2025.10.21

  • 卸売業,小売業
  • 持続化補助金

支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(有限会社村田金物店)

地域に選ばれる店へ。村田金物店の補助金活用と意識改革

左から 下関市商工会の岡田昌之経営指導員 代表取締役の村田敏之氏

この記事のポイント

  • 長年の業歴を背景とした安定経営の一方で、抱えていた悩み
  • 商工会指導員の適切なアドバイスと補助金活用が、斬新な発想を後押し
  • 修理の「見える化」で安心を提供、今後も地域経済に貢献したい
チェーンソーで世界トップブランドであるドイツのSTIHL社が認定する優良店「STIHL Shop & Partner」は、山口県内で村田金物店1社のみ。金物業等での長年の業歴を背景に地元での認知度も高く、親子3世代にわたる強固な顧客基盤もある。この安定した地位に決して甘んじることなく、持続化補助金を活用した積極的な取り組み事例を紹介する。

70年の歴史と信頼を築いた地域密着型の老舗企業

約70年にわたり地域に根ざしてきた同店は、2代目である村田弘政氏(現代表・村田敏之氏の父)により、2001(平成13)年に有限会社村田金物店として法人化された。その後、2021(令和3)年12月、3代目の村田敏之氏が代表取締役に就任した。売上構成は、燃料販売(LPガス・灯油)、林業従事者などプロ向けの機械販売(チェーンソー等電動工具)を主軸とし、日用雑貨・家電製品販売・設置工事なども手がけている。

法人化の前年2000(平成12)年には、「とよたショッピングセンター・ラピール」内に「ライフボックス・ムラタ」として店舗を出店。現在は、林業従事者などの顧客は県外からの来訪者もある一方で、近隣住民にとってもなくてはならない唯一無二の存在となっている。
「ライフボックス・ムラタ」の外観

世界ブランドSTIHL製品の販売とメンテナンスで差別化

有限会社村田金物店の本社がある下関市豊田町は、山々に囲まれた自然豊かな中山間地である。水稲や野菜などの農業も盛んであり、林業や農業への従事者が多い。このような地理的背景を踏まえ、同社では従来から国産メーカーの電動工具を取り扱ってきたが、2018(平成30)年から、世界的ブランドであるドイツのSTIHL社製品の取り扱いを開始した。STIHL社製品を取り扱うには、当然のことながら様々な適格要件が存在し、とりわけ消耗品交換や修理等のアフターサービスまでを一貫して行うことがSTIHL社の販売ポリシーである。

アフターサービスに関して厳格な試験制度があり、技術者は3段階の資格に分類される。有限会社村田金物店では3名が最上位の資格を取得しており、その技術力が評価された。山口県内でSTIHL社から認定を受けているのは同社ただ一社である。卓越したアフターサービスを強みの一つとして、順風満帆に思える有限会社村田金物店だが、村田社長は当時を振り返り、ある悩みを抱えていたと語る。
「ライフボックス・ムラタ」の店内の様子。STIHL社製品の充実した品揃え

得意を活かしたい。見えない悩みと工房構想の始まり

「幼い頃から手先が器用で、修理などの細かい作業は得意でした」と語る村田社長は修理作業などアフターサービスにも率先して取り組んでいた。しかし、「ライフボックス・ムラタ」の店舗軒下に小さなテーブルを置き、そこで修理作業をしていても、来店客から注目されることは少なく、自身の得意分野には誰も関心を寄せてくれないという寂しさを感じていたという。

修理工房のようなものを設置すれば、実際の修理などアフターサービスを来店客に見てもらえるのではないかとの考えは浮かんだものの、そのための設備資金をどのように調達したらよいか悩んだ。

また、会社全体の課題として、安定収入の柱であった燃料販売(LPガス・灯油)は、住宅の電化リフォームの進行や、人口減少・空き家増加といった地域の変化により、今後は需要の減少が想定された。会社全体の将来的な収益力を維持していくためには、どのような打ち手があるか、模索する日々が続いていた。

補助金採択を支えたのは、丁寧な対話と具体的な分析だった

村田社長は、自ら補助金制度について調べ、メンテナンス用の工房を設置する資金として補助金を利用できるのではないかと考えた。しかし確信がなかったため、以前から常に相談に乗ってもらっていた下関市商工会に相談することにした。村田社長は若い頃から下関市商工会青年部に所属(現在は青年部OB)しており、下関市商工会には元々馴染みがあった。対応にあたった下関市商工会の岡田昌之経営指導員は、村田社長の構想を丁寧に聞き取った上で、「メンテナンス工房」に関する全体構想と将来的な人口減少から想定される売上低下の課題についても把握した。岡田経営指導員は、今回の設備投資による効果や会社全体の収益推移予測を分析し、工房の設置は、収益性の高いアフターサービス部門をさらに強化し、会社全体の収益力向上にもつながる可能性があると丁寧に説明した。

