2026.02.24
- 農業,林業
- ものづくり補助金
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(鈴木牧場)
ものづくり補助金を活用し、十勝から世界を目指すオーガニック製品の挑戦

帯広信用金庫 広尾支店 佐藤宏行支店長、地域サポート部 大川翔平氏、大友裕太氏
この記事のポイント
- 冷凍・加工技術の導入により、加工品展開を実施
- 地域金融機関の本部と営業店が連携した伴走支援が、補助金採択と設備投資を後押し
- 「量より質」を軸に、十勝ブランドを世界へ広げる持続的な経営モデルを構築
北海道十勝の南端、太平洋に面する広尾町に位置する鈴木牧場は、創業から90年の歴史を持つ酪農家である。4代目代表の鈴木敏文氏は、「牛を病気にさせない飼い方」を原点に、循環型酪農とオーガニック認証の取得に取り組んできた。
健康な牛から生まれる牛乳の美味しさを活かして、どうすれば新たな価値を創造し、届けられるのか。その問いに向き合う中で導入した冷凍技術と加工設備が、答えになっている。
本記事では、ものづくり補助金の活用と、帯広信用金庫による伴走支援を通じて広がった鈴木牧場の挑戦を紹介する。
健康な牛から始まる、価値づくりの原点
鈴木牧場は、現代表の曽祖父が昭和10年に秋田から北海道へ移住したことに始まる。移住当初は畑作農業を営み、父の代から本格的な酪農へと転換した。
鈴木氏は幼少期、必ずしも酪農に魅力を感じていたわけではなく、剣道に打ち込むことで家業から距離を置いていたという。高校卒業後は帯広畜産大学草地畜産専修別科に進学し、卒業後は食品会社に就職。しかし、「自ら考え、行動する仕事がしたい」との思いから退職し、家業に戻った。
転機となったのは、米国バーモント州での酪農実習である。経営者が余暇や家族との時間を大切にしながら、成果に応じた報酬を得ている姿に触れ、「酪農を“続けられる仕事”として設計する」という視点を得た。
オーガニック酪農への転換と循環型の実践
帰国後、牧場の牛が病気になったことをきっかけに、往診で訪れていた獣医師のなつきさんと出会い、結婚。彼女からの「病気を治すのではなく、病気にさせない飼い方」という助言を受け、飼養管理を根本から見直した。
化学肥料に頼らず、土づくりと牧草の質を高める飼養へ転換。堆肥を発酵させ牧草地へ還元する循環型酪農を確立し、2019年に牧草地でJASオーガニック認証を取得。2021年には牛乳・牛肉・鶏卵についても認証を取得している。しかしながら、出荷の多くは農協経由であり、オーガニック生乳は他の生乳と混ざって販売されていた。そのため、「鈴木牧場の牛乳」としての価値が伝わりにくい構造に課題を感じていた。さらにコロナ禍では需給が崩れ、全国的な牛乳廃棄問題が発生。
「健康な牛から搾った牛乳は、驚くほど美味しかった。この味を、きちんと伝えたい」。その思いが次の挑戦につながった。

冷凍技術と加工設備による価値創造
しかし、美味しさを伝えようにも、流通の仕組みや保存方法によって本来の風味が損なわれてしまうという課題があった。特にオーガニック牛乳は風味が繊細であるため、搾ったままでは長距離流通に適さず、加工品として届けるには品質保持の工夫が必要だった。そこで鈴木氏が注目したのが、風味を損なわずに保存できる冷凍技術だった。
導入したのは、液体の高い熱伝導率を活かすリキッドフリーザー(液体急速冷凍機)である。この方法で凍結・熟成させた牛乳は、濃厚さと甘味が際立つ。製造にあたり、商品価値を大きく高める可能性を秘めていた。

