2024.07.30
株式会社こまむぐ
ポイント
「ものづくりのまち」埼玉県川口市で、2003年から木製玩具を製造する株式会社こまむぐ。2023年に竣工した新社屋は「集客型製造工場」をうたい、おもちゃの工房だけでなく、直営ショップ、カフェ、木育スペースを備えた複合施設として、多くの親子連れを集めている。主力製品の「どんぐりころころ」は、坂道をかわいらしく歩くどんぐり帽子のおもちゃで、土台に少し傾きをつけると、トコトコ揺れながら坂を下っていくもの。赤ちゃんの目で追えるゆっくりした動きや、心地よい木の音が癒されるとして、大人のファンも多い。
こまむぐの誕生は2003年にさかのぼる。開発者でもある小松和人社長の実家は川口で50年の歴史を持つ木型(きがた)の町工場。小松代表自身が開業前は木型づくりに携わり、職人の下地を作ったことが、こまむぐのバックボーンとなっている。
「鋳物屋さんが減少する中で木型業を継続するのは難しく、自分で事業を立ち上げることになりました。ちょうど母が保育事業をスタートさせており、新事業で木工事業と保育事業をうまくつなげられないか、との思いから今の形になりました」
創業から2~3年は、軽のワンボックスカーにおもちゃをパンパンに詰めて、日本全国を車中泊しながら飛び込み営業の繰り返し。空っぽになったら川口に戻っておもちゃを製作し、車に詰めて…といった生活を送っていた。そうした型破りともいえる営業活動が木のおもちゃの特集を企画するテレビ関係者の耳に入り、番組出演が決定。これをきっかけに講演やワークショップの依頼が次々に決まり、全国を飛び回る日々が続いたという。
「手工具の多い木型業からスタートしたこともあって機械化が遅れていました。おもちゃを1個磨くだけで2時間かかるありさまで、製造数が頭打ちとなっていた」
2014年に入り小松社長は、こうした状況を打開するためおもちゃの研磨に使う機械であるスポンジサンダーの導入を検討。ただし、当時の状況では安い買い物ではなく、数年先に導入できればいいかとの認識だったという。そこで背中を押したのが、前年に担当になった川口商工会議所の小林貴洋経営指導員だ。
「小林さんには状況をお話ししていたのですが『小規模事業者持続化補助金を申請してはどうですか』と提案をもらったときは、『そんなのがあるの? 本当にお金がもらえるの?』と本当に驚きました。補助金の存在はどこかで聞いていたかもしれませんが、まさか自分が対象になるとは思っていなかった」
小松社長は半信半疑もチャレンジを決意。とはいえ補助金申請はもちろん計画書を作った経験もなく「何から書いたらよいか。手が動きませんでした」と話す。しかし小林指導員から
「まずは小松社長がやりたいことを自分の言葉で書いてみてください」と言われ、気が楽になった小松社長はようやく着手。小松社長が書いて、小林指導員が小松社長のやりたいことを第三者に分かるように整理——の繰り返しで、二人で計画をつくりあげていったという。
「小林さんには赤ペン先生になっていただきました(笑)。そこでよく言われたのが『まずはやりたいことを明確にして、次にどう進めるかを決めましょう。補助金は後からついてきます』という言葉。最初は『お金がもらえるなら何か考えよう』という感覚だったのが、それを聞くうちに『これをやりたいけど使える施策はない?』という感覚に変わっていった気がします」
結果は無事採択。導入したスポンジサンダーはもちろん現役で、「どんぐりころころ」などの磨き工程で大活躍している。
当社が作る木のおもちゃは、小松社長の営業活動やマスコミへの露出もあり、徐々に売上が拡大。全国のインテリアショップ、雑貨店、ライフスタイルショップといった小売店へこまむぐのおもちゃが並び、幼児のいる家庭はもちろん雑貨好きの若い女性にも徐々にファンも増えていった。
こうした順調な成長の前に立ちはだかったのが、新型コロナウイルス感染症だった。
