2025.06.24
- 卸売業,小売業
- 持続化補助金
支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社化粧品のおおた)
老舗化粧品店の挑戦 ~次世代に繋ぐ「まちの癒し処」としての転換~

この記事のポイント
- 老舗化粧品店の再生に向けた挑戦
- 商工会議所のサポートと補助金活用で店舗改革を実現
- 地域と繋がる“まちの癒し処”へ進化
明治創業の老舗化粧品店「化粧品のおおた」が、娘(後継者)の一言をきっかけに挑戦を始め、商工会議所の経営指導員のサポートを受けながら補助金を活用し、ハンドメイド品等販売スペースを賃貸するレンタルボックス事業を展開。行動変容に至るプロセスや支援の実態を通じて、地域に新たな交流と活気をもたらした取組みを紹介する。
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なります。 最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。 |
明治41年(1908年)日用品雑貨商として創業した「化粧品のおおた」は、長野駅と善光寺を結ぶメインストリート沿道で地域に根ざした化粧品専門店として営業を続けてきた。現在店舗が入る「TOiGO(トイーゴ)」は、長野市の再開発事業で建設され、商業施設とSBC信越放送が入居している。再開発の中心人物の一人であり、長野銀座商店会会長を務めた先代の「長野の中心市街地に賑わいを絶やしてはいけない」という思いを受け継ぎ、現在は先代の奥さま(三代目)と娘さん(後継者)の親子二代で店を守っている。
「化粧品のおおた」では化粧品の販売にとどまらず、肌質やライフスタイルに応じたカウンセリングを行うなど、きめ細やかな接客が支持されており、親子三世代にわたる顧客との信頼関係を築いている。

③化粧品店今昔 昭和32年頃(出典:長野銀座商店街振興組合25周年記念誌「長野銀座いま・むかし」)
閉店の危機から娘の一言で始まった老舗の新たな挑戦
コロナ禍により対面販売を主とする化粧品店は大きな打撃を受け、来店客数の減少が深刻化していった。マスク生活が日常になり、カウンセリング販売を重視している同店では、気軽に来店できない状況が売上の減少に直結していた。「コロナに入って2年目くらいの時にお店を閉めようと思っていた。」と話す太田社長。明治から続いたお店を閉めるという重い判断を娘に負わせないように、「閉めるんだったらお母さんが閉めるよ。」と娘に話したところ、「私、こういう仕事が好きだから後を継がせてほしい。」と言われ、「そうであれば今のままではいけない。新しいものを取り入れていこう。」と真剣に考えるようになったという。
長年親しまれてきた地域の個店が次々と閉店していく中で、老舗としてどのように店を続けていくべきか、改めて考え直す必要が出てきていた。現在の顧客の半数が50代以上となる中で、次世代へのバトンタッチを見据えた時、若い世代にも魅力を感じてもらえるような店舗づくりが必要だという課題を持っていた。
課題を解決するために必要なことを社長、娘、そして現場をよく知る従業員も交えて話しあった。化粧品販売は対面販売からオンライン販売への転換が急速に進む中、店舗では化粧品を実際に手に取って試せる体験や、個別のカウンセリングを通じた提案が差別化のポイントとなっていた。そのため、来店してもらうための魅力づくりが重要な課題となっていた。店内での滞在時間を延ばすためのアイデアを出し合っているとき、「最近、若い人がハンドメイドの小物を作って売っていて、駅前のお店でもたくさん取り扱っているよね。それならただ置いておくだけではなく対面接客販売の経験を生かして、作家さんたちの思いや商品の説明をして販売していこう。」と新たな挑戦が始まった。
“小売り”から“貸す”へ支援者の一言が変えた経営の視点
小物の仕入先を模索している中、前々からお世話になっていた長野商工会議所の江守雅美経営指導員に相談した。この相談が大きな転機となったという。この時、江守指導員から「スペース貸し」という新たな視点の提案をいただいた。確かに、仕入れ販売であれば、売れなかったものは在庫となり経営の負担となるリスクもある。当初は戸惑いもあったが、江守指導員に相談しながら地元作家によるハンドメイド作品を扱うレンタルボックス事業の構想が具体化し、レンタルボックスの設置のための店内の改装費用をどう捻出するか、また、開設した後に事業をどのように周知するかを検討する中で江守指導員から「小規模事業者持続化補助金」の紹介を受け、チャレンジしてみようと決心した。
補助金申請に向けては、計画の方向性や強みの整理、事業の言語化など、江守指導員の継続的なサポートを受けながら申請書を作り上げたが、慣れない計画書作りには苦労したという。「計画書づくりは初めてで大変だったけど、やりはじめたことは最後までやるという気持ちでした。江守さんが細やかに相談に乗ってくださったおかげで最後までやりきれました。」と太田社長は振り返る。
補助金は無事採択され、レンタルボックスの設置と店内レイアウトの変更を行い、事業周知のためのチラシも作成し、新たな事業が稼働し始めた。
お客様も作家も店員もみんな笑顔に!
老舗化粧品店の挑戦が生んだ地域の輪
補助金を活用して改装した店内に地元クラフト作家のハンドメイド作品を展示販売するレンタルボックス(おおたレンタボックス)を設置した。
『おおたレンタボックス』では、単にモノを売るだけではなく、来店客に対して個々の作家の思いや商品の説明をしている。担当している娘さんは、「化粧品店としての長年の接客経験が生きているんです。化粧品は細かくて種類もすごく多いので、その商品説明に比べたら全然楽なんです。私たちにとっては普通で当たり前のことなんですよ。」と明るく笑顔で話してくれた。
利用している作家にとっては、単に商品を置くスペースではなく、きめ細やかな接客という高付加価値のサービスが得られるため、当初の20ブースから30ブースに拡大し、今では県外の作家からも問合せがある。
レンタルボックス事業が軌道に乗り定着していくにつれて足を止めてくださるお客様も増え、来店客と話すという当初からの目的が実現できた。レンタルボックス事業自体は売上的には大きなものではないが、小物を見に来たついでに化粧品も見てもらえ、すぐに化粧品の購入には繋がらなくとも、当店の存在を知っていただき再来店時に購入してもらえることもある。
そして、レンタルボックス事業の導入にはプラスアルファの効果が二つあった。
一つ目は、「若い世代との繋がりができた」ということである。老舗店ならではの課題である顧客の高齢化対策として、若い世代にアプローチできるツールとなった。従業員が中心に小物についてInstagramを使って情報発信をするようになったおかげで、若い世代に同店を認知していただけるきっかけにもなっている。
二つ目は、「新たなコミュニティの場の形成」である。地域のクラフト作家や若者のチャレンジの場とともに新たなコミュニティの場としても活用されている。レンタルボックスを利用している作家の思いや小物の説明を通じて来店客との会話が生まれ、新たな顧客層との関係性が築かれている。時には顧客の要望や感想を作家にフィードバックしたり、売れ行きが芳しくなかった作家には、顧客の声を取り入れながら、改善案や工夫点の提案を行うなど、双方向の関わりを通じて質の向上も図っている。さらに、地域のイベントに作家を招いてワークショップを開催するなど、地域住民との交流の機会として広がりを見せている。

