2025.12.25

  • 卸売業,小売業
  • 事業承継・M&A補助金(旧事業承継・引継ぎ補助金)

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(竹栄株式会社)

衣料品卸の事業承継と補助金活用でブランド価値を再構築~ヒト・モノ・コトを繋ぐ地域密着型デザイン・マッチング企業へ転換~

””
(左)竹栄株式会社 代表取締役社長 竹田尚弘氏 
(右)札幌商工会議所 中央支所 経営指導員 遠藤航平氏

この記事のポイント

  • 次の時代を見据え、衣料品卸売業の社会的な存在価値を見直し
  • 社員に伝えるために、経営理念を具体化、経営方針や事業計画として社内に展開
  • 社員の協働、取引先や札幌市民とのコミュニケーションから商品を生み出すための仕掛けを実践
 北海道を拠点に100年の実績を積んできた衣料品の卸売業を継いだ四代目経営者が、次の時代に向けて事業を変革していくことを決意。北海道ならではの商品を企画しつつ、これまでとは異なる事業にも進出。地域を巻き込んだ情報発信により、自社の新たなブランドの展開を行っている。さらに、商品開発には取引先や地域の方々とコミュニケーションを重ねるとともに、社員の働き方を変えていく必要があるとの考えから、環境変革に事業承継・引継ぎ補助金を活用し、事業を拡大している事例を紹介する。

市役所勤務の経験から学んだ商品ブランドの価値づくり

北海道札幌市に本社を構える竹栄株式会社は、北海道から東北にかけて衣料品の卸売を手がける、業歴97年の老舗企業である。事業のきっかけは、和歌山産の起毛生地を木箱に詰め、船で北海道へ運び、道内各地で販売したことに始まる。
その後、昭和3年に北海道小樽市へ拠点を移し、竹田商店として正式に創業。昭和45年に本社を小樽から札幌に移転し、現在は四代目の竹田尚弘氏が事業を継承している。
現代表の竹田氏は、当初家業を引き継ぐつもりはなく、大学卒業後は小樽市役所に就職した。小樽市役所では経済部に所属し、商店街活性化や北海道物産展の実務を担当していた。
当時は、全国の物産展を回り、地元小樽の経営者と「小樽市として、どの特産品を日本全国に売っていくべきか」という議論を重ね、製品価値の伝え方のブラッシュアップや、製品が誕生するまでのストーリーづくりに携わった経験を持つ。
その後、先代から一緒に事業を行っていくことを打診され、市役所勤務で培った経験を地域貢献に活かせると考え、2008年に当社に入社。竹田氏は、昔ながらの衣料品卸業としての会社の在り方を変えていく必要性を感じていた。
入社後、竹田氏は、最初にインターネット事業部を立ち上げた。
中長期的に事業を成長させていくために、消費者向けの商品販売を小売店に依存するだけではなく、自社で調達や在庫を管理しながら、直接販売を行っていく必要があると考えたためである。
インターネット通販事業を開始した当初は、他社ブランドの商品を販売していたが、段階的に自社ブランドの商品を販売する方針に切り替えた。他社の人気商品を販売すれば、短期的な売上は見込めたが、インターネット通販事業を通じて自社ブランドを育てていくことを目指すために、販売先を厳選しながら自社製品を販売する方針とした。
方針転換の当初は、自社ブランドの認知度が低く、インターネット事業の売れ行きも不調であったが、忍耐強く展開を継続した。その後、ブランド認知を高めるさまざまな取り組み(食品の廃棄物削減活動など)の相乗効果によってブランドの浸透が進み、インターネットでの売上も増加していった。
””
竹栄株式会社の自社ブランド「YUK」。ブランド名のYUK(ユック)は、アイヌ語で蝦夷鹿を意味する。
北海道の気候にマッチした機能性とデザインを追求している。

自社の歴史やノウハウを活かしつつ、時代に合わせて会社を変革していきたい

「自社ブランドへのこだわりは、会社の歴史やノウハウを活かしきれていない現状への問題意識、そして小樽市役所に勤務していた頃に物産のブランド価値向上に取り組んだ経験が基になっていると思います」と竹田氏は自分の想いを振り返る。
竹田氏は、長い業歴によって培われた安定的な商品流通網や衣料品に関する知見を持ちながらも、自社で商品企画や生産を行っていないことに疑問を感じていたという。
また、経営者として、社員への会社方針の示し方や、社員の働き方にも課題意識を感じていた。
「当時は経営者と社員間のコミュニケーションがなく、日々与えられた業務をこなすだけであり、閉鎖的な職場環境でした。このままでは、商品開発や販路拡大などの新しい取組はできないと考えていました」と語る。
竹田氏は、社内のコミュニケーションツールとしてサイボウズのグループウェアを導入。複数人の
やり取りを可視化・共有し、履歴として残る仕組みに変えていった。
さらに、会社の理念を具体化するための3つの方向性を示し、これを元に中期経営計画を作成。社員が自分の業務用パソコンからいつでも経営方針や中期経営計画を確認できるように、サイボウズ上に掲示している。
竹栄株式会社 代表取締役社長 竹田尚弘氏
竹栄株式会社の3つの方針
  1. デジタル化を通じた業務プロセスの効率化
  2. ブランディングによる企業価値の向上
  3. WTS戦略(竹栄社内における造語)
W(わくわく) 
未来に向けた社員の挑戦を奨励する
T(楽しむ) 
成功も失敗も楽しめる組織文化を築く
S(成果の創出)
挑戦し、楽しみつつ、必ずビジネスとしての成果に繋げる
 

