2023.02.21
株式会社セブンホーム
ポイント
東京都八王子市で、アパートや駐車場など不動産管理業として創業したセブンホーム。注文住宅の販売なども手がける地域密着の不動産会社ではあるが、同社にはもう一つ別の顔がある。それが全国に幅広いファンを持つステンドグラスの製造・販売である。不動産会社がなぜステンドグラスを自社生産・販売するようになったのか、またその魅力とは?代表取締役の野崎氏と専務取締役の萩原氏にお話を伺った。
野崎社長は大学卒業後、不動産会社に勤め、1995年4月に独立し、セブンホームを創業した。現在は、八王子市市内および近郊で、アパートや貸地、コンテナや資材置き場といった不動産の売買や管理を行っている。また年に1~2棟ほど、土地と注文住宅の建築・販売をしている。
野崎社長は若い頃から世界一周に挑戦したいと思い、海外旅行を楽しんでいた。そんなヨーロッパ旅行の途中、フランスのとあるお宅のホームパーティに招かれた。そのお宅にはエントランスからリビングにかけてステンドグラスが飾られており、その美しさに野崎社長は一目惚れした。
「ヨーロッパの国々をまわると、住宅の室内だけでなく、様々な場所にステンドグラスが使われています。特に教会のステンドグラスを見た時の感動は忘れられません。住居にステンドグラスがあるだけで華やかな空間になりますし、その辺りの感覚は日本とは違うなと思いましたね」
フランスでステンドグラスに魅了された野崎社長は、この美しいステンドグラスをいつか日本で広めたいと夢を膨らませた。
ただし事業化には時間を要した。ヨーロッパからステンドグラスを輸入しようとは思わず、自社でデザインし、中国のガラス工場に委託生産しようと考えたからだ。自分が理想とするステンドグラスのサンプルを携え、中国のいくつかのガラス工房を訪問。「こういうものが作れるか」と粘り強く交渉した。工場が決まり、作り始めたが、当初は品質面での苦労も多かった。徐々に品質が安定し、満足できるような製品ができるようになり、今では河北省と広東省の2ヶ所のガラス工場に生産を委託するまでになった。ちなみに現在は、日本語が理解できる中国人(子会社「セブンホーム大連」の社員)が現地におり、同社と工場の職人の間を取り持ち、日本からの要求に応えている。
同社のステンドグラスは、他とどう異なるのか。国内でステンドグラスと称して販売されていても、それらの中には透明なガラスにペイントしただけの“類似品”も多いという。しかし同社では様々な色ガラスをアメリカから買い付け、色ガラスのピースをケームという金属でつなぎ合わせる。しかもステンドグラスの両面に強化ガラスを張り合わせ、強度を持たせた3層構造にした。一つひとつをガラス職人が手作業するという手の込んだ“工芸品”なのである。
自信を持って作ったステンドグラスだが、日本での知名度はなかなか高まらず、販売拡大にも苦労した。
「最初は、東京ビッグサイトなどで行われる住宅展示会にも5~6回出展しました。北海道や九州、大阪など地方の展示会にも出展。とにかく宣伝しなければという思いが強かったですね」
販売を進める一方、3層構造の背面にミラーを用いた「ミラーステンドグラス」を開発、特許も申請した。ステンドグラスは通常、光が透過することで美しさを醸し出すものであるが、裏面にミラーを配備したことで、裏面が塞がれても美しさが楽しめるという新提案で、施工を要しない装飾品や、壁で背面に光が入らない「床の間」などでもステンドグラスが堪能できる。
販路拡大では、ホームセンターなどにサンプルを置かせてもらったり、住宅やマンションメーカーに紹介してもらったりしたことで、徐々に消費者の心をつかむようになってきた。
売り出した頃は、窓にはめ込むステンドグラスが多かったそうだが、徐々にドアの一部に取り入れる人が増加。特に、分譲マンションを購入した人が廊下を明るくするため、自室の扉をステンドグラス入りのドアに替える人が増えた。このステンドグラスドアは、2023年1月、八王子市中小企業開発新商品として公式に認定された。
さらに、縁あって人気俳優が出演するテレビドラマの美術にも協力。すると主演俳優の熱心なファンが番組最後の小さなテロップを見て、遠方からわざわざ訪ねてきて、ドラマと同じステンドグラスを購入したというケースもあったという。
セブンホームでは現在、窓や扉に利用できるステンドグラスの規格品を100種類ほど用意。その他、オーダーメイドの注文にも応えられる体制を整えている。ホームページには詳細なカタログが載っていることもあり、今では北海道から九州・沖縄まで全国から注文が舞い込む。幅広いリフォームメーカーやハウスメーカーなどと取引しているので、公正を期すため、輸送費込みの商品価格を一律にしている点も取引業者や消費者から喜ばれている(沖縄や離島を除く)。
さらに最近では、意外なものにステンドグラスが用いられるようになってきた。それが2022年から正式に全国販売を始めた、ステンドグラスを用いたデザイン墓(墓石)だ。デザイン墓は、正方形などの墓石の中にステンドグラスを埋め込んだもので、同社では「ピュアメモリアル」というシリーズでカタログ展開している。ステンドグラス事業を野崎社長と一緒に推進している萩原専務はこう話す。