帯広信用金庫への相談が、設備投資の出発点に
その設備投資を実現するにあたり、鈴木氏が相談先として頼りにしていたのが帯広信用金庫である。ものづくり補助金の申請以前から、同金庫は補助金活用に関する助言や経営全体を見据えた伴走支援を行ってきた。
「農業者は農協に相談するもの」という先入観もあったが、経営の視点から丁寧に話を聞く姿勢に信頼を寄せ、設備投資についても相談。その中で、ものづくり補助金の活用を提案され、制度要件や採択事例を踏まえた支援を受けながら申請に臨むこととなった。
補助金申請で意識した「支援者への伝え方」
申請にあたり鈴木氏が意識したのは、「支援者に伝わる形で整理すること」だった。妻から「これまでの経緯や課題、必要な設備、それによって何が実現できるのかを紙一枚に整理してから対話するとよい」と助言を受け、企画案を整理して広尾支店に持参した。
その後、同支店から本部の地域サポート部の担当者へつながり、対話はスムーズに進んだという。本部の担当者は「企画の資料があったからこそ、対話しやすかった」と振り返る。
本部と支店が連携した伴走支援体制
支援は、帯広信金の広尾支店と本部が連携しながら進められた。
「2~3回の面談を重ねながら、事業全体の構成や方向性は本部が支援し、収支計画などの具体的な詰めは支店が担当しました。本支店で情報共有を行いながら事業計画策定を支援していきました」と、帯広信金 地域サポート部の大川氏は振り返る。
補助金支援を通じて磨かれる金融機関の支援力
帯広信金は、ものづくり補助金において金融機関として全国有数の支援実績を誇る。営業店から地域サポート部に配属された大友氏は、「融資だけであれば、目先の数字だけを見ることになりがちだが、補助金支援では事業の背景や課題に踏み込んで対話する必要がある。それは職員にとっても、経営支援の力を高める貴重な機会になる」と語る。
補助金支援は手間のかかる仕事ではあるが、事業者と共に考え、汗をかくことで、「お客様を深く知ることができる」という価値観が金庫内に根づいているのだ。
鈴木氏は帯広信金について「農家にとって金融機関は敷居が高いイメージがあるが、帯広信金さんは相談しやすく、話しやすい」と語る。こうした信頼関係が構築できたからこそ、補助金支援という小規模事業者にとって難しい取り組みも、円滑に進めることができたのである。
こうした関係性のもと、鈴木牧場は補助金に採択され、リキッドフリーザー、クリームセパレーター、パステライザーの導入を実現。加工品製造への道が開かれた。
加工によって広がった、オーガニック生乳の新たな付加価
生クリームやソフトクリームミックス、チーズといった加工品の展開により、オンラインショップでの販売に加え、大手百貨店の催事販売などを通じて、新たな市場の開拓も進めてきた。
加工品づくりで大切にしているのは、「体に入るものだからこそ、安心できること」だ。乳化剤や安定剤を使用せず、素材本来の味わいを最大限に生かす姿勢を一貫して貫いている。
生クリームは、オーガニック志向のレストランなどで業務用として使われ、素材の風味を大切にする料理人から高く評価されている。ソフトクリームミックスは百貨店催事においても想定を超える反響を得ている。さらにチーズづくりにも取り組み、長期熟成チーズは人気商品へと成長した。
また、HACCPやISO22000を取得するなど、衛生管理体制の整備にも力を入れている。「衛生管理の徹底が、おいしさにつながる」と鈴木氏は語り、品質を支える土台としての重要性を強調する。

鈴木牧場のソフトクリームミックスを使用したソフトクリーム(納品先)(右)
「品質を追求する」姿勢を大切にした鈴木牧場のオーガニック乳製品は、消費者から高い支持を得ている。今後は、アイスクリームやミルクパウダーなど、新たな製品開発も視野に入れている。
こうした加工への取り組みによって、オーガニック生乳の価値は一次産品の枠を超え、新たな市場へと着実に広がっている。

十勝ブランドを世界へ
設備導入後も、帯広信用金庫は販路開拓や海外展開に関する情報提供を継続している。また、北海道経済産業局からの情報提供をきっかけに香港を視察。その結果、現地では「十勝」の知名度はまだ高いとは言えず、「北海道」という名称がひとつの強いブランドとして受け止められていることを実感した。一方で、そのブランド力を背景に、オーガニック乳製品であれば十分に世界市場で競争できるという確かな手応えも得た。
鈴木氏は「量より質」を重視し、付加価値の高い商品を適正価格で届けることで、規模に依存しない持続的な経営の実現を目指している。将来的には直販比率を高めるとともに、志ある酪農家との学び合いを通じて、「北海道」だけでなく「十勝」という地域名そのものをブランドとして世界に広げていきたいと語る。
「当牧場では、牛乳の価値観を変えるような付加価値の高い酪農を極めていきたい。この考えに共感する地域事業者の視察を積極的に受け入れ、学び合う機会を設けることで十勝地域に貢献し、やがては『十勝ブランド』を世界に浸透させていきたい」と、地域への強い思いを語った。
取材を振り返り、鈴木代表は帯広信用金庫について、「農業者以外の方と話せることは貴重であり、相談すれば支店の担当者がすぐに対応してくれる。その距離感がありがたい」と信頼を寄せた。これに対し、佐藤・広尾支店長も「補助金支援にとどまらず、海外展開や事業承継まで、長期的に伴走していきたい」と応える。
鈴木牧場の挑戦は、設備投資や商品開発にとどまらず、地域の酪農の未来を切り開く取り組みへと広がっている。加工品といった新たな付加価値を武器に、国内外へと可能性を広げながら、持続可能で誇りある酪農の姿を追求し続けている。
設備投資と学びを着実に積み重ねてきた鈴木牧場の歩みは、「オーガニック酪農」という価値観を社会に広く伝えていくための、大きな一歩となっている。
| 活用した補助金:ものづくり補助金 |
| 年度:2023年度(第15次) |
| 枠・型:通常枠 |
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。
企業データ
- 企業名
- 鈴木牧場
- 設立
- 1931年
- 従業員数
- 1名
- 代表者
- 鈴木 敏文氏
- 所在地
- 北海道広尾郡広尾町紋別16線14-5
支援機関データ
- 支援機関名
- 帯広信用金庫
- 所在地
- 北海道帯広市西3条南7丁目2番地







