2024.11.14
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例
ポイント
中梅織物株式会社は、1951年(昭和26年)に創業し、京都市内に所在する西陣織の織物づくりを行う事業者である。創業当時は和服の帯などを作っていたが、和服から洋服への需要変化に対応すべく、創業者がビジネス用の徽章ネーム(仕事の制服に縫い付ける企業ロゴのワッペン)の制作に事業の軸足をシフトしてきた歴史を持つ。
現経営者の木下仁美社長は、創業者の孫にあたり、父から事業を引き継いだ4代目の経営者である。
「昭和から平成の初頭にかけては、この会社の事業が拡大していた時期でした。日々、注文が増えていた時代のことを幼少時代 の記憶として覚えています」と木下社長は語る。
木下社長が、中梅織物に入社したのは、1994年(平成6年)4月である。この時期になると、福井県で織物を大量生産する事業者や、中国で安価に製造する下請けに仕事が流れるということが起こり始めた時期だったという。
学校卒業後、体育の教師として働いていた木下社長だが、「もっと、効率的に生産できるように事業を変えていかないと生き残れない」と感じており、自分に手伝えることがあるはずだという思いで当社に入社した経緯がある。事業を自分が継ぐということには意識がなく、ただ家業を手伝うという意識で入社したという。
「家業の手伝いは自分にしかできないことだと思っていましたし、母親もあなたが手伝ってくれると助かると言っていました」
先代の経営者であった父は西陣織の職人で「良いものを作る」ということに徹しており、家業を効率化することができるのは自分だけであると考えたと木下社長は語る。
木下社長が入社した5年後に、社長の実妹にあたる中村睦子氏が中梅織物に入社した。中村氏はデザインを学んできた経歴を持つ。「それまでの仕事は、もっぱら下請けの仕事であり、自社でデザインしたものを作り、需要がありそうな先に提案していった方が良いと考えました」と中村氏は言う。
この頃から、ワインラベルやコースターの制作を始めるものの、売上は横ばいで推移。もっと新しいことに挑戦したいという思いを姉妹は抱くものの、日々の仕事の中で時間に追われ、アドバイスしてくれる支援者も当時は周囲に見つからなかった。
そんな経営者と支援者との出会いは、2019年であった。もともと、中梅織物のメインバンクは地方銀行であったが、コミュニティ・バンク京信の担当者が週に2~3回訪問するようになったという。
「お金を借りてくださいということを一言もおっしゃらず、信用金庫の広報誌を置いていかれ、私たちがこれから何をやりたいのかという話を聴いて、10分くらいでお帰りになっていました」
足しげく通うコミュニティ・バンク京信担当者からの最初の提案はやはり、「お金を借りてください」という提案でなく、木下社長が関心を持っていた自然エネルギーを使った電力ビジネスに関する情報提供であった。
コミュニティ・バンク京信は2020年11月に社会課題に向けて多様な人が集まり、アイデアを出して語り合うことをコンセプトとした共創施設 「QUESTION」を開設していた。ここで開催するイベントの1つが、木下社長の関心テーマとマッチすると考えた担当者が、イベント参加を誘いに来たという。
こうしたお金の借り貸しとは関係のないコミュニケーションを経て、たまたま車両の買い替えのタイミングで必要資金の借り入れをコミュニティ・バンク京信に頼んだのが最初の取引であった。
また、この頃になると、コロナウィルス流行の影響を受け、それまでほぼ無借金で経営を続けてきた中梅織物も、運転資金の調達のためにまとまった借入を必要とする状況になっていた。現在のコミュニティ・バンク京信の担当者である西川氏が鞍馬口支店に異動してきた時期であり、前任の担当者から中梅織物の窓口を引継ぎ、コロナ対策の融資の活用を推薦した。
この頃の売上は、全盛期の2割程度まで落ち込んでいたという。
