2024.11.11

地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例

2商工会連携により事業承継を支援、承継後の課題の取り組みに補助金を活用【事業承継・引継ぎ補助金事例】

株式会社アルファサービス 櫻井聡社長(右)  朝霞市商工会 経営支援員 風間利文氏(左)
株式会社アルファサービス 櫻井聡社長(右) 
朝霞市商工会 経営支援員 風間利文氏(左)

ポイント

  • 隣接する2つの商工会が連携し、事業を譲りたい経営者と事業を引き継ぐ経営者をマッチング
  • それまでの事業で培った強みを承継した別会社にも適用、相乗効果で個々の会社ではできなかった事業拡大に歩み出す
  • 創業から事業拡大、課題への取り組み(補助金活用を含む)まで、商工会の支援を受け続けてビジョンを実現

 株式会社アルファサービスは、埼玉県の南部に所在する朝霞市にて、ビルや事務所、施設などの法人の清掃を手掛けてきた会社である。設立は1987年であり、前経営者の人脈や地域のつながりで事業を継続し、医療機関からの清掃業務も受託してきた。ここ数年、大口取引先との契約が終了する、新規の取引先が増えないなど、前経営者は経営不振の状態に悩んでいた。
さらに、前経営者の体調の不調も重なり、地域の商工会として事業を支援してきた朝霞市商工会には、事業を第三者に承継する方向性での相談をするに至った。

 一方の事業を承継することとなった櫻井聡社長は、朝霞市と隣接する埼玉県戸田市にて、一般家庭にクリーニングサービスを提供する株式会社スマイルアップを2021年に設立した事業者である。櫻井社長は、創業から戸田市商工会の経営支援を受けていた。事業を承継したい経営者を支援する朝霞市商工会、これから事業を伸ばしていこうとする経営者を支援する戸田市商工会がタッグを組み、2社のマッチングによる事業承継の成立を導いた。
その後、2社を経営する櫻井社長を戸田市商工会と朝霞市商工会が継続して支援し、株式会社アルファサービスの事業を革新する挑戦を計画した際に、朝霞市商工会にて事業承継・引継ぎ補助金の申請支援を行い、採択に至った経緯がある。

創業からM&Aまで、商工会の支援を受けて成長

オレンジキューブ内の株式会社スマイルアップ事務所
オレンジキューブ内の株式会社スマイルアップ事務所
https://orangecube.jp/

 櫻井社長は、埼玉県戸田市にて、2018年から個人事業としてハウスクリーニングを全国展開するフランチャイズの傘下にて、一般家庭向けのハウスクリーニング事業を開始した。「戸田市で事業を立ち上げると決めた後すぐに、自分で戸田市商工会の連絡先を調べ、支援をお願いしました」と櫻井社長は語った。

 その後、コロナウィルスの感染時期に売上低迷に苦しむ時期もあったが、2021年3月には独自の事業を展開していくためにフランチャイズの傘下を外れ、株式会社スマイルアップを設立。同時期に、戸田市商工会が運営するインキュベーション施設「オレンジキューブ」に入居し、施設内に事務所スペースを借りながら、商工会の経営支援を継続して受けてきた。商工会は、帳簿の記帳指導から支援をスタートし、売上の拡大などに向けて月に1回の経営支援員と外部専門家がアドバイスを行っていた。

 櫻井社長は、事業の集客・販売チャネルの手段としてマッチングサイト「くらしのマーケット」に登録していた。くらしのマーケットが主催する事業者表彰制度「くらしのマーケットアワード エアコンクリーニング部門」において、2019年度に急成長賞、2020年度には口コミ賞を受賞していた。

「商工会経営支援員と専門家からの支援により、集客と受注獲得方法の見直し、重点的に受注を狙う地域の見直しを行いました」

 口コミの高評価を活用して売上を伸ばし、効率的にサービスを提供できる地域に集中することで、事業を成長させることができたという。創業から、一貫して成長を支援する戸田市商工会と櫻井社長の信頼関係は、このように築かれてきた。

「伸び代しか感じない」、前向きな事業承継の成立を各支援機関が連携してサポート

櫻井社長
櫻井社長

 戸田市商工会で櫻井社長を支援する担当の専門家、朝霞市商工会で事業の承継先を探すことを支援していた担当の専門家が同一人物であったことから、この2者のマッチングが始まった。

