2025.12.16

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  • 持続化補助金

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む事例(燕商工会議所)

小規模事業者の売上を伸ばす燕商工会議所の販路開拓支援と補助金活用

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燕商工会議所 事務局長 高野雅哉氏

この記事のポイント

  • 製造業が集積する燕三条地域の技術力と事業者の課題
  • 商工会議所による販路開拓支援とマッチング施策の実行
  • 持続化補助金(共同・協業型)を活用し成果を上げる「燕三条トレードショウ」の実例

燕三条地域は、金属製品製造・加工において国内有数の産地である。金属洋食器やアウトドア用品などの日用品だけではなく、自動車部品、金型、半導体製造設置部品、医療機器、航空機部品など、先端分野における金属製品の製造・加工を手がけており、日本の製造業の屋台骨を支える重要な地域である。

このような幅広い技術力を持つのは、燕三条地域の中小・小規模事業者である。
日用品と先端製品という異なる分野の製造を両立する「二刀流」の事業者も多く、これら両分野の販路開拓を進めるため、燕商工会議所が地域の事業者をとりまとめ、参画する事業者の中長期的な商品展開力・販売力の向上を図ることを目的とした展示会を開催している。展示会の開催やその準備に向けた事務経費については、持続化補助金(共同・協業型)を効果的に活用した。
このような取り組みを継続的に実施している燕商工会議所の事務局長である高野雅哉氏に聞いた。

燕三条の地場産業が挑む販路拡大と技術継承の取り組み

燕商工会議所が策定する「経営発達支援計画(※)」では、重要な柱のうちの一つとして、「新たな需要の開拓に寄与する事業に関すること」が掲げられている。その具体策として、国内外で開催される展示会への継続的な共同出展や、地域で実施する「燕三条トレードショウ」の開催を通じて、新たな販路の獲得や新分野への進出を支援している。
 
※「経営発達支援計画」
「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律」(平成5年法律第51号)に基づき、各商工会や商工会議所が管内の小規模事業者や地域振興のために策定する5年間の事業計画である。
 
「燕三条トレードショウ」の意義について、高野氏は次のように語っている。
「小規模事業者が単独で展示会に出展しても注目されにくい。地場産業全体で出展し、厚みを示すことで受注につなげる必要があると常に考えている。燕三条地域では、日用品から半導体製造装置の部品まで幅広く取り扱っており、両分野の販路開拓には欠かせない取り組みである」
 
日用品と先端部品は一見異なるように見えるが、主にステンレスを使用するという共通点がある。
「ステンレスを磨く技術(布状のバフを用い、手で磨くバフ研磨)を持つ事業者は、燕市内だけで約400者にのぼる。特に、L字型やT字型の継手のように曲がった形状は、機械で磨けず手加工が必要となる。
直線形状であっても機械磨きと比べて100分の1のコストで対応できる点は大きな優位性であり、これほど多くの事業者が集まる地域は、海外も含めて他には存在しない」と高野氏は胸を張る。
 
また、単価は低いが安定した受注が見込める日用品と、単価は高いが変動が大きい先端製品の両方に対応することで、受注変動のリスクを抑え、利益を平準化させる効果もある。そのため、両分野の販路開拓には特に力をいれている。
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多くの来場者で賑わう「燕三条トレードショウ」の様子
燕商工会議所の管内状況は次のとおりである。
燕市全産業に占める製造業の割合は35.4%と高く、人口1万人以上の都市としては国内トップである。産業小分類別の事業所数トップ3もすべて「金属製品製造業」であり、燕市の産業の中枢を成している。この金属製品製造業者の大半は小規模事業者であり、自社製品を持たず、研磨、溶接、プレスなど単一工程のみを担う専門加工業者が中心である。多くは二次・三次の下請けを担っている。
 
地域内の取引先に依存する構造から脱却し、地域外へ販路を広げたいと考える事業者も多いが、営業ノウハウの不足や、経営基盤の弱さから思うように進められず、足踏み状態にある。
 
燕市の工業統計によれば、2020年(令和2年)時点で従業員3人以下の金属製品製造業者数は640者であり、7年前と比べて27%減少している。このまま廃業が進めば、地場産業を支えてきた技術の喪失や生産性の低下、ひいては産地全体の衰退につながることが懸念される。

営業力に課題を抱える事業者を支える販路開拓の仕組みと実践

このような状況を背景に、燕市が掲げた「第3次燕市総合計画」の基本方針「活力ある産業の振興」における7つの施策の方向性を踏まえ、燕商工会議所は「個社支援」を主要事業に位置づけ、さまざまな取り組みを行ってきた。
燕地域の小規模事業者(製造業・卸売業・小売業)を対象に、インターネットによる受注マッチングサイト「燕工場リンク」(小規模事業者登録数56社)や、金属研磨分野の共同受注サイト「磨き屋シンジケート(※)」(小規模事業者登録数11社)を運営し、各社の技術分野を見える化しながら、活発な受注を促す仕組みを整えてきた。
※「磨き屋シンジケート」URL:https://www.migaki.com/
 
