審査のポイントを省力化投資補助金の担当者に聞きました

中小企業の深刻な人手不足に対応し、生産性の向上や持続的な賃上げを実現するため、令和5年度補正予算で「中小企業省力化投資補助金」が新設されました。この新しい補助金をどのように活用すればよいのか、支援機関や事業者の皆様が抱える疑問について、中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)の担当者に、一般型の事業計画書作成や審査のポイントを聞きました。
 
制度の概要は ▶ こちら(ミラサポplus)をご覧ください。

1.一般型の事業計画書作成と審査のポイント

——申請にあたって、どのような点が重要になりますか?

申請には、補助金の要件を満たす3〜5年の事業計画書が必要です。本補助金は、単に設備を導入するだけでなく、その投資を通じてどのように労働生産性を向上させ、賃上げを実現していくかというストーリーが求められます。
 
大切なのは、事業者が会社全体のリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を改めて俯瞰する視点をもつことです。事業全体を見える化して俯瞰しつつ、具体的な作業工程における課題の対応を検討することで新たな気づきが生まれ、必要な対応策が見えてきます。
 
具体的には、公表している「事業計画書作成の参考ガイド」でも示している通りです。部分的な省力化による部分最適や短期的な効果にとどまらず、本補助金を活用して企業全体の経営資源を戦略的に再配置して最適化することを念頭に、事業者が独自に抱える課題に応じて事業計画を作成してください。
 

補助事業を通じて、本補助金の目的である「賃上げ」「実現」に
繋げていただくためには

  1. 現在の経営環境や具体的な業務プロセスを十分に把握する
  2. どの部分を設備投資で省力化できるか(ボトルネックはどこか)、そのために必要な設備は何かを明確にする
  3. その設備は、事業者固有の課題(物理的な機器や人の配置、手順等を踏まえたもの)に対応する、専用の設備か(標準的な機器・システムを組み合わせる場合でも同様)を確認する
  4. 限られた人材を最大限活かすために、省力化で捻出できるリソースをどこに振り向けると業績向上して賃上げに繋げられるかを検討する
  5. 現実的に実行可能か、実施体制やスケジュール、資金計画に無理はないかを評価する
全体最適を目指した省力化投資のイメージ図
なお、事業計画書作成のサポートとなるよう、公募要領のページに、定性的な情報を記載する【参考様式】事業計画書(その1・その2)のほか、数値や手順を入力すると、省力化効果や投資回収期間、労働生産性等の各種数値が自動計算されるExcel様式の【指定様式】事業計画書その3を用意しています。
 
設備投資をするにあたっての財務計画や数値シミュレーションにも活用できるほか、事業計画における売上や利益等の数値計画については、応募申請時に、専用の申請システムに数値を入力する必要がありますので、その手元データとしてもご活用ください。
 
ポイントは、「課題→設備投資→効果→再配分→賃上げ」という一貫したストーリーを、定量的な根拠とともにわかりやすく示すことです。

——申請にあたって、特に気を付けることはありますか?

外部の支援者に計画策定を任せきりにしてしまい、経営者自身が内容を十分に理解していないケースも見受けられます。補助金支援を生業にするコンサルタントや、導入する機械・システムのベンダーの話を鵜呑みにしてしまい、自社の実情に合わない投資をしてしまうケースも聞かれます。
 
結果として、設備投資負担が大きくなり、期待していたほど付加価値や労働生産性の向上につながらない場合もあります。
これは経営者が自社の戦略将来のビジョンを十分に整理できておらず、補助金を受け取ること自体が目的化してしまっていることが一因です。
 
補助金を前提とした過剰な設備投資に陥ることのないよう、やはり経営者ご自身が経営状況を十分理解し、投資金額や売上計画などの妥当性を理解したうえで、自社の戦略を熟考することが重要です。
なお、補助対象外となる事業や経費については認められませんので、公募要領に記載された各項目を十分にご確認ください。

——審査を通過するためには、どのような事業計画が求められるのでしょうか?

審査にあたっては、提出された申請書類などの形式要件を事務局で適格性確認をしたうえで、外部有識者による「技術面」「計画面」の書面審査が行われます。合わせて各地域の経済産業局による「政策面」の審査が行われ、採択が決定します。
 
「技術面」の審査では、省力化指数、投資回収期間、付加価値額、オーダーメイド設備の4つの観点について評価します。
 
本補助金の要である省力化効果が高い取り組みとなっているのかを、導入する設備や業務フローのビフォーアフター、省力化指数などから判断し、特に重点的に評価します。
その際、導入前の課題が具体的かつ定量的に示されているかが重要です。
「作業に時間がかかっている」といった漠然とした表現ではなく、「1日あたり〇〇時間」「年間〇〇万円のコスト増」のように、数値で示すことで、審査員は課題の深刻度を客観的に理解できます。
また、導入後の効果も同様に数値で示すことです。「作業時間が〇%削減」「生産性が〇%向上」といった具体的な目標を掲げることで、投資対効果が明確になります。
 
