2026.02.05
- 製造業
- ものづくり補助金
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(山梨銘醸株式会社)
補助金と伴走支援で実現した老舗酒造の海外展開と経営革新

この記事のポイント
- ウイスキー香を付与した酒粕由来蒸留酒という世界初製法を「ものづくり補助金」で生産体制化
- 地域金融機関が投資の妥当性から取引拡大まで伴走支援し、挑戦を後押し
- 補助金申請を通じて経営力を強化し、農業参入や新工場など将来構想を具現化
山梨の清らかな水と自然に囲まれた北杜市白州町に、銘酒「七賢」を商品に持つ創業275年の老舗、山梨銘醸がある。日本酒市場が縮小を続ける中で、同社は「国際化」と「高付加価値化」を掲げ、酒粕を原料とした世界初の蒸留酒(スピリッツ)づくりに挑戦した。この実現には設備投資が必要となり、ものづくり補助金と地域金融機関の伴走支援を活用して体制を整えた。結果として高付加価値製品の創出に成功し、国内外で高い評価を得るに至っている。また、北原社長は、補助金申請のプロセスを通じて、数字と論理で未来を語れる経営者へと成長を遂げた。
本記事は、中小企業が補助金と伴走支援を活用して新たな挑戦を形にし、地域とともに成長する好事例として、山梨銘醸の取り組みを紹介する。
逆風の国内市場と攻めの経営への決意
北原社長は2004年に大学卒業後、米国の輸入会社で営業を担当していた。そして2007年に生家の山梨銘醸へ戻り2018年に代表取締役に就任した。日本酒市場は1973年をピークに右肩下がりを続けており、国内の酒蔵を取り巻く環境は決して楽観できる状況ではなかった。
就任当時から、北原社長は「国際化」と「高付加価値化」の必要性を強く感じていたという。「蔵元1社数億円規模の日本酒業界の視点で見るのか、数兆円規模のアルコール市場の視点で見るのかで、未来は変わる。」同社は攻めの経営へと舵を切った。
最初に手掛けた新商品は、スパークリング日本酒だった。「日本人の7割以上が炭酸を好む」という統計に光を見出し、日本酒の新たなジャンルに挑んだのだ。「日本人が炭酸飲料を好むならば、“日本酒 × 炭酸”で新しい市場を切り拓けるはずだと考えました」。
この商品は、炭酸ガスを後から注入するのではなく、シャンパン(=フランスのシャンパーニュ地方で造られる特別なスパークリングワイン)と同じように瓶内発酵による自然な炭酸を生み出す高付加価値商品であった。
また、既存の日本酒商品についても、白州の超軟水の個性を最大限に反映する酒質設計へと見直し、華やかで爽やかな味わいへ刷新。パッケージも一新した。商品を統廃合した結果、当社の売上は着実に伸びている。
フランス料理界の巨匠のひと言が生んだ日本酒副産物のスピリッツ化
北原社長の様々な挑戦が、同社が誇る銘酒「七賢」のブランド力向上と海外展開を加速する運命的な出会いにつながった。2018年、同社の酒を味わったフランス料理界の巨匠で世界各地にレストランを経営するアラン・デュカス氏がその品質を絶賛し、「カクテルのベースとなる、度数が高いアルコールが作れないか」と北原社長に相談した。
この提案を受け、北原社長は日本酒製造の副産物である酒粕を用いて焼酎を開発することを着想した。国内の多くの焼酎は20〜25度であるが、カクテルベースとして適した40度前後の高いアルコール度数を設定した。さらに、北杜市にウイスキーの製造拠点を持つ大手酒類メーカーから蒸溜所の樽を譲り受け、酒粕由来の蒸留酒をウイスキー樽で熟成させることにより、ウイスキーの香りを付けた世界初の新商品の開発に踏み切った。
なお、酒粕はかつて日本食の伝統的調味料として広く利用されていたが、近年では、食生活の欧米化により需要は減少している。同社でも年間30トンの酒粕を産業廃棄物として処分していた。酒粕を高付加価値スピリッツへ転換することは、食品の残渣問題の解決に貢献するだけでなく、SDGsの理念に沿った地域酒蔵の持続的経営にもつながると考えた。ジャパニーズクラフトウイスキーの樽で寝かせたこと、さらに日本酒残渣を原料としたエコな発想は海外市場にも受け入れやすい要素となっている。
同社は差別化のため、3年以上熟成させて香味のバランスを確認したうえで出荷する方針にした。しかし、蒸留後の工程において、技術的に解決すべき問題が生じた。
熟成保管工程では、倉庫内の保管位置や高さによる温度・湿度の変動が品質に影響を及ぼすため、長期熟成に耐える保管設備が必要となった。また、濾過工程では、輸出を前提にHACCPの概念を取り入れつつ、旨味を保ちながら雑菌を除去できる高精密フィルターが必要となり、さらに瓶詰工程では、国際基準に適合する高度な容器洗浄技術が求められた。こうした一連の設備導入には多額の設備投資が必要となる。
地域金融機関の支援で実現した補助金活用と、その後のフォローで新たな課題解決へ
この挑戦を具現化するため、同社はものづくり補助金を活用するとともに、山梨中央銀行から伴走支援を受けた。
同行は認定支援機関として、申請時から補助金事業実施後のフォローまで全面的に同社を支援している。申請の際には、投資計画の妥当性検証、決算書との整合性確認、設備導入による効果や収益性の数値化、リスク要因の明確化などを、客観的立場から多角的に助言を行い、北原社長が作成した計画のブラッシュアップに寄与した。その結果、計画は審査においてより高い説得力を持つ内容へと整理・高度化された。
