2025.02.20
- 製造業
- 持続化補助金
奥川板金
三重県産の木工品づくりで大紀町の地域振興に挑む

ポイント
- 商工会長就任を機に町を観光で盛り上げたいとの思いを抱く
- 建築板金屋がフェア出店や民泊運営で木工づくりを本格展開
- 補助金活用も地域振興も経営指導員と二人三脚で挑み続ける
三重県大紀町は南勢地域(伊勢志摩)に含まれ、農山村部と沿岸部からなる農山漁村地域で、温暖な気候、豊かで美しい自然や美味しい食材に恵まれた場所。隣町の紀北町との境には世界遺産熊野古道のツヅラト峠や荷坂峠を有する。町内の瀧原宮(たきはらのみや)は内宮(皇大神宮)の別宮で、近年パワースポットとして注目されるなど魅力的な観光資源を抱える地域である。
そこで、三重県産の木工品を製造・販売する「きのわ木工堂」を運営するのが奥川板金。奥川拓代表は、2013(平成25)年から2024(令和6)年まで12年にわたって大紀町商工会長を務めてきたが、建築板金を業とする奥川代表が木工品を扱うようになったのも大紀町を盛り上げたいとの強い思いからであった。
そこで、三重県産の木工品を製造・販売する「きのわ木工堂」を運営するのが奥川板金。奥川拓代表は、2013(平成25)年から2024(令和6)年まで12年にわたって大紀町商工会長を務めてきたが、建築板金を業とする奥川代表が木工品を扱うようになったのも大紀町を盛り上げたいとの強い思いからであった。


観光を大紀町の目玉に
フェア出店や民泊運営で木工品づくりを本格開始
幼少期は絵を描くことやものづくりが好きだった奥川代表は1981(昭和56)年に奥川板金を開業。屋号のとおり建築板金を事業とし、金属屋根、外壁、雨どいの設置などを手掛け、忙しい毎日を過ごしていた。一方、木工は仕事の合間に作業場の片隅で友人から頼まれたものを細々と作る「趣味程度」。その状況が変わったのは、2013(平成25)年に大紀町商工会長を請われて引き受け、続いて大紀町地域活性化協議会を立ち上げたことがきっかけである。この協議会の設立は、町の特産品や観光を広く県内外の方へPRすることを目的としていた。奥川会長は次のように語る。
「商工会長を引き受けて考えたことは、大紀町には大きな観光地があるわけでもなく、人口減少が進む一方。このままでは町は沈んでしまう。そこで観光に特化して、多くの方に足を運んでもらえる街づくりをしようと考えました。当時大紀町には観光協会がなかったため、代わりに協議会を立ち上げて観光振興を進めていくことにしました」
商工会長に就任した奥川代表がまず着手したのが、町外の大型ショッピングセンターで「大紀町フェア」を開催し、そこへ大紀町の事業者が共同出店すること。交渉の末、ようやく開催にこぎつけ準備を進めていたところ、直前になって事業者2店からキャンセルの連絡が入る。新たな出店者を募る時間もなく、1店分の売り場にはパンフレットを並べ、残りは苦渋の決断で奥川代表自身が対応することになった。奥川代表は次のように振り返る。
「売り場を埋めるために私が趣味で作ったまな板やカッティングボードを並べたところ、予想外に30枚も売れた。それで次回も出店との話になり、次第に私のまな板を楽しみに来場いただけるお客さまも現われたため止めるわけにもいかず、出店が定例となりました」
幸運なことに、奥川代表の友人が木材のリサイクル施設を営んでおり、材料となる杉やヒノキの丸太を融通してもらうことができた。製材費は掛かるものの地元産の木材が入手できることのメリットは大きい。
「三重県産の木材を使った木工品に特化することができました」と奥川代表は語った。
観光のもう一つの目玉は民宿や民泊を増やすこと。目標施設数を40件に設定した理由は、地域で200名が宿泊可能にすることで修学旅行を受け入れられると考えたためであった。奥川代表は次のように語る。
「都会の子供を自然が豊かな大紀町へ連れてきて、心が豊かになる体験をして都会へ帰ったら、いずれリピーターとして大紀町へ戻ってくる。宿泊客が長期滞在することで定住に結びつくことを夢に描いた。収益は二の次で、先行投資の考えでした」
