2025.07.07
- 卸売業,小売業
- 事業承継・M&A補助金(旧事業承継・引継ぎ補助金)
支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社ブランカッセ)
事業承継で生まれ変わるケーキ店。ブランカッセの挑戦と成長戦略

青森県中小企業団体中央会 弘前支所 主事 加藤麻美氏(右)
ひろさきビジネス支援センター シニア・インキュベーションマネジャー 石川 悟氏(左)
この記事のポイント
- 事業承継前に地域の市場や顧客特性を把握、承継後に目指す事業のイメージを明確化
- 中途半端な店舗増強では、必要なお客様へのサービスができないことを踏まえ、顧客視点で商品と店舗、バックヤードの増強を計画
- 何よりもケーキ作りが大好きな後継者の修行と研究の成果に弘前市民が反応
先代の残した強みを活かしつつ、事業承継後の2年間で事業を大きく拡大
ブランカッセは、青森県弘前市の中心地域から車で5分ほどの距離にあるロードサイドのケーキ店である。ケーキ作りの職人として腕に覚えのあった先代の福士勝造氏が1993年に創業し、「似顔絵を描いたホールケーキ」を看板商品として、「パティスリーブラン」の屋号で29年間にわたり個人事業主として事業を継続してきた。
2022年に後継者である福士昴生氏が事業を引き継ぐ手前の段階で、青森県中小企業団体中央会が運営する「ひろさきビジネス支援センター」の支援を得て、事業計画を策定。同時に、令和3年度補正予算の「事業承継・引継ぎ補助金(第1次公募)経営革新枠」に申請し、店舗の改装と内部設備の導入に補助金を活用した。事業承継から2年間で、事業の大幅拡大と生産性向上による働き方の改善に成功している。
「同じもの、同じやり方で事業を引き継ぐのは駄目だ」と教わった修行時代

当店を引き継いだブランカッセ代表 福士昴生氏(以下、福士氏)は、20歳の頃にケーキ職人を志し、修業の道に足を踏み入れた。
先代は、青森県内で洋菓子店を展開する企業を30代半ばで退職し、家族を支えながらも自分の夢に挑戦して独立開業を果たした。その姿を見て育ってきたと福士氏は語る。
「当時、私は調理の専門学校に通っていましたが、自分が職人として生きていくことに、まだ自信を持てていませんでした。父は、家のローンもある中で独立開業に踏み切っており、自信を持って自分の道を歩んでいるように見えていました」
福士氏は、専門学校を卒業後、東京や青森の一流ケーキ店やブライダル事業会社でケーキ作りの修行を8年間経験した。修行中は、休日もケーキ作りに夢中で取り組んでいたという。
「とにかく、ケーキ作りが大好きで、夢中で取り組んでいるうちに、少しずつ自分の腕に自信が持てるようになりました」
その後、弘前で店を営む父が体調を崩した時期に、福士氏は父の事業を継ぐ意志があることを話した。その際、父から「店を継ぐのは良いが、同じお店をやるのは駄目だ」と言われたという。
福士氏は、ケーキ販売店という業態は、材料や製法、装飾技術など、常に新しいものを取り入れていかなければお客様から支持を得てお店を続けていくことができないということを父から学んだと述べている。
事業を引き継ぐ手前で考えた変化と転換の方向性
福士氏は、他店で修行をする期間中に、父が経営する店を客観的な目で見る時間が持てたという。
「父が得意としていた似顔絵イラストケーキは、客観的に見てもクオリティが高いと感じていました。他方、お客様が声を揃えて“安い“と仰っていただいていたのは良いのですが、商売として採算に見合った価格設定ができていなかったと見ていました」
また、多くのお客様にリーズナブルな価格の手作りケーキを沢山作って提供するために、休みなくお店を営業する状態であり、店主家族の生活と商売との両立という観点で課題を感じていたという。
さらに、弘前市にやってくる観光客が増える中、周囲の他店が観光客も取り込んでいたことに比べ、父の店にはイートインのスペースがなく、商売の機会を逃しているのではないかと考えていた。
「弘前市では、“アップルパイガイドマップ“という冊子を配布する取り組みをしています。ガイドマップを見て、来店される観光客がいます。せっかく観光客の方にうちのお店に来ていただいても、観光客には帰って食べる場所がなく、需要を取りこぼしているということに気づきました」
このように客観的な目で父の店を見ることで、自分が実家のお店を継いだ時に取り入れられそうなやり方、工夫、新しいアイデアなど、イメージが次々と湧いてきたことに加え、自分の調理技術への自信が高まり、父親の店舗経営やケーキ作りのやり方を変えていくための気づきを得ていった。
「父から言われていた”同じお店をやるのは駄目だ”という言葉の意味が実感できていた時期でした」

