2025.01.28

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例

補助金活用で生産性向上!コーヒー関連事業でさらなる成長を展望する企業事例【ものづくり補助金活用事例】

事業所外観
事業所外観

ポイント

  • 補助金活用で効率的な増産体制を実現
  • 品質の安定化と職場環境も改善
  • 社長のコーヒーへの熱い思いを推進力に海外展開や新規事業に挑戦

大分県別府市の株式会社三洋産業は、自家焙煎コーヒーやオリジナル器具を手がけるコーヒー業界の老舗企業。ドリップコーヒーやコーヒーペーパーフィルターの先駆的企業であり、現在、コーヒーペーパーフィルターを製造している企業は九州では同社のみ。独自の技術や製法は世界からも注目を集めており、多くの外国との取引もある。また、国内では外食事業も手掛けている。

同社の主要商品(例)
同社の主要商品(例)

コロナ禍でのドリップコーヒーの需要増加で、生産能力を超過する

三洋産業は、1973年に親族が経営する会社から、製造部門を分離独立して設立され、コーヒーペーパーフィルターをロースター(焙煎事業者)向けに販売してきた。円錐型のペーパーフィルターを世界で最初に作った会社は同社であり、現在では、コーヒーペーパーフィルターを製造しているのは九州では同社のみとなっている。

2代目である中塚社長は「これからの時代、コーヒーはもっと進化する」という思いから、入社後まもなくティーバッグ充填包装機を導入し、コーヒーバッグ事業を展開。現在では、家庭でもドリップコーヒーが主流になっているが、業界では同社が1997年頃から先駆けて製品開発した。以降は自社製品だけでなく、特にコーヒーペーパーフィルターのプライベートブランド(PB)商品の依頼も増え始めた。2001年には、焙煎機を導入し焙煎事業にも参入した。
2016年には、「家庭で大切な家族や仲間とおいしいコーヒーを飲んで笑顔になってもらいたい」との思いからコーヒー器具部門の新ブランド「CAFEC」を立ち上げし、自社ブランド製品にも注力している。

同社の強みは、マーケットインの考え方に基づき、顧客ニーズに応じた商品展開ができている点にある。PBのドリップコーヒー製造においては、顧客の製造するコーヒー原料にて充填製造が可能であり、パッケージデザインの自由度、そしてフィルムの製作から製造までワンストップ対応、顧客ニーズに合わせたロットにて提供といった多様性がある点が特長である。
コロナ禍であった2020年~2022年においては、食生活にも大きな影響があり、内食化の動きが進んだ。同じくコーヒー業界においても、需要が拡大し、家庭でも本格的なコーヒーを求める購買層が増加したため、専門性の高い商品に対する顧客ニーズが高まった。

このような背景から、同社のドリップコーヒー製造部門では、商品力の強化を進め、市場環境に対応を図った結果、収益拡大が続いていた。一方で生産現場では、生産能力を超過する状況が続き、様々な問題が浮上していた。

大分県産業創造機構の支援により、生産効率向上と労働環境改善を目指す設備投資を計画

当時の製造現場の主な課題は以下であった。

1.受注増加への対応
生産キャパシティを超過した状態が続いており、生産性を向上させるための設備投資が必要

2.品質の更なる向上
歩留り改善による不良品削減、品質向上を目的とした設備投資が必要

3.生産遅延の改善
PB製品の納期遅れを解消し、自社製品を含めた増産に向けた生産体制の再構築が必要

4.業務負担の軽減
時間外労働および間接作業を軽減するため、省力化の取り組みが必要

上記の課題解決のため、ものづくり補助金を活用して製造ラインを増設することとした。充填包装機の高速化を図るとともに、搬入および検査工程を自動化し効率的な生産を実現し、生産能力を1.3倍まで向上させる事を目指した計画策定に取り組んだ。
この計画の実行においては、経営戦略管理本部の菅氏が補助事業の実施担当者となり、製造現場からは経営製造管理本部の原工場長が、設備導入・検証を担った。
さらに、県内の中核支援機関である大分県産業創造機構に認定支援機関としてのサポートをお願いした。同社が策定した事業計画に対して、同機構の安部マネージャーから補助金採択の可能性を高めるアドバイス等をいただき、磨き上げを繰り返し、採択に至った。

コーヒー充填部門(ドリップコーヒー製造)の主要工程と設備投資のポイント
コーヒー充填部門(ドリップコーヒー製造)の主要工程と設備投資のポイント
ものづくり補助金等を活用して導入した新生産ラインと製造の様子
ものづくり補助金等を活用して導入した新生産ラインと製造の様子