「これまでやってきた法人向けの商品を作る下請けの仕事だけでなく、自分たちがデザインした商品を直接評価してくれる方に販売することが必要だし、そのためにインターネット販売をやりたいと姉妹で話していました。ただ、新たな挑戦をするにも業績が悪化しており、資金調達も難しいので、諦めるしかないと思っていました。私も妹も、やるべきことをやらずに廃業に向かう道だけは進みたくないという想いを持って葛藤していました」と木下社長は語る。
ここで、経営者の背中を押したのがコミュニティ・バンク京信の西川氏である。
中梅織物の制作物と会社のブランディングを支援する専門家とのマッチングをコミュニティ・バンク京信のネットワークを使って実現させ、中梅織物のブランディング設定から、新しいビジネスを行うために必要な機器の導入を実現するところまで至った。
しかし、ここまで支援しても、新しいビジネスを推し進めるための最後の一歩が踏めない。試作品を作るための原材料を調達してテストマーケティングを進めていくための資金、さらに、新ビジネスを拡大していくために作業所を改修してお客様の事業所見学を可能にするためのリフォーム費用の原資が足りなかった。
そこで、西川氏が目を付けたのが、国の補助金である事業承継・引継ぎ補助金であった。
この補助金は事業承継の前後、後継者が新たな挑戦(経営革新)をする事業に必要な設備導入や試作品のための材料調達、店舗等の内装工事費用等を補助対象としていた。
「困難な課題やお悩みから逃げずに、素直に事業者様に向き合うことを心がけています。また、経営者から信頼を得るためにも、経営者にとって一番の相談相手となるためにも、自分が誰よりも相手の事業を理解している存在になれるように、日々の営業活動の中で意識しています」
と支援者であるコミュニティ・バンク京信の西川氏は話す。
お取引先の業績が下降状態にあるとき、経営者はすがる思いで相談してくる。その時に、自分自身が解を出せないと思っても決して逃げないこと。自分に解を出すことができなくとも、信用金庫の本部に持ち帰る、先輩にヒントを求める※ことで必ず糸口を見つけることができるという。
※コミュニティ・バンク京信にはマイスター制度という職員の様々な分野における経験やスキルを認定する仕組みがあり、取引先の事業を支援するために必要な専門性を持った職員が信用金庫の中でわかるようになっている。
西川氏からの薦めを受け、木下社長は事業承継・引継ぎ補助金の申請のための計画づくりに挑戦することとなった。
西川氏は、「最初は、箇条書きでも良いから、粗い感じで文章を書いてみてください」と木下社長にアドバイスした。木下社長が作成した文書を見て、説明の流れや言葉選びを確認し、織物のことを知らない人が読んでも理解できる内容になっているかをチェックした。さらに、「自社の環境分析」と「強みや弱みの分析」、「これから挑戦する新事業」の計画ストーリーに矛盾がないかも確認したという。
事業承継・引継ぎ補助金の第7次締め切り分の公募審査にて、中梅織物の計画申請は採択された。
補助金の申請に必要な計画策定を通じて、今までは感覚的にしか捉えていなかったことや、自社の置かれた環境、自社の強みや課題、新しい事業に挑戦する理由を他人に説明できる状態で考えることができたと木下社長は語った。
補助事業の実施期間を通じて作成したサンプルは、商談会で配布し、手ごたえを感じ始めているところである。「まだ今は種をまいたところかもしれませんが、必ず花を咲かせます。この事業を通じた私たちの最終の目的は、社会に必要な存在になり、社会貢献ができる企業となることです。補助金で助けていただいたことを忘れず、少しでも恩返しができればなと願っています。」
中梅織物の挑戦は、始まったばかり。この後、中梅織物が西陣織の伝統技術を活かしつつ、市場に新たな製品用途やデザインを市場に提案し、企業として次のステージに進むことを楽しみにしたい。
また、地域密着の金融機関として、事業者の伴走支援を進化させていく信用金庫の活動にも着目していきたい。
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