「八王子市内には結構、霊園が多いのです。現在墓を新しく建立される方の中には昔のような縦長の石だけの墓ではなくて、洋式のお墓を選ばれる方も非常に多いようです。近年、石の価格も上昇していることも影響しているようですし、洋墓の中でもデザイン墓は女性からのニーズも高いこともあります」
千葉県のある寺の住職が、寺の中の墓地の一角をすべてデザイン墓にしたところテレビで取り上げられるなど、人気も上昇中だ。
デザイン墓の他にも、ステンドグラスを用いた表札の販売計画もある。デザイン墓・表札のどちらも雨や風など過酷な天候にさらされるため、枠をアルミ加工にして防水を強化したり、背面に鏡を用いて明るさを増すように加工したりして、同社ならではのユーザー目線の商品開発にも積極的に取り組んでいる。
窓や扉、さらにはデザイン墓などステンドグラスの事業について説明してきたが、冒頭にご紹介したようにセブンホームは、不動産の売買と管理を行う不動産会社が基盤となっている会社だ。
「実は少し前まで、当社には看板がありませんでした。2階にはステンドグラスの展示スペースも設けていますが、建物の前を通る方にさえ、ここが不動産会社であることはほとんど知られていませんでした。ステンドグラスを注文に来られる方も迷ったりされていたそうです。看板の設置には無頓着で、これまでほとんど気にしてきませんでした」と野崎社長は笑う。
だが、やはり知名度の向上が必要だと感じ、小規模事業者持続化補助金を利用し、ステンドグラスで作った看板を設置。他に、不動産専用のホームページ も制作した。同社のステンドグラス関連のホームページでは、ステンドグラスの仕様や商品説明、オンラインショップも含めてかなり内容が充実している。それに比べて、不動産に関する情報がなかった。
「やはりネット時代なので、ホームページがないと当社が不動産会社であるということを分かってもらえません。不動産専用のホームページを公開して当社を知っていただくことは、不動産関連のお客様の不安解消にもつながります」
補助金を利用したのは今回が初めてで、地域の商工会議所の案内を見ての利用だったが、申請まではスムーズだったと振り返る。
「補助金申請システム(jGrants)」を利用しましたが、全部ネットで完結できてよかったです。紙ベースですと、資料を全部集め、印刷だけでも相当な厚さになるため助かりました」
ホームページを公開することで地域での認知度を向上させ、地域密着で安定成長していきたいと野崎社長は語る。
農家で生まれ育ち、大学の専攻は電気工学だった野崎社長。
絵を見るのも好きだったと話す。幼い頃からの美術感覚が、現在のステンドグラス事業へ導いてくれたのかもしれないが、高校時代には空手に熱中。しかも大学生になった頃にはキックボクシング界にも進出し、一時期はプロとして後楽園ホールの試合にも出場した。大学卒業後は野崎会館という空手道場を開き、200名以上の道場生がいたというから驚きだ。電気工学や美術鑑賞、空手にキックボクシングと多岐にわたって興味関心を示す野崎社長は、世界一周にも挑戦したいと旅に出たことも頷けるほどのチャレンジ精神の持ち主だ。
そんな野崎社長が、今後挑戦したいことが、ステンドグラス事業の海外展開だ。しかもステンドグラスの本場、ヨーロッパやアメリカへ売り込みたいと意気込む。
「実は10年ぐらい前、ハワイの展示会に3回ほど出展しました。お客様には好評で、商品も買っていただいたのですが、なかなか後が続かなかったですね」
ビジネスがうまく行かなかった大きな原因が、現地での取次店や代理店を見つけられなかったこと。しかし今は、海外進出を中断せざるを得なかった10年前とは異なり、海外とのビジネスマッチングを提供するサービスが存在する。
「国の支援策も含め、いろんなサービスを利用して、海外展開は絶対にもう一度挑戦したいですし、成功させたいですね」
もう一つは、国内でのステンドグラスの事業拡大だ。
「全国販売を始めたデザイン墓の事業を大きく飛躍させたいですね。この墓石をどれだけ日本国内で広げていけるか、未知なことばかりで、開拓していかなければならないことも多いと思います。デザイン墓が軌道に乗って余裕が出てきたら、ステンドグラス入りの表札など次の製品の展開も考えています」
萩原専務も社長の言葉に相槌を打つ。
「窓だけ、扉だけと同じビジネスを続けていくだけだったら、衰退していくだけですから」
中小機構では、全く市場にない新たな商品・サービスの売り出し方や販路先の開拓、事業の可能性などを専門家がアドバイスする販路開拓コーディネート事業などがあるが、そんな様々な制度も積極的に活用していきたいと話す野崎社長と萩原専務。
空手、キックボクシング、不動産、世界一周、ステンドグラス…未知の分野で自身の可能性に挑戦してきた野崎社長の一言が忘れられない。
「チャレンジする気持ちがなくなっちゃったら死んじゃうかもしれないかな。楽しみがなくなって…」
そう語る野崎社長のセブンホームの未来の姿を見るのが楽しみだ。
使用した補助金 - 小規模事業者持続化補助金
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