2022.06.27
生産性向上に取り組む企業事例
理化工業は金属部品の表面処理を手掛けており、金属の強度を強くするための熱処理加工、注文に応じたネジ塗装等、近隣の部品メーカーから受注して、確実に仕上げる。多品種対応でも高い生産性を保てるよう、早くからデジタル化に力を入れてきた。今回はさらに作業データのデジタル化ツールやRPAも導入し、より高い品質でムダのない仕事ができるよう、活用を進めている。
理化工業の得意とするのは、金属部品の熱処理や塗装加工だ。たとえば自転車のペダル。雨風にさらされても不具合なく使い続けられるのは、素材もさることながら、最後の表面加工が効いている。実はこうした自転車部品の多くは、理化工業の熱処理加工が施されている。「市場に出回る4台に1台くらいは、うちの熱加工した部品がどこかに使われているはずです」と社長の森嶋氏は話す。さまざまな機械部品も手掛けるが、一番多いのが自転車の部品だという同社。これはコロナ禍においてはプラスに働いた。密を避けた移動もでき、適度な運動にもなるということで、自転車人気が高まったのだ。
同社が位置する大阪の八尾エリアは、部品・ネジ製造企業が集積する。そうした企業の加工ニーズにあわせて50年以上前に創業し、今も周辺の町工場が一番のお客様だ。また現在は、タイでも事業を展開する。海外生産を開始する中小メーカーが増えてくるなか、海外ニーズの高まりを感じて工場を設立したそうだ。
部品強度を高める熱処理加工と得意とし、少量でも短納期でも対応する。ネジやボルトの塗装も得意とし、500色以上のカラーを組み合わせて用途に応じて塗り分ける。最近は加工過程をワンストップで請け負うことにも力を入れる。部品は熱処理加工するだけではなく、防錆処理やメッキ、塗装などの表面処理をして仕上げることが多い。部品製造元メーカーはそれぞれの加工企業に発注する必要があったが、その分やり取りの時間も手間もかかる。そうした工程を一括で理化工業が管理し、他の加工企業と連携して仕上げることでお客様の利便性を高める。
このように発展してきた同社であるが、以前からITを活用した生産性向上には関心が深い。最初は2000年頃のことだ。紙の資料をできるだけデータ化しようという考えから、MicrosoftのExcelやAccessを使ってデータを保存していくようになった。また基幹システムも導入し、さまざまな管理業務をデジタル化していった。しかし、導入から20年近く経つなかで従来のシステムをメンテナンスできる人材がいなくなり、使い勝手の悪さも生じてきた。そこで2018年頃から新たな基幹システムについて検討し、2019年に新たなパッケージに入れ替えをおこなった。
同時に検討し始めたのが、記録のデジタル化だ。加工処理をする現場で情報を記録しているが、より簡便に、効率的にできないかということを以前から課題に感じていた。
「デジタルデータにして生産性向上に活用していきたいのですが、現場は熱がこもったり、塗料で汚れたりと、決して記録をとるのにふさわしい環境ではないんです。紙に鉛筆で記録して、後でそれをパソコン入力するような形で保存していますが、現場の負担を増やさず記録していく方法を考えたいと思っていました」
現場の記録とは、加工数量、作業時間の記録といった生産性管理に欠かせない基礎情報と、材質調整した履歴だ。お客様からの要求にあわせて多品種少量生産に対応している分、部品ごとに異なる情報管理が求められる。類似の加工をするときに、過去の履歴を毎回探し出すのも大変だ。それをデジタル化すれば、検索しやすくなるのではないかと考えたことも背景にあった。
ツール活用についてはいろいろと試してきたが、結局現場の手間が増えると元も子もない。テスト導入したものの、うまくいかずにお蔵入りしたものも多かったという。タブレットを使ってそのまま入力すればよいように思われるが、現場では手袋を使った作業をしているので、いちいち手袋脱着の手間がかかる。さらに、電子機器を高熱のところには置いておけないので、入力時に移動しないといけない。
そうした試行錯誤のなか、IT導入補助金を活用して導入を決めたのは、使い勝手のよい現場帳票システムだ。操作が簡単で、RPAに連動できる点が選ぶポイントになった。また、まずは作業前後の設備点検チェックから使い始めるなど、現場負担をかけすぎない導入ステップを組んだ。
RPAツールも同時に導入し、自動の夜間処理を組み入れたことで、集計作業などは格段に減ったという。このRPA活用に向けては、外部のITアドバイザーを最初から依頼した。毎週来てもらい、導入から自社流へのカスタマイズ、運用面を担ってもらっている。新旧のシステム間でデータを移行させていくような作業も、自動処理できるようにセッティングしてもらっている。
このITアドバイザーには、ツール導入時に自社側のメンバーとして外部ベンダーとの窓口にもなってもらった。自社にとってはどういうシステムがよいのか。どうやって運用していくとよいかの議論をリードしてもらったのだ。もともとは、業務改善面や自社ホームページの活性化についてのアドバイスを受けていた人であった。
社内でIT人材を確保していくことには必ずしもこだわっていない。適任者がいればもちろん任せていくことは考えられるが、現メンバーは各部門で忙しく活躍している。それなら外部に任せてまずはデジタル化の進展に力を入れたいというのが現在の方針だ。たとえば電子帳簿保存法への対応も求められてくるなか、経理関連はほぼペーパーレスに移行しつつある。
デジタル化の効果として、出力時間や転記時間、転記ミスの減少は大きいという。かつ、デジタル化された数字は、集計・分析にも使いやすい。夜の間にRPAが作業しておいてくれる分、単純作業の人手も割愛できている。「入力作業のような人手はできるだけ減らしていき、人の力は、出てきたデータを分析し、判断して手を打つところに活用していきたいと考えています」と森嶋氏は話す。
たとえば熱処理加工の場合、適正な範囲内で処理されているかどうかを観察することで、不良率を下げることができる。従来は、処理内容を鉛筆で記録し、事後にデータ入力して分析していた。それが作業中に入力できるようになると、リアルタイムで状況を分析し、不良率減少の調整ができるようになる。デジタル化によって、継続的、安定的な加工体制を組み立てやすくなるのだ。
さらに今後は、画像識別ツールの活用も検討中だ。人の力を本当に活かせるところに集中できるようにしていくことが、会社の発展のために欠かせないと考えるからだ。たとえば職人の熟練度が左右する塗装の仕事も、可能な部分はデジタル制御を進める。だからといって、職人が不要になることはない。むしろ、若手がやっても高い基本品質が出せることを強みとしたうえで、お客様とのきめ細かい調整や、難度の高い仕事で力を発揮してもらう。最適人員で最大の価値をお客様に届けられるように、積極的なデジタル化でさらなる発展をめざす。
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