左から 「とうふ処はせがわ」3代目継承予定の長谷川慎一氏 豊岡市商工会の二位聡経営指導員
この記事のポイント
- 3代目継承者(予定)が参画して初めて知った老舗豆腐店の抱えた課題
- 全幅の信頼を置く経営指導員の伴走支援と補助金活用により課題解決へ
- 創業100年目に向かって、地域全体の付加価値向上を目指す熱い思い
1950年(昭和25年)、兵庫県の城崎温泉で開業した「とうふ処はせがわ」は、現在では城崎で唯一の豆腐屋である。親子3代にわたり、昔ながらの製法を守りながら、手作りの豆腐や油揚げ、がんもどきなどを提供しており、城崎温泉にある27軒の旅館への販売のほか、店頭での小売も行っている。
かつては城崎温泉には複数の豆腐屋が存在したが、「とうふ処はせがわ」は75年間、地元で愛され続けてきた。なぜこの店だけが今もなお選ばれ続けているのか。その理由を、3代目を継承予定であり、実質経営者である長谷川慎一氏に聞いた。
人気商品の「おからのかりんとう」(左上) 「豆乳ドーナツ」(右上)
75年の歴史を背景に地域の信頼を築いてきた老舗お豆腐屋さん
3代目を継承予定の長谷川慎一氏
長年、地域に根ざしてきた同店は、長谷川慎一氏の祖父が創業し、現在は2代目である長谷川三好氏(慎一氏の実父)が代表を務めている。
1998年(平成10年)頃から、コンビニエンスストアの出店や常連客の高齢化、若者の豆腐離れが進んだことで、売上は減少傾向にあった。
この危機的状況を打開するため、2代目の長谷川三好氏は試行錯誤を重ね、2003年(平成15年)に「おからのかりんとう」、2008年(平成20年)に「豆乳ドーナツ」の販売を開始した。これらの商品はメディアにも紹介されるほど人気を集め、現在も同店の看板商品となっている。
丁寧な製法に裏打ちされた高品質と豊かな味わいにより、伝統ある城崎温泉の高級旅館で提供されるだけでなく、近隣住民や観光客からも親しまれ、城崎温泉で唯一無二の存在となっている。
3代目が参画したことで明らかになった課題とコロナ禍の打撃
「豆腐屋の息子ですが、実は豆腐があまり好きではありませんでした」そう語る長谷川慎一氏は、会社員を辞め、2017年(平成29年)から家業である同店の手伝いを始めた。
「会社員時代は事業を継ぐ意思は全く無かったので、ほんの軽い気持ちで店を手伝い始めた」と慎一氏は当時を振り返る。
しかし、その心境に変化をもたらしたのは、両親の高齢化であった。早朝から働く両親の姿を見続けるうちに、「祖父が創業し、父が一生懸命築いてきたこの店と伝統の味を無くすのは、勿体無い」という想いが芽生えたという。
実際に現場に立つようになると、慎一氏は多くの課題に直面した。
「早朝から丹精込めて作っているにもかかわらず、豆腐の単価の低さには愕然とした。豆腐の安いイメージを何とか払拭したかった。せっかくの商品もビニール袋に入れて販売されており、これでは若者に手に取ってもらうのは難しいと感じた」と振り返る。
さらに、追い打ちをかけたのが、2020年(令和2年)からのコロナ禍だった。売上の約85%を占めていた旅館への販売が、相次ぐ旅館の休館により大きく減少した。
「当時は、どん底まで落ちましたね。しかし、祖父から代々受け継いだ製法を維持し、この味を守りたいとの想いにブレはなかった。卸売に依存し過ぎる売上構成を改め、付加価値をつけることで小売部門での単価を上げたかった」と慎一氏は語る。
しかし「この課題を解決したいと思いましたが、周りに相談できる相手が一人もいませんでした」と、当時の不安も明かしている。
経営指導員との出会いから持続化補助金活用で課題解決へ
豊岡市商工会の二位聡経営指導員
これまでも付き合いのあった金融機関などから各種支援制度の案内を受けることはあった。しかし、案内とは言っても、ただ資料を渡されるだけであり、もらった資料に興味を持つことはなく、相談することもなかった。
コロナ禍のある日、取引のある金融機関の担当者から、経営相談や補助金について相談できる豊岡市商工会の二位聡経営指導員を紹介された。
二位経営指導員は、「長谷川さんが考えている課題を一からすべて細かく聞き、販売単価を上げながら、販路拡大を目指す一つの手段として、持続化補助金活用を提案しました」と語る。
