公開日:2026年05月12日

  • 製造業
  • ものづくり補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社やまと蜂蜜)

事業計画策定と業績変化で変わる会社風土

右:株式会社やまと蜂蜜 代表取締役 鳥居 大嗣 氏
左:公益財団法人奈良県地域産業振興センター(支援当時) 友澤利夫 氏

この記事のポイント

  • 会社の現状から未来への成長構想を描いた補助金申請時の計画書が、会社の中期の変革指針となる
  • 事業計画が実行され、変わっていく会社の業績が、社員の意識を変化させた
  • 事業者に最適な補助金を推薦しつつ、中期の変革構想づくりに伴走した支援者
事業成長の限界に直面していた製造業を継いだ4代目経営者が、海外市場開拓のチャンスを捉え、大規模投資を伴う成長戦略を描いた。補助金の申請時に、経営者の頭の中にあった会社の変革シナリオと中期の事業構想を計画書として策定、補助金の採択を得て会社は大きく成長している。さらに業績拡大をきっかけに、それまで新しいことへの挑戦や投資に慎重だった会社風土に変化を生み出した事例を紹介する。

蜂蜜の養蜂事業からスタート、食品製造業として事業を拡大

株式会社やまと蜂蜜(以下、同社)は、現代表取締役である鳥居大嗣氏(以下、鳥居氏)の祖父が奈良市近郊で営んでいた養蜂事業を基に、昭和20年に創業した。その後、他の養蜂家から蜂蜜を仕入れ、瓶詰めやパック詰めを行う卸売業へと業態を転換。
1980年代前半には、大手小売のダイエーとの取引が功を奏し、事業規模が拡大した。その後、ダイエーとの取引が終了する頃に、ガムシロップのOEM製造事業に参入。大手コーヒーチェーンや甘味料メーカーとの取引を通じて製造業として成長してきた。
その後、競合の参入激化に伴い、売上は減少局面を迎えた。しかし、1997年に大手珈琲飲料メーカー向けアイスコーヒー用コーヒーポーションのOEM生産を受託したことで、ガムシロップ売上の減少分を補う形になった。この受託を契機に液状食品の製造に必要な殺菌設備を自社工場に導入し、これが現在まで続く液状食品のOEM生産事業を継続している。
””
シロップやコーヒーポーションなど、現在のやまと蜂蜜の主力商品

成長投資に踏み出せなかった企業風土と、転機となった挑戦

現代表の鳥居氏は、大学院在学中に創業者である祖父と二代目経営者である父を相次いで亡くした。その後すぐに家業へ入るのではなく、外部の事業会社に就職し、約2年間の勤務経験を積み、2018年に同社へ入社している。
鳥居氏が入社した当時、同社の売上は数年にわたり横ばいの状態が続いていた。社内には、新たな取り組みによって事業拡大を目指すよりも、既存事業を守り、リスク回避を優先する空気が広がっていた。
個別の商談においても、生産能力の限界を前提に慎重な判断を下す製造現場と、顧客との取引拡大を重視する営業部門との間で、意見が対立する場面が少なくなかった。
こうした状況の中、鳥居氏が入社してから2年が経過した2020年初頭、中国におけるコーヒーブームを背景に、中国市場向けのコーヒーポーション生産の商談が、取引先の商社から持ち掛けられた。当時はコロナ禍の影響により、同社の主力であるシロップの売上は減少傾向にあった。一方、コーヒーポーションを生産できる企業は国内でも限られており、同社を含めてわずか2社しか存在しなかった。
この市場環境を踏まえ、鳥居氏はこの商談を、業績拡大につながる可能性の高い案件であり、厳しい経営環境を打開する好機であると判断した。そこで、約1億円の設備投資を行い、コーヒーポーションの生産能力を拡大する構想を他の経営陣に提案した。
しかし当時の社内には、大規模な投資に対する慎重な姿勢が根強く、このタイミングでの設備投資には強い反対意見が示された。その結果、設備投資による増産構想は断念せざるを得なかった。
その結果、設備投資を伴わずに増産を実現する方法を模索した。その代替案として提示したのが、既存工場を24時間体制で稼働させるという方法である。この案は社内の理解を得ることができ、最終的に増産に踏み切ることとなった。
””
株式会社やまと蜂蜜 代表取締役 鳥居 大嗣氏

海外市場開拓に向けた構想と補助金活用

取引先からの増産要請(中国市場向けコーヒーポーションの生産拡大)に対応するため、設備増強ではなく人的労働工数の増加による対応を選択し、工場を24時間稼働させて増産に踏み切った。その結果、会社の売上および利益は大幅に増加した。こうした業績向上の成果を従業員にも還元したところ、社内全体において増産推進の方針を支持する機運が高まった。これが、その後の投資計画の承認へとつながる契機となったという。
2020年後半には鳥居氏が代表取締役に就任し、さらなる生産量の拡大に向けて、生産設備の増強を目的とした投資計画に再度挑戦することを決意した。あわせて、海外市場への対応を見据えた事業拡大に活用できる補助金について自ら調べ、奈良県地域産業振興センターへ相談した。
本件に対応した奈良県地域産業振興センター(当時)の友澤氏は、鳥居氏が構想する計画全体を丁寧に聴き取ったうえで、投資金額や事業内容を踏まえ、鳥居氏が検討していた補助金ではなく、当時申請可能であった補助金の中から最適な選択肢として、ものづくり補助金(グローバル展開型)への挑戦を提案した。
ものづくり補助金を活用して山添工場に設置した超高温殺菌機

