2025.06.20
- 製造業
- ものづくり補助金
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(ASNARO)
売上9割減からの再起。補助金活用で挑んだASNAROの自走型経営の道

この記事のポイント
- “事業者の自走”を大切にする商工会の支援
- コロナ禍で事業を見直し、ものづくり補助金を活用して、大きく成長
- 法人化も予定し、「利益を生みながら地域に必要とされる企業」を志向
木のぬくもりを活かしたクラフト製品を手がける「ASNARO」は、コロナ禍で売上が大幅に減少するという危機に直面しながらも、商工会の経営支援専門員による支援と補助金の活用により、高付加価値なオリジナル商品への転換を実現し、3年間で売上6倍という急成長を遂げた。
その成長の裏側には、地域と共に歩む企業づくりを実践する中で、主体的に課題を設定し、支援機関との対話による事業変革への取り組みがあった。ASNAROが自立的に運営を進める経営スタイル(自走型経営)を紹介する。


木とともに歩む——ASNAROの創業と変化
ASNARO は、2016年に鳥取県岩美町で国産木材を活用した製品の製造業として創業した。当初の屋号は“あすなろ手芸店”として、主に手芸店向けの木製の資材を製造し、誰もが手に取りやすい価格帯の商品づくりを目指していた。また、当時は割合として多くはなかったが、オリジナル商品の製作にも取り組んでいた。
創業の想いは「日本の林業を応援したい」というものであり、当初から林業の盛んな智頭町での創業を希望していたことから、創業の翌年に智頭町に移転した。販路の殆どが鳥取県外であったが、次第に地元との接点も増えていった。
経営の転機となったのはコロナ禍である。県外での展示即売会の中止や、作家による手芸イベントの消失により、売上は9割減少した。この事態を受けて、BtoCからBtoBへと方向転換し、かねてから引き合いがあった企業ノベルティなどのOEM製造に乗り出し、新たな顧客層を開拓した。
手芸向けの資材と異なり、手作業による組み立てなどの技術の習得やデザイン品質の向上には困難も伴ったが、着実に対応を進めていった。そして2021年には屋号を“ASNARO”に改称し、新たな一歩を踏み出した。


カラーで広がった可能性——UVプリンター導入の裏側
OEMにシフトした当時のASNAROは、単色のレーザー加工の設備しか有しておらず、組み立てなどの手作業工程も多かったことから、生産性に限界を感じていた。また、取引先からのカラー商品のニーズが増え、デザイン力や加工技術のリソース不足にも直面していた。
こうした課題に対し、小ロット対応を強みとするASNAROは、木材に高品質なフルカラー印刷が可能な技術を導入することで、さらなる差別化・高付加価値化が実現すると考えた。従来の単色のレーザー彫刻では再現できない「カラー」の要望に応えるべく、フルカラーのUVプリンター導入を決断したのである。しかしながら、当時の経営状態では、高額な設備投資であった。
このような中、小畑代表の悩みの相談に応じたのが智頭町商工会であった。当時の支援担当者から「ものづくり補助金」の情報を得たが、採択のハードルは高いと聞いていた。それでも小畑代表は「ASNAROが成長するためには避けて通れない道。大変だけどやるしかない!」と覚悟を決め、申請に踏み切った。
小畑代表が自ら計画書の案を作成し、商工会の当時の支援担当者に確認を依頼するというプロセスを繰り返した。当時の支援担当者はその都度、速やかに客観的なコメントを提供し、両者間で約20回に及ぶやり取りが行われた。
その結果、ものづくり補助金は採択され、UVプリンターを導入が実現し、カラー印刷対応へとつながった。商工会による丁寧な助言と敏速な対応が、ASNAROの新たな一歩を後押ししたのである。
「支援」の本質——商工会が大切にする“自走型支援”
小畑代表は、創業当時から商工会の会員として各種支援を活用してきた。過去にはレーザー加工機購入のための制度(利子補助)や国や地域の各種補助制度も利用しており、現在においても記帳指導、雇用保険、労務関係(労働組合の共済保険手続など)、税務申告などのバックオフィス業務に関する支援を受けている。しかし、それらの業務を商工会に丸投げするようなことはなく、小畑代表自身が不明点は何度でも商工会に問い合わせを行い、まず書類を作成した上で、対話を重ねながらブラッシュアップしている。
現在は、隣町の八頭町商工会から智頭町商工会に赴任した経営支援専門員の濱﨑氏がASNAROの支援を引き継いでいる。濱﨑氏は、もの補助の実績報告後のフォローアップ、国、県の補助金申請による効率化や持続化補助金の活用による自社商品の販路開拓などの支援から携わっている。濱﨑氏は「経営支援データと支援カルテの共有により、赴任してすぐの状態でもスムーズにフォローアップ支援を引継ぎ、次のステップへの支援に繋げるなど、切れ間ない支援を行うことができている。」とした上で「当商工会は支援者に依存した支援ではなく、組織として支援をしています。」と語る。加えて「我々の支援は代行業務でなく、“共に走る”ことに重きを置いている。ASNAROさんは計画書を自ら作成できる事業者であり、非常に良い事例です。」と語った。
智頭町には約300の事業者があり、そのうち230の事業者が商工会に加入している。商工会では会員事業者に対して巡回訪問型の支援を行う一方、非会員事業者からの相談にも柔軟に応じており、「地域経済の相談窓口」としての役割を果たしている。また、課題や相談内容に応じて、よろず支援拠点やJETROなどと連携し、さまざまな専門的な相談や海外向けの販路開拓の支援なども行っている。


