2025.03.27
- 医療,福祉
- IT導入補助金
生産性向上に取り組む企業事例
IT化で子ども達との時間を最大限に。子ども達の未来を育む取り組み

ポイント
- 自身の経験や実体験から創業を決意
- 既存施設の見学等を通して、できること・やりたいことを整理
- 課題だった事務作業のIT化により、子ども達との時間を増やす
熊本県熊本市で放課後等デイサービスを営んでいる合同会社アイリスバリー。2017年に代表取締役である菖蒲谷誠氏と妻である里美氏が、夫婦で設立した会社である。同社が営んでいる放課後等デイサービスは、障がいのある6歳から18歳までの子どもを対象に、主に学校の放課後から夕方まで預かるサービスである。同社の放課後等デイサービスの特色は、現在も幼稚園等の教育施設で、体育の先生を務める菖蒲谷誠氏が取り組んでいる「運動療育」という教育方針である。「運動療育」という言葉自体は、もともと造語であったが、ここ最近は認知度も高まり、インターネット上で検索をすると「運動療育」に関する様々な情報を目にすることができ、その重要性も広く知られるようになってきた。

創業時の想いと事業の在り方
「弊社のホームページにも記載していますが、私たち自身も障がいを抱える子どもを育てているということがこの事業を始めようと思ったきっかけです。私達も実際に放課後等デイサービスを利用していたのですが、“もっとこうだったらいいのに”と思うこともあり、それなら自分達でやってみようということで、立ち上げたのが始まりです。
一般的にこういった施設は、見学やご相談に来られること自体もハードルが高い印象があります。私たち自身の経験や境遇をホームページに記載したり、お話ししたりすることで、そのハードルをできるだけ下げて、ご家族だけで悩まずに気軽にご相談頂きたいという思いで運営しています。」里美氏はそう話してくれた。
一般的にこういった施設は、見学やご相談に来られること自体もハードルが高い印象があります。私たち自身の経験や境遇をホームページに記載したり、お話ししたりすることで、そのハードルをできるだけ下げて、ご家族だけで悩まずに気軽にご相談頂きたいという思いで運営しています。」里美氏はそう話してくれた。
事業を始める前に、誠氏の友人が経営している同じような施設や、他の福祉施設の見学などを積極的に見学し、現地の状況を確認しながら「自分たちに何ができるのか」を、しっかり考え、事業計画を練った。地域には同様の施設がいくつかあるものの、実体験からくるアドバイスや気遣いは、同じ親同士でしか理解しにくい部分もある。だからこそ、そういった感覚を大事にしながら、施設運営をしているという。
「運動は、子ども達にとって非常に重要な要素の一つです。単純に体を動かすということだけではなく、それによって集中力を高めたり、自身の体や感情をコントロールしたり、あるいはお友達と協力したりすることで社会というものを経験することにもなります。自分の体を使って新しい発見や体験をするということが本当に重要ですし、それが子どもの成長にも繋がります。」誠氏はそう語る。


確かに“何が楽しいのか、何が危険であるか”ということや、“どうしたら物事がうまく進むのか”等、大人であっても自身で体験することでしか、その学びを得ることはできない。子どもに対してそういった学びの機会をできるだけ作ってあげるということが、教育の重要な役割の一つであると言えるだろう。
経営とともに見えてくる課題
事業を始めてから5年ほど経ったころに2つ目の施設を開設した。今では、1号店に約30名、2号店に約40名の子どもを預かっている。また、土曜日や学校が休みの日には、朝から夕方まで子どもを預かり、外出などを通じてできる限りの体験の機会を作っている。
「できるだけ子どもと接する時間を多く作りたいと思っています。一方で、どうしても事務作業は付いて回ってしまいます。支援記録をつけたり保護者への請求書を作成したりしますが、とても手間がかかります。」と里美氏は話す。
より多くの子どもたちを受け入れ、保護者にとっての支えとなるために、施設を増やしてきたが、その分の事務作業は増加していた。さらに送迎などの対応が入れば、事務作業にかける時間はさらに取れなくなってしまう。そこに課題を感じていたという。また、スタッフには残業をせず時間を有効に活用してもらいたいという里美氏の方針があった。そのため、できるだけ事務作業を減らし、子どもたち過ごす時間を大切にしてほしいとと考えていた。しかし、やむを得ず発生する事務作業は、すべて里美氏自身が行っていたのが現状であった。
「当時、スタッフを新たに雇用するかどうか悩んでいました。ちょうどその頃にある信用金庫の方とお話しする機会があり、こういった事務作業のことを相談した際、デジタル化してみてはどうか、という提案を受けてITベンダーを紹介してもらいました。」と、里美氏は当時を振り返った。人手を増やすことで作業効率を上げ、解消しようとしていた部分に対し、作業のデジタル化という新しいアプローチの提案を受け、ITツールの導入を検討し始めたのである。
補助金申請、ITツールの導入にチャレンジし、効率化を図る
「ITベンダーの方は、現状の困りごとや課題を非常に細かくヒアリングしてくれました。そのうえで、適したITツールの提案を受け、導入を決めました。また、そのタイミングでIT導入補助金の提案もしてもらい、お話しを聞いてIT導入補助金の申請にもチャレンジしてみることにしました。申請についてはITベンダーがかなり丁寧にサポートしてくれたので、苦労は感じませんでした。」と里美氏は話す。
特に請求書作成には、多大な労力がかかっていた。Excelなどを利用し手作業での管理を行っていたため、人為的なミスもそれなりに発生し、大変な重労働になっていた。
その点を解消すべく、支援記録や請求管理が可能なITツールを導入したのである。
「ツールを導入してからは、作業効率が大幅に上がりました。一度打ち込んだ情報がしっかり管理できることや、請求書が容易に作成できること、ミスが大幅に削減されたこと、様々な面でメリットを感じることができています。そこでできた時間をまた子ども達に費やすことができるのが、一番の導入効果だと思っています。」と里美氏は話す。
事業を行う以上は、どうしても付帯業務として事務作業は発生してしまう。ITツールを導入することで事務負荷を軽減し、そこで生まれた時間を経営者が本質的に重要だと感じるところに費やしていく、非常に理にかなったデジタル化の例であると言える。
今後のデジタル化の方針や施設の在り方について
「子ども達の支援以外はすべてデジタル化したいと考えていますので、今後も何か施設運営上で発生する課題については、ITツール等の導入を検討したいと思っています。また、私達の施設では6歳から18歳までの障がいのある子どもを預かっていますが、そういった子ども達にとって18歳からの選択肢は多くはありませんし、残念ながら苦労も多いのが現状です。そこで今は、18歳から受け入れができる施設の開設を検討しているところです。ただ、自治体の方で開設できる枠が決まっていたりして、思うようには進まなかったりしますが、できる限りチャレンジしようと思っています。」と菖蒲谷夫妻は話してくれた。
今後もITをうまく活用しながら、子ども達やその保護者を第一に考える温かな事業を拡大して欲しいと願う。
企業データ
- 設立
- 2017年
- 従業員数
- 13名
- 代表者
- 代表取締役 菖蒲谷 誠氏
- 所在地
- 熊本県熊本市東区東野1-9-5-2F