設備を購入することは決めていた。しかし、食物アレルギー対応のパンをつくる設備は中古とはいかず、すべて新品を用意する必要がある。開業資金が思いのほか膨れ上がることが分かり資金をどう工面するか悩んでいた。
 そうした中、市が主催する創業セミナーへ参加した山口代表は、担当者へ相談した際に「小規模事業者持続化補助金(創業枠)を申請してはどうか」と勧められる。
「商工会議所へ相談するよう勧められましたが、これまで縁がなく何をしている所なのかも知らなかったため、電話をするにも勇気が必要でした。意を決してかけたところ、出てくださったのが志村さんでした」
 志村修経営指導員は当時のことを「電話越しで『この人はやる気だな』という強い意気込みが伝わったため、何とか応えたいと思いました」と振り返る。

二人三脚で申請書類を作成
自ら執筆することで新たな気付きが生まれる

 志村指導員は、小規模事業者持続化補助金の申請を希望する事業者への制度の説明に半日以上かけているという。
「公募要領をかみ砕き、事例を挙げながら丁寧に解説している。続いてお客さまの状況を聞き取り、申請書をどう組み立てたらよいか説明するため、どうしても時間がかかってしまう」
 実際に面談した山口代表は「すごく分かりやすくて、これならできそうと勇気が湧きました」。

 面談後すぐに着手し、連日お子さんを寝かせた後の深夜から書き始めて、気が付いたら朝ということもあったという。
「申請書を作るのはとても楽しかったです。文書を書く仕事の経験はありませんが、やりたいことは全て決まっていたから、作り出したら止まらない。書きながら『これもできるかも』『あれはどうだろう』という気付きが止まらなくて、新たな発見の連続でした」
 志村指導員は、山口代表からメールが届いた時間はいつも朝方だったと笑顔を見せる。
「山口さんは強い思いを持って書いているので、どうしても文書が長くなってしまいます。そこで私の役割は、全体の流れを意識しながら構成を整理したり、小見出しや図表を入れたりといった読みやすくなるためのアドバイス。どう表現したら、山口さんの思いが審査員に伝わるのだろうかということを強く意識しました」

 補助金の採択に続いて銀行からの融資も受けられることになり資金の悩みは解消。そして2023(令和5)年11月4日の開業を無事迎えることとなった。

補助金で購入したスチームコンビオーブン
小型ホイロ
冷蔵冷凍庫

売上目標の設定を意識した運営を開始
収益性を高めて新たな事業展開へつなげる

 2024年9月現在、さんぼんパンの営業日は火・木・土の週3日。山口代表は、営業日は夜中から仕込みを開始。朝10時の開店までひたすらパンをつくり続ける。その後開店を待って入場するお客さまへ対応し、16時の閉店まで駆け抜ける——忙しくもやりがいのある毎日を過ごしている。
「小規模事業者持続化補助金の申請を経験したことで自分が成長したと感じるのが、売上目標を立てるようになったこと。申請書を作ることで、お金を残すために必要な売上高が分かったため、それを月間、さらに土曜と平日へ分解して、日々の目標を設定している。その達成に必要な個数のパンをつくっているので、売り切るまではお店を閉めない。閉店時刻は16時だが、天候によっては売れ行きが鈍い日もあり、そうした日は閉店を遅らせている。すると会社帰りの方が立ち寄って最後のパンを買ってくれると『やった!』ということもしばしば(笑)」

 こうして収益性を高めることで、山口代表はあらたな展開を考えている。
「これから食物アレルギーに対応したサンドイッチやデザートなども提供していきたい」
「さらにその次の段階では、冷凍パンをネットショップで販売したい。山梨県外の方にもパンを届けて、食物アレルギーの方に喜んでもらいたい」

 熱く語る山口代表を優しく見守る志村指導員はこう締めくくる。
「山口さんの『何とかして成し遂げたい』との思いの強さを改めて感じました。こうした思いが実現できるよう、指導員としてこれからも事業者に寄り添って支援していきたい」

使用した補助金
- 小規模事業者持続化補助金(商工会地区)
- 小規模事業者持続化補助金(商工会議所地区)

山口代表と志村指導員が持っている「甲府商工会議所だより」はこちら
- kofu 甲府商工会議所だより 2024.4

企業データ

企業名
さんぼんパン
Webサイト
https://www.instagram.com/sunbonpan/
設立
2023年
代表者
代表 山口千賀氏
所在地
山梨県甲府市中小河原町596-1

商工会議所データ

商工会議所名
甲府商工会議所
Webサイト
https://kofucci.or.jp/
所在地
山梨県甲府市相生2-2-17

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