2025.11.18
- 製造業
- 持続化補助金
支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(KAIO LURES)
海に面していない町から大海原へ、補助金を追い風にウッドルアーの挑戦

この記事のポイント
- 実父の一部事業を承継する形で創業するも直面していた課題
- 熊本市託麻商工会への相談と補助金活用が課題解決への道だった
- 事業体制を整え、更なる事業拡大を目指す
「KAIO LURES(カイオウ ルアー)」は、ウッドルアー(釣りの際に使用する木製の疑似餌)の製造事業者である。その製造工場が所在する熊本県菊池郡大津町は、熊本市と阿蘇山との中間に位置し、熊本空港や九州縦貫自動車道熊本インターチェンジが近くにある田園産業都市である。海に面していない大津町でウッドルアーの製造を行い、大海原で釣りを楽しむ人々の笑顔に常に思いを馳せ続ける若者こそが、「KAIO LURES」代表の谷本祐樹氏である。谷本氏自身も釣りが趣味で、週末になれば釣りに出かけると語る谷本氏に話を聞いた。
父の一部事業を引き継ぎ、ウッドルアー製造で独立創業へ
「KAIO LURES」は、谷本氏の父親が経営する釣り具製造会社から独立し、事業を引き継ぐ形で創業した。父の会社は、親族が経営するインドネシアの工場で製造したウッドルアー等の釣り具を輸入し、主に釣具店への卸売を行っていた。
そんな父の背中を幼い頃から見ていた谷本氏は、自然とウッドルアーに興味を持つようになった。2017(平成29)年から父の事業を手伝い始め、高齢になってきた父から一部事業を引き継ぐ形で、2022(令和4)年1月、自宅兼事務所で個人創業に至った。
ルアーは、狙う魚種により形状や重量、外観が異なり、バラエティーに富んでいる。「KAIO LURES」が取り扱うウッドルアーは、文字どおり木製であり、角材を魚の形状に切り出し、そこに穴を開けて鉛を注入、さらに天然アワビ等の貝殻を砕いたものを自社製の特殊接着剤で貼付ける工程を経て完成する。
一般的なプラスチック製ルアーは、大量生産が可能で安価な反面、水面上を滑るような規則性のある動きをする。一方で、「KAIO LURES」のウッドルアーは木製のため水を吸い不規則な動きをすることから実際の魚の動きに近くなり、獲物の魚を騙しやすい特徴がある。
加えて、このウッドルアーは試作段階で、釣り上級者による試作品テストを繰り返し行っており、その品質の高さが顧客からの高評価に繋がっている。
また、SDGsの目標の一つである「海の豊かさを守ろう」がプラスチック製ルアーに代わり、環境に配慮した釣り具としてウッドルアーが見直されていることは追い風になった。

外側に貼る貝殻の模様が各々異なるため、世界に一つだけの製品となる
不良品対応の悩みから補助金活用へ、商工会が伴走支援
高齢の父の事業を将来的には完全に承継したいと考えていた谷本氏は、父の会社の一部の取引先を引き継ぐとともに新規顧客開拓で多忙な毎日を送る中、ある課題に直面していた。
「インドネシアの製造工場で生産されたウッドルアーの2〜3割が、どんなに厳重に包装しても、日本への輸送中に傷付き、商品として販売できなくなっていた。傷ついた不良品をインドネシアに送り返す時間的ロスと運送コストが経営を圧迫していた」と谷本氏は当時を振り返る。
谷本氏自身もインドネシア工場に何度も足を運び、ウッドルアーの製造工程は習熟していたため、「日本に製造拠点を持てば、不良品をインドネシアに送り返すことなく、自分で不良品の修理が出来るとともに、ウッドルアーのオーダーメイド受注や他社製品の修理にも対応可能で、販路拡大にもつながる」との思いがあった。しかし、創業した直後だったこともあり、設備投資を行うための資金的な余裕は皆無であった。
そこで、父が熊本市託麻商工会の会員だった縁もあり、父からの完全な事業承継を含めた課題について熊本市託麻商工会に相談した。対応にあたったのは、熊本市託麻商工会で父の担当だった古閑和弘経営指導員である。谷本氏の抱えた課題について親身に相談に応じてくれたうえで、国内製造拠点の構築に、持続化補助金が活用できると提案してくれた。
谷本氏にとって、初めての補助金申請であったこともあり、補助金申請は困難の連続ではあったが「古閑経営指導員が、基本的なことから丁寧に教えてくれたお陰で乗り切ることができた」と感謝の念を込めて話してくれた。
一方、古閑経営指導員は、「谷本氏には、単に補助金申請の相談ではなく、これからの経営を見据えたものにしたいと強く思っていた。そのため、申請書の作成も商工会任せにするのではなく、自主性を持ちながら取り組んでもらった」と語る。
具体的には、申請書に盛り込みたい内容をあらかじめ箇条書きにしてもらい、何回も意見交換を行いながら、文章として肉付けする作業を重ね、最終的には谷本氏自身で完成させた。申請書に掲載するデータ等も、同様の方法で精緻化することを心掛けた。谷本氏の事務所が商工会から5分程度と至近だったこともあり、谷本氏は頻繁に足を運び、実務を進めたという。
このように、古閑経営指導員の熱心な対応もあり、創業した2022(令和4)年、国内製造拠点に設置するウッドルアー製造のための機械購入費用、及び取扱商品を周知し販路拡大を図るホームページ作成費用として、持続化補助金の採択を受けることができた。補助金を活用することで、創業した年に課題であった国内製造拠点の整備を実現できたことが、その後の順調な推移に繋がったのである。

