2025.10.28

  • 製造業
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支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社ヤマケンマシナリー)

業務効率化の鍵は現場から。ITツール導入で実現したDX成功事例

中央:和久 道夫会長、向かって右:大槻 茂取締役兼仙台支店長、向かって左:仙台支店小野寺課長

この記事のポイント

  • 現業の課題抽出やIT化のためのツール選定を、IT導入支援事業者と二人三脚で実施
  • ITツール導入後の社内ケアを丁寧に行い、自走力を高める
  • 計画的なIT導入で、支店単位の業務効率化から全社的な取り組みへシフト
山形県に本社を置く株式会社ヤマケンマシナリー(以下「同社」という。)は、“ヤマケン”という名称のもととなった株式会社山形建材(現:株式会社ヤマケン)の中の空調部門が独立し、事業を展開したところから始まっている。1973年の設立以来50年以上にわたり、空調冷暖房やクリーンルームなどの設備機器販売、自動制御機器の設計・施工、住宅設備機器の売買を手掛けてきた企業である。今ではグループ会社5社が連なり、ヤマケングループとして全体で150名超の従業員を抱える組織へと成長している。

同社は、工場・病院・学校・福祉施設・テナントビルなど官民問わず多様な現場に設備機器を供給している。中でも学校等は空調設備の設置を行政が主導して行っていることに加え、ここ最近の気温上昇等の影響もあり、空調設備やそのメンテナンスの重要性が一層高まっていることから、需要も堅調に推移している。

一方で、経営上の課題は他の業界同様で、材料費等の高騰に加え、輸送面ではドライバー不足など、いわゆる2025年問題にも頭を悩ませている。同社は、こうした状況から少しでも社内の業務プロセスをアナログからデジタルに移行し生産性を向上させるべく、積極的にDX化に取り組み、効率化による成長を目指している。
今回は、同社の支店の中でも事業規模等が比較的大きいとされる宮城県の仙台支店に伺った。

課題解決の第一歩は相談から。 外部支援者との連携がカギ

事業としては比較的堅調な状況が続く一方で、建設現場の案件はその工期が長期に及ぶことが多いことから来年再来年といった短期の事業計画策定が難しいという課題を抱えている。さらに、行政において物価高騰に応じて請負金額等を変更するためのガイドラインは存在するものの、義務ではないため取引先との関係性によっては適用に至らないなど、対外的な課題も依然として多い。

他方で社内に目を向けると、日々の事務作業等に非効率な部分が多く見受けられた。施工現場もさることながら、社外での商談等で現場が常に稼働している状況下で、こうした非効率な業務の積み上げが、各種手続きの遅れに繋がる可能性があり、その効率化が喫緊の課題となっていた。

ただ、こうした課題を解決しようにも“誰に”相談すべきかが分からない。そこで同社が相談を持ち掛けたのが、社内ネットワーク等のインフラを任せている株式会社セント(以下「セント社という」)である。
セント社は、仙台を活動拠点としたITベンダーでデジタル領域の知見を活かし企業のDX化を支援している。加えて、既にインフラ周りや日常的なIT領域の相談事などを受けていたこともあり、同社の細かな業務に対しても理解があった。
また、セント社はIT導入補助金における「IT導入支援事業者」としても登録されており、補助金の申請についても知見を有していたため、補助金申請も視野に入れ課題解決に向けた協議を始めた。

課題抽出と解決へ、支援者との協議

ITツールを導入しても、実際の業務にマッチせず十分に活用できないというケースは少なくない。同社としても、そういった事態は避けたいというのが正直なところだ。そこでセント社の協力を得て本質的な課題の洗い出しに注力した。

まず、実際にどの作業でどの程度の労力が発生しているのか、そしてその作業に対してどういったツールを使っているのか等を双方で細かく確認した。そういった過程の中で同社が抱いていた課題と具体的に何を効率化すれば解決できるのかが少しずつ見えてきた。
こうして売上・原価管理、見積り作成などの効率化、オフィスと現場間での情報のギャップなどが課題として明確になった。特に、見積もり作成などは、アナログ作業が基本となっており、例えば一つの見積もりを作るにも様々なデータやドキュメントから情報を集め、複数のExcelから数字をコピーペーストし、一つのデータに集約する作業が必要となっていた。
 
