2026.01.21

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地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社美浜工業)

組立現場発の自社製品開発と新分野進出をサポートした地域支援機関

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株式会社美浜工業 部長の寺田博治氏(左)と公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構 主幹の鈴木佑也氏

この記事のポイント

  • 組立現場の課題から派生した自社製品を開発
  • 地域支援機関の伴走支援を活用し、新分野に展開
  • 補助金活用を契機に社員の主体性と開発力が向上
静岡県浜松市に本社を置く株式会社美浜工業(代表取締役:嶋田達也氏)は、オートバイなど輸送用機器の組立事業を50年以上にわたり手がけてきた。2010年代には、組立現場で生じていた課題を解決するため、保護カバーの試作に挑戦した。これを機に自社製品の開発に取組み、樹脂製の「保護資材(製品名:ソリッドフリー)」と「防振材」を製品化した。
近年は、さらに高度なニーズに応えるため、ものづくり補助金を活用して、高強度化や耐荷重性の強化に挑んだ。この取組には、地域支援機関の伴走支援が大きく寄与し、補助金活用後においてもマッチング支援を受けて医療分野など新たな領域への展開も実現した。補助金活用を契機に技術革新と組織変革を遂げた美浜工業の挑戦を紹介する。

組立現場の課題をヒントに、2つの自社製品を開発

美浜工業は静岡県の浜松市と袋井市に工場を持ち、1971年の創業以来、地域の大手製造業の一次サプライヤーとして、高品質なアッセンブリー(組立)を担ってきた。しかし、発注元から厳しい目標コストが設定され、自社には価格決定権がないことから利益率が低く、将来に不安があった。「組立事業では、これまでさまざまな現場改善を重ねてきたが、お客様の要望に応えるだけでは、会社の未来は築けない」。そうした社長の問題意識を背景に、課題を整理し、利益率の高い製品を自ら生み出す取り組みを模索していた。
美浜工業 本社・浜松工場
転機となったのは、リーマンショックの影響が色濃く残る2010年代前半である。美浜工業の主力の組立事業も大きな打撃を受けた。
寺田部長は、組立現場でヘッドライトやテールライトの組立工程で小さな傷が発生する対策として、保護カバーを製作しており、素材にはゴムやフェルトを用いたが、ゴム製では消耗が激しく短期間で破損し、フェルト製では異物混入による新たな傷を生む可能性があり、抜本的な解決には至らなかったことに目を付けた。
 
取引銀行に相談したところ、近隣の樹脂材料メーカーを紹介され、2011年からウレタン樹脂を活用した新素材の自社開発に挑戦した。
試行錯誤を重ねて、柔軟性と強度を兼ね備えた保護カバー用の資材の開発に成功、それが熱可塑性樹脂の“ソリッドフリー”だ。ソリッドフリーとは、美浜工業の登録商標である。自由に固められるという意味から命名した。
 
“ソリッドフリー”は、ドライヤーやお湯で約60℃に温めると餅のように軟らかくなり、手で自在に成形できて冷えると固まる。一般的なプラスチックより柔軟で、ゴムより強度があり、外観を傷つけることなく部品の保護カバーとして効果があった。作業現場で何度でも成形できることから、組立工程の作業効率と品質保持を同時に向上させる素材である。“ソリッドフリー”はその後、自社製品として販売を開始し、テレビなどのメディアで取り上げられ、現在では商社を通じて多くの製造業に利用されている。
 
さらに美浜工業は、2016年から組立工場内で発生していた計測器の停止による作業ロスを改善するため、樹脂製の “防振材”を自社で開発し、製品化した。高い防振性能が求められる精密計測機の部材 に採用されるなど、大手計測機器メーカーとの直接取引にもつながっている。
「当社の組立事業は50年の歴史があり、デリケートな製品を扱ってきた。そこで蓄積されたノウハウから保護材や防振材を開発すれば、多くのものづくり企業の力になれると考えた。そこが出発点でした。」と寺田氏は開発当時を振り返る。
 
美浜工業がこうした革新的な製品を生み出せたのは、「リーマンショック後の危機意識」、
「組立事業で培った現場の課題を解決する技術力」、「異業種連携による新素材開発」という複合的な要因が重なった結果である。現場改善力を基盤に、独自の2つの自社製品を市場に投入し、販路拡大と事業多角化を実現した。
ソリッドフリーを加熱して作成したヘッドライト用の傷防止カバー。
組立作業時の擦れ・接触による部品の傷を防ぐ現場用保護具。
美浜工業が開発した防振材:計測機器の下に設置して微振動を低減。

地域支援で技術課題を整理──新素材CNFと新分野展開

自社製品の市場投入が進むと、ソリッドフリーには高強度化、防振材には耐荷重性という新たなニーズが浮上してきた。そこで当社は、静岡県が主体となって推進するCNF(セルロースナノファイバー)※に着目した。CNFとは、植物繊維をナノレベルまで細かくした、軽くて強い植物由来の新素材である。CNFを活用した新製品の開発に向け、2023年に経営革新計画を策定し、静岡県の承認を得た。
 
