2026.01.13
- 製造業
- 事業承継・M&A補助金(旧事業承継・引継ぎ補助金)
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(株式会社能作)
事業統合先の新しい仲間と描く未来~伝統が革新を生む鋳物メーカー「能作」の新たな挑戦

(左)富山銀行 ソリューション営業部 執行役員 部長 矢留 範宏氏
(右)富山銀行 ソリューション営業部 副部長 小井 孝雄氏
(中央左)富山銀行 高岡広域エリア 副部長兼副支店長 渋谷 毅氏
この記事のポイント
- 職人の地位を高め、自社ブランドを高め続ける先に見える新たな挑戦の道筋
- 鋳物鋳造からジュエリー事業へと昇華させたM&Aに対する社長の想い
- 従業員マインドと企業文化の融合により生まれる統合シナジー
400年以上の歴史をもつ鋳物の街、富山県高岡で、100余年にわたり鋳造の伝統を受け継ぐ株式会社能作。先代社長で現会長の能作克治氏は、職人による伝統的なものづくりに消費者ニーズを反映したデザイン、素材の魅力を活かした自社ブランドの製品開発、自社店舗の展開により、事業を大きく躍進させてきた。2023年に事業を承継した5代目経営者、能作千春氏(以下、千春社長)は、M&Aと補助金を活用しながら、「ものづくりのその先にある顧客の体験価値づくり」を目指し、ジュエリー事業に挑戦している事例を紹介する。
カリスマ社長である父への尊敬
「父が抱く夢の実現をサポートしたい」
5代目の経営者である千春社長は、大学卒業後、神戸のアパレル通販会社に就職し、通販誌の編集業務に携わっていた。入社3年目のある日、上司が街中の雑貨店で偶然見つけて会社に持ち帰った「錫製のトレー」が、自身の実家で製造されたものだと気づいたことをきっかけに、家業への想いが強まり、同社を退職。2011年に実家へ戻り、株式会社能作に入社した。
「現場でデザインされた製品から次々とヒット商品が生まれていました。父は自ら職人として現場に立ち、職人の地位向上を掲げながら、ものづくりを楽しんでいました。その姿に従業員も感化され、技術の向上や製品開発に積極的に取り組んでいました」
さらに千春社長はこう語る。
「私にとって父はスーパーマンのような存在。父が実現しようとする未来を私が支えたい。その想いで働いていました」

家業の可能性を広げた、新たな挑戦「産業観光」
千春社長が家業に入った当時は、錫製品の販売が全国の百貨店やセレクトショップを通じて軌道に乗り始めた時期だった。千春社長は、小売店からの受注や物流プロセスの整備に尽力する役割を担っていた。その後、結婚と出産を契機に、自身のキャリアの方向性に迷った時期もあった。
「父はカリスマ性を持ち、自分の目指す世界観を具現化してきた人。夫は能作の製造現場で職人の道を究めようとしている。では、私はどこを目指すべきか。迷いながら自問自答していた時期がありました。この頃、本社の拡張移転に合わせ、産業と観光を融合した「産業観光」を本格化したいという構想を父から聞きました」
千春社長は、その言葉に、自分のキャリアの方向性を照らす光が差したように感じた。
「産業観光に取り組むことは、地域を盛り上げるだけでなく、伝統工芸の現場で働く職人の地位向上を目指し、未来を担う子どもたちの憧れの仕事にしていきたい、そんな父の想いも込められていることを理解していました。その想いを実現するには、職人が見ている現場の世界観とは別の視点が必要ではないかとも考えました。これは父にはできないことかもしれない。自分自身が持つ感性や、通販誌編集の経験を活かし、新しい挑戦ができるかもしれないと感じていました」
産業観光部の部長として役割を担った千春社長は、2015年から設立準備を始め、2017年に活動をスタート。能作の器で富山の地元食材を使用した食事を提供するカフェレストランや職人と同じ技法でものづくりを体験できる、鋳物製作の体験工房を開設した。数年で、富山県内はもとより、県外や海外からも観光客を集める施設となり、2019年には年間来場者数が13万人に達した。
鋳物の会社がブライダルに挑戦
来場者数が増加する一方で、産業観光部の社員から「せっかく来場いただいたお客様に、更に深く富山の魅力を伝えたい。産業観光を通してお客様とより関係性を構築するためにできることを考えたい」という声も上がり始めていた。
「この意見を聞いて、来場されるお客様と当社社員との間に関係性を築けるサービスを提供したいと考えるようになりました」と千春社長は話す。
その後、旅行業の免許を取得し、宿泊施設と連携したツアープランの企画や結婚10周年記念を祝うイベントの企画に取り組んだ。
結婚から10回目の記念日は「錫婚式(すずこんしき)」と呼ばれており、「錫(すず)」のようなやわらかさと柔軟さを重ねながら築かれた夫婦の10年を象徴するものとされている。錫製品づくりを生業にしている能作にとって、この企画はうってつけだった。
「お客様の人生において大切な節目である結婚10周年を祝う錫婚式事業を通して、当社社員とお客様の絆を築ける。お客様と社員の双方が幸せを感じられると考えました」
また、父である能作克治氏に「錫婚式を事業として取り組みたい、ブライダルを企画したい」と相談したところ、「面白いね、やりなよ」と背中を押してくれた。