申請から3年で大きな成長を遂げる
ASNAROは、ものづくり補助金を活用してUVプリンターを導入したことで、新たに県内土産としてアニメグッズやキャラクター雑貨も手掛けるようになった。また、より高単価な御朱印帳や木製スケッチブックといったオリジナル商品にも注力し、クラウドファンディングを活用することで、広く周知とファンづくりに成功し、販売チャネルとして大手ハンドメイド通販サイトの開拓にも成功している。
コロナ禍に約8割を占めていたOEM製品の割合は次第に減少し、現在では利益率の高いオリジナル商品が全体の5割を占めるようになり、収益性の改善につながっている。
補助金を活用した2021年からの3年間で売上は6倍以上に達し、急速に拡大することができた。受注の増加に伴い、従業員数も申請時の3名から7名に増えている。小畑代表は、「製造スタッフが増えて仕事を任せられるようになった。そのため代表としての営業や経営の時間が取れるようになった」と語っている。
今後の展望——地域に根ざした企業と地域との連携モデル
ただし、小畑代表は「拡大しすぎて疲弊するのは本意ではない」と語っている。2025年は無理なく利益を生み出す質の高い経営を目指し、「整える年」と位置づけて、生産体制の見直しを図っている。その一環として、作業導線や空調、電力などの環境を改善するため、6月に工場を移転した。これにより、主要材料である智頭杉の製材事業者との物理的距離も縮まり、物流の利便性も高めた。
商工会では、自社の戦略や課題が明確ではない状態で補助金活用の相談を受けるケースも少なくないという。その中において、ASNAROは自ら戦略を考え、課題を設定し、補助金を収益向上のみならず事業構造を変容させる“手段”として活用した好例である。商工会はこの姿勢を「自走化のモデルケース」と評価している。
設備投資、製品開発、販路拡大——それぞれの過程には、事業者自身の主体性と地域の支援者との密な対話と信頼関係の構築が存在していた。
現在、小畑代表は法人設立も検討中である。「コロナ禍では、“ASNARO”を見つめ直すきっかけになった。」と語る。創業の原点は、「国産材の価値を高めたい」、「日本の林業を応援したい」という想いにあった。地域との関わりが深まる中で、「地域に貢献する企業を目指す」という意識がより強まっている。法人化を通じて、組織体制の強化と収益性の向上を図り、「利益を生みながら地域に必要とされる企業」を志向している。

ASNAROの経営理念は「Let’s grow tomorrow happily(明日をたのしく育てよう)」である。この言葉は、ものづくりだけでなく、経営の在り方を通じて体現されている。ASNAROの取り組みは、補助事業者と地域の「成長のあゆみ」として、他の地域や中小事業者にも多くの示唆を与える事例である。これからも、地域に根ざし、地域と共に育つ事業者としての姿に注目していきたい。
活用した補助金:ものづくり補助金 |
年度:2021年度(第8次) |
枠・型:一般型(通常枠) |
企業データ
- 企業名
- ASNARO
- 創業
- 2016年
- 従業員数
- 7名
- 代表者
- 小畑 明日香氏
- 事業所所在地
- 鳥取県八頭郡智頭町山根446-1
支援機関データ
- 支援機関名
- 智頭町商工会
- 所在地
- 鳥取県 八頭郡智頭町智頭2081-4