補助金を活用し改装工事を実施、荷置場所を共創が生まれる空間へ

次に竹田氏は、従業員の働き方を変えていく取り組みに着手した。

それまでは、従業員ひとりひとりが各フロアに点在する商品在庫の間に机を置き、異なる空間の中でバラバラに散らばって働いていた。この状態を変え、社員が一か所に集まり、随時コミュニケーションを取りながら、創造的な働き方ができる空間づくりを行うこととした。

””
フロア整備に事業承継・引継ぎ補助金を活用、経営者と社員や取引先が共創できる空間づくりを行った
改装したフロアでは、年に2回、春と秋の新商品展示会を開催しており、取引先に自社製品をPRすると同時に、顧客ニーズを把握する貴重な機会になっている。
 
展示会以外の平時であっても、このスペースには自社のオリジナル商品を常時展示している。
これまでは、社員が取引先に訪問し、営業するスタイルが主流であったが、現在は取引先にこのスペースへ足を運んでもらい、商談や商品企画を行う取り組みを進めている。
このスペースの活用により、取引先の小売業と共同で開発を行う案件が増え、大手量販店の販路が拡大する成果が生まれている。
将来的には、外部の市民にもスペースの一部を開放し、有料のコワーキングスペースとして運営していく方針である。

消費者を巻き込んだ新たな価値の創造へ

竹栄では、本社ビルの1階に登録会員制の無人店舗を開設している。
登録にはマイナンバーカードなどの本人確認証の提出を必須とし、セキュリティ対策を厳格に実施した上で、24時間いつでも購入できる仕組みとなっている。インターネット通販で購入した商品も、ここで受け取ることが可能である。
また、登録会員の中から商品開発に協力してくれる個人を募り、アンバサダー制度を運営。会員に自社商品を使ってもらい、感想や意見、要望を吸い上げる工夫をしている。
今後の事業の展望について、竹田氏は次のように語る。
「卸売業の本質は「繋ぐ」ことにあると考えています。取引先やお客様だけでなく、地域の皆様とも繋がりながらアイデアを出し、北海道の地域性を活かした商品開発をさらに進めていきたい。
また、アンバサダーをはじめとした繋がりを通じて、北海道の内外に向けた情報発信も強化し、将来的には、海外展開も視野に入れていきたいと考えています」
本社1階に設置した無人店舗「Manhattan Store」

支援機関と支援担当者の紹介

札幌商工会議所 中央支所 経営指導員 遠藤航平氏
今回の補助金申請を支援した札幌商工会議所に、事業者の伴走支援を実践するための取り組みを聞いた。
札幌商工会議所では、中小企業相談所のもと、地区別に5つの支所を設置しているほか、創業予定者を主な対象とする「中小企業・創業支援課」、企画・総括や金融支援を担う「運営・金融課」を配置し、管内事業者への支援体制を構築している。
令和7年度に採択された経営発達支援計画(5か年)では、従来の「支援件数の多さ」を重視した支援から、実効性や成果といった「支援の質」を重視する方針へ転換している。また、事業者からの相談を待つ受動的な支援にとどまらず、事業者が行動を起こすタイミングを見据え、商工会議所側から能動的にアプローチする支援を推進している。
あわせて、個々の経営指導員の支援力向上を目的に、次の3点に重点的に取り組んでいる。
  1. ローカルベンチマークを活用した事業計画策定からフォローアップまでを学ぶ伴走型支援の教育
  2. 支援事例を共有し、事業者とのコミュニケーション手法を学ぶケーススタディ
  3. 販路開拓など個別施策の専門性についての知識・ノウハウ補充のための研修会の実施
これらの施策を効果的に推進するため、中小企業相談所内の横断的な取り組みとして「経営支援強化チーム」を設置しており、中小企業診断士資格を有する経営指導員が中心となり、組織全体で支援の質の向上を図っている。
 
竹栄株式会社を担当する遠藤指導員は次のように語る。
「竹田社長は、常に自社の戦略を考え、変革を推進されています。今後のさらなる構想に対しても、しっかり伴走し、商工会議所として貢献できるように継続して対話をしていきます」
活用した補助金:事業承継・引継ぎ補助金
年度:令和6年(令和5年度補正予算 第8次公募)
 枠・型:経営革新枠

 

企業データ

設立
(創業)昭和3年 (設立)昭和25年
従業員数
32名
代表者
竹田 尚弘 氏
所在地
北海道札幌市中央区北3条西12丁目2-3

あわせて読みたい記事

TOPへ