公開日:2026年03月16日

  • 宿泊業,飲食サービス業
  • 事業承継・M&A補助金(旧事業承継・引継ぎ補助金)

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(サンはらいっぱい)

立地条件を打破する飲食店の新規事業と事業承継

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中央:天草大王バル サンはらいっぱい 代表 渡邊 経夫 氏
左 :熊本県商工会連合会 経営支援部 特任支援課 天草支部 西村 直氏
右 :上天草市商工会 本所・松島支所 経営支援課長 西 重寛氏

この記事のポイント

  • 「変えたいこと・挑戦したいこと」をメモに記録、自分に必要な情報にアンテナを立て続ける経営者
  • チャレンジしたいことが整理できたタイミングで、定期的に意見交換をする事業者と商工会の関係性
  • 事業承継・引継ぎ補助金の採択が親子間の事業承継を実行するきっかけとなる
父が創業したレストランで調理を経験しながら、少しずつ自分の考えを事業の中に取り入れてきた後継者が、法改正やコロナウィルス蔓延などの外部環境の変化を捉え、提供できる料理のレベルがキッチンカーとは異なるレストランバス事業に挑戦した。
定期的に事業の相談を行っていた商工会の支援を受け、事業承継・引継ぎ補助金を活用し、店舗とレストランバスの二軸で事業の拡大を目指す事例を紹介する。

自分の考えを持ち、父との対話を通じて
事業承継の方向を模索してきた日々

熊本県西部、有明海と八代海が接する天草地域の玄関口に位置する上天草市に、レストラン「天草大王バル サンはらいっぱい」がある。
建設業を営んでいた先代経営者は、平成17年に事業を転換して飲食店を開業した。先代は宮崎県出身であり、宮崎に根付く地鶏を食べる文化を熊本県天草地域にも持ち込みたいという想いから、事業をスタートさせた。

後継者である渡邊経夫氏は、飲食店の開業当初から厨房に立ち、調理を経験しながら店舗運営に携わってきた。
当初は、「料理の味が最も重要であり、それ以外のサービスは必要以上に行う必要はない」と考える先代と、「接客や店の雰囲気なども、料理と同等に重要な店舗サービスである」と考える渡邊氏との間で、意見が対立することもあった。

接客サービスの質を探求する姿勢が、飲食店の集客増に繋がる

サンはらいっぱい 代表 渡邊経夫氏
サンはらいっぱい 代表 渡邊経夫氏
それまで料理人としてのキャリアを歩んできたわけではなかった渡邊氏は、自身の経験を活かし、接客のレベルを高めることで顧客から選ばれる店にしたいと考えた。
車が好きである渡邊氏は、学生時代に東京で4年間、ガソリンスタンドでアルバイトをしていた。その店舗では接客が徹底されており、周囲より多少割高な価格設定であっても、接客に満足してもらえれば多くの顧客の来店を獲得できることを実体験として学んだという。

「数多くの飲食店がある中で、自分が努力によって他店に勝てるとすれば接客だと考えました。サービスのレベルを競い合うコンテストに出場すれば、自店の水準を客観的に把握できるだけでなく、他店の優れた点も学べるのではないかと思いました。」
 
渡邊氏は、熊本県内の飲食店がサービスレベルを競い合うコンテストに複数回エントリーし、グランプリにも輝いた。その後、当該コンテストを特集した番組がローカルテレビ局で放映され、「サンはらいっぱい」が番組内で紹介された。これをきっかけに来店客数が増加し、店の運営方針を巡って意見が合わなかった先代からも評価され、次第に店舗運営を任されるようになったという。
 

地元食材「天草大王」を活かし、主力商品へ育てた取り組み

開業当時は宮崎産の地鶏を使用していたが、観光客を集客するためには地元食材を活用することが有効であると考えた渡邊氏は、宮崎産地鶏の約3倍の仕入価格となる天草産の地鶏「天草(あまくさ)大王(だいおう)」を導入することにした。

「天草大王」は1970年代に一度絶滅したものの、熊本県農業研究センターを中心としたプロジェクトにより、2001年に復活したという背景を持つ地元食材である。こうした復活のストーリーも含め、観光客に訴求できる素材になると考えたという。

