2025.04.04

  • 医療,福祉
  • IT導入補助金

生産性向上に取り組む企業事例

地域の“介護の町医者”のような存在でありたい、ITを活用し地域密着型の介護サービスで地域を支える

代表取締役 鈴木健太郎氏

ポイント

  • 他業界・他業種の知見を融合し、自社の課題を見出す
  • 事業成長に合わせた課題の抽出
  • 課題に対し、効果的なITツール導入で確実な効率化を
兵庫県神戸市は、2020年の国勢調査によれば近畿地方で大阪市に次いで人口が多く、地域密着型の介護サービスのニーズも高いエリアである。また、神戸港を有し日本を代表する港町・港湾都市とも言える。この町で介護業を営んでいるのが、有限会社鈴木在宅ケアサービスだ。同社は現在代表を務める鈴木健太郎氏の母にあたる先代が1999年に創業した会社である。
 
同社の社是は“住み慣れた地域で、その人がその人らしくその人の人生をまっとうできるよう、人間愛に満ちた心優しい介護を提供し、地域連携の中心となり、地域の在宅介護を地域全体で支えていけるように努める”というものであり、地域に対しての温かな想いが伝わってくる。同社は垂水区の南部を中心に活動しており、居宅介護支援、訪問介護、通所介護、サービス付き高齢者向け住宅、外出サポートなど様々なサービスを展開しており、地域に根ざした在宅介護サービスを提供している。地域密着型企業として、地域ごとにエリアを区切り、最適化したワンストップの介護サービスを提供できることが、同社の大きな強みである。

他業界からの転身、知見を活かした経営

「もともと私は大学卒業後にタイヤの販売会社で、法人営業をやっていました。弊社は薬剤師だった母が1999年に創業した会社なのですが、事業を拡大するタイミングで母から介護事業をやってみないかと話しがあり、その話しを受け今現在は私が代表を務めています。代表に就任して9年くらい経過したところです。」と鈴木代表は話す。
全く異なる業界からの転身は、自身に知見やノウハウが無い分、非常に難しい選択と言える。そこに経営者としての立場も加われば、意識しなければいけない範囲も更に増える。
 
「介護業界は、他の業界に比べてデジタル化や業務効率化への変革速度が遅いイメージがあります。他業界でのスタンダードを少し持ってくるだけで、色々な事が変わると思うのですが、業界ごとに色や風習等があるのも事実です。しっかりと業界の色に馴染んでいきながら、他業界の感性を入れていくのが重要だと思っています。」と、鈴木代表は語る。
先代である母とは、経営や運営面で衝突することもあった。そこには先代の意思や想いはしっかり引継ぎながら、次代にあわせて変化すべき部分は変化しなければいけないという鈴木代表の覚悟があった。築いてきた信頼やノウハウ、事業基盤を活かしながら、外部のエッセンスを融合させていく、他業界を経験した鈴木代表だからこそ生まれる発想である。

雇用拡大・利用者増加に伴う課題と解決へのアプローチ

同社の従業員は、社員28名、パートタイマーが39名、登録型ヘルパーが43名、全体で100名強の従業員を抱えている。これだけの雇用を垂水区内で創出しているというから驚きである。
「弊社のスタッフは、概ねこの地域に住む方々で構成されています。地域密着というのはサービスを利用して頂く方だけではなく、その地域の雇用も生み出すことで、より地域に貢献したいと思っています。特に社員に関しては募集して採用するというよりは、主婦の方がパートタイマーから社員になるケースが多いです。」
事業を展開していくには必ずそこに労働力となる雇用が必要となる。その雇用を地域でしっかり生み出し、地域に対して介護サービスを提供する。まさに理想的な地域貢献といえる。
 
他方で、サービスの利用者も増加する中、業務上の課題も露わになってきていた。
「デイサービスの登録者は約60名前後、利用者が増えれば管理が必要となる情報量も増えるため、さすがに手書きや紙ベースでの対応も難しくなってきていましたし、何より事務作業が負担となり利用者の方々と接する時間が減ってしまうのは本末転倒ですので、その部分をまずは解決できないかということで、ITツールの導入を検討していました。」
 
その頃ちょうど、事業所の事務機器などをお願いしている関係で、先代の頃から付き合いのあったベンダーから介護福祉関係のITツールの紹介を受けていた。話しを聞けば、今課題となっていた利用者の情報管理や日報業務などをデジタル化し効率化できる機能を具備していることが分かり、導入を決めたという。
事業所の様子

ITツール導入後の成果

同社のITツール導入では、大きく2つの成果があったという。
「1つは、バイタル※等の日々の記録が効率化できたことです。利用者のバイタル記録について、以前は事業所のパソコンで入力する必要があり、事業所のパソコンの順番待ちのような場合もあり非常に非効率でした。ITツール導入後は、ソフトと同時に導入したタブレット端末を活用して、数が限られた事業所のパソコン以外からでも記録が可能になり、入力の簡易化ができ、パソコンの順番待ちも無くなったため、時間と手間が大幅に削減され、業務効率が向上しました。
 
2つめは、介護記録情報が一元管理できるようになったことです。以前までは複数の帳票に同じような情報を転記する必要がありましたが、情報が一元化されたことで転記等の手間がなくなりました。日に30人程度の利用者情報を管理する必要がありますので、この点が一元管理できるのは非常に大きなメリットでした。IT導入補助金を実際に活用するまでは、ハードルが高いイメージがありましたが、チャレンジしてみるとその効果や資金面での恩恵も非常に大きいと感じました。」ITツールの導入効果を鈴木代表はこう話してくれた。
また、導入前後のITベンダーのサポートもかなり丁寧でフットワークも軽く、ITツールに関する相談などをした際の対応も非常に早く助かっているという。
タブレット端末を用いたITツールの活用風景
現状の課題を認識し、その課題に対するアプローチの検討、そして同社のように信頼のおけるITベンダーを選定すること、こういったポイントをしっかり抑えて計画的にアクションを起こすことが重要である。
 
※バイタルとは 、「バイタルサイン(vital sign)=生命のサイン」を略した言葉です。介護現場においては「体温」「血圧」「脈拍」「呼吸」の4つを表します。

今後の事業展開について

「介護業界も少しずつIT化は進んでいるものの、他業界と比べて見ればまだデジタル化は、遅い方だと思っています。私としては最先端を求めるというよりは、日常業務から少しずつIT化を進めていき、介護スタッフが利用者との時間をできるだけ増やしたいと思っています。そしてそのような取り組みの中で介護業界の標準を少しだけ引き上げる存在でありたいと考えています。」同社の今後の在り方について、鈴木代表はこう話す。
 
IT化により自社の課題を解決しながら、地域密着型の介護事業者として地域社会へ貢献し続けるモデルケースとして、これからも成長し続ける企業であって欲しいと願う。
活用した補助金
IT導入補助金

企業データ

設立
1999年
従業員数
約110名
代表者
代表取締役 鈴木 健太郎 氏
所在地
兵庫県神戸市垂水区泉が丘4丁目1番36号

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