2024.12.17
堀田畳製作所
ポイント
山梨県甲府市で畳を製造する堀田畳製作所は、1913(大正2)年創業で、今年(2024年)創業111年を迎える老舗である。国内で製造されている畳は約8割が中国産のい草だが、当店は国内屈指の品質を誇る熊本県の契約農家から直接仕入れ、国産の畳にこだわっている。畳は1枚ごとに寸法や材質など精緻な調整が求められるため、当店では、国家資格である一級畳製作技能士を持つ職人が1枚1枚丹精を込めて製造している。
「山梨県では、かつて125の畳店が存在していましたが、ここ15年の間に55の畳店にまで減少しています。更に問題なのはそのうち半数以上の畳店の経営者が65歳を超えているということです。後継者がいない場合、10年後にはこれらの畳店は廃業してしまうことになります。そうなると、畳の製造や張替を地元の業者にお願いしたいというお客様の声に十分に応えることができなくなります。こうした事態を防ぐためにも『後継者に継いでもらえる畳店』を目指していく必要があります。そのために、生産設備の導入による生産性向上や顧客の管理等による販路の開拓に取り組む必要がありました」
先代が畳を製造していた時代はすべて手作業だったため、1日8枚の生産量であることが課題だった、という堀田氏。2001(平成13)年に先代から事業を引き継いだ際、この課題を克服するべく当時過大投資と考えられてもおかしくない売上の2倍を超える価格のコンピュータ式畳製造ロボット設備を導入し、生産性の向上に取り組んだ結果、畳1枚あたりの製造時間が大幅に短縮し、先代が製造していた生産数を超える畳を製造することができた。
「周りからは、「そんなに投資して大丈夫か」と言われました。しかし、畳を製造することで家族を食べさせていかなければならないし、2人分の生産量を自分1人が手作業で対応するのは無理がありました。そのため、多少背伸びしても生産設備を導入し生産性の向上を図りました」
結果、短時間で多くの畳を製造できるようになったことで余裕が生まれ、事業を承継したときから課題意識を持っていた販路開拓に取り組む余裕ができた。
「畳職人は、畳を作る技術や熱意は確かなものがあります。しかしどんなに良い畳を作っても、知られなければお客様にご購入いただけません。職人には畳を作る技術はあっても販路開拓の知識やノウハウはない。販路開拓における課題は、周知の方法‧内容、資金調達の2点あると考えています。周知の方法‧内容については、チラシを活用するのか、ホームページを活用するのか、またどのような内容にすれば新規の顧客に訴求できるのか分からないこと、資金調達については、費用がどの程度かかり、資金を売上から捻出するのか、融資を受ければ良いのか、他に調達手段があるのかが分からないことが課題でした」
堀田氏は「自分の頭の中にしかない顧客情報をデータとして可視化し分析することで、効果的な販路開拓に活用することができるのではないか」と構想していた。先代は顧客情報を自分の頭の中で完結していたが、顧客情報を"見える化"して活用できれば、会社の財産になるのではないか」と考えたことが、顧客データを販路開拓に活用する構想を持つきっかけだった。
そんな折、2015(平成27)年2月に開催された中央市商工会の小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)のセミナーに参加し、「もしかしたら自分も補助金を活用できるのではないか」と考えた。そこで商工会に相談し、当時の経営指導員である長田氏から背中を押され、補助金の申請を決意した。
「当時、補助金について全く分からない状況でした。まずはやりたいことを明確にし、経営計画書は長田さんに何度も添削していただき、自社の現状や目指すべき姿を分かりやすく整理していただきました」
その後、初めて申請した持続化補助金が採択され、顧客管理システムを導入したことを契機に本格的に販路開拓の取組を開始した。
「経営指導員から助言をもらうことで、新規顧客にどのように自社を周知すれば効果的か道筋をつけることができた。補助金を活用することで費用負担が少なくなり、課題であった周知の方法‧内容と資金調達の2点を解決することができました。また、顧客管理システムを導入したことにより販路開拓を試みる上で必要な情報を整理することが出来ました」
堀田氏は、顧客管理システムを活用した販路開拓に取り組むとともに、事業承継を見据えている。