当初は、補助金申請書作成の複雑さから「自分には絶対に無理」と諦めていた慎一氏だったが、二位経営指導員の丁寧かつ親身な説明を受けて、持続化補助金の申請を決意した。
二位経営指導員は、慎一氏の頭の中にある「もやもやしたイメージ」を整理する壁打ち相手となり、必要な情報整理や申請書作成を中心にサポートした。その際、店舗全体のブランド力向上や城崎温泉駅から徒歩3分という好立地を活かした小売部門の強化を目標に掲げた。
そして利益率の高い商品販売体制を確立するため、ロゴやパッケージの制作、のれん・看板・しおり・ショップカードの制作費用として、2023年(令和5年)2月に持続化補助金へ申請し、採択されたのである。
持続化補助金で実現したロゴや看板による
販路拡大と売上アップの効果
「豆」をモチーフとしたロゴを制作した。制作したロゴを商品やのれんへ掲載し、店舗全体に一体感を生み出すことで、高級感の演出につなげ、販売単価を上げることに成功した。
看板には商品説明だけでなく、製造工程の写真を掲載した。これにより、来店前から商品への理解や興味を持ちやすくなり、入店しやすい店舗づくりにつながった結果、集客の増加が見られた。
また、しおりをテイクアウト商品に同梱したことで、購入したお客様からの紹介による新規顧客の獲得につながった。
さらに、ショップカードを城崎温泉の旅館に設置したことで、宿泊客から食事で提供された豆腐の製造元を尋ねられた際、旅館の従業員が案内しやすくなり、これまでにはなかった顧客獲得が可能となった。
これらの取り組みの効果が積み重なった結果、持続化補助金導入前の令和4年12月期と比較して、令和6年12月期の売上高は約2割増となった。
持続化補助金を活用した 左 ショップカード 右 しおり
事業計画作成と商工会経営指導員の支援が生んだ
長谷川慎一氏の意識変化
「店を手伝い始めてから二位経営指導員に出会うまでは、日々の業務をこなすことで精一杯だった。しかし、持続化補助金の申請を行う過程で初めて事業計画を作成したことで、先のことを計画しながら考えることが楽しくなった」と慎一氏は語った。
二位経営指導員は、持続化補助金採択後も店舗改修や事業承継、資金繰りなど幅広い相談に対し、的確なアドバイスを提供し続けている。「資金繰り等の観点から、今はその計画を実行する時期ではない」と二位経営指導員から指摘された計画について、慎一氏は自身で資金繰りを見直し、適切な時期が来た段階で再度相談するなど、両者の間では厚い信頼関係が構築されている。
二位経営指導員と二人三脚で伴走した経験を基に、慎一氏は持続化補助金で初めて事業計画を作成した後、豊岡市ステップアップ補助金を活用してショーケースを導入し、豊岡市価値向上補助金で店舗改修費用の一部を賄うなど、複数の補助金に継続して挑戦し、事業の成長を着実に進めてきた。
「自分が60歳になる2050年は、「とうふ処はせがわ」が節目を迎える創業100年目。その時に向けて、城崎温泉全体、さらに出石、香住、村岡などの周辺地域とのコラボレーションを推進し、当店だけではなく、豊岡市全体の価値を上げることを目指したい。自分の力はほんのわずかですが、当店のお客様、二位経営指導員をはじめとした豊岡市商工会、取材に来てくれた記者、ロゴデザイン等を生み出してくれたデザイナーなど、自分の周りの方々の支えがあったからこそ、今の自分があることに感謝したい」と慎一氏は熱く語った。
二位経営指導員が伴走支援を継続する「とうふ処はせがわ」、若き3代目(継承予定)の今後のさまざまな挑戦が期待される。
企業データ
- 設立
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1950年10月
- 従業員数
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3名
- 代表者
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長谷川 三好 氏
- 所在地
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兵庫県豊岡市城崎町湯島168
支援機関データ
- 所在地
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兵庫県豊岡市日高町祢布920