2026.03.03

  • 卸売業,小売業
  • 事業承継・M&A補助金(旧事業承継・引継ぎ補助金)

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社丸繫)

卸売業の「壁」を打ち破る~M&Aを活用し、商品づくりができる業態へ転換~

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右:株式会社丸繁 代表取締役 渡邉 卓 氏
左:富士宮商工会議所 経営支援課 課長 加藤孝明氏

この記事のポイント

  • 卸売業が老舗の菓子製造事業を譲り受け、自社商品を開発製造できる業態への転換に挑戦
  • M&Aと補助金の活用に際し、地域の商工会議所の支援をフルに活用して事業を推進
  • 事業を譲り受けた後の1年目は異業種に苦戦、試行錯誤を繰り返し、2年目で事業統合成果を創出
地方のスーパーマーケットや小売店など、取引先の廃業が相次ぐ中、事業の先行きに不安を抱く食品卸業の事業者が、菓子製造部門の廃業を予定する取引先から事業をM&Aにより譲り受け、業態転換につながる経営革新に取り組んだ事例である。
商工会議所の支援を受けながら、事業譲受後の業務移転に必要となる設備投資費用の一部に補助金を活用し、地域の老舗企業が育んだブランドを継承するとともに、次の時代に向けて事業を進化させる取り組みを紹介する。

取引先の廃業が相次ぐ中で揺らぐ地方の食品卸売業

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株式会社丸繫 代表取締役 渡邉 卓氏
静岡県富士宮市は、静岡県の中央部にあり、富士山の南西麓に位置する。北は山梨県、西は静岡市に接している。昭和28年に富士宮市で設立された株式会社丸繁(以下、丸繁)は、静岡県内を中心にスーパーマーケットや小売店向けに加工食品(調味料、缶詰、カップラーメンなど)を主とする食品の卸売業を営んできた。
現在の代表者である渡邉卓氏は、初代から三代目にあたる。渡邉氏は、学校卒業後に医薬品食品向けの機械メーカーへ入社、プラント設計や工場ラインのテスト生産などを経験した後、2001年に二代目である父の経営する当社へ入社した。当時から、取引先である地域密着型のスーパーマーケットや小売店が少しずつ廃業していく事業環境にあり、危機感を抱いていたという。
渡邉氏が先代から事業を承継したのが2015年である。この頃には、取引先の廃業のスピードがさらに加速し、売上が月に1割ずつ減少していく状態にあった。売上減を補うために受注していた業務の採算が悪く、仕事量が増える一方で利益率が低下していた。「当社を一度リセットする必要がある。それができるのは自分しかいない」という覚悟のもと、父である先代から会社を承継した。

付加価値を求めて始めた新たな活路探索

卸売業としての自社の先行きに危機感を抱いていた渡邉氏は、利幅が薄く価格競争になりやすい商品の取扱いから脱却するため、活路を模索していた。富士宮市の観光施設と取引した際、地場産品が持つ付加価値に気づいたことをきっかけに、地域に根差した菓子製造業者を訪問するようになったという。
その後、自社で商品を製造することも考え始め、地域で収穫する果実を使ったドライフルーツの製造を検討したこともあった。しかし、設備投資に要する費用の大きさや商品のブランド力を高めていくための取組には高いハードルがあると判断し、事業化には踏み切ることができなかった。

取引先から届いた廃業通知

2023年、仕入先の一社である富士宮市の有限会社三枡屋製菓(以下、三枡屋)から、菓子部門の事業を廃業する旨のFAXが丸繁に届いた。
三枡屋は、地域から長年愛されてきた「みそ玉」という飴菓子を製造してきた。渡邉氏は、古くからのファンを持つ地元の商品が姿を消してしまうことへの惜しさに加え、かねてから自社での商品づくりを検討していた経緯もあり、先方に「うちで事業を続けさせて欲しい」と申し入れたという。
これに対し、先方からは「他社への事業譲渡について、すでに富士宮商工会議所に相談しているため、まずは商工会議所に相談をしてほしい」との返答があった。渡邉氏も、過去に別件で商工会議所の支援を受けた経験があったことから、三桝屋の事業譲受に関しても商工会議所に相談することとした。
三枡屋の代表商品である飴菓子「みそ玉」

商工会議所によるマッチング支援

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富士宮商工会議所 経営支援課
課長 加藤孝明氏
「地元同士の企業であり、株式の譲渡ではなく、事業の譲渡であったため比較的進めやすい部分がありました」
丸繁と三桝屋との間をつなぐ役割を富士宮商工会議所の加藤氏が担った。

加藤氏は次のように振り返る。
「三枡屋さんの商品にはブランド力があり、丸繁さんは販路を持っているので、両社のつなぎがうまくいけば、事業として成立する可能性は高いと考えていました。一方で、三枡屋さんが他社への事業譲渡にあたって希望する金額感をもっていらっしゃったので、価格面での調整において、商工会議所としてどのような役割を果たすべきかについては難しさも感じていました」
三者で対話を重ねた結果、事業譲渡の価格交渉については、譲り渡し側である三枡屋の希望価格を丸繁が承諾する形で合意に至った。
 渡邉氏は、次のように判断の背景を語る。「商品の出荷量を先方にヒアリングし、現状の売上高との対比をしながら、買収に要する費用を何年で回収できるのかを試算しました。その結果、当社の販売チャネルへの展開などを通じて回収可能な投資額であると判断し、先方の提示価格を受け入れることとしました」
事業の承継にあたっては、製造に必要な機械器具一式に加え、ブランド名、パッケージや意匠に関する権利、さらに菓子製造技術の移転に必要な半年間の技術指導を受けることなどを条件として整理し、対価とあわせて契約書を締結した。