新製品は液体の樹脂に粉体のCNFを配合するものであるが、試作段階に入ると、手作業による「撹拌のムラ」や「焼成温度のばらつき」が品質の障壁となっていた。これらを解決するため、遠心撹拌装置と精密な温度管理ができるオーブンが必要となった。そこで「ものづくり補助金」の活用を検討した。同社は過去に申請し採択実績があるものの、近年は難易度が上がっており、単独での採択は難しいと感じていた。
 
そこで新たな挑戦を後押ししたのが、浜松地域イノベーション推進機構である。同機構とは、従前よりセミナーやマッチング事業を通じて接点があった。同機構の鈴木氏は「CNFは環境面でも注目されており、ものづくり補助金が求める革新性にも合致するはず。」と評価し、何度も製造現場を訪れ、撹拌や加熱のばらつきを確認し、課題の原因を究明した。「試行錯誤している現場にこそメールでは伝わりにくい課題の核心があった。」と振り返る。
 
補助金申請の過程で、鈴木氏は「補助金の採択には、自社の強みや外部環境に合致した計画であることが不可欠である。そのため、内部環境・外部環境分析を通じて、創業期からの組立事業がどのように自社の樹脂製品の製造へとつながったかを、申請計画に落とし込むよう助言した。」という。
 
寺田氏は「当初は主要顧客である輸送用機器業界での用途しか想定していなかったが、浜松地域イノベーション推進機構の助言を得て、新分野への活用を見通せるようになった」と語る。また、「鈴木さんの助言で“組立の請負から自社製品製造への展開”という流れを明文化していくことで、当社に内在する強みを再認識する契機にもなった」と話す。

※CNF(セルロースナノファイバー):
静岡県は、パルプ・紙産業の出荷額が全国一位であることや素材を活用する多様な産業構造を有するため、CNFを中心とした産業集積を全国に先駆けて進めている。

ものづくり補助金で設備導入と試作力向上

何度も意見を交わしながら申請したものづくり補助金は2023年に採択され、その翌年には遠心撹拌装置とオーブンが導入された。材料の混合の均一化が飛躍的に向上し、精密な温度管理により加熱ムラが解消され光熱費の抑制にもつながった。これらの効果により、試作の再現性や品質の安定、歩留まりの改善に大きく貢献し、安定した生産体制が整備された。
 
また、CNF混合で得られた配合のノウハウは、CNFを用いない製品にも応用可能であり、製品開発の幅が広がった。寺田氏は「ものづくり補助金を活用して設備投資を行ったことで、試作開発のスピードが向上した。補助金をきっかけに、さまざまな製品の開発・改良に有効活用できている。」という。
現場では社員から自社製品の改善や開発の提案が次々と生まれ、実験に取り組む姿が目立つようになった。寺田氏は「自社製品の売上はまだ割合としては高くないが、利益率が高く、社員のやりがいと誇りにつながっています。」と語る。
ものづくり補助金を活用して導入した遠心撹拌装置
ものづくり補助金を活用して導入したオーブン

伴走支援が導いた新たな展開~新分野進出と組織の成長

補助金活用後、同機構のコーディネートによるマッチング事業がきっかけとなり 、医療機器部品の組立受託につながった。鈴木氏は、「当機構は、知財・販路・新規事業まで包括的に支援できる点が強みであり、技術だけでなく営業面までシームレスに支援している」と語る。
 
寺田氏は「当社が独自に販路を開拓しようとすると、どうしても輸送用機器業界に偏りがち。まさか自分たちが医療機器の組立に携わることになるとは思ってもいなかった。」と笑みを見せる。鈴木氏は「美浜工業様は誠実な企業であり、発注側のニーズを丁寧に聞いてくれるため、協力先を求める企業に紹介しやすい。これまでの支援を通じて、自社の強みを言語化し、自ら考えて動く姿勢が育まれている。」と評する。
 
現在も美浜工業は、「テクノフロンティア2025 」など展示会に出展し、精密機器・医療・住宅など異業種との接点を広げ、連携を進めている。また、ソリッドフリーは材料比率を細かく調整するなど改良を重ね、軟化時に手に貼りつかず、硬度も高めた“ソリッドフリーEasy”を発売された。防振材も、精度の高い撹拌工程向けに防振効果を向上させた新製品を出荷予定である。寺田氏は「今後も展示会や内覧会に積極的に参加し、お客様のニーズを丁寧に聞き取り、製品開発に反映させていきたい」と語る。
 
浜松地域イノベーション推進機構の伴走支援を通じて、美浜工業は社内の意識にも変化が生まれ、既存顧客とは異なる業種との取引にもつながった。設備投資による技術的な課題の解決にとどまらず、新たな価値創造に取り組むことへのやりがいが社内に根づいたことは、補助金活用による副次的な成果であり、同社の歩みは「組織の成長」につながる好例である。
ソリッドフリークロス(写真右、2018年に製品化)は、ソリッドフリー表面に伸縮性の高い布地を融着させた型取りシート。
自動車開発の試験・評価用で使用されるとともに、将来的に、医療介護分野における補助器具の応用にも期待される。
活用した補助金:ものづくり補助金
年度:2023年度(第16次)
 枠・型:一般型(通常枠)

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。

 

企業データ

設立
1971年(創業:1963年)
従業員数
108名
代表者
嶋田 達也 氏
所在地
静岡県浜松市浜名区東美薗16-1

支援機関データ

所在地
静岡県浜松市中央区東伊場2丁目7番1号
浜松商工会議所会館8階

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