2025.09.02
- 製造業
- IT導入補助金
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(三和油脂株式会社)
創業80年の伝統とデジタル化で挑む未来、山形県の老舗油糧メーカー

この記事のポイント
- 自社の課題を明確に認識する
- ITツール導入の難しさを乗り越え、業務効率化を実現
- 次のステップを見定め、IT化の歩みを止めない

三和油脂株式会社は、山形県天童市に本社を置く創業から77期目を迎える老舗の油糧(油脂や油脂原料、油かすなどの総称)メーカーである。かつて田園都市だったこの地は、今や住宅街が広がり、大型商業施設や球場等が建設されるなど、街の整備が進んでいる。1949年設立の同社は、「こめ油」を主力製品とし、その製造から販売までを一貫して手掛けている。 現在では本社工場のある山形県天童市の他に、宮城県・福島県・北海道に工場を持ち、それぞれの工場と連携を図り、製造を行っている。 健康志向の高まりを背景にこめ油の需要が拡大し、全国の家庭に浸透しつつある。同社ではこうした市場動向に対応するため、昔ながらの良き習慣・伝統を守りながら、更なる生産性向上や事業拡大を目指した設備投資を進めつつ、業務のデジタル化・経営のDX化にも積極的に取り組んでいる。 時代の変化を的確に捉え、未来へと歩みを進める三和油脂の挑戦は、中小製造業にとってのひとつの道標となり得るものである。
こめ油の需要の高まり
同社は、約1万坪の敷地を持つ本社工場を拠点に、全国の取引先とビジネスを展開している。主力製品であるこめ油は、昨今の健康志向の高まりを背景に注目度が増しており、コロナ禍の5~6年前から特に家庭用市場での売上を大きく伸ばしている。以前は、大型の食料品店やスーパーマーケットなどでも、それほど取り扱いは見られなかったが、今では当然のように店頭に並べられているこめ油を目にすることができる。
こうした需要の高まりから、生産が間に合わなくなってきたため、新たに専用の大型設備を導入する等、ハード面での設備投資も数年前から進めているところだ。

こめ油の製造工程は、①米ぬかから米原油を抽出する工程と、②その米原油から不要な成分を取り除き食用のこめ油に精製する工程に分かれる。各工程は、以前は手作業で行われていたものもが、現在はほとんどが専用の設備によって自動化され、手間のかかる作業が大幅に効率化されている。

見えてきた課題と支援事業者との出会い
知見やノウハウが蓄積され需要に対応する一方で、業務プロセスの課題も顕在化していた。具体的には、帳票管理や取引先とのFAXのやり取りといった紙ベースでの管理や現場と事務所間の情報共有のスピード不足などである。そこで、内部(自社)のみの視点ではなく、外部からの視点でも意見が欲しいと考えていたところ、生産の加工工程で利用する資材の取引先となっている事業者(以下「取引先事業者」という。)が、企業のDX化をサポートする事業も行っていることを知り相談を持ち掛けた。
この取引先事業者は、三和油脂の加工工程の資材を供給している関係上、工場内の生産管理等についても理解があり、課題感の共有もスムーズに行うことができた。
取引先事業者と相談する中で、具体的な課題として上がってきたのは、こめ油の需要の高まりに合わせて生産ライン等を増やしたことにより、生産管理の方法や事務所と工場間の情報共有が煩雑になり、総体的に効率が落ちているのではないか、ということだった。
こうした中で、取引先事業者から提案を受けたのが、生産記録や在庫管理、製造工程でのワークフローや情報共有などをIT化するための、いわゆるクラウド型の生産管理システムだった。このシステムについて、支援事業者から説明を受けながら、同社の業務への導入イメージを両者で検討した。
また、取引先事業者がIT導入補助金のIT導入支援事業者として登録されていることから、当該システムの導入に際し、IT導入補助金の活用も合わせてチャレンジすることになった。
三和油脂は同社としては、設備導入等の際に他の補助金を活用した経験があり、補助金の申請に対しては特に抵抗感は無かった。
ITツールの導入と現場での活用
このITツールを導入したことで、大きく2点の業務が効率化されたという。
まず、現場で作成された帳票がリアルタイムで事務所でも確認できるようになったことである。以前までは現場で作成された帳票が事務所に到着しない限り、内容を確認することができず、生産管理という面では現場と事務所で少しタイムラグが生じていたが、ITツールを導入して電子化したことでそのタイムラグがなくなった。これは生産状況の把握や在庫管理等の観点で、非常に有用である。
次に、現場でトラブルが発生した際にその状況を写真で撮影し、その写真データを事務所にリアルタイムで共有できることである。そうすることで、事務所でも現場の状況をすぐに把握でき、適切な指示をスピーディに出せるようになった。
ITツール自体はタブレット端末で直感的に操作ができ、インターフェースもシンプルで使いやすいものではあったが、従業員にとっては、これまで習慣化された業務の流れをITツールの導入に合わせて変えるのは容易ではなかったが、支援事業者がITツール導入時に集中的に導入研修を実施してくれたことや導入後の細かな疑問やトラブルに対して素早く対応してくれたことで、特に目立った混乱はなく導入することができた。今では、若い世代から年配の職員まで問題なく活用している。こういったITツール導入後の支援も非常に重要な要素であると言える。

こうして日常の一つ一つの業務がIT化されたことで、総体的には大きな工数の削減と、迅速な指示出しが可能になり、安全で安定的な製造工程の構築に繋がった。
今後のIT化について
同社は、IT化を単なる業務効率化ではなく、会社の構造改革の一環と捉えている。複数の製品が同時に生産される、いわゆる連産品を扱っていることに加え、国内に複数の生産拠点を設けていることから生産管理が難しいが、今回のIT化に留まらず、他社の成功例も参考にしながら製造工程全体に最適なシステムを導入することを検討しているという。
創業80年近い歴史を持つ同社は、伝統を守りながらも、IT導入補助金を活用したIT化で未来への変革を進めている。この取り組みが、他の製造業や中小企業にとって、IT化の可能性と重要性を示す好例になることを期待したい。
活用した補助金:IT導入補助金 |
年度:2021年度 |
枠・型:C類型 |
企業データ
- 企業名
- 三和油脂株式会社
- 設立
- 1949年
- 従業員数
- 133名
- 代表者
- 代表取締役社長 山口 與左衛門 氏
- 所在地
- 山形県天童市一日町四丁目1番2号