「小売店からの注文がピタッと止まったので、これはやばいなと思いました。当時は、スポンジサンダーの後にネットショップ(ECサイト)が小規模事業者持続化補助金の採択を受け、ちょうど立ち上げたばかりでしたが、売上高のほとんどは依然として小売店。最悪の事態も頭をよぎりました」
そこで考えたのがネットショップによる直接販売の拡大。小売店の営業再開が見通せない中、直接販売は希望の光ではあったが、当時はまだアクセスが少なく戦力になっていなかった。
どのように進めるべきか、小松社長は小林指導員へ相談。こまむぐの取り組みをプレスリリースで発信し、当社へ注目を集めることでネットショップの売上につなげようとの提案を受けた。さっそく広報活動の専門家と3人で打ち合わせをすることに。
「何をPRするかという話になって私からいくつか案を出しましたが、広報活動の専門家は良い顔をしません。そこで小林さんが『こまむぐさんはテレワークをしていますよね。製造業のテレワークはどうでしょう。珍しい取り組みですし』と提案したところ、その専門家の表情が緩んで『それにしましょう!』と。即決でした」
周りにテレワークを導入する製造業は少なかったものの、おもちゃづくりは機械や工具が比較的小さい。そこで卓上で使える機械や工具を持ち帰り、宅配便で加工品を輸送すれば組立作業を分担できると考え、導入に踏み切ったところだった。
専門家の支援を受けながらプレスリリースを発信。すぐさま、複数の全国紙から取材を受けて大きな記事になると共に、テレビでもNHKや民放の全国ニュースで取り上げられた。翌年には川口市で使用される高校の現代社会の教科書にも掲載されたという。思いがけない大きな反響は売上高にも反映。
「プレスリリースをきっかけにネットショップへ注文が殺到し、1カ月で小売店への売上高を超えました。その後は落ち着きましたが、現在でもネットショップでの売上高が全体の約35%で安定しています。商工会議所のおかげで販路を拡大して最悪の事態を免れることができ、本当に感謝しています」
小規模事業者持続化補助金は、これまでに紹介した「スポンジサンダー」「ネットショップ」をはじめ、合計5回採択を受けている。
「経営計画の作成は ” 簡単にできるようになった ” と言うのは語弊がありますが、最初に比べるとだいぶスムーズにできるようになったと思います。会社の年度計画も自分で作成するようになりました」
小林指導員も太鼓判を押す。
「最近は、現状はこれ、問題点と課題はこれ、こうすると問題が解決できる、という組み立てをご自身でされます。おかげで赤ペン先生の出番が少なくなりました(笑)」
小松社長自身が成長を実感する中、先述した新社屋の建設に事業再構築補助金を申請。小林指導員のサポートを受けながら計画書を作成し、見事採択にこぎつけた。
「『集客型製造工場』としてこだわったのは、来店したお客さまから製造現場である工房を見えるようにすること。子供たちがものづくりや会社に興味を持ち、『ものづくりっておもしろいな』『中小企業はおもしろいな』と感じる子が一人でも増えればいいなと思います」
「私が子供のころ川口はものづくりがもっと身近でした。実家が町工場だったのもありますが、歩いているだけでものづくりの音や臭いが感じられ、今でも時々思い出されます。それを今の子供たちが感じられる環境が失われつつある中で、自社の事業やものづくりに興味をもってもらう場所を提供することは、川口のものづくりを次世代へ継承することにつながる大切な取組だと思っています」
「職員にとっても、自分が作ったものが誰の笑顔につながっているのか、どう使われているのかを見ることはとても大事なことです。得意な人はそこで接客をすればいいし、苦手な人はものづくりをしているところを見てもらって、子供から『すごいね』とキラキラした目で見てもらうだけで、本人のやる気や成長へつながります」
ものづくりを通じて地域貢献を果たすこまむぐの取り組みから目が離せない。
使用した補助金
- 小規模事業者持続化補助金(商工会地区)
- 小規模事業者持続化補助金(商工会議所地区)
企業データ
商工会議所データ