2023.01.29

杏亭グループ

セルフレジと急速冷凍機の導入で省人化。会計ミス9割減、客単価2割UP、食材ロス4割減【杏亭グループ】(和歌山県和歌山市)

代表取締役 山本賢治 氏
代表取締役 山本賢治 氏

ポイント

  • SDGs推進で副菜の食べ残し減少へ
  • 調理担当者の会計負担軽減でお客様の待ち時間を削減
  • セルフレジ&ネット注文で会計ミス9割減・客単価2割UP・予約増
  • 急速冷凍機の導入で食材ロス4割減・就業時間短縮

 ぶどうの種を絞って抽出した油で熟成させた鶏のモモ肉を丸ごと一枚、炭火で焼き上げた「ぶどう熟成鶏の炭焼大判チキン」に、こぶし大の唐揚げ2つが載っかった「ぶどう熟成鶏の大判唐揚げ弁当」。そんな2大看板メニューを含む計100種類のお弁当で、和歌山県民を中心に多くの人の胃袋を鷲掴みにしているのが、お弁当屋と仕出し屋をチェーン展開する杏亭グループだ。
 同店のこだわりは、掲げる標語に端的に示されている。“残されないお弁当作り”だ。

人気商品の大判唐揚げ弁当
人気商品の大判唐揚げ弁当

「残されないお弁当」でSDGsを推進
副菜の強化でフードロス削減に繋げる

杏亭グループの山本賢治社長
杏亭グループの山本賢治社長

「2015年の国連サミットで『持続可能でよりよい世界を目指す国際目標』(SDGs)が設定され、自分たちもSDGsに沿った取り組みをしなければと考えるようになったことがきっかけです」
 こう話すのは杏亭グループを率いる山本賢治社長だ。大学と調理師学校を卒業した後、1993年に父親が創業したお弁当屋「どんぐり亭」に参画。数々の人気メニューを生み出し、2002年には父の跡を継いだ。

 後に「杏亭」へと改名した同店で使用される野菜の8割は、当日に卸売市場から届く新鮮な国産野菜だ。昆布にしいたけ、削り節などからじっくりとった出汁や、極力店内加工にこだわったタレとソース類を活かしてつくられるお弁当は着実にファンを増やし続けたという。
 だが、小規模な個人経営店であるがゆえに、課題も少なくなかった。その1つが副菜の扱いだ。メインのおかずとなる炭焼き大判チキンや唐揚げ、とんかつなどは力を入れてつくる一方、スパゲティや漬物、おひたしなどの副菜は、人手が限られているだけに効率を重視せざるをえなかった。おのずと、食べ残すお客様が少なからずいた。

副菜にもこだわりが詰まった「杏亭」のお弁当
副菜にもこだわりが詰まった「杏亭」のお弁当

「従業員が『残されそうですね』と感じた副菜は入れないようにして、副菜づくりにも手間を惜しまないようにしました」
 2015年からSDGsに向けた取り組みを本格化させると、次第に食べ残しは減少。「フードロスの削減にも繋がった」という。

「実のり庵」の仕出し弁当
「実のり庵」の仕出し弁当

 前後して、山本社長は家庭用のお弁当とは異なる、高級仕出し弁当屋「実のり庵」をブランド化している。ぶどう油で熟成させた牛肉を豪華に盛り付けた高級ステーキ弁当を売りに、2019年からはフランチャイズ展開も進めた。

IT導入補助金を活用してセルフレジ導入
会計担当を調理に当てて顧客満足度向上

 だが、事業拡大を進める真っ只中に、コロナ禍に襲われる。会食機会が減少するなかで、仕出し弁当の需要は低下。自宅で食事を取る人が増えたことで、宅食用の杏亭の利用客は増加したが、慢性的な人手不足とお客様の待機時間の増加に頭を悩ませることになったという。
「杏亭は店頭で注文を受けてから調理をして提供するかたち。土日のお昼時は2人の会計担当がレジにかかりっきりになるため、調理を行う人が足りず、お弁当の提供スピードが落ちて、多くのお客様がレジの前で待たされるケースが続発していたのです」
 これを解決するために山本社長はタッチパネル型レジシステムの導入を決断する。
 専用機のタッチパネルを操作して、人を介すことなくお客様が注文と精算を済ませる——こうしたシステムは、すでに多くの飲食店チェーンに導入されている。だが、投資コストは安価なものでも200万~300万円程度にのぼるため、個人店レベルで取り入れるにはハードルが高い。それでも山本が導入を決断したのは、経営者仲間からIT導入補助金の利用を勧められたからだ。
 コロナ対策の一貫で新設されたIT導入補助金2020(C類型)を活用することで、毎日300食以上を売り上げる旗艦店・杏亭古屋店には「テンポスエアー」という2台のセルフ注文・レジシステムが導入されたのだ。その効果は如実に表れた。
山本社長は「考えられないほど業務が効率化されました」と驚きを隠さない。