「経営者の頭の中にしか顧客情報がない場合、後継者に顧客を引き継ぐことができません。畳の張替は長ければ20年以上のスパンとなり、顧客も経営者も代替わりする可能性が高い。そうした時に、顧客情報が見える形で蓄積されていれば、『この家は20年前に畳を張り替えたから、そろそろお声がけするか』という判断ができる。畳業界は3,000人の顧客があれば一生食べていけると言われており、3,000人の顧客を確保し、その顧客を見える化してから事業承継することが目標です」
顧客管理システムに顧客情報を落とし込んでいくと、顧客の特性や商圏が可視化され、新規の顧客に自社を周知するための手段や内容など、販路開拓の方針が固まってきた。
「これまで顧客がどの地域に多いかということについて意識していませんでした。しかし、顧客の所在地を可視化したところ、幹線道路沿いにベルト状に顧客が集中していることが分かりました」
堀田氏は、顧客が集中している地域をターゲットに集中的にPRを行うことにし、平成29年には新聞折込チラシを実施するとともに、道路沿いに看板を設置し、当店の周知を図っていった。
2019(令和元)年には、い草生産者と共同で開発した「オリジナル撥水防汚畳」の販路開拓に同補助金を活用。撥水加工はお酒や料理がこぼれても汚れがつきにくく、客単価の高い飲食店や旅館などに売り込むことで売上の増加に貢献した。さらに2020(令和2)年には、新型コロナウイルス対策として同補助金を活用し「抗ウイルス処理畳」の販路開拓に取り組んだ。
「元来い草が持つ抗菌作用に加え、抗ウイルス処理を施した畳についてのチラシを作成し、老人福祉施設や介護施設をターゲットに周知しました。コロナ禍で抗菌‧除菌の意識が高まる中、多くの引き合いをいただきました」
2021(令和3年)には、持続化補助金を活用し、ホームページに自動見積システムを搭載した。畳の模様と畳縁の種類を選択すると、畳を貼った後のイメージ画像とともに必要な費用が選択内容に合わせて表示される。
「畳をPRするためには、お客様に畳がどういうものかを知っていただく必要があります。畳床の材質、畳表‧畳縁にはどのような種類があり、いくらくらいかかるのか。ホームページには自動見積機能を備え、多様な選択肢をお客様に提示できるようにしています」
これまでに合計5回持続化補助金を活用し、地道な販路開拓に取り組んできた結果、右肩上がりに売上を伸ばしている。
5回のうち4回の申請を伴走支援した天野慎二指導員は、「堀田さんから今後の展開についてお話を伺うと、新しいアイデアや取り組みたい事が次々と出てきます。経営支援については、やりたいことを5W1Hに整理し、どれから進めるのが効果的かを一緒に考え、課題とともに経営計画に落とし込んで見える化し、具体化させていきました。『補助金があるからこの事業をやる』ではなく、『この事業をやるのには、どのようにすれば低リスク‧低コストで効果的にできるのか、その結果として補助金が上手く活用できた』という理想の形になっていると思います」と堀田氏の支援を振り返る。
堀田氏は「畳店が減っていく中で今後も畳産業を振興させていくためには、自分だけが発展していくのではなく、共存‧共栄を目指していくことが重要。自分が取り組んでよかったことは、同業他社にも是非取り組んでいただきたい」と話す。
「最初は『堀田のやり方はダメだ』と批判を受けることもありましたが、徐々に『堀田のやり方でなければ後継者が出てこない』と言われるようになりました。持続化補助金を紹介し、商工会の指導を受けることを勧めると、すぐに行動を起こし、採択された方もました。私が取り組んでよかったことは同業他社も取り組んでもらい、共存‧共栄ができれば良いと思っています」
堀田氏の長男、次男ともに京都の畳製造専門の大学を卒業。卒業後、長男は宮内庁御用達の畳店、次男は高級旅館や料亭に納めている畳店で修業を積んだ後、当店に入職している。異なる分野で修業を積んだ2人が入職することで多様な畳の加工に対応できるなどバリュエーションが増え、多様なオーダーに応えられるようになった。
「2人が入職したことで、顧客の広がりを感じています。次男が"国内最年少技能士"であることや兄弟そろって京都畳技術競技会で京都府知事賞、京都市長賞を受賞していることをメディアに取り上げていただき、従来商圏の範囲外だった、甲府市近隣以外の市町村にお住まいのお客様からの引き合いも増え、好循環が生まれています。これからも家族で一体になって、お客様のご希望に適う畳をお届けしていきます」
国産の畳にこだわり山梨の畳を支えてきた堀田畳製作所。中央市商工会と二人三脚で各種補助金を活用し、必要なときに必要な取組を講じてきた。4代目も事業に加わり、当店の今後から目が離せない。
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商工会データ