「補助金採択のための計画書」ではなく、「中期の事業企画書づくり」を指南した支援者

「補助金の採択を受けるための計画書ではなく、会社の将来の方向性を描き、それを実現するための企画書を作ることを意図して助言を行った」と、友澤氏は語る。
友澤氏は、補助金の対象となる事業内容だけでなく、これまでの会社の歩みや、次の時代に向けた事業発展に対する考え方についても、鳥居氏から丁寧にヒアリングを行った。そのうえで、社運を賭けた大規模な設備投資と事業拡大の構想を、中期的な視点に立った計画書としてまとめるよう働きかけた。
具体的には、同社のコーヒーポーションの生産能力を上げるために、調合→充填→包装の3つの生産工程別に課題を設定し、それぞれの課題に対する解決策を検討した。そのうちの1つを補助金の対象となる設備導入として位置づけている。
 
実際の計画策定支援においては、友澤氏がまず計画全体の枠組みを提示し、その枠組みに沿って鳥居氏が計画書の作成を進めた。一定程度まで記載が進んだ段階で、友澤氏が第三者の視点から内容や表現について助言を行い、計画の完成度を高めていった。
「ものづくり補助金の申請にあたって作成した事業計画は、その後の同社の経営計画の軸となり、補助金採択後の活動においても基盤であり続けています」と、鳥居氏は振り返る。
一方、投資を実行した直後には、新型コロナウィルス感染症の拡大による中国でのロックダウンや、製品生産に必要な資材の調達難といった外部環境の変化に直面し、事業計画に記載した業績を下回る時期もあった。
それでも、鳥居氏が財務に関する知識や投資対象市場における売上見込みの立て方を学びながら計画を策定し、関係者に対する説明責任を果たした経験は、経営者に就任して間もなかった鳥居氏にとって、大きな自信につながる契機となったという。
ものづくり補助金を活用し、中国市場向けコーヒーポーションの増産計画に挑戦したこと、さらにその後も新たな取り組みを重ねた結果、同社の年商規模は、鳥居氏が事業を承継した当時と比較して約2倍にまで拡大している。
 
補助金の採択後、原材料価格が高騰した局面では、工場に原価管理システムを導入した。これにより、生産する商品ごとの採算を厳密に把握することが可能となり、経営管理の高度化と社内基盤の強化を実現している。
 
また、外部に向けた取り組みとして、OEM製品の受注を中心に事業を継続してきた従来の体質を転換すべく、営業部内に企画開発課を新設した。新商品やパッケージを自ら企画し、取引先に対して積極的に提案する活動を推進している。
 
さらに、同社事業の原点である蜂蜜の価値を改めて見直し、その商品価値を高める取り組みとして、蜂蜜を使用した高級洋菓子ブランドを立ち上げた。大阪・心斎橋には直営の販売店をオープンし、希少性が高く高品質な蜂蜜を、本来の価値に見合った価格で提供する事業にも取り組んでいる。
 
海外展開についても、中国市場で確立したビジネスモデルを東南アジアや欧米へと展開することを視野に入れ、専任担当者を配置したうえで市場調査を進めている段階である。
一方で、事業を多面的に展開するなか、事業を牽引する経営幹部候補となる人材の確保が課題となっている。

加えて、増産体制の構築により製造現場の人員も不足しており、現在の最大の課題は人材不足であるという。今後は、多様な人材や働き方を積極的に受け入れながら、採用と育成の両面で人材基盤の強化を図っていく考えであると、鳥居氏は語る。
鳥居氏が事業成長にむけた決意メッセージとして掲げる行動指針と全社スローガン

支援機関の紹介

最後に、本件を支援した奈良県の支援機関について紹介する。公益財団法人奈良県地域産業振興センターは、経営力向上支援、企業価値向上支援、経営基盤構築支援の三つの事業を柱として、奈良県内中小企業の事業創出および事業拡大を支援している。総勢約50人の職員が、県内企業の多様な経営課題に対応している。
同センターは、組織の傘下によろず支援拠点を有しており、県内各地での出張相談にも対応している。また、ものづくり補助金への申請に挑戦する事業者に対する事業計画策定支援にも力を入れており、同センターが支援を行った案件におけるものづくり補助金の採択率は約7割に達している。
よろず支援拠点では、県内の基礎自治体、金融機関、商工会議所、商工会などとの連携を生かした個別事業者への伴走支援や、独自の取り組みによる創業支援にも注力しており、地域に根ざした中小企業支援を行っている。
右  公益財団法人奈良県地域産業振興センター 事務局次長 杉山淳一 氏
中央 公益財団法人奈良県地域産業振興センター(現奈良県よろず支援拠点 コーディネーター)友澤利夫 氏
左  奈良県よろず支援拠点 チーフコーディネーター 上山幸寛 氏
本件では、ものづくり補助金の申請をきっかけに、事業承継直後の経営者が支援機関からの適切なアドバイスを受けながら、事業成長を実現した事例を取材した。経営者の行動変容や会社全体の変革、そして経営者の挑戦に寄り添う支援機関による伴走支援として模範的な事例である。
活用した補助金:ものづくり補助金
年度:令和3年度
 枠・型:グローバル展開型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
昭和28年
従業員数
74名
代表者
鳥居 大嗣 氏
所在地
奈良県奈良市田中町324

支援機関データ

所在地
奈良県奈良市柏木町129-1 奈良県産業振興総合センター内

あわせて読みたい記事

TOPへ