2026.02.17
- サービス業
- 持続化補助金
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社たびぞう)
社長の熱い想いと商工会の伴走支援が生み出した、新しい発想の着地型観光「城崎ぷちたび」

この記事のポイント
- 積極的な姿勢と行動力を活かし、会社員時代から商工会青年部に所属した縁で起業
- 起業後3ヶ月でコロナ禍、そのピンチを救ったのは旧知の商工会経営指導員だった
- 豊岡市商工会の熱心な伴走支援によって得た「学び」と「気づき」で更なる活躍へ
1,300年の歴史を誇る温泉地として有名な兵庫県の城崎温泉は、年間82万人以上の観光客が訪れる一大観光地であり、観光業が盛んな地域である。
この城崎温泉を含む但馬(たじま)エリア(兵庫県北部の豊岡市、養父市、朝来市、香美町、新温泉町)で、着地型観光(※1)の商品開発を進めながら、発地型観光(※2)の商品も販売している会社が、「旅で感動。感謝。」を企業理念に掲げている株式会社たびぞうである。
会社設立直後にコロナ禍に見舞われ、一時は売上がゼロとなる厳しい状況に直面した。しかし、その状況を受け止めながら新たな事業を模索し、現在では利用者満足度98%を誇る「城崎ぷちたび」を開発した。城崎温泉を訪れる多くの観光客から絶大な支持を集める、同社の代表取締役大林大悟氏に話を聞いた。
(※1)着地型観光: 着地(観光地)の地域主導で企画。地域に根差した体験や交流などが中心。
(※2)発地型観光: 発地(居住地)の業者が企画。観光地を巡る、パッケージツアーや団体旅行が中心。
勤務時代に感じた限界と商工会青年部での出会いが
起業のきっかけに
当時は旅行会社に勤務していた大林大吾氏(右)
但馬エリアを拠点に展開する旅行会社に18年間勤務し、その間延べ1,400本にのぼる社員旅行を企画した大林大悟氏。
「社長が決める型にはまった社員旅行ではなく、社員自らが主体的に企画することで会社への貢献意識を高め、その結果として、企業の売上向上を目指す『業績が上がる社員旅行』などを提案していました」と当時を振り返る。
勤務時代から独創的な発想で企画を生み出してきた一方、今後は企業数の減少が見込まれる中で、社員旅行を中心とした発地型観光に限界を感じていたという。
「30歳の頃、朝来市商工会に飛び込みで営業したことをきっかけに、商工会青年部に所属しました。青年部で若手経営者と交流する中で大きな刺激を受け、次第に起業を意識するようになりました。そして、何よりも大きかったのが、三浦健太経営指導員(現:豊岡市商工会支援課課長)との出会いでした。今後の旅行会社のあり方として発地型観光だけではなく着地型観光も手掛け、将来的には地域活性化の担い手の核になりたいとの想いを三浦さんに相談するうちに、起業後の事業内容が徐々に具体化していきました。」
こうした経緯を経て、2019年(令和元年)10月に豊岡市商工会の三浦健太経営指導員に最終的な相談を行い、同年12月、40歳で株式会社たびぞうを設立した。
最も信頼する経営指導員に相談し、
課題解決の一つの手段として、持続化補助金を活用
起業時、大林社長には、サラリーマン時代に勤務先の旅行会社で主体的に手掛けていた着地型観光に関する豊富なノウハウを最大限に活かすことができる強みがあった。加えて、外国人個人観光客の拡大に力を入れていた城崎温泉の地域戦略も追い風となっていた。
そこで、城崎温泉を舞台に、外国人個人観光客をターゲットにした着地型観光コンテンツ開発を進めたいとの構想を実現するため、10年来の付き合いがあり、最も信頼する三浦経営指導員に相談した。
大林社長が構想する豊富なコンテンツ内容を、三浦経営指導員は一つ一つ丁寧に聞いた上で、外国人向けコンテンツや広報手段も整備が十分でない点を課題として指摘した。
この事業を進める上での課題解決の一つの手段として、持続化補助金の活用を提案した。
「起業した直後で、補助金の申請は初めてで不安もありましたが、起業までの経緯を知っている三浦さんが支援してくれるのであれば、大丈夫だという安心感がありました」そう語る大林社長に対し、三浦経営指導員は「事業計画を作成するにあたり、大林社長からは、これまでの経験に裏付けられた豊富なアイデアを全てぶつけてもらい、私が赤ペン添削してから返し、また提出してもらうといったやり取りを5回前後は繰り返しました」と当時を振り返り語ってくれた。
大林社長の熱意と三浦経営指導員の親身な伴走支援により、外国人個人観光客をターゲットにした自転車を使用したガイドツアーの開発やインバウンド客を取り込むためのチラシ作成費用として、2020年(令和2年)5月、持続化補助金が採択された。
起業後3ヶ月でコロナ禍に直面、売上ゼロの状況に
念願の起業を果たし、地域活性化の核となるべく邁進しようと意気込んでいた矢先、新型コロナウイルス感染症の拡大により、売上はゼロとなった。
しかし大林社長は、コロナ禍が収束した際、速やかに事業を再開できるよう、持続化補助金で採択された補助事業に着手した。
外国人観光客にはクロスバイクを使用してもらい、ガイド付きで周辺の河口から海岸エリアなどの観光スポットを巡るとともに、あわせて地域住民との交流も取り入れた観光プログラム「城崎リバーサイドエクスペリエンス」を企画した。