「モノを売るだけでなく、来店された方の心を明るくしたい。帰る時には笑顔で帰ってほしい。」という強い思いから、より多くの人が立ち寄れる店舗づくりが実現できたのではないか。老舗化粧品店の存在意義を、地域の人や作家たちと新しい関係性をつくるための「きっかけ」として位置付けられている。
持続化補助金を申請するにあたり、現場に寄り添った継続的な支援を行った江守指導員は、事業者の変化を次のように話す。
「老舗である化粧品のおおたさんが、新しい事業に取り組まれるきっかけに持続化補助金がなったと思います。社長は補助金申請に最初は戸惑っておられましたが、事業計画を作成する中で会社にとって必要なことを整理され、ご自身や従業員が納得する形で事業を進められたので、今では提案してよかったと思います。結果として長く化粧品を販売されてきた知見がハンドメイド作品の販売とうまくマッチして、相乗効果を生むことができました。今後の展開が楽しみです。」
まだまだ続く「おおたレンタボックス」の進化
~まちの癒し処へ
今後は、食品衛生責任者の資格を取得し、『おおたレンタボックス』で焼き菓子などの食品も取り扱えるように体制を整える予定である。また、より多くの来店者を巻き込みながら、個人が作る手工芸品や手作り菓子など、地元のクラフト・カルチャーの発信拠点として成長させていくことを目指している。『おおたレンタボックス』をさらに充実させ、化粧品販売だけではなかなか取り込めなかった若年層の来店を促し、「化粧品のおおた」としての新規顧客層の取り込みに繋げることにより、経営の安定を図っていきたいという。「次世代の娘にバトンを渡していきたい。そして、訪れるだけで笑顔になれる場を提供し続ける「まちの癒し処」としていきたい。」と太田社長は未来を見据える。
地域一体となって発展していく、老舗店「化粧品のおおた」の取り組みから今後も目が離せない。
活用した補助金:小規模事業者持続化補助金 |
年度:令和3年度 |
枠・型:一般型 |
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なります。
最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。
企業データ
- 企業名
- 株式会社化粧品のおおた
- https://www.instagram.com/ohta_rentabox/
- 設立
- 2006年11月1日
- 従業員数
- 2名
- 代表者
- 代表取締役 太田 節子 氏
- 所在地
- 長野県長野市問御所町1271-3 TOiGO WEST1F
支援機関データ
- 支援機関名
- 長野商工会議所
- 所在地
- 長野県長野市七瀬中町276番地