 事業を譲りたいアルファサービスの経営者は、クリーニングサービスの際に除菌ができる櫻井社長の事業に関心を持ったという。当時のアルファサービスは、病院の清掃も行っていたことから、事業を引き継いだ後に伸長させるポテンシャルを櫻井社長の経営する事業に感じていたようである。

 一方の櫻井社長が経営する株式会社スマイルアップは、従業員が3人と限られている中で、もっと大きな仕事をしていくことを望んでいた。アルファサービスの紹介を受けた段階で、15人ほどの誠実で一生懸命な社員で構成された組織であることが確認できたという。
また、スマイルアップの一般家庭向けのクリーニングサービスが全てスポット注文の案件で、1回ごとのサービスに消費者からシビアな評価を受ける特性を持つことに対し、アルファサービスが企業と年間契約を締結して継続的にサービスを提供するという特性の違いに興味を持った。

 「この2つのサービスを融合させることで、新しいマーケットを開拓していく可能性を感じました。また、アルファサービスでは、新規の受注先を獲得する活動がほとんどできていないことを確認したため、スマイルアップで取り組んでいる新規顧客を獲得するための仕組みを使うことで、事業を伸ばせる可能性を感じました」

 櫻井社長の前向きな事業引継ぎを支援したのは、2つの商工会と専門家に加え、事業承継を進めるためのノウハウを持つ専門家や支援機関である。商工会から連携を受けた埼玉県事業承継引継ぎ支援センターが櫻井社長によるアルファサービスの買収に関わる実務支援を行っている。櫻井社長が期待する買収による効果を条件仮定して計算するなどのアドバイスを受けるとともに、デューデリジェンス※を専門に行う会社の紹介を受けたことなどにより、判断も円滑に行えたとのことである。
※企業の経営状況や財務状況などを調査すること

 「M&Aという形での事業拡大を、円滑に実現できたのは、2つの商工会、専門家であった中小企業診断士の先生、埼玉県事業承継・引継ぎ支援センターのサポートのおかげです。事業者である自分が2つの商工会の間に立って調整する必要はなく、2つの商工会が自律的に連携してくれたことにも大変感謝しています」

2つの商工会による継続した伴走支援と買収した会社の課題取り組みに補助金を活用

朝霞市商工会 経営支援員 風間利文 氏
朝霞市商工会 経営支援員 風間利文 氏

 今回の支援にあたっては、創業から事業承継、そして事業承継後の課題への取り組みまで、途中で外部専門家の力を借りるほか、他の支援機関の専門分野での知見を活かした支援も取り入れながら、一貫して2つの商工会が伴走支援を継続している。
「専門家にアドバイスをお願いする、他の支援機関に専門的な支援をお願いする場合でも、支援先の支援を担当しているのはあくまで商工会であり、経営者と対話する場合には必ず同席するようにしています」と朝霞市商工会 経営支援員 風間利文は語る。

 「経営者が抱く事業の未来の構想を後押しすること、経営者の構想を実現するためにどのようなことが必要であるかを経営者と一緒に考え抜くことが私たち経営支援員に求められる役割です」

 専門家や外部の支援機関からアドバイスを受け、社長が考える場面でも、経営支援員として一緒に考え、悩み、知り得た情報はまとめておくなど、常に経営者と同じ目線で事業に向き合うように心がけているという。

 アルファサービスの買収後、櫻井社長は、従業員が一般家庭にクリーニングサービスを提供する際の身なりやコミュニケーション、クリーニング作業を行うための実務スキルを引き上げることを最初の課題に設定した。
櫻井社長自身は、マッチングサイトでも消費者から高評価を得る実力を持つが、今後、従業員を増やしてサービスを拡大していくためには、サービスを提供する従業員のスキルを引き上げていくことが一番の課題であると話す。

 ハウスクリーニングの実務は、一般家庭に訪問の上で、お客様の目の前で作業を行うサービスである。クリーニングでは、劇薬を使った清掃実務を行うものの、スタッフの育成方法はベテランに新人を付けて実際のサービス環境に立ち会わせるしか方法がなく、実技を経験させるための環境がないことが事業を拡大していく上では大きな課題である。
また、クリーニング作業のための実技を訓練する環境がないことは、自社に限らず、これから事業者としてハウスクリーニングの業界に参入しようとする人にとっても大きなハードルになっているという。

