2025.09.16

  • 製造業
  • 持続化補助金

支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例(Palette Japan)

Palette Japanの創業と挑戦 日本の伝統工芸を世界へ届ける軌跡

左から 代表の太田智子氏 堺商工会議所 首藤知也経営指導員

この記事のポイント

  • 創業の原点は「つまみ細工」との偶然の出会いと熱意
  • 創業初期を支えた、商工会議所の伴走支援と補助金活用
  • 地域資源の再活用と海外展開で、次なる挑戦へ
愛して止まない「つまみ細工(正方形に切り取った布を折りたたみ、花などをモチーフとした形状を作り出す、日本の伝統的な工芸技術)」との出会いは偶然だった。しかし、今では同業界屈指の指導者となり、更に自身の事業も軌道に載せている1人の女性が堺市で活躍している。
Palette Japan(パレットジャパン)代表の太田智子氏だ。太田氏の 「つまみ細工」への熱意が一体どのように昇華していったのか、商工会議所の支援と事業計画に対する考え方の変化が、事業成功の秘訣だったと語る太田氏のこれまでの取り組みを紹介する。
「つまみ細工」を作成する様子 後述「つまみ細工キット」と異なりピンセットを使用

伝統工芸に魅せられた女性起業家の挑戦

Palette Japan代表の太田氏は、他県出身であるが、夫の出身地である堺市に約18年前に移住した。移住当初は子育てと繊維商社勤務に追われ、多忙な毎日を送っていたが、ある日、江戸時代から伝わる「つまみ細工」と言う工芸品があることを偶然知り、その繊細さに強く惹かれた。繊維商社では日常的に豊富な見本布地(ちりめん等)に触れる機会に恵まれ、布地を見ることが何よりも大好きだった太田氏。「つまみ細工を、上品な生地であるちりめんで作りたい!」と思い、「つまみ細工」にのめり込んでいった。

勤務時代、海外の方々との会話の中で頻繁に聞かれたのは「日本の伝統工芸に大変興味があるが、海外ではあまり情報が入ってこない」という声だった。その不満を少しでも解消しようと、趣味で制作していた「つまみ細工」の作品を海外向けにネット販売したところ、想像以上の大反響。
この経験を通じて事業化の可能性を確信した太田氏は、2018(平成30)年4月、「つまみ細工をはじめとした和風小物等の海外向けネットショップ販売」を事業の柱として個人創業に踏み切った。

創業時の課題と商工会議所との出会い

取材を受ける太田氏

創業前から趣味として少しずつ制作に取り組んでいたこともあり、事業の立ち上がりは順調であった。しかし太田氏は、「販売(モノ)」だけでなく「体験(コト)」で売上を伸ばしたいとの想いを抱えており、その「体験」をどのように事業化するかが課題であった。
その課題を解消するために頼ったのが、堺商工会議所の首藤経営指導員である。首藤指導員とは、堺市役所の知人の紹介で知り合い、創業後のビジネスプランオーディションにも足を運んでくれていた。

創業当時「課題を感じていたものの、具体的に何から手を付けて、どのように進めて行けば良いのか見当が付かない上に、資金余力も乏しかった」と語る太田氏。意を決し、首藤指導員のいる堺商工会議所の門を叩いたのだった。
太田氏は、溢れるような事業アイデアや課題に感じていたことを率直に首藤指導員に話をしたという。首藤指導員の的確な助言とともに、議論を深める中で、「単に『体験』で売上を伸ばしたいのではなく、『体験』を通じて多くの方々に伝統工芸を楽しんでほしい、楽しむ姿を見るために自分はこの事業を続けたい。楽しんでいる姿を見ることが一番幸せ!」と気付いた。
この気付きが今振り返ればターニングポイントであったと太田氏は語っている。

 

創業初期を支えた補助金と商工会議所の伴走支援

この気付きをステップとして、創業翌年の2019(令和元)年、「外国人観光客を対象としたつまみ細工の体験型ワークショップ事業(ミシン刺繍で絵を作り、その上につまみ細工を乗せる)」の立ち上げで、1回目の持続化補助金を申請・採択された。補助金を活用して刺繡用ミシンを購入することができた。この申請の際、首藤指導員は「まずは、太田さんのやりたい事業内容をすべて伺いました。そのうえで、5回前後の面談をじっくり重ねながらアドバイスを行い、太田さんご自身が事業計画を丁寧に仕上げていかれました。」と話す。
太田氏もまた「事業目的、顧客ニーズ、ターゲット、実施計画、収支計画等を、首藤指導員に一から説明を受け、熱意だけでは事業を成功させることはできないと気付かされました。」と振り返る。このようにして事業計画を策定し、補助金を活用することにより、課題であった「コト」消費の仕組みづくりと資金調達の2点を、創業初期の早い段階で一挙に解決できたことが現在に至る飛躍に繋がった。
その後、2020(令和2)年には、2回目の持続化補助金を申請し採択され、補助金を活用して「つまみ細工」オンライン講座の周知費用を賄えた。創業間もない太田氏の傍には、首藤指導員が常に寄り添い伴走支援を続けた。

廃棄反物との出会いが導いた新たな商品開発

3回目の持続化補助金を活用した
「つまみ細工キット」 その完成品
(下地は子供用浴衣で廃棄反物となった生地)