こうした課題に対し、どういったITツールで解決可能なのかセント社から提案を受け、導入候補となるITツールのカタログを取得したり、販売元などを招いてプレゼンを受けるなどし、具体的なITツールを吟味した。また、導入した場合にどう作業が効率化できるのか等の簡単なシミュレーションも行うなど、ノウハウを持つセント社ならではの、きめ細やかなサポートも行われた。
こうした導入前の確認・協議に約1年を要し、自社のニーズにマッチするITツールを選定した。

また、補助金の申請については同社としても初めてのことではあったが、セント社による丁寧な説明や申請サポートもあり、そこまで苦労することなく申請することができた。
同社のケースのように、単に高機能なITツールを選択するのではなく、実際に導入し活用する事業者が自身の課題を明確化し、導入後の鮮明なイメージを持ち、どのような効果が出るのか理解したうえでITツールを選定することが重要であり、セント社のように知見を持つ企業の支援を受けることも、非常に有効である。

ITツール導入後の変化

ITツールの選定に際し、丁寧に時間をかけ検討したこともあり、導入後のメリットは大きかった。
まず、社内での売上・原価・発注情報等の情報を従業員が同じシステムで入力・確認できるようになったことが大きなメリットだった。従来は色々なドキュメントを参照したり、部署間で問い合わせて確認したりといった作業が発生していたが、ITツールの導入により情報が一元化され、様々な情報を参照する必要がなくなった。また、他部署の従業員同士で案件の話をする際も、同じ画面を見ながら会話ができるため、間違いもなく非常に効率的になった。加えて、情報がデジタル化されたことで、外出先で最新の情報を確認することも可能になった。これにより営業等での商談スピードも向上し、顧客との会話もスムーズになった。
 
次に、デジタル化された情報をもとにした見積もり作成の効率化である。この作業も従来は色々なドキュメントを参照しながら作成する必要があったが、今では一つのシステム内にほぼ全ての情報が揃っているため、煩雑な作業が不要となっている。前述のとおり外出先でも最新情報が確認できるため、場合によっては仮見積もりをその場で作成することも可能となるなど、営業観点でもその恩恵は大きい。
こうした現場での成果が、売上向上や業務効率化によるコスト削減に繋がり、企業として経営の方針にも影響するような大きな成果とも言える。
 
ただ、従来の慣れ親しんだ作業をIT化することは、従業員の働き方にも大きく影響するため、これは初期導入時の課題として社内で解決しなければならない。
同社では、ITツールの選定時から担当していた小野寺課長が中心となり、ITツールを活用した業務への移行や使い方などを従業員にレクチャーしたり、現業務との差分をどう解消するかを検討するなど、社内業務のケアを丁寧に行った。また、セント社やソフトメーカーのサポートも充実しており、操作面など導入当初の困りごとを解消する体制も整っていた。

こうした従業員の努力や伴走支援者であるセント社のサポートもあり、ITツール導入後、細かな問題はあったものの、それほど大きな混乱はなく業務のIT化を行うことができた。このように円滑に導入できたのは、事前の課題抽出やITツール導入後のシミュレーション等に時間をかけて検討した成果と言っても過言ではない。
ITツールの利用風景

今後のIT導入について

今回のITツール導入は、同社の仙台支店において先行的に実施したものではあるが、この成果を受け、全社的な導入に向けて動いている。特にITツールの選定時から丁寧に検討を重ねている本事例は、非常に分かりやすい模範的な例と言っても良い。
業務のIT化は経営層によるトップダウンの方針だけでなく、実務に親和性のある現場からの提案が、IT化を推進する上での鍵となる場合もある。

創業50年を超える歴史を持つヤマケンマシナリーは、伝統を守りながらも、IT化を通じて未来への変革を進めており、その取り組みは、多くの製造業や中小企業にとって、DX推進の可能性を示す示唆に富んだ事例と言えるだろう。
活用した補助金:IT導入補助金
年度:IT2021
 枠・型:A類型

 

企業データ

設立
1973年
従業員数
37名(グループ会社含めず)
代表者
代表取締役社長 庄司 哲 氏
所在地
山形市北山形2丁目1番7号

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