理想イメージが明確になるにつれて実感した事業承継時点で必要になる初期投資
2021年の後半から、父親の体調面での不調が続き、いよいよ事業を継ぐための具体的な会話を親子間でするようになった。いざ、お店を引き継ぐこととなった段階で、自分なりに事業を切り開いていく自信は十分にあったが、新しく事業を始めるための資金調達をどう進めて良いかについては、全くわからずに困っていた。
「中途半端な店舗増強では、必要なお客様へのサービスができないことがわかっていました。自分の構想を実現するための設備投資や店舗改装をする場合、どのくらいの資金が必要で、その資金をどのように調達して良いのかが皆目見当もついていない状況でした」
まず、店舗が古くなっていたことから、若い世代の顧客を増やすために店舗の改装が必須であった。しかし、店舗だけリニューアルをしても、客数増加に見合った商品を提供するための内部の設備が不足していた。さらに、これまで取りこぼしていた観光客の需要を取り込めるスペースも作りたかった。
そのため、店舗の外側だけでなく、内側の設備から抜本的に見直していくために、「中途半端ではない理想のお店づくりのための初期投資が必要でした」と福士氏は話す。

支援者との出会いと「挑戦」に向けた計画づくり~計画の具体化による先代の事業承継GOサイン

福士氏は、理想のお店作りを実現するための初期投資に道筋をつけるため、2022年1月に「ひろさきビジネス支援センター」に支援を求めて訪問した。石川シニア・インキュベーションマネジャーの支援のもと、青森県の制度融資の利用を視野に入れ、事業計画の作成に着手することとなった。
石川シニア・インキュベーションマネジャーは、当時を次のように振り返っている。
「初回面談は、福士様と奥様でお越しいただき、夢の実現に向けた資金調達のご相談を受けました。青森県では、県の制度融資を利用する事業者が多く、これまでの支援事例をお話しし、お二人に計画策定支援から制度融資活用までのイメージを持っていただきました」
「計画を策定する中で、福士さんの中で事業のイメージが明確になり、それを先代に話す過程で、事業承継に対するGOサインがでたと記憶しています」
福士氏が、「お店をこう変えていきたい、ネットを通じた販売にも挑戦してみたい」と石川氏にアドバイスを受けながら策定した計画の構想を話していく中で、先代から「では、やってみなさい」という言葉をもらえたという。
事業承継・引継ぎ補助金にて申請した経費
- 店舗の内装工事費
- 冷蔵ショーケース
- プレハブ冷蔵庫及び冷凍庫の屋根工事費
- その他の経費
事業計画策定と平行して取り組んだ補助金活用のための書類作成
事業計画策定の取り組みが進む中、福士氏はインターネット検索して見つけた「事業承継・引継ぎ補助金」の活用についても検討し、石川氏に相談を持ちかけた。
父である先代からの事業承継を予定し、設備投資資金の調達を進めていた福士氏は、事業承継・引継ぎ補助金の「経営革新枠」に応募を希望していた。
「策定した事業計画を参考に、福士さん自身に補助金の申請書や計画書を作ってもらいました。第三者から見て、わかりやすくなるように書き方のアドバイスをしました」と石川氏は話す。
計画の中では、市場調査と環境分析を行っており、それらの情報が補助金の申請時に必要情報として活用できたこと。また、先代とは異なるやり方での事業を計画、数値計画も作成していたことで、補助金の申請に必要な条件はほぼクリアできていたのではないかと石川氏は振り返っている。
創業や補助金の申請に必要な計画づくり通じて得た気づきと学び
石川シニア・インキュベーションマネジャーは次のように述べている。
「創業計画を策定する過程で、先代の時代の客単価、販売商品種類、販売個数の分析も行いました。売れていた商品は、想定通りイラストを描いたデコレーションケーキでしたが、客単価が低いことを福士さんが実感していたと思います」
これにより、先代の経営による売上やコストの構造をしっかりと把握する機会となり、自身が経営に工夫を加えていくことで、事業としての成功につながるという実感も得られたのではないかと話す。
一方、福士氏は次のように振り返る。
「自分のやりたいことを事業計画という形で文字に起こしはじめると、頭の中だけで考えていたやりたいことのイメージが次々と思い出され、追記していく流れになりました。現在は、その計画に沿って事業を行っていますが、迷ったときには計画に自分で書いたことを思い出し、当初の計画からぶれない活動を実践することに役立っています」
また、補助金には事業化状況報告(※)の義務もあり、計画して申請したことを忠実に実行しようと考える意識にも繋がっているという。
※事業化状況報告:事業者は、補助金を受給した後、毎年の決算数値等を数年間にわたり報告する必要がある。