創業してから3年、売上自体は安定的に推移していたもののコロナ禍が発生。巣ごもり需要が増えた影響か、「つまみ細工を買いたい」という従来のニーズから、「つまみ細工を自分でも作ってみたい」という関心へと、消費者の意識がこれまで以上に「コト消費」へ移ってきたことを日々感じるようになってきていた。
この予期せぬ需要の変化に対応するため、太田氏は新たなアイデアを検討することに没頭する日々が続いた。
そんなある日、堺市産業振興センターからの案内で見学に行った「注染染め(堺市の伝統工芸品である、重ね上げた生地の上から染料を注ぎ染め上げる型染めの一種。)」の工場にて、少しでも傷や滲みがあるだけで、一反丸ごとの反物を廃棄していることを知った。
「大量の反物が廃棄されると聞き、衝撃を受けました。自分たちの工夫で蘇らせることができないだろうか。」と太田氏は真剣に悩み、考え抜いたという。太田氏自身で、自らがこの反物を使い、つまみ細工を製作・販売するだけでは、廃棄反物消費量に限界がある。
そこで太田氏がひらめいたのが「つまみ細工キット」。「簡単に作れるキットとして提供すれば、より多くの人に作って楽しんでもらえるはず、廃棄反物も有効利用できるに違いない。」と確信した。

 
色鮮やかな「つまみ細工キット」完成品
各々生地が異なり唯一無二の製品が完成

2022(令和4)年、この構想を実現するため、首藤指導員に相談した。首藤指導員と対話を重ねていく過程で、次第に太田氏自らが腹落ちし、曖昧だった計画が具体化し、「手軽に誰でもできるつまみ細工DIYキットの開発」という形に落とし込まれていった。
従来のつまみ細工は専用のピンセットが必要で、とっつきにくい印象があったが、このキットは初心者でも扱いやすく工夫されている。
アイデアには自信があったものの、資金面での不安を残したままでは、この事業を思い切って進めることが出来ないと考え、太田さんは3回目の補助金活用を決断した。
首藤指導員から「自社の商品という枠を超え、世界へ広めるという視点を事業計画に盛り込むように」と助言を受けた。3回目の補助金も採択され、「つまみ細工キット」のカタログ掲載用写真撮影費や、PR用のウェブサイト製作費等に活用することができた。

 

事業計画の見直しと支援が生んだ事業成長

 3回に及ぶ持続化補助金申請と採択、そして堺商工会議所による継続した支援を経て、太田氏自身、意識の変化を感じたという。「1回目と2回目の申請の際は、事業計画を作成する際にやや消費者目線が欠落していた。しかし、3回目の申請に際しては、このつまみ細工DIYキットを手にした消費者の目線で考え、消費者が感動し喜ぶ姿が想像できた。年々、事業が進化していることを実感している。」と振り返った。
さらに、「首藤指導員は、私の話の中から的確に要点を拾い上げてくれる存在であった。個人事業主は独りよがりになりがちなため、第三者の客観的な視点が必要であり、首藤指導員には感謝の念に堪えない。」と太田氏は語った。
一方、創業時から一貫して支援を続けた首藤指導員は「補助金申請回数を重ねるごとに、太田さんの経営に対する考え方が明らかに向上していくことを感じました。私は、太田さんの豊富なアイデアを余すところなく聞き出し、事業の進め方で違和感がある点に絞って意見することを心がけました。商工会議所入所当時に先輩職員に教わった、企業との対話と傾聴重視の姿勢が重要だと改めて感じました。」と実感を持って語っている。
 太田氏は事業計画に関しても考え方が変化したという。「創業当時、事業計画を作成することは、正直、面倒で大変なことだと感じていた。しかし、今では補助金申請の有無に関わらず毎年事業計画を必ず作成し、年度途中でも見直して、当初計画とブレが無いかを常に確認している。
個人では日々の業務に忙殺され事業計画が無いと間違った方向に流されてしまうだけでなく、そもそも流されていることにすら気付けない。事業計画の重要性に気付かされた意味でも、商工会議所に相談し、補助金を申請して良かった。」としみじみと語ってくれた。
堺商工会議所による創業間もない頃からの伴走支援と持続化補助金の効果、そして何よりも太田氏が事業計画の重要性を強く認識しつつ事業に取り組んだ結果、最初に持続化補助金が採択された2019(令和元)年と比較し、2023(令和5)年の売上はなんと約7倍にまで急増している。
3回目の持続化補助金を活用した「つまみ細工キット」は、地域への貢献にも役立っている。2023(令和5)年から堺市内の小学校の授業で使用され、小学生でも30分程度あれば完成出来ることを確認されている。また、2025(令和7)年、大阪・関西万博では、つまみ細工のワークショップを1日開催し、国内外の人々が楽しく制作に取り組んでくれた。加えて、オンラインつまみ細工講座を通じ、シンガポールではつまみ細工の講師が7人も育ち、その講師達が「つまみ細工キット」を販売してくれているとのこと。つまみ細工を初めとした工芸品の良さを、まずはアジアから最終的には全世界へ知ってもらう為に、今後も更なる飛躍が期待される。
創業直後にコロナ禍が生じたが、太田氏は「むしろチャンス!今後は個人個人が活躍する時代がやってきたから、組織に属さない自分は有利。」と考えたそうだ。この前向きな姿勢が世界への扉を開いたのだろう。

商号Palette Japan(パレットジャパン)に込めた熱い思い、すなわち生み出す商品が人々の心に響くものになるように、付加価値を付け、時には混ぜ合わせ、全く新しい価値を創造する役割を今後も担っていきたい、と力強く語りながら、太田氏の目はひときわ輝いた。
活用した補助金:小規模事業者持続化補助金
年度:令和3年度補正予算 第9回
 枠・型:一般型

※本ページに掲載している補助金活用事例は過去の補助制度によるものであり、現在の補助制度とは異なる場合があります。
 最新の補助要件については、必ず公式情報をご確認ください。
 

企業データ

企業名
Palette Japan
設立
2018年4月
代表者
太田 智子 氏
所在地
大阪府堺市内

支援機関データ

支援機関名
堺商工会議所
所在地
大阪府堺市北区長曽根町130番地23

あわせて読みたい記事

TOPへ