当初は店舗の利幅を抑え、宮崎産地鶏と天草大王を食べ比べてもらう形で提供を開始した。天草大王は宣伝材料としての位置づけであり、来店のきっかけとなり、他の料理を注文してもらえればよいと考えていた。その後、徐々に天草大王の注文割合が増加し、現在では宮崎産地鶏と天草大王の注文比率が逆転し、天草大王が9割、宮崎産地鶏が1割を占めるまでになっているという。
天草大王を使用した炭火コロコロ焼き

コロナ禍での経営危機とキッチンカー事業の限界

顧客サービスの徹底や天草大王の導入など、渡邊氏の取り組みにより来店客数と売上を伸ばしてきた「サンはらいっぱい」であったが、2020年4月頃から始まったコロナ禍により観光客向けの売上が消失し、売上はそれまでの半分以下にまで落ち込んだ。
渡邊氏は、感染拡大前からキッチンカーを活用した営業を開始しており、コロナ禍以降はキッチンカーでの営業に注力することで、一定の売上を確保していた。しかし一方で、キッチンカーによる営業形態には限界があると感じるようになっていったという。
 
「キッチンカーで営業しながら、これから先に自分が実現したいサービスのイメージを思い描いていました。天草の風景をお客様にご覧いただきながら、店舗で提供するような本格的な料理を楽しんでもらいたい。ウェディングプランとタイアップした料理提供も行いたい。ただ、このキッチンカーでは、店舗で調理するような水準の料理を提供することはできないと感じていました。」
 
2018年頃、熊本県や観光協会が2階建てバスを改造し、熊本の名所を巡りながら、各地域のシェフが調理した料理を車内で観光客に提供するツアーが企画・実施されていた。この際、渡邊氏もシェフの一人として企画に参加していたという。
このときの体験をもとに、渡邊氏はバスのような大型車両を改造し、レストランバスとして事業展開できればよいと考えるようになった。ただし、この段階では食品衛生法上の規制があり、構想の実現には一定のハードルがあった。

やりたいことが明確だからキャッチできた情報
~レストランバスへの挑戦~

転機が訪れたのは2021年である。将来、レストランバスの構想を実現させたいと考え、法令や各種情報にアンテナを張っていた渡邊氏は、食品衛生法の改正により、料理提供に関する制約条件に変更があったことを知った。構想の実現に向けた好機が到来したと認識した渡邊氏は、これまでメモに書き留めてきた事業のイメージを整理し、上天草市商工会に相談に訪れた。
 
これまでも渡邊氏は、自身のやりたいことを少しずつ記録し、ある程度構想が形になりそうな段階で商工会に足を運び、事業実現に向けた助言や、融資・補助金の活用に関する提案を受ける関係を築いてきた。
商工会は、渡邊氏から事業の構想を丁寧に聴き取り、事業の実現を後押しできる補助金として、事業承継・引継ぎ補助金(経営革新枠)の活用を提案し、事業承継計画の策定等を伴走で支援した。
 
「新しいことに一歩踏み出そうとする際、商工会に事業の進め方について助言をいただき、活用できる補助金を紹介してもらえることは、本当に有難いと感じています。一方で、あまり頼りすぎてもいけないという意識も持ちながら、主体的に事業を進めることを心がけています」と渡邊氏は振り返る。
 
補助金の採択を受け、レストランバス事業を進める過程で、先代から渡邊氏への事業承継も行われた。
「それまでも、私が主導で事業を進めてきたため、10年ほど前から、いつ事業承継を行うかについて親子で会話を重ねていました。補助金の採択を受けたことを契機に、事業承継を行いました。」
事業承継・引継ぎ補助金を活用し、内部の調理設備や太陽光発電の機器を設置したレストランバス

レストランバス導入で広がった二軸経営と、持続的成長への展望

「キッチンカーとは異なり、テーブルと椅子を載せて運行することで、14人ほどの顧客に対し、その場で調理した料理を提供できるため、私が得意とする接客も行うことができます」と渡邊氏は語る。
熊本市の中心にあるバスターミナル前で営業する「サンはらいっぱい」のレストランバス
レストランバスの稼働後は、店舗とレストランバスの二軸で営業を行うようになり、異なる形態での営業による相乗効果も生まれているという。レストランバスが宣伝効果となり、店舗への来店客数も増加している。
また、店舗のみで営業していた頃は渡邊氏が専ら調理を担当していたが、バスと店舗の営業を同時に行うようになったことで、調理を分業する体制へと営業スタイルを転換している。
 