補助金活用で設備導入し、生産性向上と職場環境改善を達成

ものづくり補助金を活用して、新たにドリップコーヒーの充填加工ライン(5号機)を設置することで、製造現場の課題解決に大きく貢献した。
具体的には、充填加工工程にて充填包装機を導入したことで、生産性が既存装置に比べ33%向上した。原料投入にはワンバケット昇降機を導入し、これまで手作業で高い位置にある充填包装機ホッパーに投入していた工程を自動化(自動昇降機による原料投入)し、作業効率化と労働者の作業負担の軽減を果たせた。
更に製品検査工程では、高性能の金属検出機能付きオートチェッカを導入し、計量と検査を一括で処理できるようになり、精度向上と省力化を達成している。この新設備は従来の機械よりも高性能で、最大15グラムでの充填に対応可能である。これにより、需要が高いマグカップ向けの大容量ドリップコーヒーにも対応できるようになった。
これまでの人員配置はオペレーター1名、製品梱包者1名、物量により検査補助員1名、計3名で対応していたが、新ラインではオペレーター1名、製品梱包者1名での運用が可能となり省人化、省力化を果たせた。

結果、充填包装機の高速化に加え、搬入・検査工程を自動化したことで効率的な生産を実現し、生産能力を1.3倍(目標比101%)まで向上させることができている。

原工場長は、「これまでは4ラインで運営してきたが、年末に向けて受注が増える傾向で終わりが見えず、製造ラインでは残業がいつまで続くのだろうと身も心も疲弊していた。現在は、補助金を活用して5ラインになった。生産性・安全性は飛躍的に改善し、残業時間も削減され、従業員にも余裕が生まれた。また、省スペース化も図られ、作業性も向上した。」と多くの成果を述べている。
また、認定支援機関である大分県産業創造機構からは、補助事業期間中の進捗の確認と実績報告時の効果検証並びに事業化に対するフォローアップによる伴走支援が続いている。

今後の展望と新たな挑戦~海外展開や小規模飲食店への貢献

製造余力を確保したことにより受注が拡大し、売上は年平均4%の伸長で堅調に推移している。新規および既存顧客の受注数は、継続的に増加しており、さらにコーヒー関連業種以外からのPB受注も拡大傾向にある。

原工場長は、「現状、人手の確保や稼働率のばらつきに対応するため、閑散期の生産計画や体制の構築とさらなる生産性向上を目指す取り組みの必要性がある。また、今後の売上拡大に対応するため、中長期には生産機械や資材倉庫などの環境整備を行っていきたい」と語る。

中塚社長は、父親を先代とする2代目。入社当初、別府市内のホテルで料理人の修業を命じられる。その後、京都のセントラルキッチンで冷凍食品の製造を経験し、27歳で三洋産業に復帰。復帰後は商品開発や、国内の広範囲にわたる地域の営業を担当し、同社の成長をけん引してきた。「本当に美味しいコーヒーを追求する」国内の第一人者でもある。

中塚社長は、「当社では3つの自社ブランドを保有している。コーヒー器具のCAFEC、自家焙煎コーヒーのYOUMECA、四季料理店の百膳の夢。これらを大切に育てていきたい。」と語る。そのため自社商品の開発と販促強化を継続し、現在、自社ブランドの売上は年々増加傾向にあり、売上構成比は会社全体の20%まで拡大している。 

また、海外展開に注力しており、既にコーヒー器具のCAFECブランドは80か国への輸出実績がある。ドリップコーヒーについても、「海外市場では、ドリップコーヒーの文化がまだ広まっていない地域も多いため、そこに新たな需要を生み出したい。例えば、水出しコーヒーバッグなど、海外の顧客ニーズに対応した商品開発を推進し、輸出拡大に向けた取り組みを強化している。」と語る。

飲食事業としては、社内にセントラルキッチンを保有し、ビーフシチューなどの小ロットでの冷凍グルメ食品の製造・販売を手掛けている。「国内の小規模飲食店では、料理人の人手不足などで悩んでいる事業者も多いはず。小規模飲食店が効率的に料理提供できるように支援することで、中小飲食業界に貢献したい。」との熱い思いを語る。

大分県産業創造機構の安部マネージャーは、「補助金の申請支援は、これまでも多数行ってきましたが、正直、三洋産業の支援はやり易かったです。申請企業が主体的に計画を作っており、補強したのは販路開拓のあたりを助言したくらいです」と述べる。

申請企業内で課題が抽出され、取り組み体制が整っている企業においても、限定的でも外部支援者が計画策定に関与することで、課題がより明確化され、設備投資による大きな成果を得ることができる好事例であった。また、的確な設備投資で、生産性が飛躍的に向上した本事例は、中塚社長が展望するような新たな事業領域での成長への足掛かりにもなっている。

(右から)株式会社三洋産業 原昌平工場長、中塚茂次代表取締役社長、幸貴之広報部部長、菅智士補助金・施策担当、公益財団法人大分県産業創造機構 安部雅浩マネージャー
(右から)株式会社三洋産業 原昌平工場長、中塚茂次代表取締役社長、幸貴之広報部部長、菅智士補助金・施策担当、公益財団法人大分県産業創造機構 安部雅浩マネージャー
中塚茂次代表取締役社長は自社の展望を熱く語ってくれた
中塚茂次代表取締役社長は自社の展望を熱く語ってくれた

活用した補助金
- ものづくり補助金

企業データ

企業名
株式会社三洋産業
設立
1973年
従業員数
140名
代表者
中塚 茂次氏
所在地
大分県別府市富士見町7番2号

支援機関データ

支援機関名
公益財団法人 大分県産業創造機構
所在地
大分県大分市東春日町17-20ソフトパークビル

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