社員からのサプライズで気づいたジュエリー事業への可能性
錫婚式をサービスとして提供し始めた後、申し込みは順調に増加し、県外や海外からの申し込みも寄せられるようになった。ある日、産業観光部の事業を推進していた千春社長に、社員からサプライズのプレゼントが贈られた。
「ちょうど私自身が結婚10周年を迎えるタイミングでした。父と社員が、私と夫に錫婚式をプレゼントしてくれました」
セレモニー会場には、自社の職人が作った錫製の記念リングが用意されていた。
「結婚指輪の上に錫製のリングを重ねた時、なんとも言えない幸せを感じました。こんなに自分が幸せに感じることだから、お客様にもぜひ体験してほしい。これは私が取り組むべき事業だと確信しました」
千春社長は、社員からのサプライズを受けたことが後押しとなり、ジュエリー事業に挑戦することを決意。その後、父にも社員にも、その想いを繰り返し伝えていった。
M&A候補先との出会い
M&A後の投資と補助金の活用
【補助金を活用した事業と経費】
試作品の製作費用
ブランド構築のための業務委託費用
千春社長
富山銀行 高岡広域エリア
副部長兼副支店長 渋谷 毅氏
富山銀行 高岡広域エリア 副部長兼副支店長 渋谷 毅氏
「お取引先の方向性、方針、活動をお伺いし、最適なソリューションをご提案しています。富山銀行では、支店担当者によるお客様との対話に応じて、様々なソリューションを提案・実施するソリューション営業部が連携しながら対応しています」
なお、事業承継・引継ぎ補助金については、千春社長が申請書や計画書を独力で作成したため、銀行としては公募要領に基づく要件確認や、事業計画の記載内容のブラッシュアップ提案を行った。
M&Aによるシナジー効果を高めるための取り組み
一般的に、M&Aによる経営統合では、買収側と被買収側の企業文化を融合し、被買収側の従業員に働き続けてもらいながら統合の成果を創出するプロセスに苦慮する事例が多い。
「ユーボネクスの統合に際しては、先方の従業員は混乱することもなく、むしろ今後の事業展開への期待が高まっていました」と千春社長は話す。
「契約成立の初期段階で、父と私がユーボネクスを訪れ、能作とユーボネクスの2つの会社が一緒に目指す世界観や、世に出していく価値について従業員に話をしました。その際、社員の表情を見て、良い感触を持つことができました」
ユーボネクス社の社員からは「買収してくれた会社が能作で本当に良かった」との声やこれまで自社ブランドで製作したジュエリーを市場に出した経験がなかった社員からは、「お客様の声を社内に届けてほしい」という要望も出るようになった。
その後、ユーボネクスの社員に能作へ来てもらい、能作の理念や価値観を学ぶ機会を設けたほか、両社の社員による意見交換会や技術交流等、少しずつ企業文化の融合を進めているところである。
「今日の伝統工芸は、技術が継承されず、日々失われていく状況に直面しています。伝統工芸に必要な技能や技術を残す方法として、M&Aの活用していく必要があると考えています」

| 活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金 |
| 年度:令和5年度 |
| 枠・型:経営革新枠(M&A類型) |
※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なります。
最新の補助要件については、必ず各制度の公式情報をご確認ください。
企業データ
- 企業名
- 株式会社能作
- 設立
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創業 1916(大正5)年
設立 1965(昭和40)年 - 従業員数
- 253名
- 代表者
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代表取締役会長 能作 克治 氏
代表取締役社長 能作 千春 氏 - 所在地
- 富山県高岡市オフィスパーク8-1
支援機関データ
- 支援機関名
- 株式会社富山銀行
- 所在地
- 富山県高岡市下関町3番1号