実際に受け入れの中心となったのは、アジア、北欧、アメリカ、オーストラリアなど海外からの団体教育旅行で、受け入れた国数は30カ国に及んだという。
「最初の来訪者はアメリカの学生約40名。入村式では感激して涙が流れました。学生たちは、入村時はそれほどでもなかったものの、離村式では感極まって全員で涙。私も取り組みは間違いではなかったと確信しました」
なお奥川代表自身も「民泊天晴」を開業。2024年時点では受け入れを中断しているものの、木工品づくり体験ができる宿として1日1組限定でお客さまを迎え、手作りしたお箸で奥さま手作りの郷土料理を堪能する方も多かったという。奥川代表は次のように述べる。
「ちょうど木工品の特産品販売も増えつつあり、民泊での木工品づくり体験もあって、木工にかける時間が増えてきた。そこで気になってきたのは道具。趣味で集めた簡素なものばかりで、いい道具があればもっといいものが作れるようになると考えました」
「商工会長を引き受けて考えたことは、大紀町には大きな観光地があるわけでもなく、人口減少が進む一方。このままでは町は沈んでしまう。そこで観光に特化して、多くの方に足を運んでもらえる街づくりをしようと考えました。当時大紀町には観光協会がなかったため、代わりに協議会を立ち上げて観光振興を進めていくことにしました」
商工会長に就任した奥川代表がまず着手したのが、町外の大型ショッピングセンターで「大紀町フェア」を開催し、そこへ大紀町の事業者が共同出店すること。交渉の末、ようやく開催にこぎつけ準備を進めていたところ、直前になって事業者2店からキャンセルの連絡が入る。新たな出店者を募る時間もなく、1店分の売り場にはパンフレットを並べ、残りは苦渋の決断で奥川代表自身が対応することになった。奥川代表は次のように振り返る。
「売り場を埋めるために私が趣味で作ったまな板やカッティングボードを並べたところ、予想外に30枚も売れた。それで次回も出店との話になり、次第に私のまな板を楽しみに来場いただけるお客さまも現われたため止めるわけにもいかず、出店が定例となりました」
幸運なことに、奥川代表の友人が木材のリサイクル施設を営んでおり、材料となる杉やヒノキの丸太を融通してもらうことができた。製材費は掛かるものの地元産の木材が入手できることのメリットは大きい。
「三重県産の木材を使った木工品に特化することができました」と奥川代表は語った。
観光のもう一つの目玉は民宿や民泊を増やすこと。目標施設数を40件に設定した理由は、地域で200名が宿泊可能にすることで修学旅行を受け入れられると考えたためであった。奥川代表は次のように語る。
「都会の子供を自然が豊かな大紀町へ連れてきて、心が豊かになる体験をして都会へ帰ったら、いずれリピーターとして大紀町へ戻ってくる。宿泊客が長期滞在することで定住に結びつくことを夢に描いた。収益は二の次で、先行投資の考えでした」
実際に受け入れの中心となったのは、アジア、北欧、アメリカ、オーストラリアなど海外からの団体教育旅行で、受け入れた国数は30カ国に及んだという。
「最初の来訪者はアメリカの学生約40名。入村式では感激して涙が流れました。学生たちは、入村時はそれほどでもなかったものの、離村式では感極まって全員で涙。私も取り組みは間違いではなかったと確信しました」
なお奥川代表自身も「民泊天晴」を開業。2024年時点では受け入れを中断しているものの、木工品づくり体験ができる宿として1日1組限定でお客さまを迎え、手作りしたお箸で奥さま手作りの郷土料理を堪能する方も多かったという。奥川代表は次のように述べる。
「ちょうど木工品の特産品販売も増えつつあり、民泊での木工品づくり体験もあって、木工にかける時間が増えてきた。そこで気になってきたのは道具。趣味で集めた簡素なものばかりで、いい道具があればもっといいものが作れるようになると考えました」



木工品に付加価値をつけたい
補助金採択をきっかけに「きのわ木工堂」がスタート