同行の伴走支援は資金面にとどまらず、経営者が見落としがちな課題を客観的に指摘し、改善策を提示するものであった。これは、経営者と同じ歩幅で計画を練り上げるプロセスであり、事業の実現可能性を高める大きな後押しとなった。こうした支援により、同社は新たな商品を生み出し、海外展開に踏み出すことができた。収益性と社会的意義を両立させる道を切り開いたのである。
ものづくり補助金と地銀支援で老舗酒蔵が高付加価値商品を海外展開
同社は、ものづくり補助金に採択され、複数の設備導入を進めた。
熟成行程では熟成保管装置を導入することで、熟成環境の均一化を図り、少なくとも3年以上の熟成期間を経て香味のバランスを確認したうえで出荷することが可能となった。
熟成後の濾過工程では、最新モデルの高精密フィルターにより、分解・洗浄が容易となり、従来よりも安定的かつ衛生的な製法を実現した。
さらに瓶詰工程では、オゾン水生成機の導入により、安心安全な充填方法を確立している。このような取り組みは焼酎業界でも非常に珍しく、食の安全安心の観点からも有効性を持つ。
こうして当初の目標どおり、これまで市場に存在しなかった唯一無二の高付加価値製品が誕生し、アルコール業界関係者から高い評価を得た。国内の酒屋や百貨店から期待の声が寄せられるだけでなく、海外のホテルやバーからも引き合いが増え、国内外で評価が広がっている。廃棄していた酒粕という副産物は、新たな価値を持つ商品へと生まれ変わり、省力化や品質の安定化に加え、従来よりも高価格帯での販売も可能となった。
ものづくり補助金を活用して生産体制は構築できた。あとは販路開拓である。同社は、すでに世界25か国へ恒常的に輸出を行っており、北原社長は酒粕の蒸留酒の販売規模を、今後数倍に伸ばしたいと意気込む。熟成によって価値が高まる商品であるため、無理な値引きで売り切る必要がない点も、醸造酒である日本酒との違いといえる。
山梨中央銀行も、補助事業後のフォローとして、取引拡大につながるマッチング支援を行っている。北原社長は「山梨中央銀行さんはマッチングをしてくれる。本店営業部だけでなく、コンサルティング営業部も加わり、旅館、農業など幅広く紹介してくれる。こうしたサービスは地銀として珍しい」と語る。営業担当の佐野氏も「七賢さん(同社)とつながりたい企業は多く、面白い化学反応が生まれている。地域と企業を結びつけ、山梨県に還元していきたい」と地域支援への思いを述べている。
さらに2024年には再びものづくり補助金を活用し、山梨の名水で醸した日本酒の魅力を迅速に発信するため、三言語対応のグローバルプラットフォームを導入した。七賢ブランドの存在感は、さらに世界へと広がっていく。
補助金申請を通じて鍛えられた経営力
補助金活用の取り組みは経営力強化にもつながった。
過去には経営体質が脆弱で人材も不足していたため、同社は経済産業省の補助金をはじめ数多くの支援制度を活用してきた。北原社長は「補助金のメリットは財務的な支援だけでなく、申請書を自ら作成・提出する過程で経営者としての力を鍛えられる点にある。」と語る。北原社長は、地域の商工団体や自治体が派遣する専門家のもとで、徹底したトレーニングを受けた。
「補助金申請から報告までは大企業では一般的なPDCAサイクルだが、多くの中小企業はそれが実践できていない。補助金への取り組みは若手経営者にとって、数字を読み解き、審査項目や目的に沿った計画を立てる格好の訓練となる。私は地域の支援機関から徹底した指導を受け、SWOT分析や計画策定を自ら行えるようになった。そして自分の想いを数字と論理で語る力がついた。」と述べた。 “自らの言葉で未来を語れる経営者”へと成長した実感がにじんでいた。
山梨中央銀行の佐野氏は、「当行が重視しているのは、企業の未来の伸びしろです。北原社長は経営数字を自ら理解し、自分の言葉で語れる経営者です。今年は、IWC2025(世界最大級の酒類コンペティション)にて七賢の日本酒が最高賞を受賞し、海外からも多くの方々が視察に来られています。山梨銘醸様は、地域に還元できる企業として成長され、地域にとって大変重要な存在になっています。これからも伴走支援を続けてまいります。」と続けた。
農業参入と新工場計画で創業300年を見据える老舗酒蔵の成長戦略
同社は、原料の安定調達と品質向上を見据え、農業事業への参入を検討している。
北原社長は常に「継承と革新」、「高付加価値化」を意識した経営を行っており、「現状維持は衰退の始まり。次の目標は100億と心に決めている」と語る。2007年頃から売上を3倍以上に拡大させた経験を踏まえ、今後は従業員を含めた「全員経営」を掲げ、さらなる成長を目指している。また、新工場の建設や創業300年を見据えた長期構想も描いている。
そのためにも組織づくりと・人材育成が重要な課題である。社長が不在でも組織が自律的に機能する体制を築くことが、未来の成長に直結すると考えている。
補助金と伴走支援を活かし、伝統を継承しつつ革新を続ける姿勢こそ、地域企業が未来を切り拓くための大きなヒントとなる。
| 活用した補助金:ものづくり補助金 |
| 年度:2022年度(第12次) |
| 枠・型:グローバル展開型(②類型:海外市場開拓) |
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。
企業データ
- 企業名
- 山梨銘醸株式会社
- 設立
- 1925年(創業:1750年)
- 従業員数
- 39名
- 代表取締役社長
- 北原 対馬 氏
- 所在地
- 山梨県北杜市白州町台ヶ原2283
支援機関データ
- 支援機関名
- 山梨中央銀行
- 所在地
- 山梨県甲府市丸の内一丁目20番8号