父親から引き継いだ事業の魅力と可能性を高めてきた渡邊氏。さらに次の時代に向けて事業を進化させる構想を語る。
 
「今後は、九州エリアで多くの人が集まる場所にも新たな店舗を出店していきたいと考えています。これまで、私自身が調理を行いながらサービスを提供する形で事業を進めてきましたが、今後は他の従業員でも調理やサービスを担える体制への移行や、お客様自身で食材を焼いていただくサービスを提供していくことで、事業としての持続性をさらに高めていきたいと考えています。」

支援機関の紹介

 「サンはらいっぱい」の支援を行ってきた上天草市商工会および熊本県商工会連合会 特任支援課の活動を紹介する。
地域を担当する上天草市商工会は、コロナ禍前から、経営革新計画の策定や小規模事業者持続化補助金を活用した売上向上に向けた取組を支援してきた。コロナ禍以降は、特に事業へのマイナスの影響が大きかった飲食サービス業の事業者に対し、各種制度の活用を支援してきたほか、事業承継を予定する事業者として、各種情報の提供も行ってきた。

熊本県商工会連合会では、事業承継等を専門とする特任支援課を設置している。特任経営指導員を県内各所に配置し、担当地域における事業承継支援や、災害からの復興支援強化など経営支援の拡充に取り組んでいる。
本件における補助金申請段階での事業化に関する助言や、補助金申請の支援については、天草地域に常駐する熊本県商工会連合会 特任支援課の経営指導員が担当した。

人事異動により、「サンはらいっぱい」のレストランバス事業における事業承継・引継ぎ補助金活用等の支援を行ってきた担当者から業務を引き継いだ西氏および西村氏の両名に話を聴いた。
熊本県商工会連合会  西村 直氏
熊本県商工会連合会
経営支援部 特任支援課 天草支部
西村 直氏
熊本県商工会連合会の西村直氏は、補助金申請支援において大切にしている点について、次のように語る。
「補助金申請の支援については、事業計画の策定を支援する際に、事業者自身の想いを対話の中から引き出すことを意識しています。そのうえで、その想いを計画書に自分の言葉でしっかりと書いていただくことを大切にしています。補助金の対象となる設備等を導入することで、事業がどのように変わっていくのかを事業者自身に考えていただくための対話を心がけています。
 また、今回のように事業承継を機会と捉え、補助金等の活用を積極的に取り組める環境を目指していきます。」
 
上天草商工会 本所・松島支所 経営支援課長 西 重寛氏
上天草商工会 本所・松島支所
経営支援課長 西 重寛氏
一方、上天草商工会の西重寛氏は、商工会を取り巻く現状と今後の支援体制について、次のように述べた。
「現状の商工会の課題である職員数の減少や若手指導員の増加などによる支援能力の低下を防ぐために、特任経営指導員や県連のスーパーバイザーの力も借りながら、指導員全体のレベルアップにつながる方策を進めています。そして、地域小規模事業者に対し、従来の経営改善普及事業や会員ニーズの高い労働保険事務などを着実に実施していくとともに、伴走支援を意識したより実効性の高い攻めの経営発達支援計画の実践を推進していきます。」
 
 
 
今回は、自ら考え行動する事業者と、定期的に事業者の構想を傾聴し、適切な支援を継続してきた支援機関の取組を取材した。事業者と支援機関との関係構築の在り方を示す事例として、他地域においても参考となるものであろう。
活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金
年度:令和3年度
 枠・型:経営革新枠

※事業承継・引継ぎ補助金は令和6年度から「事業承継・M&A補助金」に名称が変わりました。
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
平成17年
従業員数
1名
代表者
渡邊 経夫 氏
所在地
熊本県上天草市松島町合津3323-3

支援機関データ

所在地
熊本市中央区安政町3-13 熊本県商工会館7階
支援機関名
上天草市商工会

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