2025.12.25

  • 不動産業,物品賃貸業
  • IT導入補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(下関商業開発株式会社)

業務のIT化でコスト6割減 下関の商業施設が進めるDX改革

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左から下関市産業振興課 桑畑氏、同社執行役員 安部氏 他従業員の方々

この記事のポイント

  • 紙と郵送に依存した請求・経理業務を効率化
  • 部を超えた連携と外部支援者の活用
  • 郵送コストが総体的に6割減、残業時間削減等にも寄与
山口県下関市 は関門海峡に面する港湾都市で古くから大陸への玄関口として栄えて きた。人口は県庁所在地である山口市を上回り、山口県内で最大である。
下関商業開発株式会社は、1973年の設立以来、シーモールをはじめとする商業施設の管理・運営や不動産賃貸 などを中心に事業を展開してきた。同社は、下関商業界の再興を目的として、経済界と行政が協力し、下関駅前に下関の核となる中心都市機能と商業機能を備えた西日本最大級の商業施設を目指して設立された。地域のにぎわいを支える存在であり、街づくりに深く関わる企業だ。
今回のインタビューでは、同社が市と協力しながら街づくりを推進している下関市の職員 も同席のうえ、話を伺った。

変わりゆく地域ニーズに応える商業施設運営の課題

同社が管理・運営する代表的な商業施設である「シーモール」は、開業から48年を迎え、地元の暮らしや買い物の拠点として定着している 。常に「テーマパークのような街づくり」をコンセプトに運営を行ってきたが、昨今の人口減少や高齢化、独居世帯の増加、さらにテナントの入れ替わりといった地域特有の課題に直面している のが現状である。
特にテナント誘致に関しては、どのような テナントを配置するかといった計画面だけでなく、誘致に伴う工事費やテナントに合わせた改装費など、経済的負担も小さくない。下関市では、こうした商業施設の改装費用に対する補助制度も整備しており、同社はこれを活用して商業施設の発展に取り組んでいる。その意味でも 、行政との連携も欠かせない。
こうした外部要因に対応する一方で、長年の“習慣”とも言えるアナログな社内業務についても、見直しと効率化が必要となっていた。
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同社が管理・運営する商業施設の一つ「シーモール」

紙文化に依存した業務体制が生む見えないコスト

同社が抱えていた大きな課題の一つ は、経理・請求関連業務における紙と郵送への依存だった。商業施設の管理・運営においては、複数のテナントやその運営会社との日常的なやり取りから、月末月初に集中する請求関連業務まで、他社とのさまざまな連携が発生する 。
特に、請求書の作成、印刷、チェック、封入、切手貼付 といった作業は膨大で、月初には担当者が過重労働を強いられる状況が常態化していた 。
費用面においても、紙代・郵送代・切手代などが年間ベースで相当な額に上り、経営上の負担となっていた。さらにテナントによっては郵送物の受け取りに時間を要するケースもあり、業務のやり取りが煩雑になることもあった。
このような非効率な業務構造は、労務面やコスト面だけでなく、従業員のモチベーションにも悪影響を及ぼし、締め作業などが集中する繁忙期には残業が常態化する事態を招いていた。 

社内と外部支援者が連携したソフトウェア導入のプロセス

前述のとおり、経理・請求関連業務の課題は明確であったため、この業務を効率化すべく、ITを活用したペーパーレス化を目指した。これは紙を主体とした作業にかかる費用や労力を全体的 に削減し、業務全体における効果の最大化を図るものである。
こ うして、導入すべきソフトウェアの検討が始まった。検討にあたっては、請求関連業務の主担当である管理事業部とシステム系を担当するシステム事業部を中心に協議が行われた。
しかし、市場には多くのソフトウェアが存在し、どれが自社に適しているかを判断するのは 難しい。そこで、同社が複合機などを通じて長年取引しているリコージャパン株式会社(以下「リコー社」)にも相談し、管理事業部、システム事業部、リコー社の三者で検討を重ねることとなった。
その過程で、リコー社がIT導入補助金のIT導入支援事業者であることを知り、リコー社からの提案もあって補助金申請も同時に進めることとなった。
ソフトウェアの選定にあたっては、ソフトウェアのセミナーや展示会などへも足を運び、実際に物を目で見て説明を受け、何が適しているのかを考察した。
検討には半年ほどをかけたが、最終的には社内の別業務で既に使用されているソフトウェアシリーズの中に経理・請求関連業務に対応可能な製品があり、ソフトウェアの連動性や今後の拡張性を鑑み、そのシリーズのソフトウェアを選定した。
 
補助金申請については、同社は市の補助金等を利用している経緯もあり、特に抵抗は無かったものの、同社だけでは時間がかかる作業だった。しかし、リコー社の丁寧なサポートにより、比較的スムーズに申請することができたという。

アナログ業務からの脱却がもたらした職場の変化

ソフトウェアの導入に際しては、同社内で以前から使用 されていたシリーズだったことや、リコー社やソフトウェアメーカーのサポートも厚く、特に大きな問題なく導入することが できた。
このソフトウェアの導入によって、請求業務の流れは劇的に改善された。従来は2人がかりで丸一日以上かかっていた作業が、システムの中で自動処理されるようになり、残業時間も大幅に削減された。さらに、この請求業務にかかる郵送コストは約 6割減となり、財務面での効果も明確に表れた。また、メールの自動送信機能により、各社との請求書のやり取りもスムーズになり、受領確認もシステム上で容易に行えるようになった。
こうして、従来の「紙と郵送に縛られる業務」から脱却することに成功した。
 
そして、経理等のデータが一元管理されることにより、税理士など外部専門家との情報共有も容易になった。必要な資料やデータをすぐに取り出せる環境は、監査や会計処理の効率化にもつながり、社内外双方にメリットをもたらした。
これらの効果は単なるコスト削減にとどまらず、従業員がより付加価値の高い業務に注力できる環境を実現した 点でも重要である。紙や郵送に追われていた業務が効率化されたことで、社員の働き方そのものが改善され、結果として組織全体の生産性も向上した。
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ITツールの利用風景

今後もIT化や業務効率化の歩みを止めない

同社は、今回のような導入効果を実感したことで、次のステップとして、勤怠管理や人事評価などの業務においてもデジタル化も検討したいという。現在は勤怠管理を紙やExcel等で運用しており、従業員120名規模の組織では管理が煩雑化しやすい。これをシステム化することで、さらなる効率化と透明性の向上が期待される。
 
街づくりの担い手として、行政や民間企業と協力しながら駅前のにぎわい創出にも取り組んでいる。ITを活用した業務効率化は、こうした地域づくりの基盤を支える重要な一歩であり、持続的な成長を実現するために、今後も積極的に挑戦を続けていく構えだ。
活用した補助金:IT導入補助金
年度:IT2023後期
 枠・型:通常枠

企業データ

設立
1973年
従業員数
126名
代表取締役社長
波田 兼昭 氏
所在地
山口県下関市竹崎町四丁目4-8

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