先代の技術と顧客基盤を兄妹で引き継ぎ、さらに飛翔した理想の店舗経営を実現
先代が得意としていた、似顔絵イラストをケーキに描く技術は、現在、福士氏の妹が承継し、店舗で体現している。お店をリニューアルしたことで、これまでにお店に通ってくれていた既存顧客に加え、若い世代の顧客層も新たに増えている。
事業承継後に開始したお店のInstagramの反響もよく、SNSを通じた商品受注も着実に増加している。さらに、地元テレビ局の番組でのお店紹介がきっかけでスタートした、近隣のショッピングセンターでの催事出店も好調である。店舗の内外装だけでなく、生産性を向上させるための設備投資が功を奏し、これらの売上獲得に繋がっている。
補助金の申請時に5年間の売上計画を作成したが、事業承継後2年で最終5年度目の売上計画数値を達成した。
今後の事業について、福士氏は次のように語る。
「想定以上の反響があり、おかげ様で顧客数も売上も増加しました。現在は、対応できるキャパシティの限界が近づいており、今後は人員体制の見直しやさらなる生産性の向上が課題になります」
創業時に計画策定支援を行った石川氏は、
「次なるステップに向けてのアドバイスも可能であり、必要に応じて相談に来て欲しい」と話す。
本事例は、個人事業主としての親子間の事業承継に際し、支援者の創業計画作成支援が多面的な効果を発揮した事例である。事業計画の策定は、金融機関からお金を借りるため、補助金を受給するためだけでなく、事業者が頭の中で描く構想を可視化することで、その後の事業の具現化、目標達成に向けた事業者の行動実践にも結びつく効果があることを改めて示すものである。


活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金 |
年度:令和3年度 |
枠・型:経営革新枠 |
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なります。
最新の補助要件については、必ず各制度の公式情報をご確認ください。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ブランカッセ
- 創業・設立
- 設立2024年10月(創業2022年8月)
- 従業員数
- 4名
- 代表者
- 福士 昴生 氏
- 所在地
- 青森県弘前市城東北1丁目9-7
支援機関データ
- 支援機関名
- 青森県中小企業団体中央会
- 所在地
- 青森県青森市本町2-9-17
- 支援機関名
- ひろさきビジネス支援センター(青森県中小企業団体中央会 弘前支所内)
- 所在地
- 青森県弘前市大字土手町31番地 土手町コミュニティパーク内コミュニケーションプラザ棟2階