オーダーメイド設備については、事業者固有の課題に対応して一から設計する専用の設備になっていること、または、完全なオーダーメイド設備でなくても、一部を事業者専用にカスタマイズしていること、あるいは、汎用品を複数組み合わせて最適な配置や活用をすることで、その事業者固有の一連の作業工程が省力化できる構成になっているかも評価の対象です。
なお、カタログ注文型にある汎用品単体の導入は認められませんので、ご注意ください。
 
現状の作業工程のボトルネックが明確になっており、それを解消する設備投資となっているかなどを見極めて審査します。
 
最も重要なのが、省力化によって創出された時間や人材を、どのように高付加価値な業務に再配分し付加価値を上げていくのかという点です。例えば、「設備投資により従来の3人から1人で対応できるようになることから、2人は需要の多い別の生産ラインに補充し生産量を10%増やす」あるいは「新商品の企画開発や、顧客への手厚いサポートに充てることで、売上○%増を目指す」といった具体的な表現となっているか、かつ現実的に実行可能な数値計画なのかを評価します。
「計画面」では、資金計画や実施体制、スケジュール等が具体的で実現可能性があるか、企業の収益性、生産性、賃金が向上するかを評価します。
「実現可能性」は、本事業に必要な技術力を有しているか、実施体制やスケジュールに無理はないか、などを評価します。
 
このように、個々の項目や指数の内容と根拠を審査するとともに、事業としての全体感も含めて評価しています。
定性的な施策の具体的な内容と、それによって実現しようとしている数値計画に整合性がとれているか、事業者の経営体力や過去の実績に比べて過大な投資・計画となっていないかが重要です。
 
評価の基準となる「審査項目」は、公募要領に詳しく記載されていますのでご確認ください。
また、審査時に有利になる「加点項目」も設定されています。これらは公募回ごとに変更される可能性があるため、詳細は必ず公募要領にてご確認ください。
 
なお、すべての申請者が対象となるわけではありませんが、所定の基準で選定した事業者に対して、口頭審査を実施しています。その場では、経営者ご自身が事業の現状や事業計画の内容を十分に理解し、実行・実現するためのリーダーシップを発揮できるかどうかを計画内容と合わせて審査しています。

2. 省力化投資補助金活用に向けた心構えと支援機関の活用

——これから補助金活用を検討する事業者へメッセージをお願いします。

まず事業者の皆さまにお伝えしたいのは、補助金は目的ではなく、経営課題を解決するための手段であるということです。
自社のどこにボトルネックがあるのか、それを解消するためにはどのような投資が有効かを、じっくりと分析することから始めてください。
例えば、次のような視点で、自社の経営を棚卸してみましょう。
視点 自問のヒント
①時間 どの業務や作業工程に一番時間がかかっているか?その理由は?
②利益 どの業務・製品・サービスが最も利益を生み出しているか?
③設備投資 どのような設備を導入するか?その省力化効果はどれくらいか? 
④人材配置 省力化で浮いた人員をどう活かすと付加価値向上につながるか?教育は必要か? 
⑤生産量 たくさん作ったら売れる先はあるか?販売戦略は?
⑥組織文化 現場の声は反映されているか?使いこなせる投資か?
⑦資金計画 設備投資の金額や内容は、自社の経営基盤に対して大きすぎないか?
⑧未来視点 この投資が3年後・5年後の経営をどう変えるか?どうありたいか?
これらを棚卸して整理することで、単なる“設備導入” にとどまらず、“経営の見直し”につながる気づきが生まれます。
「何を導入するか」だけでなく、「なぜ導入するか」「会社全体の事業をどうしていきたいのか」といった経営の本質も見えてくるはずです。
 
また、その際、ぜひ頼りにしていただきたいのが、身近な支援機関です。商工会・商工会議所や金融機関、中小企業診断士などの専門家は、客観的な視点から皆様の課題整理や事業計画策定をサポートしてくれます。
本補助金は、賃上げの実現を重要な目的としています。省力化投資による生産性向上の成果を、ぜひ従業員の皆さまへ還元してください。
それが従業員のモチベーション向上につながり、企業のさらなる成長を生み出す好循環の起点となります。

3. 補助金における中小機構の役割・展望

——最後に、中小機構としての今後の役割や展望についてお聞かせください。

我々中小機構は、本補助金の事務局として、制度の円滑な運営に努めることはもちろん、全国のよろず支援拠点や地域支援機関と連携し、事業者の皆さまへの情報提供や申請サポートを強化してまいります。
 
中小機構のWebサイト内にある「補助金活用ナビ」では、初心者にもわかりやすい補助金に関する様々な情報に加え、各種補助金を活用して課題を解決し、売上向上につながった具体例や、支援機関と連携した好事例なども掲載しています。事業者により、地域も業種も規模も抱えている課題も様々ですが、事業運営のヒントが見つかるよう、日々充実させています。
 
また、事業者が自身の状況や課題を選択していくと、その対応策となる省力化アイテムなどが簡易に診断・表示される「省力化診断ツール」の開発も進めています。
 
現場の声を丁寧に拾い上げ、より使いやすい制度となるよう改善を続けるとともに、補助金を活用された事業者の皆さまの成功事例を広く発信することで、全国の中小企業の皆さまが人手不足という大きな課題を乗り越え、力強く成長していくための挑戦を、今後も全力で後押ししてまいります。

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