奥川代表が考えたのは、木工品に付加価値を付けて販売すること。商工会の堀田稔朗事務局長へ相談するうちに、レーザー加工機を導入して木工品にブランド名を刻印するのはどうだろうという話が上がった。事務局長の勧めで小規模事業者持続化補助金を申請することとなる。奥川代表は次のように語る。
「木工は収益確保を目的にしている事業ではないため、そこまでお金をかける余裕はありませんでした。そうした中、補助金が利用できれば上位機種にも手が届くし、作業も短時間でこなせるようになる。正直ありがたいと思いました」
補助金は無事採択。これに合わせて「きのわ木工堂」ブランドを立ち上げ、導入した小型レーザー加工機でブランド名を印字した商品の製作・販売を開始した。2020(令和2)年には、きのわ木工堂が製作した「三重県産木材をつかったリヤカー屋台」(いっちょ!号)が林野庁のウッドデザイン賞を受賞。地域のイベント・祭り・マルシェなどで活躍している。
「木工は収益確保を目的にしている事業ではないため、そこまでお金をかける余裕はありませんでした。そうした中、補助金が利用できれば上位機種にも手が届くし、作業も短時間でこなせるようになる。正直ありがたいと思いました」
補助金は無事採択。これに合わせて「きのわ木工堂」ブランドを立ち上げ、導入した小型レーザー加工機でブランド名を印字した商品の製作・販売を開始した。2020(令和2)年には、きのわ木工堂が製作した「三重県産木材をつかったリヤカー屋台」(いっちょ!号)が林野庁のウッドデザイン賞を受賞。地域のイベント・祭り・マルシェなどで活躍している。



機械の機種選定や観光イベント参加を指導員が支援
使い方が広がることで観光の満足度向上へ貢献
2回目の小規模事業者持続化補助金の申請は2022(令和4)年。「きのわ木工堂ハンドメイド参入と地域貢献プラン」をテーマに、新しいレーザー加工機、電子ルーター、スタジオキットの導入を検討することとした。
目玉は新しいレーザー加工機の導入。前回補助金を活用して小型レーザー加工機を導入することで業務の幅は広がったが、加工時間が長く、故障した場合は修理のたびに本体を送る必要があるなど、いくつかの課題があった。
そこで、補助金の申請を前提とした価格帯で使いやすく高性能なレーザー加工機を探すことに。この機種選定においては、地域活性化協議会での勤務経験もあり奥川代表との付き合いが長い三浦万丈経営指導員が支援することとなった。三浦指導員と共に情報収集に当たり、車で約1時間の場所で開催された展示会へ出向いてメーカーと交渉を重ねた。ほどなく安価で操作性に優れ、加工速度が大幅に向上したレーザー加工機を見つけることに成功した。
2024(令和6)年11月に開催された農林水産省主催大紀町モニターツアー「伊勢と熊野をつなぐ町・熊野古道伊勢路の旅」は、インバウンドの旅行商品を扱うエージェントや台湾のYouTuberを招待したイベント。きのわ木工堂による古道杖の杖飾り用「木札づくり」が行われ、この新しいレーザー加工機が大活躍した。三浦指導員も支援する中、モニターツアー中のお客さまが名前、ロゴ、イラストなどを自分でデザインしてもらって、データに取り込み、レーザーで木札に焼き付けるもの。杖のアクセサリーとして記念に持ち帰っていただいた。
「焼き印だと形状は固定ですが、レーザー加工機だとデザインを選べるので、使い方が広がります。お客さまも自分でデザインしたものを印刷すると思いがけずいい感じに仕上がるので、『記念になる!』と感激していただけました。観光の満足度向上につながっているように感じ、導入してよかったと思います」
目玉は新しいレーザー加工機の導入。前回補助金を活用して小型レーザー加工機を導入することで業務の幅は広がったが、加工時間が長く、故障した場合は修理のたびに本体を送る必要があるなど、いくつかの課題があった。
