2024.10.07
地域支援機関とともに生産性向上に取り組む企業事例
ポイント
埼玉県鴻巣市で総合物流事業を営む株式会社篠崎運送倉庫は、2024年現在、会社を設立してから55年を迎える。国内では初の取り組みとなる木造での定温倉庫を鴻巣市と岩手県北上市の2ケ所に構築、穀物類の加工から梱包、保管、出荷管理、運送までを総合的に手掛けている。
現代表である山岸社長は、創業者から3代目にあたり、2021年11月から現職に就任している。大学卒業後、大手の製造業に就職。就職から4年が経過した段階で、叔父が経営する当社の事業を引き継ぐことを先代経営者から打診された。
「創業者である祖父への尊敬の想い、自分にしかできない先の見えない事業への挑戦を選択したい」という想いで26歳の時に事業を引き継ぐことを決断。その後、物流事業のノウハウを取得することを目的に、2年間の期限を決めて、物流のコンサルティング事業を営む会社に転職した経歴を持つ。
山岸社長が代表に就任した時期、当社は財務面の問題を抱えていた。当時は、運送事業の売上を拡大させるため、短期間に運搬用車両を大量に新規導入していた。車両の導入に際しては、ファイナンスリースを利用しており、導入時に一括での購入資金は不要であった。そのため、運送の仕事が取れそうな目途がつくたびに五月雨式に車両を導入、気が付くと月々のリース料の支払いが多額になり(一時期は年のリース料の支払い額が2億円に達していた)、資金繰りに問題を抱える状態となっていた。
「車が空いているときに、採算が悪くても運搬の仕事を受注し、採算の悪い仕事の中で利益がでないのでさらに仕事を取りにいかなければならない、売上は上がるが利益が出ないという負のスパイラルに陥っていました」と山岸社長は振り返る。
また、当社は車両の整備を事業とする子会社を保有しているが、子会社が独立採算で事業を運営するという方針も不十分で、業務を発注する側の親会社である当社のコスト構造にも影響を与えていた。
この状態を変えない限り、会社に未来がないことを山岸社長は見抜き、「見たこともない良い数字、結果を出すしかない」と決意。代表就任早々に経費削減と売価の見直しを中心とした事業改革を断行することを決断した。
経費節減に繋がる支出要素を徹底的に見直すべく、役員や管理者層に事業の状況を説明し、まず役員賞与を削った。社内倉庫間の物の運搬については、運転手が車を運転して物を運ぶのではなく、手の空いている従業員、中でも役員自らが現場の作業を行うように要請するなど、社員の今までの意識を変えることに尽力した。時には、山岸社長自ら、フォークリフトを運転し、社内の作業を行ったこともあった。社員の中には社長の言うことに賛同できないという理由で去っていた社員もいたという。
経費節減を徹底した結果、1年間で一定の業績を回復させた山岸社長は、銀行から長期借入金を調達。借入金によりリース料残額を一括で支払い、資金繰りを大幅に改善することに成功した。収益構造の改革が一区切りついた段階で、次は未来に向けて収益を取れる仕事を増やしていく方向に舵を取りはじめた。
定温倉庫に原材料や商品を保管したいという市場ニーズがあり、かつ、その事業は当社にとっても採算の取れる分野であった。「できるだけ、初期投資も運営費も抑える前提で定温物流倉庫を作りたい」と考えていた山岸社長は、国内でまだ誰もやったことのない木造建築の物流倉庫の建設を行うことを決めた。耐震や耐火の認証を取るなど、技術的な課題克服にも奔走しつつ、会社の業績が回復途上の中で、必要な資金も可能な限り利率を抑えて調達しようと考え、金融機関の担当者に相談した。
経営革新計画という県の認定を取得することで資金調達時の金利を下げることが可能になること、経営革新計画の認定を受けるためには、地域に所在する商工会が力になってくれることがわかった。経営革新計画の作成と認定取得に向けた手続きの支援を受けたきっかけが、その後継続して伴走支援を行う支援者との出会いとなった。
木造倉庫は、家庭用のエアコンを複数台設置して設備を運営することが可能になり、従来の鉄筋型の倉庫で業務用の空調設備を利用する場合と比較して、設備投資額も電気料金も大幅に節約が可能になる。また、特定のエアコンが故障しても、運用に支障がない形で設備修繕が可能になる。
「経営者の事業への想いを汲み取り、最適な支援をしたいという気持ちを持ち、日々の仕事に向き合っています」と鴻巣市商工会(当時)の経営支援員であった渡邊恵子氏は語る。
経営革新計画認定の後も、事業承継・引継ぎ補助金の申請も支援し、岩手県に建設した定温木造倉庫の初期費用の一部の調達にも成功した。その後、別事業において、埼玉県の経営革新デジタル活用支援事業補助金の申請も支援し、外部の専門家の支援も得ながら、採択に導いている。
渡邊氏によれば、経営者を支援する際には、問い合わせや相談に対して早く、かつ的確にレスポンスすることを心がけていると言う。
「ご支援する経営者が補助金の申請に挑戦する際は、絶対に採択されて欲しいと思っています。特定の補助金に採択されると、その経営者の次の構想が出てきます。その「次の構想」を見ていきたいし、社長の「次の構想」に必要なご支援を早めに仕掛けていきたいと思っています。経営支援員としては、そのための日頃の情報収集が大切だと思っています」
経営革新計画や補助金の申請にあたっては、経営支援員である渡邊氏が、申請のスケジュールや必要な条件を事前に確認し、計画を作成する山岸社長に対して道筋を照らすガイド役を担っている。また、社長が作成した計画や準備した資料を確認することで、採択に向けた最後のあと押しの支援も行っている。
「渡邊支援員に引っ張ってもらう形で補助金などの申請を支援してもらっています」と山岸社長は語る。
現在の会社経営において、山岸社長は作成した事業の計画を従業員に説明する機会として「方針発表会」を設け、会社の経営がどこに向かっているのか、その中で経営者として何を従業員に求めているのかを示していると語る。
当社の第一事業部の部長を務める須永謙悟氏によると、
「方針発表会では、社員が関心を持って山岸社長の計画を聴いています。以前は、現場の社員は自分の目の前の仕事だけを見て、黙々と仕事をしていました。山岸社長が代表になってからは、個々の社員が自分の仕事で何を目指し、どう変えていくべきかを考えるようになり、周囲とも意見交換をしながら仕事をするようになりました。これまで、なかなか浸透しなかった5S活動も活発になりました」
また、採用した人材が次々と辞めていた状態から、現在では2~3ヶ月に1人程度が離職する程度まで、社員の定着状態も改善されているとのことである。
社外に向けても、自社の計画や構想を発信するようになり、金融機関からの取引先紹介などの支援も得られるようになり、新規の取引先からの引き合いも増加していると山岸社長と須永氏は語る。
「当社の取引金額が大きい取引先上位50社のうち、10社以上が直近2年以内に取引を開始した先です」
今後に向けて、山岸社長は新しい事業を構想しており、支援者の商工会 渡邊恵子氏も社長の事業構想を聴き、事前に提案が可能な施策を調査しているところであるという。
総合物流からさらなる新事業に進出しようとする経営者、そして、どこまでも伴走して経営者を支える支援者の今後の活動に期待したい。
< 使用した補助金 >
- 事業承継・引継ぎ補助金
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