工房の外観デザインや工具の設置レイアウトについては、村田社長の構想があったものの、設置後の具体的な効果までは見通しが立っていなかった。「岡田経営指導員が設置後の予測分析にまで目配りをしてくれたことで、課題解決の見通しを明確化することができ、感謝の念に堪えない」と村田社長は話す。一方、岡田経営指導員は「村田社長の秀逸な構想自体を崩さないように注意しながら、まずは構想を全て丁寧に聞き、そのアイデアを一つ一つ具体化させることに腐心した」と語ってくれた。このような過程を経て、村田社長は、岡田経営指導員と何度も綿密な協議を重ねながら事業計画を策定し、持続化補助金を申請。2023(令和5)年、「メンテナンス工房」設置費用として持続化補助金が採択された。課題であった会社全体の収益力向上と設備投資資金調達の2点を、岡田経営指導員の親身かつ的確な支援と持続化補助金活用のお蔭で一挙に解決できたことが、経営基盤の更なる盤石化につながった。

持続化補助金を活用した設備投資の効果。地域から選ばれる店へ

2024(令和6)年1月、「ライフボックス・ムラタ」の店舗軒下に「メンテナンス工房」が完了した。木材を使用したウッドデッキ付き、約2坪の小さな工房ながら、設置後の反響は非常に大きく、期待を上回る効果をもたらしている。まず、工房が秘密基地の趣を持つことで、幅広い年代層の男性客の注目を惹きつける要因となった。中には1時間も店舗内で商品を眺めているお客様や、北九州市や広島県から毎週のように来店してくれる熱心なお客様も現れている。また、工房を何度も見学しチェーンソーの使い方を村田社長からしっかり学んでから、購入するお客様もいるとのこと。

「工房を設置することで修理作業等を見える化」することは村田社長の当初の予想を上回る反響を呼び、競合店で購入された草刈機などが持ち込まれ、修理を依頼されることも少なくない。修理依頼が相次ぎ、手が回らない忙しさが悩みの種となっているが、修理に日数を要することを説明すると、代わりに当店で新製品を購入してくれるお客様も見られる。競合店の汎用品の修理を依頼されるほど、修理の腕前は近隣の方々に知れ渡っている証しと言えるであろう。
「メンテナンス工房」の外観。ドアや窓から、修理作業の様子を自由に覗くことが可能。

事業計画作成と商工会経営指導員の支援が生んだ経営者の意識変化

STIHL社製品の修理件数が、工房設置前と比較して2〜3割増加するという明確な成果が示された。「補助金申請の際に事業計画を作成したことで経営者としての意識が大きく変化した」と村田社長は話す。情報への感度が研ぎ澄まされ、効率的な店舗内配置改善等を検討する際には、同じショッピングセンター内にある100円ショップの店舗運営を参考とした。また、在庫管理を適正に行わなければ資金が滞留してしまうことを意識し、資金繰りへの配慮も強まった。

補助金申請の際、岡田経営指導員から教わった「設備投資の効果予測」の考え方を基に、会社全体の将来的な数字動向にもより一層の注意を払うようになった。「持続化補助金申請時に下関市商工会に相談したことが、岡田経営指導員に相談しながら事業を進めていくきっかけとなり、常に問題意識を持つようになった」と村田社長は話してくれた。
「メンテナンス工房」の内部の様子
取材の最後に村田社長は以下のように語った。
「地域に林業者等の顧客向けホームセンターがあることで、これらの事業者が機械の故障等を心配することなく、安心して本業に専念できる環境を提供したい。このような活動を通じて地域産業に貢献し続けたい。」
元日を除き年中無休で、早朝7時30分から営業を続ける村田社長の発する言葉だけに、その真摯さが強く伝わってきた。
活用した補助金:小規模事業者持続化補助金
年度:令和4年度 第12回
 枠・型:一般型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。
 最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

企業データ

企業名
有限会社村田金物店
設立
2001年1月
従業員数
5名
代表者
村田 敏之 氏
所在地
山口県下関市豊田町中村5

支援機関データ

支援機関名
下関市商工会
所在地
山口県下関市豊浦町大字吉永1861-1

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