国内製造拠点の整備で売上4倍に成長
国内製造拠点を開設できたことで、「KAIO LURES」の事業は飛躍的に向上した。これまで、インドネシア工場からの輸入に依存していたが、国内でもウッドルアーの製造・修理が行えるようになったことで、現在では国内だけで最大50個/月のウッドルアーを生産できる体制が整った。
補助金を活用したホームページ開設も相まって、新規取引先を開拓することができた。これにより、販路の拡大とともにブランド認知も高まりつつある。
また、これまでインドネシア工場から日本への運搬中に、傷付いて売り物にならなくなっていたウッドルアーの修理も国内で完結することが可能となり、インドネシアに送り返していた際の様々なコストを削減することができた。
ホームページで周知したこともあり、オリジナルルアーの製造や、他社製品の修理の依頼も舞い込むようになった。徐々に進めた父からの事業承継分の売上分を含むとは言え、創業年2022(令和4)年と比較し、2024(令和6)年の売上高は約4倍まで拡大した。

補助金申請が気付かせた「考える経営」への転換
持続化補助金の申請をきっかけに谷本氏は経営に関する姿勢が変化したと話す。
もともと父の事業を手伝い、その事業を引き継いだことで、父の事業スタイルを踏襲しつつ国内製造拠点を設置すれば、ある程度の推移は見込めると当初は考えていたようだ。
しかし、「古閑経営指導員に何度も相談しながら、申請書を作成する過程で、頭の中で考えていることを実現するためには、文書化して計画性を持たなければいけない」ことに気付いた。
「今後の展開は、しっかり事業計画を作成して取り組みたい。現在は製造依頼の新規注文が多過ぎて、ウッドルアーの製造が追い付かない状態につき、最新設備を増やしたいし、雇用も増やしたい。製造拠点を自宅兼作業場が確保できる場所に移転も検討したい。将来的には、国内でのウッドルアー製造を最大200個/月まで対応できる体制を整えたい。そのためには、今後も事業計画を作成しながら進めていくつもりですし、補助金も活用したい。」と将来に向けての豊富な展望を谷本氏は語ってくれた。
谷本氏は現状に甘んじることなく、関西地方を中心に釣具店を個別に訪問し23店舗と新規取引を開始。さらに、年4回程度開催される釣り具イベントにウッドルアーを出品し、その場で参加者から改善点等の意見を聞いたりするなど、これまでも精力的に事業活動を行っている。SNSや口コミで評判が広まったのか、今年に入ってから海外客6名からの購入もあった。
商号「KAIO=海王」の名前に込められた海の王者を目標とする「KAIO LURES」製ウッドルアーの今後の展開から、今後も目が離せない。
| 活用した補助金:小規模事業者持続化補助金 |
| 年度:令和元年度補正予算 第7回 |
| 枠・型:一般型 |
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。
最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。
企業データ
- 企業名
- KAIO LURES
- 設立
- 2022年1月
- 従業員数
- 3人
- 代表者
- 谷本 祐樹 氏
- 所在地
- 熊本県菊池郡大津町大字杉水3603‐1
支援機関データ
- 支援機関名
- 熊本市託麻商工会
- 所在地
- 熊本県熊本市東区長嶺東7丁目9‐8