 「個人がハウスクリーニングを事業として始めようとすると、環境や道具を用意してくれるフランチャイズに加盟することが事業を始めるための近道になります。他方、フランチャイズに加盟すると、その仕組みから抜け出すことが難しくなります」

 櫻井社長は、自社の社員育成、そして新たに業界に参入しようとする個人の事業主の訓練環境の不足に対応するための研修施設を作り、運営することを決めた。櫻井社長自身が一般家庭向けのサービスを行い、その場に従業員を同席させて見て覚えさせることしかできないと、事業の拡大そのものに時間がかかりすぎてしまう。そして、何よりもサービスを提供して御代をいただくお客様の目の前で社員を教えないといけない心理的な負荷も大きかったという。研修施設を作り、その中で実際の作業を体験させることができるようになるだけで、人材を育成するための負荷や時間を大幅に短縮できる。

 また、クリーニングのサービス訓練の場を、これから業界に参入しようとする人にも有償で提供することで、施設の稼働率も高めることが可能になり、さらには施設を利用する人の中から自社の従業員になってくれる人、パートナーとなって業務を一定レベル以上で引き受けてくれる人を見つけていくことも期待しているという。

 2つの商工会と櫻井社長は、研修施設の開設に伴う資金の調達手段として、活用できる補助金を検討した。朝霞市にあるアルファサービスの事務所を改装して研修施設にすることが決定し、今回の挑戦に活用できる補助金として事業承継・引継ぎ補助金を活用できることがわかった。

 補助金の申請に際しては、既にアルファサービス、スマイルクリーン(戸田で経営者が元からやっていたハウスクリーニングの事業)の両方で経営革新計画を作成しており、経営革新計画で作成した計画書の内容を参考にしながら、申請する補助金の所定書式に合わせて社長自身が計画を作成したという。
朝霞市の風間経営支援員は、櫻井社長の構想を実現するために、経営革新の支援を行ったよろず支援拠点の専門家、埼玉県商工会連合会のDXの専門家にも支援を仰ぎ、どのような建付けで、どのような補助金を使って支援するのが良いのかを2つの商工会も含めて議論を重ねたという。社長が作成する計画の内容を確認し、書き方のアドバイスを行うことを繰り返し、補助金の公募要領を読み込んだ上で申請に必要な書類のチェックなどを行った。

 2024年1月に行われた第9次の公募回の採択発表にて無事採択となり、補助事業を進めている所である。

 「清掃というサービスの価値を広げたい。掃除をすることで、人間の生活環境が向上する。病気や害虫の発生などを予防する効果もある。様々な事情で自分の環境を自分で清掃できない人が、世の中には一定数以上いる。そういう人たちに、清掃というサービスをプレゼントできるような価値まで高めたい」と櫻井社長は将来に向けたビジョンを語る。

ビルに設置される天井埋め込み型エアコンのクリーニング作業
ビルに設置される天井埋め込み型エアコンのクリーニング作業
クリニックに設置されている天井吊下げ型エアコンのクリーニング作業
クリニックに設置されている天井吊下げ型エアコンのクリーニング作業

 朝霞市商工会では、今回の補助金申請の前から、事業譲渡されたアルファサービスの業務改善を支援している。櫻井社長の意志を汲み、仕事の進め方を変革するために埼玉県商工会連合会のDX専門家にも力を借りて支援している。

 「今後、事業を拡大する櫻井社長の支援はもちろん継続しますが、事業を譲り渡したアルファサービスの元経営者の支援も続けています」と経営支援員の風間氏は語る。前経営者は、長く朝霞の地域で事業を続けてきた会員であり、その前社長の支援を続けることも商工会の役割として重要であるという。

 クリーニングというサービスの顧客価値を高めていこうとする櫻井社長の挑戦、創業と事業承継前後の伴走支援を一貫して続ける2つの商工会の模範的な連携支援の活動を今後も見ていきたい。

企業データ

企業名
株式会社アルファサービス
法人設立
1987(昭和62)年10月
事業承継
2022(令和4)年11月
従業員数
15名
代表者
櫻井 聡 氏
所在地
埼玉県朝霞市岡1-11-17

支援機関データ

支援機関
戸田市商工会
所在地
埼玉県戸田市上戸田1丁目21-23
支援機関
朝霞市商工会
所在地
埼玉県朝霞市大字浜崎669-1

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