これらの販路拡大の取組の一つとして、地域の製品メーカーや加工業者との受注マッチングを目的に開催したのが「燕三条トレードショウ」である。
「燕三条トレードショウ」の開催を担ってきた燕商工会議所事務局長の高野氏は、次のように語る。
「2017年(平成29年)に第1回を開催するまでは、企業は個々に首都圏の展示会に出展していた。出展費用は1コマで旅費や装飾費を含めると100万円程度となる。費用がかさむので、小規模事業者は単独では出展できなかった。本補助金を活用することで、基礎装飾を含めた出展料を7万円に抑え、小規模事業者も出展できた。さらにJETROと協力し、海外バイヤーを複数招待した」と振り返る。
 
小規模事業者の多くは、一般的に営業活動が得意でないため、マッチングに苦労することが多い。こうした手厚い仕組み作りに加え、燕商工会議所の経営指導員は日常業務を通じて各事業所の加工内容を詳細に把握しており、適切なマッチングをスムーズに行える体制が整っている。

補助金活用とマッチング強化で成果を上げる
燕三条トレードショウの工夫

「燕三条トレードショウ」開催当初は補助金を申請していなかったが、燕商工会議所はこれまでに計4回、小規模事業者持続的発展支援事業の共同・協業販路開拓支援補助金を活用している。高野氏自身が、「燕三条トレードショウ」に活用できる補助金を調べ、この補助金の申請を決断したという。いずれも採択され、「燕三条トレードショウ」の開催、さらには地場事業者の販路拡大に大いに寄与したと高野氏は語る。
 
「世の中が大きく変化する中で、申請書の内容にもその変化を的確に反映させたことが採択につながったと感じている。私は日常業務で管内の企業を1軒1軒訪問し、常に密にコミュニケーションを取りながら意向を把握していたので、参画事業者を募って申請書を作成する際も大きな困難はなかった。
補助金は、日用品や装置部品の展示会への出展費用のほか、来場促進のための案内状や、過去来場者へのDM発送など、広報活動にも活用した。こうした取り組みにより来場者が増えたのは間違いない」と語る。
 
2021年(令和3年)から4年連続で補助金が採択されており、「燕三条トレードショウ」の出展者は増加傾向にある。一般見学者の入場を制限しているものの、入場者数は約2,000人で安定している。特筆すべきは、新規取引先数が開催ごとに増加し、この4年間で1.5倍となった点である。
 
「地元であれば、出展者は都内の大規模展示会と比べて出展料や旅費を抑えられるため、参加のハードルは低い。一方、来場した県外バイヤーは、首都圏等では無縁の小規模事業者の展示を見ることができる。さらに、出展者の製造現場も併せて視察することで、より深く製品を知ることができる。そのまま商談することも可能であり、成約に結び付き、受注を大きく伸ばした事業者が多い」と高野氏は分析する。
 
また、「燕三条トレードショウ」の特色として、「他の展示会では目的の製品が見つからず、切羽詰まって当ショウへ来場するバイヤーが多い。会場には、管内事業者の製品を把握している商工会議所の経営指導員が常駐しており、バイヤーの要望を聞き、すぐに出展事業者を案内できるのはもちろんのこと、出展者同士の横の繫がりが強く、出展者が取扱事業者を紹介してくれる」と語る。
商工会議所と地域事業者との緊密な連携の証でもある。
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「燕三条トレードショウ」の全体風景

燕商工会議所の人材育成と今後

後進育成について高野氏に尋ねた。
「後継者たちは順調に育っている。あえて細かいことには口出しせず、特別な指導もしない。一緒に仕事をしながら、自分の背中を見て、多くの部下が自然と成長してくれた」と語り、目を細めた。
「個社が良くなれば、地場全体も良くなる。だからこそ、地場全体を良くしたいという思いを職員ひとりひとりが常に持ち続けてほしい」との高野氏の想いは、これからも着実に受け継がれていくことだろう。
活用した補助金:
小規模事業者持続的発展支援事業共同・協業販路開拓支援補助金
(現:小規模事業者持続化補助金(共同・協業型))
年度:
令和2年度 第2回
令和3年度 第4回
令和4年度 第6回
令和5年度 第8回
枠・型:展示会・商談会型

支援機関データ

支援機関名
燕商工会議所
所在地
新潟県燕市東太田6856

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