タッチパネル式のセルフ注文・レジシステム
タッチパネル式のセルフ注文・レジシステム

 お昼時はレジにほぼかかりきりとなっていた従業員の調理に割ける時間が大幅に増えて、お弁当の提供スピードが上がり、お客様の待機時間は減少した。
「混雑時には焼きムラがあったり、盛り付けが雑になったりすることもありましたが、丁寧に作れるようになって品質も向上し、顧客満足度も上がりました」
 注文・精算がタッチパネルで完結し、対面接客時間を大幅に減らすことに成功したため、コロナ対策面でも喜ばれたという。
さらに、会計ミスを9割削減することにも成功した。従業員によるレジの打ち間違いや釣り銭の受け渡しミスがゼロになったためだ。
 注目すべきは、客単価の向上も実現した点だ。
「混雑時は忙しすぎて『お弁当と一緒にお惣菜もいかがですか?』とお勧めするのが難しかったのですが、タッチパネルなら自動的にオススメオプションメニューが表示できる。この販促機能によって追加注文が増えて、客単価は2割もアップしたのです。追加注文を促す従業員の心理的負担も減らすことができました」
 セルフ注文・レジシステムの導入を機に、山本社長は「中小企業デジタル化応援隊事業」も活用していた。デジタルツールに精通した専門家からIT活用に関するアドバイスを受けられる仕組みだ。
「以前はレジから出てくる長いジャーナル(売上情報や精算情報を記した紙)を見て、年に1回だけ、売れ筋と不人気商品をチェックしていました。それが、レジシステムの導入とIT専門家のアドバイスもあり、ボタンひとつでできるようになった。年に4回行うメニューの改廃に要する時間も劇的に減少しました」
 低コストで導入できるLINEの予約・注文システムも取り入れたところ、杏亭のネット登録者数は2400人を突破。今ではネット注文が10~20%に達し、お客様の店頭における待機時間はさらに減少したという。
「電話だけで予約注文を受けていたときは、調理で電話を取れないこともあったのに、それも解消されました。機会損失も減ったと言えるでしょう」

急速冷凍装置の導入で食材ロス4割減
就業時間の短縮で生産性向上も実現

急速冷却冷凍装置で品質維持が可能に
急速冷却冷凍装置で品質維持が可能に

 同じくコロナ真っ只中の2020年、山本社長はさらなる業務効率化に向け、より大きな設備投資を行っている。ものづくり補助金(令和元年度補正予算以降の正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)に応募し、急速冷却冷凍装置を導入したのだ。
 仕込みと調理を済ませて、そのまま食べられる状態の食材を急速冷凍すれば、味を損なうことなく保存できる。注文に応じて解凍・盛り付けができるようになったことで、食材ロスは3~4割も減少した。おまけに、生産性も大幅に向上した。

仕出し弁当の準備の様子
仕出し弁当の準備の様子

 高級仕出し弁当ブランドである「実のり庵」では、それまで午前2~3時に出勤した後、7~8時間かけて、その日の予約分の仕込みから調理、盛り付けまでを行ってきた。だが、急速冷凍技術の導入により、毎日の調理にかかる時間を大幅に短縮することが可能に。
今では午前7時に出勤してから3時間程度で仕出し弁当の準備を済ませることができるようになったという。慢性的な人手不足はいまだ解消されていないが、持続可能な就業形態は実現しつつある。

 だが、山本社長は「生産性向上の余地はまだまだある」と話す。
売れ筋商品の分析や顧客管理はデジタル化できたが、在庫の管理や仕入れ注文は現状、アナログのままだ。「棚を見て、少なくなったなと思ったら仕入れを行うので、在庫過多になったり、欠品することがしばしばある」という。
 原価率の高さも杏亭グループの課題だ。ウクライナ危機に伴う原油価格の高騰により、包装パッケージの仕入れ価格が上昇。急激な円安に伴う輸入食品の高騰を受けて、国内の食材も連れ高し、杏亭グループの原価は1年足らずで30%も上昇した。
すでに2度の値上げを実施しているが、いまだ原価上昇分を価格に転嫁できておらず、利益率は低下しつつある。
「一般にお弁当屋の原価率は40~45%ですが、杏亭や実のり庵の原価率は一時50%を超えていました。同業他社に比べて高すぎる原価率をいかにして下げるかが今後の課題です」
 山本社長は補助金の活用を経て、長期的な事業戦略を立てやすくなったと話す。綿密な事業計画を立てて、採択後には毎年、実績報告を行う。そうするなかで「グループの10年先まで考えるようになった」という。
 家庭向けの「杏亭」2店舗に、高級仕出し弁当の「実のり庵」をFC含めて11店舗展開する杏亭グループ。その生産性向上に向けた取り組みはまだまだ続く。

使用した補助金  -  ものづくり補助金  IT導入補助金

企業データ

企業名
屋号:杏亭グループ
Webサイト
http://fortunebox.biz/wakayama/
設立
2003年
従業員数
41名
代表者
代表取締役 山本賢治 氏
所在地
和歌山県和歌山市木ノ本890-22

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