2024.12.16

LA CHOUCHOU ラ・シュシュ

お客さまの要望に応えることで進化を続ける手作り指輪のお店【小規模事業者持続化補助金事例】

代表取締役 平尾綾子氏(左) 取締役 平尾利政氏(中) 高崎商工会議所 総務課長 経営指導員 梅澤史明氏

ポイント

  • 持続化補助金を活用した手作り指輪事業が事業の柱に成長
  • お客さまの要望に耳を傾け、応え続けることで徐々に進化
  • 経営指導員は事業者の人脈の一翼を担いつつ挑戦を後押し

群馬県高崎市の郊外でロードサイド店を構える手作り指輪とジュエリー修理のお店「ラ・シュシュ」。ホームページを訪ねるとたくさんの若いカップルがとびきりの笑顔と共に、自分たちでつくった指輪を自慢げに掲げる二人の姿が目に飛び込んでくる。
ジュエリー業界では婚姻数の減少などの影響で集客に苦戦するところも多い中、ラ・シュシュは順調に業績が拡大。背景には、お客さまの声に耳を傾けそれに応えるため、経営指導員を始めとした縁を駆使して不可能を可能にしてきた取り組みがあった。

パン工場の経営からジュエリー修理へ転身
他店との差別化が進まず価格競争に直面

 平尾利政取締役は前職で群馬県安中市にてパン工場を経営していた。メーカー工場の食堂やお土産物店など多くの得意先を抱え、月商は2,000万円を超えていたという。しかし総菜パンの卸事業は廃棄ロスの負担が大きく収益は低迷。「食べ物はもう勘弁」と店を畳み、ジュエリー業界へ足を踏み入れた。
「業界経験がなかったため技術習得は大変だった。その一方で、常識にとらわれずにジュエリー事業に取り組めたという良さはあったかもしれない」と語っている。

 その後、前橋市で妻の平尾綾子社長と始めたのは今のお店の前身となるジュエリー修理のお店。しかし、他の修理店との差別化ポイントを打ち出すことに苦しみ、価格競争に陥っていたという。
「ジュエリーは壊れても生活に困らないので、急いで修理しようとしない。他店とじっくり価格を比べられ、安いお店にお客さんが流れてしまっていた」

 業績が上向かない苦悩の中、相談した先輩のアドバイスは「修理だけでは難しい。若者をターゲットにブライダルとリフォームに特化したらどうか」といったものだった。
 その言葉をきっかけに、平尾社長が発案したのが指輪のリフォーム事業。50から70代を迎えた女性が持っている古い立爪の婚約指輪などからダイヤモンドを外し、指輪を溶かして、今風のデザインの指輪やペンダントに作り変えるものだった。
「私にも経験があるのですが、お母さんやおばあちゃんからもらった指輪は資産価値だけでなく思い出が詰まった大切なもの。それでも、デザインが古く使いにくいという理由でタンスの肥やしになっていたので、それを何とかしたかった」
 
 しかしリフォーム事業を開始するためには、サンプルを使いながらリフォームの進め方を相談するための接客スペースが必要になる。ちょうどその頃、高崎市で手頃な物件が出たとの情報をもらったことから、新事業のスタートに向けて現店舗への移転を決意した。

補助金を活用して
自分で作る手作り結婚指輪のお店に軌道修正

 2012(平成24)年に高崎市へ移転してリフォーム事業を開始したものの、当初お客さまへ浸透が進まず厳しい状況が続く。
 そうした中あるお客さまから、祖母から譲り受けた指輪をリフォームしてほしいとの依頼を受ける。そこで指輪を預かり、いつものように高温で溶かして固め、新しい指輪を作り、後日お客さまへ納品したところ「これ、本当に私の指輪を溶かしたものですか」と予想外の一言が返ってきた。その場は説明することで事なきを得たものの、
「指輪を預かって形を変える今のやり方は偽物へのすり替えを疑われるリスクがあることに気づいた。それであれば、店舗でお客さまに自分で作ってもらってはどうかとの話になった」

 来店したお客さまが自分たちで指輪づくりをするためには、彫金作業机やイス、指輪を溶かす火床や工具、機材などが必要になる。資金的に厳しく後回しになっていたが、商工会議所へ相談に行った際に梅澤史明経営指導員から小規模事業者持続化補助金のことを聞いた。
「梅澤さんから『これならできますよ』と励まされ、すぐにやろうと決意した。内容の説明を受けて、すぐに計画書の作成に着手した」

 平尾取締役が作成した計画書を梅澤指導員へメールで送信。梅澤指導員からアドバイスの返信があり、早速修正してメールを再送信——こういったやり取りを1カ月繰り返しながら計画書の完成にこぎつけたという。
「一番難しかったのは計画書の書き方や文字の起こし方。伝えたいけど言葉が出てこない。特に時間がかかったのは、自社の強みや外部環境分析。自分の強みは漠然と分かっていても、文字にするとなかなかまとまらない。そうした中で梅澤さんのアドバイスが有難かったです」
 
 梅澤指導員は、会社の強みについて以下のように説明する。
「例えば、おふたりがジュエリーコーディネーターや技術士、彫金師といった資格を持っていることも強みだと思います。自身では当たり前だと思って見過ごしている点も、実は強みになっていることが多い。客観的な視点から強みをお伝えすることも指導員の役割かもしれません」

 こうして苦労の末に申請した小規模事業者持続化補助金は無事に採択。折しもブライダル雑誌やフリーペーパーなどへの広告出稿を始めたことも重なり、徐々にお客さまが増えていった。

