2024.09.20
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例
ポイント
1947年創業の際に圧延理論を構想し、理論を実践して超極薄箔の製作を成し遂げる。以来、航空・宇宙、産業機械、半導体、電子電機産業などあらゆる分野に高品質の製品を提供してきた。
業界内でも“薄い箔はリカザイ”と言われ、薄箔製造を得意とした企業である。また、精密金属二次加工としても国内でも貴重な技術を保有する加工事業者に委託することで、一貫した対応を可能としている。
新たな生産方式の導入を構想していた当社は、2018年にメインバンクに有効な支援策の相談をしたところ、地域の産業支援機関を紹介される。同産業支援機関からものづくり補助金の活用を推奨され、取り組むこととなる。自社で策定した申請計画に対し、適宜、訪問して丁寧なアドバイス(添削)をいただくなど手厚いサポートを受け、申請したところ、採択に至った。初めて採択された平成29年度補正のものづくり補助金では、自動切断機とクリーン環境設備を導入した。幸運にもここで導入した機械のおかげで、新たな受注につながったことで、コロナ禍の売上減少を食い止めることができた。
「“こういうことをやりたい”を形に(課題設定)して、補助金申請へ結び付けていただいたのが地域の産業支援機関でした。申請計画に落とし込むためには、何をするために必要かという背景や課題、さらには社会的にどの様な効果があるのかも踏まえて、まとめるのは大変だったが、そこをサポートしていただいた。」と、有賀取締役は当時を振り返る。
ものづくり補助金の活用を機に、川崎市をはじめ神奈川県内の地域支援機関との連携や活用が加速していった。
2020年の川崎市モデル創出事業においては、コロナ禍における製造業の取組について提案。同市から助成を受けるなど、IT導入と活用を促進し、感染対策を伴う働き方の改革にも資する社内インフラの整備を行った。振り返れば、このことがその後のIT活用のさらなる高度化の下地へと繋がった。
これまで当社では、製品の7~8割が、研究開発や試作向けの小量の受注で占めており、営業部門では50~100件/月の見積もり対応に追われ、エクセルと紙で事務処理を行っていた。また、事業に関わる様々な情報が増えてきて検索にも支障をきたすようになってきた。併せて業務の属人化の問題も浮上していた。「システム導入により属人化している業務を変え、社内をよりオープンにしたい(社風を変えたい)」と組織開発・人材育成に意欲的な小室社長は語る。このような状況下で当社を訪問したITコーディネーターからは、複雑な業務を勘案し、kintone(キントーン)の活用を推奨されることになる。
また、事業戦略としては、医工連携・産学連携にも積極的に関わり、ある大学教授からの技術指導をいただきながら、マグネシウム箔の量産化を展望することになる。そして今後の量産品にも対応できる体制を構築すべく、2022年に再びものづくり補助金(11次公募)に取り組み、AI外観検査システムとkintoneによるトレサビ管理システムの申請・採択に至った。
当該補助事業による設備投資は1年前の2023年9月に完了したところ。2023年には福島県福島市に東北営業所を開設し、営業体制を強化しているものの、量産化への対応や業務の効率化が業績に寄与してくるのはこれからであるが、社内には様々な定性面での成果が出てきている。
システム導入においては、システム会社と当社で工程内の作業分析をした上で要件を固めて申請を行った。これにより“自社のシステム”であるという当事者意識が根づき、若手を中心に活用が広まっていった。「中小企業では、経営者とITベンダーだけで導入しまい、現場で活用されないケースもあると思うが、当社のシステムは、時間をかけて現場を巻き込んで皆で作ったもの。だから使われている。」と現場を取りまとめる小室主任は自負する。
また、kintoneを活用する業務範囲が広がっており、部門ごとに分散していた情報が集約され、見える化の面でも効果が出ている。例えば、収益状況の見える化が図られたことで、経営トップによる顧客への支払い条件等の営業交渉にもつなげるという行動変容に至っている。
「今後2、3年の間には生成AIを導入し、生産管理や受発注業務の高度化を図る。これにより余力ができた人材を再配置したり、業務の見直しも可能となる。2030年頃までは楽しみ」と有賀取締役は語る。
ものづくり補助金を通じて、地域事務局である神奈川県中小企業団体中央会との接点ができた。世話役となっていただいた同中央会職員を介して、参加者同士の交流も図られ、ローテーションで工場見学会を3回実施。研究機関の情報提供もいただけるなど信頼関係が醸成された。また、同中央会が主催している補助事業者の中から経営層を対象にしたエグゼクティブゼミナール(通称:エグゼミ)に参加するようになる。2018年のものづくり補助金で接点ができて以降、数年来、継続的にエグゼミに参加することで、新規事業、DX診断、人材育成の検討や他社との情報交換を行っている。「代表者のみの集会は多くあるが、現場を取りまとめる取締役クラスの集まりは希少。エグゼミを介した中小企業者同士のコミュニケーションは重要。補助事業後の成長をサポートするためにもエグゼミやフォローアップ等による伴走支援の取組は必要だ。」とエグゼミ担当の高達部長代理は語る。
なお、当社は神奈川県や川崎市の様々な地域支援機関との関係性も強くなってきたことから、必然的に自社にとって有益な情報が入り易く、活用し易くなっている。例えば、メディアの取材対応、工場見学会の誘客、業界誌・学会誌に取り上げられる等、お金をかけずに自社のPRが可能となった。また、神奈川県産業振興センターの「ビジネス・チャンス開拓検討会」にも参加。この中で中小企業連携による人材採用プロジェクトとして、自社の採用活動を検討してきた。この取組により、インターンシップで受け入れた人材が当社に入社した実績を出すことができた。
当社は2047年に100年企業となる。現在の若手社員がその後も活躍できるためにも、さらにその先の事業継続・成長を展望している。グローバルニッチトップを目指す当社としては、長期的には中堅企業規模への拡大も視野に入れている。100周年に向け新製品・新分野、DX、グローバル化などの基盤作りを進めるにあたり、「技術革新は自社にとってだけでなく、社会全体に波及させていくためにも、当社からも地域に発信することも重要だ」と、小室社長は語る。
当社では、地域支援機関のサポートや情報提供を有効に活用することで、経営資源が不足しがちな中小企業でありながらも様々な経営課題の設定・解決に取り組んでいる。
具体的には、中小企業大学校東京校が実施する中小企業診断士養成課程における診断実習の受け入れによる課題の抽出や自社での中期計画策定を通じて、的確な課題設定が行われている。これら課題の解決に向けては、適宜、地域支援機関のサポートや情報提供を活用。成長に向けた当社主体の課題設定~課題解決のサイクルが機能している。
将来に向けてさらなる成長を視野に入れている中小事業者に対して、補助事業後のフォロー段階において企業の自走状況に応じたサポートや情報提供により、程よい距離感で寄り添う神奈川県中小企業団体中央会による伴走支援の構図が垣間見えた事例である。
< 使用した補助金 >
- 平成29年度補正予算「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
- 令和元年度補正ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(第11次)
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