2025.01.15
生産性向上に取り組む企業事例
ポイント
株式会社346は群馬県高崎市と東京都小金井市に拠点を持つ工業製品等のデザインを請け負う会社である。同社の最大の強みは、一般的に「製品のデザイン」という言葉でイメージされるような造形部分(意匠)のデザインのみに留まらず、その製品の「企画」「設計」「調達」「製造」「物流」「販売」といったバリューチェーン全体のデザインや試作品の開発を一括して提供できることである。
同社は、工業デザイン事務所や電機メーカーのデザイン部署で経験を積んだ三枝氏と、機器メーカーやモビリティの開発・販売などを手掛ける企業で経験を積んだ菅野氏が、共同代表となり2017年に設立した会社である。両名は同社設立以前から工業デザインの分野等で知見を深めており、グッドデザイン賞をはじめとするデザインや開発分野の数々の賞を受賞している。同社のホームページを見ればそのスタイリッシュなデザインにまず目を引かれるが、何より掲載されている同社がデザインを手掛けた数々の魅力的な製品が、見ている者をワクワクさせてくれる
「ここ数年で技術はもちろんのこと、さまざまな製品においてデザインが非常に重要視されるようになってきました。日本は技術分野で進化を遂げてきたことは間違いありませんが、デザインという観点では国外に比べて認識が薄いと感じています。弊社はデザインを起点に、イノベーションの誘発やクライアントのブランド力を構築していく支援を行っていきたいと考えています。」
そう語るのは、同社の技術コンサルタントである大野氏とデザインエンジニアの下郡氏である。二人は創業間もない時期に入社し共同代表とともに会社を支えてきた社員である。
冒頭でも説明したとおり、同社はバリューチェーン全体にわたるデザイン支援を得意としている。どのような理由からそういったサービスを提供しているのか聞いてみた。
「製品構想の段階で意匠に関するデザインだけをクライアントに提供しようと思うと、後工程で元の構想からブレてしまい、どこかでデザインが崩れたり機能が損なわれたりすることもあります。弊社はデザインを中核に据えながら、製品の企画から製造販売など、ほとんどすべての工程に積極的に関わることで、デザインやその製品自体の品質を担保することを意識しています。」そう説明してくれたのは、デザインエンジニアの下郡氏である。同社のホームページ上に掲載されている名だたる大手企業との実績を見れば、その精度・品質の高さがいかに優れているかがよく分かる。
デザインを主軸とする企業にとって、設計用のシステムである3D CADソフトは重要な設備の一つである。同社は、IT導入補助金を活用して新たに3D CADソフトを導入した。
その経緯について、技術コンサルの大野氏がこう説明してくれた。
「もともと私は、大手ソフトウェア会社で3D CADソフトを扱う仕事をしておりました。弊社で3D CADソフトを新たに導入しようという話しの中で、私の知見やノウハウが活かせるものを選ぶ方が効率的でしたので、この補助金を活用して導入した3D CADソフトを採用することになりました。加えて、私自身がソフトを扱っていた関係でどのITベンダーがサポート体制に優れているかもある程度分かっていましたので、私から気になるITベンダーに声をかけ、導入の相談を行いました。その後、ITベンダーと3D CADソフトの導入に向けて協議を重ねる中で、IT導入補助金のことを知り、活用を決めました。」
導入するITツールによっては、ITベンダーのサポートが必要不可欠となる場合もある。今回3D CADソフトの購入先となったITベンダーは、カスタマーサポートもしっかりしており、補助金申請についてもノウハウが豊富だったため、補助金の申請・ツール導入の両面で非常に良いサポートを提供してくれているのだという。ツールの導入はソフト自体もさることながら、導入前後のサポートも非常に重要であり、適切なITベンダーの選定が重要となる。
同社では以前から、デザインや設計業務においてデータの更新や管理、受け渡しに関して課題を抱えていた。社内のデザイナー、エンジニアごとに様々なCADソフトが混在していた関係で、データ形式にバラつきがあり、社員間や取引先とのデータ授受に中間ファイルを必要とする状況が続いていた。また、その過程でファイルが壊れるなどのトラブルも起きていたという。
「IT導入補助金を活用して新たに3D CADソフトを導入した際、社内のデザイナーやエンジニアは全て新しい3D CADソフトを使うように統一しました。それだけでも社内でのデータ更新や受け渡し管理が飛躍的に向上しました。加えて今回導入した3D CADソフトが業界大手ということもあり、取引先企業も同じソフトを利用していること多く、データのやり取りが非常にスムーズになりましたね。特に、デザイナーとエンジニアが同じファイルを共有し作業できるようになったのは、業務効率を大幅に高めています。」ツール導入の効果をデザインエンジニアの下郡氏はこう話してくれた。
ツールは導入すれば良いというものではなく導入計画やイメージに加えて、新たにツールを導入した際に、既存環境を考慮し、従業員が違和感なくスムーズに業務を移行できるかも大事なポイントである。同社の取り組みは、社内外を含めて業務の効率化につながる理にかなっているツール導入の好例であるといえる。
同社は現在、主に受託開発を中心に取引先からの仕事を請け負っているが、オリジナルブランドの開発にも意欲的に取り組んでいる。
「将来的な構想として、オリジナルブランドを積極的に売り出していきたいと思っています。受託企業としての顔と合わせて、いわゆるメーカーとしての立ち位置も作りたいということです。オリジナルブランドは受託事業と比べて利益構造も大きく変わります。」と大野氏は語る。
社内のIT化については、今後取引先が増えた場合、PDFデータなどの帳票管理が煩雑になることが予想されるため、データ管理ソフトの導入やバックオフィス業務の自動化も検討しているという。
今後もIT化や補助金の活用を通じて社内インフラをさらに強化するとともに、自社ブランドの展開等により収益性を向上させ、堅固な事業基盤を構築する考えだ。
目を引く優れた「デザイン」で、日本の製造業や産業発展を支える株式会社346が、日本を代表するデザイン会社へと発展し、国内産業が「デザイン」によってさらに活性化する未来を期待したい。
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