お客さまとの会話で新たなニーズを収集
他店では敬遠する素材のサイズ直しを開始

 お客さまが指輪を手作りする場合、初めての方には難しい工程もあり、平尾取締役が立ち会うことも多い。一緒に作業することでお客さまと会話する時間が増え、そこでチタンやステンレスの指輪に関してさまざまな話を聞くことになる。
「結婚指輪に関する世の中の価値観が変わり、プラチナやゴールドに代わって安価なチタンやステンレスの指輪が増えていた。これらは大手通販サイトで安価に販売されているがサイズ選びが難しく、その一方でサイズ直しができる場所はほとんどない。このため、サイズに不満のまま使い続ける人が多いことを聞き、何とかできないかと考えた」と平尾取締役は語る。

 こうした素材の加工には特殊な機械が必要だが、元の指輪が安価ということもあり、サイズ直しや修理にどれだけのニーズがあるかは未知数である。反対の声も多かったものの、梅澤指導員に相談しながら再び小規模事業者持続化補助金を申請して、ドイツ製の専用機を導入することを決意。実際にふたを開けてみると想定以上の引き合いがあり、多くの方に喜んでいただくことができた。

レアメタルの指輪の製造に挑戦
金属アレルギーの心配がない結婚指輪を提供

 チタンやステンレスの指輪の修理を始めたことで、修理の依頼で来店したお客さまとの会話も増えていく。こうした指輪を購入する理由を聞くと、ほとんどが金銭的理由だったものの、一部に金属アレルギーが理由の方がいた。金属アレルギーについて調べると、ゴールドやプラチナに加え、割り金のパラジウムが原因のことも多いとのこと。そこで手術用メスにも使われるステンレスの指輪が人気を集めていることが分かった。
 しかしよく調べると、ステンレスやチタンにもアレルギー症例があり、万全を期すために体内埋め込み材料として使われているタンタル、ニオブ、ジルコニウムといったレアメタルにたどり着く。
「新郎新婦のどちらかに金属アレルギーがあって指輪をつけられない人をなくしたい。そうした思いから、レアメタルの指輪の受注製造・販売にチャレンジすることを決めた」

 レアメタルの指輪の製造は苦労の連続だったという。
「ブラジル産のタンタル素材を少ロットで仕入れることができる業者の確保に1年。ようやく入手できた無垢板材を指輪の形に切り抜こうとすると硬くて切れない。そこで梅澤さんから金属加工に詳しい方を紹介していただき、ようやくワイヤーカットできる道具を入手できた」

 タンタルの指輪に関する苦労はさらに続く。タンタルは黒い素材のため女性は好まないが、着色すると金属アレルギーの原因となってしまうため製品化が難しい。そこで知人に群馬大学の先生を紹介いただき、陽極酸化技術を共同開発。電解液に指輪を入れて電流を流すことで、表面に酸化被膜を形成。電解液の種類や濃度・温度などの電解条件を組み合わせることで、金色・青色・緑色・赤色などの色を出すことに成功した。研究開発費用は梅澤指導員の支援を受けながら群馬県の補助金を申請・活用したという。
「知り合いの知り合いを当たりながら、人の縁で実現にこぎつけた事業。そこに梅澤さんの人脈も活用させていただいた」

 こうした苦労の結果生まれた指輪は「金属アレルギーの心配がない結婚指輪」として、多くのファンを生んでいる。

ホームページの公開で商圏とラインアップが拡大
タンタル製品をもっと普及させたい

 その後、コロナ期には、非対面型ビジネスモデルの導入と商圏拡大を目的に、みたび小規模事業者持続化補助金を活用してホームページを一新。その結果、お客さまは首都圏にとどまらず、全国に広がっている。平尾取締役は、京都から夜通しで一般道を運転してやっとの思いで到着した若いカップルが、指輪の製作が終わり次第「明日は出勤なんで」と言ってとんぼ返りで帰路に就いたときの話を楽しそうに語ってくれた。

 また、お客さまからのお問い合わせを受けて、ハイブランドの時計のサイズ直しを開始し、新しく作ったホームページへ掲載した。すると他店で対応できるところが少ないこともあって、問い合わせが殺到。今では年間3桁に迫る本数を対応している。
「高級時計のサイズ直しは、失敗のリスクを考えると手を出しづらい事業。それでも挑戦しようと決めて、繰り返すことで技術は必ず向上する。お客さんが望んでいることには今後も挑戦したい」

 平尾社長は「タンタルを使った製品をもっと増やせないかと考えている。ファーストピアスはタンタルでと言われるくらいに普及させたい」と夢を語る。貴金属のリサイクルを通じて、地球にやさしいエシカルジュエリーを実現しつつ、お客さまの要望に全力で向き合うラ・シュシュの取り組みは、今後も若いカップルたちの支持を集め続けることは間違いない。

活用した補助金
- 小規模事業者持続化補助金(商工会地区)
- 小規模事業者持続化補助金(商工会議所地区)

企業データ

企業名
GOLD GOVERN株式会社(店舗名:LA CHOUCHOU ラ・シュシュ)
Webサイト
https://lachouchou-1025.com/
法人設立
2023年(個人事業主の開業2012年)
従業員数
3名
代表名
代表取締役 平尾綾子 氏 取締役 平尾利政 氏
所在地
群馬県高崎市上並榎町73-3

商工会議所データ

商工会議所名
高崎商工会議所
Webサイト
https://www.takasakicci.or.jp/
所在地
群馬県高崎市問屋町2-7-8

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