そこで、補助金の申請を前提とした価格帯で使いやすく高性能なレーザー加工機を探すことに。この機種選定においては、地域活性化協議会での勤務経験もあり奥川代表との付き合いが長い三浦万丈経営指導員が支援することとなった。三浦指導員と共に情報収集に当たり、車で約1時間の場所で開催された展示会へ出向いてメーカーと交渉を重ねた。ほどなく安価で操作性に優れ、加工速度が大幅に向上したレーザー加工機を見つけることに成功した。
2024(令和6)年11月に開催された農林水産省主催大紀町モニターツアー「伊勢と熊野をつなぐ町・熊野古道伊勢路の旅」は、インバウンドの旅行商品を扱うエージェントや台湾のYouTuberを招待したイベント。きのわ木工堂による古道杖の杖飾り用「木札づくり」が行われ、この新しいレーザー加工機が大活躍した。三浦指導員も支援する中、モニターツアー中のお客さまが名前、ロゴ、イラストなどを自分でデザインしてもらって、データに取り込み、レーザーで木札に焼き付けるもの。杖のアクセサリーとして記念に持ち帰っていただいた。
「焼き印だと形状は固定ですが、レーザー加工機だとデザインを選べるので、使い方が広がります。お客さまも自分でデザインしたものを印刷すると思いがけずいい感じに仕上がるので、『記念になる!』と感激していただけました。観光の満足度向上につながっているように感じ、導入してよかったと思います」



補助金は業績アップと地域振興へつながる
観光で大紀町をもっと振興させたい
新しいレーザー加工機の導入後は使い方の幅が着実に広がっている。
三浦指導員は「お客さまの会社ロゴのデータを取り込んで、製品にそのまま印刷することができるので記念品などに活用でき、地域振興の夢が広がると感じています」と新たな可能性を語る。
奥川代表は「小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者にとって、ワンランク上の世界へ進み業績アップにつながる補助金だと感じています」と感想を述べた。
2023(令和5)年に設立された大紀町観光協会の初代会長へ就任した奥川代表は、翌年に大紀町商工会長を退任したものの、観光で大紀町をもっと振興させたいとの思いは誰にも負けない。その思いを述べて締めくくった。
「観光を目玉にしていかないと大紀町は立ち行かないと考えています。観光で町を大きくするためには、観光協会も力をつけていけたらいい。観光に多くの予算を振り分けて、他の町がやっていない観光事業を進めることで、観光客を呼び込みたい。たとえば瀧原宮の隣に、伊勢神宮内宮に隣接するおはらい町のような商店街ができたらいいと考えています。そこに多くの観光客が来るようになったら成功だと思っています」
三浦指導員は「お客さまの会社ロゴのデータを取り込んで、製品にそのまま印刷することができるので記念品などに活用でき、地域振興の夢が広がると感じています」と新たな可能性を語る。
奥川代表は「小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者にとって、ワンランク上の世界へ進み業績アップにつながる補助金だと感じています」と感想を述べた。
2023(令和5)年に設立された大紀町観光協会の初代会長へ就任した奥川代表は、翌年に大紀町商工会長を退任したものの、観光で大紀町をもっと振興させたいとの思いは誰にも負けない。その思いを述べて締めくくった。
「観光を目玉にしていかないと大紀町は立ち行かないと考えています。観光で町を大きくするためには、観光協会も力をつけていけたらいい。観光に多くの予算を振り分けて、他の町がやっていない観光事業を進めることで、観光客を呼び込みたい。たとえば瀧原宮の隣に、伊勢神宮内宮に隣接するおはらい町のような商店街ができたらいいと考えています。そこに多くの観光客が来るようになったら成功だと思っています」



企業データ
- 企業名
- 奥川板金
- Webサイト
- https://kinowamokkodo.com/
- 設立
- 1981年
- 代表者
- 奥川拓氏
- 所在地
- 三重県度会郡大紀町錦780-6
商工会データ
- 商工会名
- 大紀町商工会
- 所在地
- 三重県度会郡大樹町崎2200-1