また、一般社団法人豊岡観光イノベーションの外国人スタッフを招いてモニターツアーを開催。その際の写真を活用してチラシを作成した。完成したチラシは、城崎温泉観光協会に設置するとともに、都内などで開催されたインバウンド誘致イベントで配布した。
厳しい状況下を救ったのは、起業時から変わらない強い想いと、
前向きな思考
しかし、コロナ禍が収束せず、緊急事態宣言も発令され、外国人観光客をターゲットにした「城崎リバーサイドエクスペリエンス」を開始する目途は立たなかった。
さすがに心が折れそうになった大林社長だが、「早すぎる別れを迎えた友人を思い出すと、生きて誰かのために力になれることの尊さ。それは困難な中でも、かけがえのないことなのだ」と気持ちを立て直した。
「地元の人たちと手を組み、地域に密着した旅行プランを提供する」起業時の想いは微塵も変わらず、立ち止まっている余裕はないと考えた。
そこで、外国人個人観光客向けに構想していた補助事業内容を、日本人観光客向けに作り変えることで、事業化できないかと発想を転換し、再び三浦経営指導員に相談することとした。
大林社長と三浦経営指導員の厚い信頼感から生み出された
「城崎ぷちたび」
大林社長が多くのアイデアを出し、それに対して三浦経営指導員が意見を述べながら整理していくやり取りが始まったが、難航する局面もあった。
「日本人向けに着地型観光を提供すると言っても、コロナ禍の収束の目途が立たず、先が見通せないなら止める?」と三浦経営指導員は、大林社長に対し、率直に意見した。
一方、大林社長は「三浦さんは厳しい意見を述べつつも、自分が提案したアイデアに対し、解決の切り口を一緒に考えてくれた」と振り返る。2人の間には絶大なる信頼感が醸成されていた。
こうして何度も2人で議論した結果、城崎温泉街や周りの豊かな自然をめぐる「城崎ぷちたび」が生まれた。
「城崎ぷちたび」は、コロナ禍を逆手に取りガイドは同行せず、参加者が自分のペースで地域の方々とのふれあいを楽しみながら、同社が提供するオリジナルマップ(画像参照)を手に、電動バイクでめぐるツアーである。
「お客様が当社のオリジナルマップを見ながら、自ら目的地を思い描いて、自由に城崎での旅を経験してくれる。楽しくないわけがないでしょう。」と大林社長は自信を持って語ってくれた。
「城崎ぷちたび」は若者を中心に支持され、その貴重な経験をSNSで発信してくれることが、新規顧客の獲得に結び付いた。この結果、令和3年11月期と比較し、令和6年11月期の売上高は3倍以上も増加した。
「城崎ぷちたび」は若者を中心に支持され、その貴重な経験をSNSで発信してくれることが、新規顧客の獲得に結び付いた。この結果、令和3年11月期と比較し、令和6年11月期の売上高は3倍以上も増加した。
名物ポイント「あーの坂」。
「あーっ!」と叫びながら
坂道を下る爽快感を体験できる。
事業計画作成と商工会経営指導員の支援が生んだ経営者の意識変化
大林社長が豊岡市商工会の支援を受けて持続化補助金を申請したことは、資金を必要とする起業後の時期に補助を得たこと以上に、事業計画の有用性に気付いたことが大きいようだ。
大林社長は次のように語る。「法人設立後、すぐに持続化補助金を申請し、初めて事業計画を作成したが、その後も補助金申請とは関係無く、必ず毎期、事業計画を作成している。自社の内部要因にばかり目が行きがちだが、三浦さんの支援を頂きながら事業計画を作成しSWOT分析を行った際、外部要因を意識するようになった。また、事業計画と実績数値の乖離がなぜ生じたのか、計画策定時に立ち戻って検討もできる」とのこと。
一方、三浦経営指導員は次のように述べた。「私たちが継続して支援を続けることで、小規模事業者の方々は孤立せず、抱えたアイデアや悩みを支援者と共有できる環境を構築できる。最終的に小規模事業者の自走化につなげることが、持続化補助金制度の本質的な価値と考える。
例えるならば、事業者はピッチャーで、支援者はキャッチャー。事業者が投げたどんな暴投も支援者はきちんと受け止めてから事業者に返し続けなければ試合は成立しません。管理職として、しっかりと捕球できるキャッチャーを今後も育てていきたい」
「旅で感動。感謝。」
この株式会社たびぞうの企業理念は、「感動できる旅を提供することは大前提であり、さらに旅を終えて日常の暮らしに戻った際に、当たり前の日常に感謝できるほど、楽しかったと思える旅を提供したい」ということである。
この企業理念に込めた大林社長の熱い想いは、城崎のみならず、他地域の観光地での大林社長自らのノウハウ提供を通じ、今後、全国へ広がっていくことであろう。
| 活用した補助金:小規模事業者持続化補助金 |
| 年度:第1回 |
| 枠・型:一般型 |
企業データ
- 企業名
- 株式会社たびぞう
- 設立
- 2019年12月
- 従業員数
- 5名
- 代表者
- 大林 大悟 氏
- 所在地
- 兵庫県豊岡市戸牧539-8
支援機関データ
- 支援機関名
- 豊岡市商工会
- 所在地
- 兵庫県豊岡市日高町祢布920