事業譲渡に伴い必要となった設備改修と補助金の活用

事業譲渡を具体化するにあたり、丸繁の施設内で三枡屋の菓子を製造していくためには、事業所の改修工事が必要であった。これまで倉庫として使用していた施設を製造環境として整備するため、電気・ガス設備工事や壁面工事など、多額の費用が見込まれたことから、補助金の活用を検討することとした。
渡邉氏は、事業の引継ぎに活用できる補助金を自ら調べ、申請方法や書類作成について富士宮商工会議所の加藤氏に相談した。
 
加藤氏は次のように話す。
「渡邉さんのように、明確に挑戦することがあり、その上で事業に必要な経費の一部について補助金の活用をご相談いただけるケースは、商工会議所としても適切な助言や支援に繋がりやすいです。一方で、補助金を受けたいことが目的となり、補助金を使った事業について検討できていない状態でのご相談を受けるケースもあります。その場合、商工会議所としてもスムーズな支援に繋げにくく、本当の経営課題を特定するまで時間がかかってしまうことを感じています」
 
補助金の採択が目的になり、後から事業を検討して補助金の申請をするケースの場合、数回の不採択を繰り返した後で、本来の目的が少しずつ明確になっていく場合が多く、補助金の採択や事業への挑戦にも時間がかかるという。
 
丸繁の補助金申請に際しては、渡邉氏が自ら計画書と申請書を作成し、第5回の事業承継・引継ぎ補助金の公募に申請するも、不採択となった。その後、第6回では、商工会議所の加藤氏からアドバイスをもらいながら計画書や申請書を見直し、採択を得るに至った。
事業承継・引継ぎ補助金を活用して整備した菓子製造施設
電気やガスなど、熱処理をするための施設リニューアルに補助金を活用
飴を引き延ばす工程

事業引継ぎ後の苦労と安定化への道筋

事業を譲り受けた後の製造工程の移転は、当初の想定どおりには進まず、数多くの失敗と苦労を伴うものであったと渡邉氏は振り返る。飴菓子の製造は、作業場の温度や湿度、空気の流れといった環境条件がわずかに異なるだけで、品質に大きな影響が出る。移転前に使用していた作業場と、移転後の自社施設との環境差により、事業承継後の初年度は、特に夏や冬の季節の製造に苦戦する状況が続いた。
 
「その都度、商品の仕上がりを確認しながら、温度・湿度・空気の流れを細かく記録しました。どのような条件で完成度の高い商品ができ、どの条件が失敗につながるのかを仮説立てし、試行錯誤を重ねていきました」
 
また、製造を任せる予定だった担当者からは「対応が難しい」「自分にはできない」といった相談が相次ぎ、一時期は渡邉氏自らが菓子製造を担う状況にもなった。
それでも夏と冬、それぞれの気温・湿度変化の中で経験を積み重ねた結果、二年目には安定した品質での製造が可能となった。加えて、人員体制についても障害福祉施設と連携し、製造工程を複数に分解して分担する仕組みを整えることで、持続的に製造できる体制を構築することができた。

事業化の成果と今後の挑戦

丸繁の事業計画では、三枡屋から事業を譲り受けた後の活動テーマを次のように設定している。
 
活動テーマと活動状況
テーマ1 
卸売業としての小売業に対する知見とネットワークを活かして三枡屋ブランドの流通を行う
【活動状況】
事業を引き継ぐ前の三枡屋では市内の土産屋店への供給カバー率が20%であった状態を、丸繁の承継後では90%まで引き上げ
県内道の駅、都内百貨店などで販売
 
テーマ2 
小売店が自社ブランドで販売する商品を企画、OEM商品として製造して供給する
【活動状況】
隣県の山梨県の道の駅で販売するOEM商品の製造を受注し、山梨県の甲州味噌を使った商品として供給を開始
 
テーマ3
地域の特産品を使った菓子商品を開発し、三枡屋ブランドで販売していく
【活動状況】
地元産牛乳を使用した商品を開発し、商品化
 今回の事業譲受は、単に丸繁の商品ラインナップを拡充することが目的ではなく、食品卸売業から菓子製造業への事業転換を図る取組として位置づけられる。
大手メーカーでは成し得ない、手作りならではの良さを、より多くの顧客に届けていきたい。さらに、今回の事業への挑戦を通じて得た経験を活かし、後継者不在により廃業へ向かう食品製造事業を承継することで、失われつつある地域の食文化を次の時代へと繋げていきたいと、渡邉氏は今後の挑戦について語る。
 
「みそ玉づくりを続けてくれてありがとう、というお手紙を地域のお客様から頂くことがあります。こうした手紙を頂くことで、自分たちは単に自社のためだけに事業を行っているのではないのだと気づかされます」
 
本件は、廃業によって失われる技術や伝統をM&Aにより引き継ぎ、必要な資金の一部に補助金を活用しながら、成長に向けて事業転換を図る食品卸売業の事例として取材を行ったものである。価値ある事業承継を実践する手段としてM&Aを活用し、あわせて補助金を用いる事例について、今後も継続して取材していきたい。
甲州味噌を練りこんだOEM商品
活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金
年度:令和5年度
 枠・型:経営革新枠 M&A型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

設立
1953(昭和28)年
従業員数
11名
代表者
渡邉 卓 氏
所在地
静岡県富士宮市宝町16-18

支援機関データ

支援機関名
富士宮商工会議所
所在地
静岡県富士宮市豊町18-5

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